基礎編・理論編

クリエイティビィティーとイノベーションに関して | テクノファ

投稿日:2022年6月30日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
(1)第1年目の総会からのインパクト
この総会から生まれた,3つの重要なインパクトは次のように要約できる。
・このグループはクリエイティビィティーとイノベーションに関して新しい洞察と情報を獲得した。とくにイノベーションは,さまざまなキャリアと組織の形態のなかで実現可能であり,科学者が取り組む純粋のクリエイティブなプロセスとは混同すべきではない,という洞察をつかんだ。この企業の前提認識には科学者のみがクリエイティブであるという考え方が知らぬ間にしのび込んでいた。かなり前に技術的な経歴を離れてしまっていたマネジャーたちは,「ビジネスのすべての機能組織で,マネジメントの役割におけるイノベーションは健全な組織においては大いに待望されているのだ」という私からのメッセージで励まされた。これによってこれまでそのように認められてこなかったきわめて数多くの活動が「クリエイティブ」なものとして再認識され,その結果イノベーションを日頃の問題解決と結びつけることによっていくつかの問題解決のためのエネルギーが解きはなたれることとなった。この洞察はそれほど重要なものとは言えないかも知れない。しかしこのグループが科学と科学に含まれるクリエイティブ・プロセスに関する前提認識にあまりに強くこだわりすぎていたことも事実であった。私があとになって学んだことだが,グループの視野を広げ,彼の心のなかに根づいていた変革に対する地盤を築くことはコクリンの最初のもくろみに適ったものでもあった。

・さまざまなキャリアとキャリアのなかに人々が探し求めているさまざまなことを強調する「キャリア・アンカー」の議論からもこのグループは新しい洞察を得た。このことからの影響は,科学的な経歴に伴うキャリアと役割に関する,融通のきかない画一的な考え方の一部を解凍したことである。取締役会の会長のユーモアにあふれる話は,キャリアにおける個人ごとの差異の考え方の妥当性を支持するものであった。とくにこの会長は科学者ではなく,弁護士であったこともこの考え方の妥当性を強調するものとなった。

・このグループは,ものわかりのよいプロセスコンサルタントである私自身と私のスタイルをよく知るようになった。私が3日間に実施したいくつかの自然な形の演習を通じて私に対する理解も深まった。とくに私がクンツの主宰するプランニングコミティーに出席することが認められ,毎日の活動をレビューし,この過程で私のプロセスとデザインに対するアイデアのいくつかがグループのプラニングを促進した数々の実例で発見できた。コクリンと経営委員会のほかのメンバーたちは,プロセスコンサルタントはこのミーティングできわめて有効であることをその目で観察することができたのだ。

食事や夕方のインフォーマルな時間では,私の打ち解けた応答が私の専門家としての堅苦しい役割をやわらげることに役立った。たとえば誰かが私に,「参画的マネジメントの分野で他社ではどのようなことが行われていますか」と尋ねてきたときに,私はいくつか具体例をあげ,私が観察してきたことの多様性を紹介することに努めた。私に期待されていた一般化した答えは敢えて避けたのだ。このプロセスで会話を交わしていた一部のマネジャーには失望を与えたであろうことも自覚していた。というのは,ある分野の知識の状況を要約することを得意とする科学者の典型的なスタイルに,私のスタイルがフィットしなかったからだ。一方でチバ・ガイギーの諸問題に切り込む私のスタイルは一部のマネジャーには強くアピールした。さらに彼らは,私自身が専門家コンサルタントではなく,プロセスコンサルタントであるという私の定義を受けいれてくれた。

総会の終わりに近づき,会社の広範な部門でキャリアプラニングと職務/役割プラニングのプログラムを導入するための計画が作られた。具体的には,コクリンとその経営委員会がすべてのシニアマネジャーに対して,「職務/役割プラニング演習」を実施するように求めたのである。ここでは各人が自分自身の職務について,これまでどのように変化してきたのか,さらにその職務を取り巻く環境を分析し,5年先を予測したときにその職務がどのように変わり続けるのか,を再検討するように求められた(Schein,1978,1995,2006)。コクリンはまた,毎年の経営者開発プロセスに対するインプットとして使用できるように,より多数のマネジャーに対して「キャリア・アンカー面接法」を各部門で実施するように奨励した。さらにチバ・ガイギーで使用できるように,面接の質問表を改良するためのプロジェクトの立ち上げも承認した。私はこれらのふたつの活動を実行することをたすけるために,本社の経営者開発グループとともに仕事を進めるように求められた。次年度には10~15日間コンサルタントとして協力することとなった。私のクライアントは経営者開発マネジャーのロイポルトとコクリンであった。また主要なミッションは企業のイノベーション能力を向上させることであった。

(2)第1年目の仕事:企業文化をさらに理解する
私は年に数回チバ・ガイギーを訪問し,毎回2,3日滞在した。これらの訪問のたびに,私は経営者開発システムについて学び,経営委員会のメンバーの数人と会い,さらに私のもっとも重要な活動と考えていたこと,すなわち次年度の総会のプラニングに徐々に参画の度を強めていった。もしイノベーションをさらにしっかり定着させたいのであれば,その強味を活かすもっとも重要な方法は,年次総会そのものの雰囲気をもっとオープンなものにすることだと私は考えていた。私のゴールは,その知識を伝えるために1,2日参加する教育者としてではなく,総会全般に参加するプロセスコンサルタントとして迎えられることであった。

