基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 182 | テクノファ

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私は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認定を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしました。

横山先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。
今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
(3)第2回目の総会における解凍プロセス
このミーティングの最初のセッションでは,事業部ごとの財務データの発表が行われた。そのあと小グループに分かれて状況の分析と把握が進められ,さらに業績低下を反転させる提案が作りだされた。この状況を複雑にしていたひとつの要因は,成熟した市場で活動している事業部門は赤字を出して大規模なリストラクチャリングを必要としていたのに対し,ほかの事業部は成長を続け,全体の利益のレベルに大きな貢献をしていたという点であった。問題を抱える事業部からやってきていたマネジャーは恥ずかしい思いをし,言い訳を続けていたけれども,同時にじきに状況は反転できるという過信を抱いていた。一方ほかの事業部のマネジャーたちは人のいないところで,赤字続きの事業部はまず目標を達成することはできない,変革にコミットしていない,精々化粧直ししかできないとささやき合っていた。

利益を上げている事業部から来ていたマネジャーたちは自慢げに振る舞い,自信に満ちあふれ,いつトップ経営陣が,「敗北者」である事業部,つまり彼らと一緒にほかの部門をも引きずり込んでいる業績の振るわない事業にどんな処置を下すのかを見守っていた。しかし赤字を出している事業部,さらにトップマネジメントに属する数多くの人々は,次のように発言していた。利益を上げている事業部と言っても,企業のほかの事業部に較べれば相対的に良く見えるだけで,私見ではあるがそれと同じ産業分野の外部の総合企業と較べると,達成すべき業績を上げているとは言い難いと発言していた。各事業部門が理解していた通り,この問題を解決するのはあきらかにその階層組織全体であったのだ。

事業部のレビューと発表の間に,もうひとつの重要な文化上の前提認識が浮かび上がってきた。この企業は長年にわたりビジネスの多角化に取り組んできており,その一環として,米国のエアウィック社(Airwick)の最近の買収を通じて消費財のマーケットへ進出しようとしていた。このエアウィック製品のレビューの際に私は,チバ・ガイギーの自己イメージは,病気を治療し,飢餓を抑制する「重要な」製品を巡って形成されてきているのだということを学んだ。利益が上がるからだけの理由で製品を販売することは,彼らのビジネスの本質に関する彼らの文化の前提認識の一部に抵触していたのだ。またマーケティングにそのプロセスを特化している組織に対応することも,彼らに不安を抱かせていた。したがって1987年に至り,エアウイックを含む事業部は,利益を上げ続けているにもかかわらず,この企業を他社に売却した。この決定は全く意外ではなかった。

世界の主要国の支社を代表する各国マネジャーはその事業部門の枠を越えた課題を認識した。しかし実際には,本社の組織,たとえばR&D,財務コントロール,人事,製造といった部門が肥大化した事実に怒りを覚えていた。各国マネジャーは本社部門のスタッフは不必要な間接費を増大させていただけでなく,各国のビジネスを遂行するうえで無用な干渉を及ぼしているから即刻縮小すべきだと主張していた。R&D,製造,財務コントロールの高度の中央集権化はこの企業が若く,小規模であったときには納得できるものであった。しかしチバ・ガイギーが拡大し,世界規模の多国籍企業に成長した現在では,小規模な地域セールスオフィスも今や大規模な自立的事業に成長し,そこではすべての機能がローカルでマネジされていたのだ。

各国マネジャーは自分のところに自分たちのスタッフを必要としていたけれども,これらのスタッフは本社のスタッフや事業部のスタッフと乱轢を起こすようになっていた。本社や事業部のスタッフは各国に所在する事業部の人材と直接コミュニケートしたいと感じていた。しかし,この企業の階層構造の特徴から本社グループは各リージョンから膨大な量の情報を求め,かつ各リージョンをたびたび訪問していた。本社スタッフにして見れば彼らが世界全体に対する責任を担っている限り,つねにすべてのことについて情報を握っていなければならないと感じていたのだ。しかし横断的コミュニケーションが欠けていたために,機能組織のスタッフは,彼らのさまざまな質問,たびたびの訪問が各国のオペレーションを麻痺させている事実に気づいていなかった。一方で質問に答えるために多大の時間を使い,ビジターをもてなし,必要なアクションについて承認を取るといったことに各国スタッフは忙殺されていたのだ。

この企業のコスト構造が厳しい吟味の対象となると,各国支社には厳しいコスト削減が求められたが,一方本社組織はそのあともコストに無頓着で,潤沢で,満足な状態を続けていた。ここで各国マネジャーがもっとも懸念した点は,一体全体トップマネジメントはこの利益の減少を真剣に受け止めて,本社の機能組織のスタッフの縮小を推進するのかどうかに向けられていた。もしそこまで踏み込まなければ,これは真の危機ではなく,単なる防火訓練に終わってしまうことを意味したのだ。

