基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 177 | テクノファ

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私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認定を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしました。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。
本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第19章 組織の文化変革の具体例
これから紹介する組織の例は,マネジされた文化の変革のさまざまな側面を例示するケースだ。まず前章で紹介したような文化のアセスメントは全く必要とせず,むしろ行動変容によって文化の変革を開始することができるという例を紹介する。それに続く各例では,10のステップのプロセスのバリエーションがいかに組織変革プログラムのさまざまな形に当てはまるのかが示される。チバ・ガイギーのケースによって最後を締めくくるけれども,このケースは第17章で示した変革のすべてのステージを例示していると同時に,われわれが文化が変化したと言うときに,本当にわれわれが何を意味しているのだろうか,という疑問も提起している。

例1:ベータ・サービス・カンパニー ― 行動変容を通じた急速な変革
このケースは,行動はリーダーによって変革が可能であり,その結果文化の変革プロセスも即座に開始できることを例示している。2年前にベータ社(Beta Service Company,都市電気・ガス会社)の組織開発部長が,私に対して文化アセスメントを実施してくれるかどうかを尋ねてきた。そのCEOとCOOが,「会社の文化を変えたい」と願っていた。私が彼女にそれがどのようなことを意味するのかと尋ねると,彼女は「わが社の文化はとても古めかしく,堅苦しく,官僚的で,その結果非効率的だ」と答えた。そこで私はもう少し情報が欲しいこと,さらに情報を収集するベストの方法としてCEO,COO,そしてこの組織開発部長がそろって私を訪問してくれること,次のステップを決めるためにも,などで合意した。
われわれは私の家に半日のセッションのために集まった。まず私は,彼らの文化が「堅苦しい」という表現が実際に何を意味するのか尋ねた。CEOとCOOはともに,とにかくミーティングが多すぎる,かなり前に作られていて,いまや適切でなくなったプロセスがたくさん残っている,部下たちの行動が柔軟性に欠ける,といった苦情を述べた。おおまかに,ものごとを達成するまでに時間が掛かりすぎていることがうかがえた。そこで私は,彼らを悩ませていることが何であり,彼らに何らかの変革プログラムをはじめることを促しているビジネスの問題を理解するために,具体的な実例を示してくれるように求めた。
これに対してすぐ,COOが次の話を語りはじめた。
「ひとつの例を紹介しましょう。われわれは本社の大会議室で,15人のシニアマネージャーが出席する定期的なミーティングを開いています。その会議では全員が決まった席に座るのです。私は昨日このミーティングに出席したところ5人しか出席していなかったのですが,彼らはいつもと同じ席に間を置いて座っており,お互いに大声でどなり合うような状態でした。とても馬鹿げています。みんな何を考えているのか,私を悩ませているのはこのような柔軟性に欠ける行動なのです」
CEOはこれにうなずき,これこそ堅苦しい文化の象徴だということに同意した。次のやりとりはかなり衝撃的だった。私はCOOに言った。
「ではその会議に参加し,不満を感じながら,あなたは何をしましたか?」
「別に何もしませんでした」
「どうしてですか。もしあなたが不満を感じたら,どうしてその行動を我慢したのですか?」
この時点で,COOはボスであり,コミティーの議長なのだからそこで直接的に介入するパワーを持っているはずだ,という考えが私の心に生じてきた。もし彼が異議を唱え,事態を変えようと提言すれば,組織の他の人たちに,COOは何らかの変化を望んでいるというシグナルが発せられたはずだ。
CEOとCOOの両方は,突然,了解の微笑を浮かべた。つまり彼らが苦情を抱いていることに対して何も反応を示さないことによって,かえってその行動を助長してしまっているということを理解したのだ。そのあと彼らは新しいプロセスを義務づけ,さらに自らの行動に変化をあきらかに表わすことによって直接的に影響を及ぼし,柔軟性に欠ける,是正することが可能な慣行の数々を次々に指摘しはじめた。COOは,5人の出席者に部屋の前のほうに移ってもらい,ミーティングの形式を改め,さらに彼が望む新しい仕事の方法を指示することによってものごとを変えることができるということに確信を抱いた。
われわれのミーティングはプロセス解決型モードに移り,そこではわれわれ4人は,CEOとCOOが行動を改める方法を話し合い,加えてそのほかのイノベーションについてもフィードバックと提案が行われた。半日間のミーティングは,これから彼らが進める数々の具体的変革を導きだして終った。数週間後の電話の会話で私は,CEOとCOOの行動の変革によってあらゆる種類の「文化変革」が起こっていることを理解した。その後2年間が経過し,最近CEOと会ったときには,偉大な変化が起こっており,「新しい文化がきわめて順調に機能している」と指摘した。

このケースで学ぶべきポイント
リーダーが述べた文化は,あまり深く定着しておらず,リーダーの側の新しい行動によって変わるだけの柔軟性を備えていたのかも知れない。したがって変革コンサルタントにとっては,クライアントが変えたいと願っている,現実の行動をしっかり理解することがきわめて重要なことであった。このケースで見られるように,文化のアセスメントのプロセスは,きわめてインフォーマルに,形式ばらずに進めることができ,クライアントとの最初のミーティングで達成できることもあり得るのだ。

