基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 175 | テクノファ

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私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認定を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしたのです。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
ステップ8:共有される底流の前提認識をあきらかにする(15~30分)
底を流れる前提認識に到達する鍵は,それまでに発見された価値観は本当にすべての人工の産物を説明できるのか,あるいは継続されていると記述されたものごとが明確には説明されていないのか,または記述された価値観と実際に対応しているのか,をチェックする方法に求められる。たとえばアップルコンピューターのあるグループが,1980年代に文化のアセスメントを実施した。

その目的は,彼らの成長率が組織構造や物理的拡張にどのような影響を及ぼすかを解明しようとするものであった。人工の産物のリストには,彼らはプラニングとさまざまなプランの文書化に多くの時間を費やしているけれども,それらのプランは,現在そこにある危機からのニーズによって踏みにじられることが多い,と記述された。彼らは信奉された価値観のリストにもプラニングを挙げていたけれども,彼らが作り上げたプランをとことん追求することがほとんどないことに当惑と悔いを感じていた。このことから,時間がどのように認識されているのかという包括的な課題が提起され,議論を続けたあとメンバーたちは,「現在こそが問題として取り上げられる」と表現されることがもっとも適切な,深いところで抱かれている共有された前提認識にもとづいて運営されている,という点に合意した。この形で彼らの前提認識を記述すると,彼らの作った人工の産物リストに盛られた,内容と考え方を支持するいくつかの項目が即座に見つけだされた。さらには,直近の現在に対する彼らの指向性と偏向を助長している,いくつかの新しい人工の産物も見つけだされた。

この同じグループは,メンバーが日頃行っている数多くのインフォーマルな活動もあきらかにした。たとえば毎日の仕事終わりのパーティー,製品が市場に投入されたときのお祝い,社員のための誕生日パーティー,スキー場等へのレクリエーションのための社員旅行等であった。彼らが信奉していた価値観は,みんなと一緒に過ごすことが好きだ,というものであった。しかしデータをもう少し詳しく検討すると,そこにはもっと深い前提認識が存在することがあきらかになった。つまり「ビジネスは単にお金をかせぐものに留まってはならない。同時に楽しさをもたらすものでなければならない」という認識であった。ひとたびこの前提認識が明らかにされると,それはさらに深い認識へとグループを導いた。すなわち,「ビジネスは単にお金をかせぐものに留まってはならない。社会的にも意味のあるものでなければならない」という認識であった。

この前提認識の後段部分は,メンバーに全く新しい人工の産物のセットを思い起こさせた。たとえば,自分たちの製品に価値を認める,何故自分たちがある製品をほかの製品より好むのか,何故一部のエンジニアをほかのエンジニアより重視するのか,彼らの創業者は当初の価値観をどのように生みだしたのか,といったものであった。さらに教育分野に継続的にフォーカスすることに対して,政府や防衛産業にセールスを続けることに伴う長所と短所の検討という,全く新しい課題も浮かび上がってきた。

さまざまな前提認識があきらかにされると,全く新しい考え方のセットが形成され,これまで認識されていなかった,さまざまなことがらが理解できるようになる。ときには新しい前提認識がグループがそれまで価値観の間の矛盾ととらえてきたことを調停してくれることもある。たとえばこの演習に取り組んでいた,ある保険会社の人材マネジメントの専門職のグループが,「さらに革新的で,環境変化に応じてより多くのリスクに挑む」という重要な価値観にたどりついた。しかしメンバーたちは,このゴールと彼らのほとんどイノベーションが進まない現状との間の調整はつけられなかった。しかしより深いところの前提認識の検討に進むと,その企業の長い歴史を通じて,人間行動に関してふたつのきわめて重要な前提認識にもとづいて企業が運営されてきたことに思い至った。つまり,(1)人材はすべての状況をカバーする明確なルールが与えられたときにベストの貢献をする(彼らが人工の産物としてリストにのせた「手続きマニュアルが棚一杯に並べられている」といった例),(2)人材は即座のフィードバックを求め,ルール違反が即座に罰せられない限り,そのルールには従わない,という前提認識であった。グループがこのような暗黙の前提認識を明確にすると,これらの前提認識が,イノベーションやリスクテーキングという信奉された価値観よりも,彼らの現在の行動パターンをより強力に促していることに気づいた。イノベーションに対する本格的なインセンティブが存在していなかっただけに留まらず,イノベーションにはリスクが伴っていたのだ。つまり,もし間違ったステップを踏んでしまうと即座に罰が下されたのだ。もうひとつの例は,HPにおけるエンジニアのグループに見いだすことができる。つまりここでは,「ティームワーク」や「お互いに仲良くつき合う」という信奉された価値観が,個人主義的な競争的行動がものごとを達成し,昇進を重ねるための道だという,隠された前提認識に抑圧されていたのだ。

さまざまな前提認識があきらかになったら,ファシリテーターはコンセンサスに達しているか否かをたしかめ,別の模造紙に記録する。このリストは文化に関する要点を可視的に記録するものとして重要なものとなる。演習に含まれるこのステップは,グループメンバーとファシリテーターがほとんどの前提認識の項目を選び出したと感じたときに終了する。ここで参加者はこの組織の前提認識はどのようなものかを明確に理解できる。