(4)生存のための不安感を生みだす
総会の第1日目の最後までに,不満感を煽る財務データがすべて発表され,さらにそのあとグループが集まり,次にどう行動すべきかを話し合った。各グループからのフィードバックを聞くと,完全な理解と問題に対する本格的な認識が行き届いていないことがあきらかになった。そこには不安感や罰意識があきらかに欠けていた。そこでプラニングコミティーが集まり,次にどうするかを話し合った。そこでもし,もうひとりのコンサルタントがハーバードビジネススクールのケース討論のスタイルでグループメンバーに適切な質問を浴びせ,危機はたしかに存在しているという結論に追い込めば,参加者に問題の深刻さをきちんと認識してもらえるのではないかという結論に達した。このコンサルタントは総会の2日目に,約2時間のセッションできわめて効果的にこの目的を達成した。つまり企業は大規模な変革に取り組まない限り,長期にわたり利益を保つことはできないということをグループ全員に力強く訴えたのだ。

その結果,生存のための強い不安感とプレッシャーが場に充満した。ここではじめて,トップからのメッセージがグループ全体によって受けいれられ,方向転換プロジェクトのスタートに向けたステージが整ったのである。

何故この方法がうまく行ったのか? シニアマネジメントが象徴的に両親の役割を果たしている文化では,両親が子どもたちに,もし彼らがきちんと体勢を立て直さないと家族が崩壊するかも知れないということを指摘することは難しい。子どもたち全員が安易にお互い,あるいは両親を批判し,自分が責任を感ずることを避けようとするからだ。そこには,両親(シニアマネジャー)が過去もそうであったように必ず問題を解決してくれるという伝統が色濃く残っていた。「家族の崩壊」に向き合うことに伴う不安感はあまりに強大であったために,否認の気持ちのほうが満ちあふれていた。

このケースでは,外部のコンサルタントが同じ情報を取り上げたのだけれども,この情報を家族全員が責任を負い,家族全体で対決し,対応すべき問題として提示した。彼にはインサイダーたちがお互いに対応し合う場合よりもずっと直接的で,対決的な方法を用いることが可能であった。同時に彼は,グループ全体に対して,この問題には全員が関わっている,つまり経営委員会は象徴的な両親として,そのほかの全員は子供として関わっていることを思い出させたのだ。この認識が結果として生まれてきた恐怖心を柔らげることに役立ったわけではない。しかしこの恐怖心をオープンにすることには役立った。つまり,いつまでもこの事実を拒絶をし続けることは不可能であったグループは,たしかにその危機状況を明確に示されて不安感を募らせたが,同時に問題をどのように解決したらよいかわからないことから学習に対する不安感も高まったのだ。またグループは心理的に安全であると感ずることができなかったので,八方ふさがりの感覚にもとらわれていた。

(5)心理的安心感を生む
次の問題は,そこでまん延している学習に対する不安感と意気消沈感をいかに減少させるかの問題であった。グループが状況を再定義し,何か建設的なことを成し遂げる能力は備えていると促し,心理的な安心感をどのようにしたら提供できるのか? もうひとりのコンサルタントと私はこのことを熟慮するために長い散歩を試み,変革への抵抗の特徴,その克服法についてレクチャーを行う好機だという結論に達した。彼が前のセッションでは対決姿勢であったので,今回私は支援的,促進的な姿勢を示すべきと考えた。

私は早速ノートにまとめ,スライドを作り,翌日の朝に次の諸点についてレクチャーを行った。(1)健全な組織においては何故変革ができなければならないのか,(2)何故個人も組織も変革に抵抗を示すのか,(3)変革を促す力と逆に阻害する力をどのように分析するのか,(4)どのように次年度における適切な変革ターゲットを設定するのか(とくに方向転換プロジェクト,タイムテーブル,成果の測定,結果責任の関係を考慮しながら)。私は変革プロジェクトに伴う,きわめて重要なポイント,つまり変革に要する期間自体もマネジされるべきステージのひとつとして定義され,また転換期マネジャーがきちんと任命されるべきだ,というポイントを強調した(Beckhard & Harris,1987)。

このレクチャーは,グループのメンバーが前向きに思考する方法を提供できたという点で望ましい結果をもたらした。その結果,方向転換プロジェクトを成功に導くために,諸課題にプライオリティーを決定する小グループごとの作業に取り組む際には,現実重視と楽天主義の感覚を抱きつつ作業に取り組むことができた。この小グループのミーティングにおける全体的な成果はあきらかであった。彼らは,利益を上げていない事業部は縮小し,リストラクチャリングを進めるニーズを持ち,利益を上げている事業部も競合に較べてさらに生産性を高めるニーズを持っていることを明確に認識した。しかしそれにもまして,本社の各組織が本社における余剰人員の問題に対峙し,かつ機能組織が生みだしているマネジメントスタイルに伴う問題に取り組まない限り,事業部門の問題は改善されないということをはっきり確認した。もちろんこの考え方はこの段階で新しく生まれたものではない。しかし,いまや確信を持って全員によって共有されるものになった。総会の2日目は,発見された課題のすべてに対応するトップマネジメントのコミットメントの宣言,さらに諸問題に対応するためにタスクフォースを立ち上げる計画の発表によって締めくくられた。
(つづく)平林

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