新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。
(7)再生医療の実用化の推進
再生医療は、これまで有効な治療法のなかった疾患の治療ができるようになるなど、国民の期待が高い一方、新しい医療であることから、安全性を確保しつつ迅速に提供する必要があります。
このため、再生医療等製品については、2014(平成26)年11月に改正施行した「医 薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(第6章第3節1(6)参照)の下、再生医療の特性を踏まえた規制を行うこととしており、同法改正前までに承認されていた2製品に加え、新たに9製品が承認された。また、同法改正と併せて、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(平成25年法律第85号)が施行され、再生医療等のリスクに応じた提供基準と計画の届出等や細胞培養加工施設の基準と許可等の手続き、細胞培養加工の外部委託を可能とすること等を定めています。
同法の附則において、施行後5年以内に、法の規定に検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされており、2019(令和元)年7月から検討を開始しました。同年12月の「再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討の中間整理」を踏まえ、引き続き見直しの検討を進めています。
また、関係省庁と連携し、基礎研究から臨床段階まで切れ目なく一貫した研究開発助成を行い、臨床研究やiPS細胞を用いた創薬研究に対する支援など、再生医療の実用化を推進する取組みを実施しています。
さらに2016(平成28)年から、再生医療の実用化をさらに推進するため、日本再生医療学会を中心としたナショナルコンソーシアムを構築し、再生医療臨床研究に係る技術支援や人材育成、臨床研究データベースの整備・利活用などを行う取組みも実施しています。
(8)医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画2014(平成26)年6月27日に公布・施行された「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律」に基づき、政府の健康・医療戦略推進本部の下に「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する協議のためのワーキンググループ」を設置し、2016(平成28)年5月31日に「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画」を閣議決定しました。これは、研究開発から薬事承認、国際展開までの各段階に応じた関係各省の施策を網羅し、医療機器政策に特化した政府として初めての計画です。
本計画は2020(令和2)年までの進捗状況を検討し必要な変更を講ずるものとされて おり、今般の新型コロナウイルス感染症や近年の医療機器を取り巻く状況の変化等を踏まえた見直しの必要性について今後検討する予定です。
(9)医療系ベンチャーの育成支援について
我が国において、アカデミア等で発見された優れたシーズの実用化を促進するために、 医薬品・医療機器・再生医療等製品の研究開発・実用化を目指すベンチャーを育てる好循環(ベンチャーのエコシステム)の確立を図ることが課題となっています。
このため、厚生労働大臣の私的懇談会として「医療のイノベーションを担うベンチャー 企業の振興に関する懇談会」を開催し、2016(平成28)年7月29日に、同懇談会より報告書が示されました。
報告書においては、厚生労働省が厳格に規制するだけではなくスピードを重視したきめ細かい支援を行うということを原則として、「エコシステムを醸成する制度づくり」、「エコシステムを構成する人材の育成と交流の場づくり」、「『オール厚労省』でのベンチャー支援体制の構築」を「3つの柱」とした取組みを行うことなどが取りまとめられています。
この報告書を踏まえ、2017(平成29)年4月に「ベンチャー等支援戦略室」を厚生労 働省医政局に設置し、厚生労働省におけるベンチャー育成支援の旗振り役として機能している。また、2017年10月、2018(平成30)年10月、2019(令和元)年10月及び 2020(令和2)年10月には、ベンチャーと大手企業やファンド等のキーパーソンとの マッチングイベントである「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット」をパシフィコ横浜にて開催しました。さらに2018年2月には、ベンチャーやアカデミア等にとって確保が困難となっている法規制対応、知財、開発戦略等の専門家による相談体制を整備し、ベンチャー企業等が総合的な支援を受けることができる「医療系ベンチャートータルサポート事業」を開始し、WEBサイトの開設及び日本橋にオフィス(Medical Innovation Support Office;MEDISO)を構えました。2018年2月の立ち上げ以降、2021(令和3)年3月31 日までに633件の相談に対応しており、MEDISOの更なる活用も含め、今後も長期的視野に立った実効力のある支援策を講じていくこととします。
第4節 医療の国際展開等
1 医療の国際展開の推進
国民皆保険制度や優れた医薬品、医療機器、医療技術等を誇る日本の医療システムは、 世界でも高く評価され、優れた制度です。
多くの新興国では、経済成長の中で、医療へのニーズや持続的なシステム構築への期待が高まっているものの、公的医療保険等の制度や医療システム構築の経験・技術が乏しく、また、人材も不足しています。
そこで、日本が新興国等に対して、各国の実情を十分に踏まえつつ、高品質な日本の医薬品、医療機器、医療技術等の提供を推進するとともに、日本が長年培ってきた経験や知見をいかし、相手国の医療システムの構築に協力することに取り組んでいます。
医療の国際展開を通じて、日本の医療分野の成長を促進しつつ、相手国の医療水準向上にも貢献し、国際社会における日本の信頼を高めることによって、日本にとっても新興国等にとっても好循環となることを目指しています。 なお、医療の国際展開については、政府の第2期「健康・医療戦略」(令和2年3月27 日閣議決定、令和3年4月9日一部変更)においても位置づけられており、「健康・医療 戦略推進本部」の下に設けられた「健康・医療国際展開協議会」を通じて、アジアとの共生を視野に入れた新しい将来像など具体的な取組みに着手します。
(1)厚生労働省と新興国等の保健省との協力関係の構築