例2:MA-COMは文化の考察の結果,変革計画を作り直した
ある目的に対して行なった文化のアセスメントでは,それまで予測されていなかったけれども,なおその組織とリーダーの観察された行動の多くの部分を説明できる,いくつかの文化の側面を明確にすることが可能となった。このケースでは,深いところで抱かれており,予測されていなかった文化の側面があきらかにされたあと,よりすぐれた解決に向けて,変革計画そのものが作り直された。
10以上の事業部門から成り立っているハイテク企業のMA-COM社の新任のCEOは,いかにその企業に「共通の文化」を築き上げるかを理解するために私の助力を求めてきた。権限が分散された,自立性の高い事業部門重視のこれまでの歴史がいまや機能不全に陥りはじめており,ここで価値観と前提認識の共通セットを築くことに取り組む必要がある,とそのCEOは認識していた。そこで彼と人材部門のディレクター,さらに私自身がプラニングのためのグループを作り,この問題にどのようにアプローチすべきかの検討に取り組んだ。われわれは,すべての事業部門のディレクター,本社スタッフ部門のすべてのヘッド,さらにこの議論に参画すべきだと考えられる人たちが,将来の共通文化に含まれる諸側面を見つけだすことを目的として,1日間のミーティングに集まる,ということに同意した。約30人の人たちがこのミーティングに出席した。
まずCEOが彼のゴールと,何故グループに集まってくれるように要請したのかを述べることからミーティングが開始された。彼は私のことをこの1日の各ステージをマネジする人物として紹介してくれたが,同時にこのミーティングは,このCEOのアジェンダ(目的)に沿って進められるということを改めて明確に説明した。このあと私が30分間のレクチャーを提供して文化をどのようにとらえるべきかを説明し,さらに前章で紹介したようなアセスメントのプロセスに進んだ。ここではまずこのグループのまだシニアに達していない人たちに対して,この企業に入ったときにどのような感じを持ったかを発表してくれるように求めた。彼らはさまざまな人工の産物や規範を指摘し,私がそれぞれを模造紙に記入し,一杯になった模造紙を壁に張りだしていった。そこでこの企業には強力な事業部門ごとのサブカルチャーが存在することが明らかになった。それと同時に,事業部門の間には数多くの共通の人工の産物が存在することも確認された。発言を書き留める役割に加えて,私にとって適切と感じられたときには,明確化のための質問や発言内容の詳細な確認を行った。
約2,3時間の議論のあと,コアの価値観内のあつれきがあきらかになってきた。さまざまな事業部門が,高度レベルの権限の分散と事業部ごとの自立性こそビジネスを進めるうえでもっとも適切な方法だとする,古くからの前提認識を強く支持していた。しかし一方で彼らは,強力な中央集権のリーダーシップと,彼らがひとつにまとまった企業として活動することを鼓舞するコア価値観のセットも切望していたのである。この時点での私の役割は,グループがこの矛盾した要求にまっこうから取り組み,そのルーツと結果の両方をしっかり理解することを支援することであった。ここでランチタイムにはいったが,ランチのあとにはランダムに7,8人のメンバーごとにサブグループを作り,約2時間ほど価値観と前提認識の分析を継続することとした。そのあと午後3時に再び全員が大会議室に戻り,残りの2時間の分析とまとめのセッションを進めることとなった。
最後のセッションにはいると,各サブグループが,共通の企業文化の達成を支援している前提認識と阻害している前提認識を考えた結果を簡潔にまとめて発表した。このプレゼンテーションでは,午前中に指摘された事業部門と本社との間のあつれきが繰り返し指摘された。そこで発表が終ったあと私のほうからもう少し分析を続けようと提案した。プレゼンテーションで事業部門の強力な創設者/リーダーの存在が指摘されたので,各事業部門がどのようにこの企業によって買収されたのかについてもう少し詳しく説明してくれるように依頼した。その結果重要な発見に至った。つまり,ほとんどの事業部門はその創設者が現役のうちに買収されていた。事業部に自治権を認めるという本社の方針に沿って,これらの創設者はそのオーナーシップ(所有権)を譲ったあとも各事業部のCEOとして残っていたのである。
会議に出席していた,ほとんどのマネジャーたちは彼らの強力なリーダーのもとで育ってきており,その育ってきた歴史を大いに賞讃していた。しかしいまやすべての創設者は退任したか,亡くなっていた。その結果各事業部は,創設者が持っていたカリスマ性を備えていない新任のゼネラルマネジャーによって指揮されていた。そこで出席者によって望まれていたことは,彼らの創設者のもとで各事業部門で保たれてきていた統一意識と安定感であった。現実に各事業部門のビジネスがそれぞれ大幅に異なっていたので,強力な企業文化やリーダーシップはあまり望んでいなかった。本当に望んでいたのは事業部門ごとの強力なリーダーシップと彼らがこれまで保ってきた事業部門の自主独立であったのだ。より強い企業文化への彼らの願望は的はずれのものであることが判明した。
歴史の再検討にもとづいたこの分析結果から,将来に向けて全く違った提案が導きだされた。本社のリーダーからの支持を受けて,このグループは,広報,人材マネジメント研究開発といった分野ではいくつかの全社共通のポリシーを必要としているということに合意した。しかし全社に共通する価値観や前提認識は現在のところ必要としていない,もちろんこれからそれらの全社共通の価値観や前提認識が自然に生まれてくるのは構わない,という結論に達した。一方で事業部門レベルでのより強力なリーダーシップ,さらにそのようなリーダーシップを確保する機会を最大化する人材開発プログラムを切望していた。最後に彼らは,それぞれに異なるビジネスで最大の業績を達成するために,各事業部門ごとの自立性に伴う価値を再確認した。
(つづく)平林

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