ステップ9:文化の支援と障害要因をあきらかにする(30~60分)
もしグループが小規模(15~20人)であればこのステップはグループ全体で実施してよい。もしグループが20人を越える場合には,ふたつか3つのサブグループに分割するとよいだろう。サブグループが取り組む課題は,あきらかになった問題がどのようなものか,全体グループの演習のなかでサブカルチャーがあきらかになったのか,どの程度の時間を使うことができるのか,といった条件に応じて変わってくる。たとえば全体グループのミーティングにおいて,機能組織,地域別組織,職業別組織,階層レベルごとにサブカルチャーが存在することがたしかめられた場合には,ファシリテーターはこれらの発見された差異を反映して,いくつかのサブグループに分け,それぞれのサブグループにおいてその前提認識のセットを追求してもらうとよい。あるいはファシリテーターがあきらかになった前提認識について全体グループのなかに十分なコンセンサスが得られていると感じた場合には,ビジネスユニットごと,あるいは検討している大きな問題や課題に照らして適切であると考えられるそのほかの基準に沿って,無作為にいくつかのサブグループを作っても構わない。

いずれにしても次の課題は,解明された前提認識の数々を,現在追求している変革プロセスを支援しているのか,あるいは阻害しているのかにもとづいて分類する課題である。グループはまず「新しい仕事の進め方」はどのようなものかを理解し,そのうえで解明された前提認識がその新しい仕事の進め方に到達することを支援するのか,阻害するのかを検討することが求められる。このふたつの視点から前提認識を検討することはきわめて重要である。というのはわれわれは通常文化を制約条件としてとらえる傾向が強いので,阻害する前提認識のほうを強調しがちになるからだ。実際,成功を収める組織変革は,阻害要因となる前提認識を変えるよりも,支援要因となる前提認識を選びだし,変えることから促される可能性が高い。にもかかわらず,各グループはいかにその文化が前向きの支援の源になり得るのかを見通すことに困難を覚えることが多いのだ。

ステップ10:次のステップを決める(30分)
このステップの目的は,重要な共有された前提認識はどのようなものか,さらに組織が次に達成したいと考えていることに対するこれらの前提認識が持つ意味はどんなものか,についてコンセンサスを得ることだ。もしサブグループによるミーティングが持たれていた場合にはこれらのサブグループから全体グループに対してその分析結果をリポートすることからプロセスをスタートさせる。もしそこにかなり高いコンセンサスが得られている場合には,ファシリテーターは,その意味の分析と次のステップの議論に即座に進むことができる。ここではファシリテーターからの支援を得て,全体グループによる,さらなる議論と分析が進められる。

たとえばそのグループは,組織には考慮すべき強力なサブカルチャーが存在することに合意するケースもあるだろう。あるいは前提認識の一部は再吟味が必要となるかも知れない。つまり意見不一致を解消する,より深いレベルに存在している前提認識を反映しているのではないかを調べるための再吟味である。さらにはそのグループは,何らかの理由で彼らがあまり数多くの共有された前提認識を備えていないことに気づくかも知れない。これらのそれぞれのケースにおけるファシリテーターの役割は,質問を投げ,明確化を求め,認識をテストし,さらにそのほかの方法を通じてそのグループが,そのグループの日頃の認識,感情,思考,さらに最終的には行動を促しているさまざまな前提認識の姿を明確に把握することを支援することなのだ。

共有された前提認識はどのようなものかについてのコンセンサスが得られたら,次の議論はあきらかになったことがどのような意味を持つのかの解明に進む。この時点におけるもっとも重要な発見のひとつは,ある一部の前提認識がいかに彼らを支援するのかを理解し,さらに彼らのエネルギーは彼らに制約を加えている前提認識を取り除くことを懸念する方向ではなく,むしろ前向きの前提認識を補強する方向に向けられる機会からもたらされる。しかしもし実際の阻害要因が発見されたら,グループの議論は,いかに文化をマネジすることができ,さらに解明された阻害条件をいかに克服していくのかに方向を転換していくべきだ。この時点で,第16章と第17章で紹介した内容についての短いレクチャーが必要となるかも知れない。つまり示唆された文化変革のメカニズムの一部をレビューし,さらに文化変革の戦略を生みだすために,新しいグループのセットを形成するためのレクチャーだ。このレクチャーには通常新しいグループの参加を求めて,最低でも半日が必要となるだろう。

ここまでに紹介したプロセス(ステップ1から10)は丸一日か,もう少し短い時間で終えることができる。したがって文化アセスメントは,スローで時間がかかるプロセスだ,と考える必要はない。またこの文化のアセスメントを個人ごとの面接や調査によって進めるよりもグループに対して実施したほうがより一層効率的であるばかりでなく,そのデータもより妥当性の高いものとなる。というのは文化に備わる深部に存在する側面は複雑にからみ合って表面化し,さらにグループの関係のなかで形成されてきたものであるので,その妥当性はグループにおいて検証されるからである。つまり文化とはグループの現象であり,グループの関係のなかでこそベストの状況でアセスすることができるのだ。

しかし研究者の視点からすると,考慮されるべき重要な限界が発見される。つまりアセスメントの結果は,内部の人たちにとっては完全に明確なものであっても,外部の人間にとってはなお不明確な部分が残るものだ。ここでの目的がその組織をたすけるものである場合にはこれで全く問題はない。外部の人間がその文化を完全に理解する必要はないからだ。しかしその研究者がほかの人たちにその文化を紹介するのに十分な理解を求められている場合には,補完的な観察データやさらなるグループミーティングが必要となることは間違いない。
(つづく)平林

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