厚生労働省としては、医療の国際展開を推進するため、2013(平成25)年に体制を強化し、「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)や「健康・医療戦略」等を踏まえ、本格的に取組みを開始しました*2。
このため、2013年8月以降、厚生労働省と新興国等の保健省との間で、協力関係の構 築を進めており、アジア、中東、北中南米等の20を超える国々と、医療・保健分野における協力関係を構築しました。
協力テーマとしては、各国のニーズに合わせて、①日本の経験や知見を活かした相手国の医療・保健分野の政策形成支援や、②医療技術、医薬品・医療機器に関連する人材育成を柱としています。
中でも、ロシアにおける医療協力については、2016(平成28)年5月、ロシア・ソチ での日露首脳会談において、安倍総理から医療・保健分野における協力を柱の一つとする8項目の「協力プラン」を提示し、プーチン大統領から高い評価と賛意が表明され、互恵的な協力の実現に向けて取り組んでいます。また、2017(平成29)年3月、安倍総理とサウジアラビア国王との首脳会談において「日・サウジ・ビジョン2030」が合意され、医療・保健分野における協力を進めており、2019(令和元)年、2020(令和2)年には、 内視鏡分野でサウジアラビアの医師の本邦医療機関での受入れ・研修を実施しています。
*2 厚生労働省における医療の国際展開の取組みへのリンク集 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokusai/index.html
(2)各国との協力関係の実現に向けた取組み
医師等の人材育成や公的医療保険制度整備の支援等といった国際展開に資する協力の具体化に向け、国立研究開発法人国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine:NCGM)を拠点として、2015(平成27)年度から、日本の医療政策等に係る有識者等の諸外国への派遣や、諸外国からの研修生の受入れやオンラインによる研修を実施しています。
(3)医薬品・医療機器等の国際規制調和・国際協力の推進
「アジア健康構想に向けた基本方針」(2016(平成28)年7月29日健康・医療戦略推進本部決定、2018(平成30)年7月25日改定)に基づき、健康・医療戦略推進本部は、 「アジア医薬品・医療機器規制調和グランドデザイン」(2019(令和元)年6月20日)及び同実行戦略(2020(令和2)年7月14日)を策定しました。この中では、アジア諸国において経済発展や疾患構造の変化により、優れた医薬品・医療機器等に対するニーズが高まっており、アジア諸国の国際規制調和に支援・協力し、垣根のないマーケットを整備することで、医薬品・医療機器等への迅速なアクセスを可能にするよう取り組むことが必要とされています。
同グランドデザインに基づき、令和2年度から国立研究開発法人日本医療研究開発機構を通じて、日本の臨床研究拠点の能力・経験をベースとして、アジア地域の研究拠点への専門家の派遣、人材育成、データ収集及び臨床研究推進部門の整備や、設備整備等の支援を行っています。また、アジア地域における規制調和を推進するのに中核的な役割を担うのが、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)に設置された「アジア医薬品・医療機器トレーニングセンター」です。アジアを中心とする海外の規制当局担当者に医薬品・医療機器の審査や安全対策等に関する研修を実施しており、薬事規制構築に向けた経験・ノウハウを提供することで、将来の規制調和に向けた基盤作りを継続して進めてきています。新型コロナウイルスの影響下にあった2020年度もオンライン形式の研修を積極的に開催し、 2016年度から2020年度までに、合計47回のセミナーを開催し、52の国・地域及び1国際機関(WHO)からのべ1,183人の参加者を得ました。今後も引き続き、関係省庁、関係機 関と連携しつつ、薬事規制に関する我が国の知見、レギュラトリーサイエンスを、アジアをはじめとする世界に発信して国際規制調和・国際協力を積極的に進めていくことで、ユニバーサルヘルスカバレッジの達成に一層貢献していきます。
2 国内における国際化への対応
我が国では、「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議)において、2020(令和2)年に4,000万人、2030(令和12)年には6,000万人の訪日外国人旅行者数を目標として観光先進国の実現を目指しています。このような中、健康・医療戦略推進本部のもとに設置された「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」において、2018(平成30)年6月に「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」が取りまとめられ、現在、関係府省庁が連携して取組みを進めています。
また、2019(平成31)年4月からの新たな外国人材の受入れ制度の開始に伴い、在留 外国人が日本各地において医療を受けることが予想される中で、上記の取組みは、全ての居住圏において外国人患者が安心して受診できる体制を整備するためにも重要な取組みとなっています。
厚生労働省では、これまでも問診票等の多言語資料の作成、医療通訳者等の配置支援、 電話通訳の利用促進等を通じて、医療機関における外国人患者の受入れ環境整備の推進を行ってきました。また、地域の実情に応じた外国人患者の受入体制を整備するためには、医療機関に加えて地方自治体、観光事業者・宿泊事業者等が連携する必要があります。このため、2020年度においては、都道府県が主体となって地域の関係者が協議を行う場を設ける際の支援、医療機関が直面する外国人患者対応に関する相談を受け付ける窓口の設置・運用の支援を行うとともに、都道府県において選出した「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」を取りまとめたリストを更新し厚生労働省ホームページ上で公表しました。今後は、当該医療機関を中心として、外国人患者の受入れ環境の更なる充実を目指していきます。さらに、医療分野における国際交流の進展等に寄与する観点から、従来、医療研修を目的として来日した外国医師等に対し、日本において診療を行うことを特例的に認めてきた臨床修練制度について、日本の医師等に対する医療の教授や臨床研究を行うことを目的として来日した外国医師・外国歯科医師に対しても、日本において診療を行うことが認められるよう、臨床修練制度を改正し、2014(平成26)年10月から施行されています。
(つづく)K.I