基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 179 | テクノファ

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私(平林)は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認定を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしました。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
このグループの第1回目のミーティングには丸1日が用意され,いくつかの活動の計画が実行されたが,文化の学習がそのうちのひとつとして含まれていた。アップルの文化をどのように学習するかを決定するセッションでは,私が20分間を使って,人工の産物,信奉された価値観,基本的な底を流れる前提認識を含む,3段階モデルを解説した。さらに私は,彼らがその文化を分析しやすいように,他組織においてこのモデルがどのように使われてきたかを概略説明した。グループは十分な興味を示し,私の次のステップへの提案,つまりこのグループで10のステップのプロセスを実施することに合意した。私の20分のレクチャーのあと,われわれは人工の産物と価値観を探りだす作業にそのまま進んだ。またこのグループにとっては,前提認識,価値観,人工の産物の分析を一緒に分析することが苦にならなかったので,かなり短時間のうちに,グループが創り出したさまざまなデータによって支持された「暗黙の前提認識」の第1次セットが確認された。これらはドラフトの形で模造紙に書き留められて,われわれがアップルを「統治する前提認識」と名付けた,より秩序立った形で次のようにまとめられた。

1.われわれは単にビジネスを遂行するためのビジネスとして存在しているわけではなく,より高い目的に対して存在しているのだ。つまり社会と世界を変え,永続的なものを生み,重要な問題を解決し,楽しみながら仕事を進める,という目的だ。
アップルの主要製品のひとつは子どもの学習をたすけるために設計されていた。またもうひとつの主要な製品は,計算をやさしく,楽しく行うことを目的として設計されていた。またアップルでは楽しみを増すための数多くの慣習を作り上げていた。たとえば終業後のパーティー,仕事中の遊び心,経営者訓練でのマジックショーといった慣習だ。このグループも,アップルでは,楽しく,ユニークなことが大きな褒賞を獲得できると感じていた。またアップルの大多数の社員は,会社がさらに広範なビジネス市場に進出しようとしたり,あるいは彼らの製品を間違った方向で使用する可能性のある特定のグループ(たとえば国防総省など)に製品を販売したことに強く反発する,ということがメンバーによって確認され,強調された。

2.仕事の達成こそ,そこで使われたプロセスや形成された諸関係よりもずっと重要だ。グループはこの前提認識に対して数々の例を提案した。
・アップルで失敗したら,あなたは孤独に陥り,捨て去られるという「ボートピープル(漂流民)」になってしまう。

・年功,忠誠心,過去の経歴は,現時点の仕事の達成よりも価値が低い

・ビジネスの出張で誰も迎えにきてくれない。

・人々の心から簡単に忘れ去られる。最近の業績のみが評価される。仕事で結ばれた関係は長続きしない。

・人材は自分のミッションに没頭しているので,ほかの人のために時間を使い,関係を構築している暇は持てない。

・心の結びつきは仕事を巡ってのみ成立するけれども,それは一時的なものだ。

・グループは単に安全のためのブランケットにすぎない。

・アップルは家族ではなく,クラブかコミュニティー(共同体)である。

3.各個人はひとりの独立した人間になる権利と義務を負っている。
ここでは次のような前提認識が指摘された。
・個人は強力であり,自己実現が可能であり,自分の人生を切り開くことができる。

・共有された夢によってモティベートされた個人のグループは偉大なことを達成する。

・人々はベストを目指し,そこに到達したいという,継承された願望を備えている。

・アップルは個人からの企業への忠誠心を期待しないと同時に,企業側も個人に対して雇用保障を提供することを保障しない。

・個人はその仕事で完全に独立的に振る舞い,自分自身の人格と独自色を表明し,かつほかと違う行動を示す権利を有する。

・服装に対する規則は一切存在せず,自分のスペースをどのように飾りつけても構わない。

・子どもやペットを職場に連れてきても構わない。

・個人は,楽しみ,遊び,奇抜であってもよい,という権利を有する。

・個人は物質万能の心情,お金をたくさんかせぎ,地位にかかわらず豪華な車を持つ権利を有する。

4.現在がもっとも重要だ。
この前提認識については前にも議論した。しかしいくつかのほかのアイデアがアップルの規範と人工の産物として指摘された。
・アップルは過去の歴史や将来への懸念について特別な感じを抱いていない。

・今の瞬間をつかめ。早起き鳥こそえさを獲得する。

・アップルは終身雇用を目指す企業ではない。

・長期プランやタスクは議論されても実行されることはない。

・人材は長期にわたる,部門の枠を越えた関係は築かない。

・アップルは内での移動は自由であり,人材は単に「キャンプの場」と「テント」を持つだけでオフィスは持たない。

・物理的な環境はつねに再編成される。

・完璧を求めるよりは,ものごとを改善するほうがやさしい。柔軟性こそ,われわれの最高のスキルだ。

・社員はプロジェクトや会社を離れるとすぐ忘れ去られる。

・「われわれは行動することから学習する」。

これらのアップルを統治する前提認識とそれを支持するデータが,アップル文化に取り組むサブコミティーに送られ,そこでさらなる面接を通じてテストされ,精錬された。興味深いことに,その後の数か月の作業のあとも,当初のリストに大きな変更が付け加えられることがなかった。ということはグループは文化の主要な部分をきわめて迅速につかんだことを示している。

このケースから学ぶべきポイント
このケースには次のような重要なポイントが含まれている。
・もしモティベーションの高い社内のグループが文化を診断するためのプロセスを提供されれば,そのメンバーは,きわめて重要な統治を司る前提認識の一部を素早く理解することができる。私がこの出来事の数年あとにアップルを再び訪問した際に,企業文化についてもっとも最近に作られた報告を見せられた。この報告書にも前提認識に関して同一のセットが文化のエッセンスとして盛り込まれていた。たしかに一部の前提認識は違った順序で記載されており,改善を要する領域に関して付加的なコメントがつけられていた。私はもっとも最近のアップル文化に関するデータは入手できていない。しかし製品の範囲やストアの運営方法から推察すると,初期のリストの記載は今なお妥当性が高いものと思われる(とくに創業者のひとりがCEOとしてアップルに復帰していることを考えると)。

・これらの統治する前提認識を記述することによってマネジャーたちは,どの分野でその戦略が文化の制約にぶつかるかを評価できるようになった。とくに彼らが急速に成長し,広範なビジネス市場に進出したとすると,ビジネスはただ単にお金をかせぐだけを目的としているわけではないという前提認識のもとで育ってきた人材に対して対応することが迫られたはずだということに気づいた。彼らはまた,自分たちがあまりに現在に集中して生きているので,長期的プラニングや実行のためのスキルを身につけなければならないことにも気づいた。

・アップルは,企業とその社員との間の相互義務は存在しないということを明確に唱った企業哲学を作りだすことによって,タスクの重要性と個人の責任についての前提認識を再確認した。レイオフが必要になると,企業は全く躊躇せずにそのアナウンスを行い,実行した。アップルは,雇用(employment)の保障は雇用可能性(employability)の保障に徐々に移行しなければならないことを明確にした最初の企業のひとつとなっている。つまりある個人がアップルに在職する間に多くを学び,もしレイオフされてもほかの企業にとって魅力のある人材になっているはずだ,ということが想定されている。

したがって企業にも個人にも忠誠心は存在せず,社員は外部により魅力的な機会がでてきたら,アップルを退社することは自由であった。ではどこにコミットメントと忠誠心が存在したのか? それはプロジェクトに対してであった。
(つづく)平林

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