しかし私が「現実の問題」に貢献できるという考え方は,チバ・ガイギーのほとんどのマネジャーにとってなお,理解できにくいものであった。DECとは全く逆の経験だ。つまり私が現実の問題にじかに取り組まない限り,そのグループは私を多かれ少なかれ無用の存在と考えたのだ。そこで最初はチバ・ガイギーのマネジャーの私に対する反応は単に誤解にもとづいたものだと考えていた。しかしたび重なる経験を通じて,何か純粋に文化と定義されることに私が反していることに気づくに至った。たとえばチバ・ガイギーの現場のミーティングには決して招かれない,つねに専門家の役割を期待される,さらに訪問のたびに詳細な計画の提出を求められる,といった経験であった。何をコンサルタントが実行し,どのようにそれを実行するかについてのチバ・ガイギーのマネジャーたちの認識は,実はマネジャーが何を実行し,どのように実行するかについてのより一般的な前提認識を反映して生みだされていたのである。

たとえば私が第1章で紹介したように,私が前回の訪問で会ったマネジャーが,次の訪問でロビーやダイニングルームで出会ったときに全く目を合わせなかったり,私を無視することに気づいた。これはあとで学んだことだが,コンサルタントと一緒にいることを公の場で見られることは,その人物が問題を抱えている,支援を求めていることを意味したのだ。それはチバ・ガイギーのマネジャーにとっては何としても避けたいことであった。したがって私は,チバ・ガイギーのモデルにフィットした役割においてのみ,つまり教育者,あるいはマネジメント全般に対する専門家としてのみ受けいれられていたのだ。このポイントは重要だ。というのは,次の総会にプロセスコンサルタントとして出席したいという私のリクエストは,私には理解できていなかったけれども,チバ・ガイギーの文化に強く反するものだったのだ。しかしコクリンはなかなかの策略家であり,彼自身のイノベーション重視の姿勢によってはかのプラニングコミティーのメンバーを説得して私のプロセスコンサルタントの役割を認めさせてしまったのだ。彼自身の行動を通じて,ものごとを見る新しい方法に対する土台を築き上げはじめていた。

われわれは,私が総会で観察した出来事にもとづいて適切なトピックに関するレクチャーを提供することに合意して,折衷案を見つけたうえで,私の出席が認められた。さらに私のコンサルタントとしての役割は,トップ経営者をさらによく理解する機会を与えられた科学者(専門家)として私自身を表明することでさらに強化された。その結果,将来において私の貢献がさらに高まることが期待された。コクリンとほかのシニアマネジャーは,全体グループに何が必要とされているかについて,具体的な考えを抱いていたので,彼らはこのプロセスを促進するためにアウトサイダーとしての私を,コンサルタントの役割で招く用意ができたのだ。彼らは,彼らが伝えたいと願っている危機宣言に対して,全体グループがより強く反応してくれるようにそのグループを解凍したいと願っていることを私もよく理解できた。新しいアイディアを備えたアウトサイダーはこのプロセスに有用であると認められた。とくにグループに対するフィードバックの提供者として,また開始を待つ変革プロセスについての専門家としての価値が認められたのだ。

もうひとりのアウトサイダー,つまりチバ・ガイギーの取締役会メンバーの地位を占め,ポリシーと戦略の教授である人物も総会に招かれた。総会におけるわれわれの出席は,コクリンと経営委員会の決定に強く関連していた。というのは1980年の年次総会では,事業部門ごとに企業業績のレビューが行われることが計画されていたからである。このレビューを通じて,大規模な変革とイノベーションの必要が確認され,その結果これまであまり明確には認識されておらず,受けいれられてこなかったけれども,現実には静かに進行してきた利益の低下傾向がスライドに写しだされるものと考えられていた。経営委員会はさらに「方向転換プロジェクト(Redirection Project)」と名付けた変革プログラムの導入を紹介することを計画していた。

このビジネス上の問題は過去何年かの間にしだいに進行していた。しかし世界中のシニアマネジャーによって共有される危機としては十分に認識されていなかった。チバ・ガイギーの主要な製品事業部はプロフィットセンターであったけれども,私が前に指摘したように,各事業部はその本社をバーゼルに置いていたにもかかわらず,お互いにコミュニケーションを取り合っていたとは言えなかった。これらの事業部は自分のところの状況は理解していた。しかし,企業全体として数多くの分野で利益が低下している状況に対する自部門からの影響については理解していないことがうかがえた。経営委員会のみが全体像をとらえていたにすぎなかったのだ。

この状況は容易に起こり得た。というのは横断的なコミュニケーションがあまり行われていなかった点 さらに赤字を出していた事業部のマネジャーが彼のところの赤字はほかの事業部の利益で容易にカバーされるし,ものごとは改善の方向に向かっていると言い訳に終始していたからだ。この文化は,各マネジャーが自分自身の部門のみに関心を寄せ,より広範な企業全体の視点を重視しない姿勢を助長していた。たしかにその1年間,各事業部に伝えられていたコミュニケーションで企業全体の問題は指摘されていたにもかかわらず,誰もそれを深刻にはとらえていなかった。したがって年次総会のほとんどの時間は,企業全体には問題が存在しているというアイデアを売り込むことに費やされていた。また小さなグループのミーティングでマネジャーたちがこれらの問題を受け止め,対応することを支援する段階に留まっていたのだ。

これらのゴールを理解したうえでプラニングコミティーは,私を招いて総会のデザインに私の支援を活かし,さらに必要に応じて,いかにさまざまな変革プロジェクトを開始し,マネジするかに関するレクチャーをプランすることに意味があることを理解した。言い換えると,経済とマーケットの環境が財政的な危機を生みだしており,トップ経営陣としてもいまやその危機に取り組むべきときがやってきたと決断したのだ。そこではコンサルテーションのプロセスが,方法転換プロジェクトの開始に向けてのマネジメントのより全般的なプロセスの一部として取りいれられた。
(つづく)平林

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