新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。
第7章 国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現
第1節 地域における医療・介護の総合的な確保の推進
1 医療及び介護の総合的な確保の意義
急速に少子高齢化が進む中、我が国では、2025(令和7)年までにいわゆる「団塊の世代」が全て75歳以上となり、超高齢社会を迎えます。こうした中で、国民一人一人が、 医療や介護が必要な状態となっても、できる限り住み慣れた地域で安心して生活を継続し、その地域で人生の最期を迎えることができる環境を整備していくことは喫緊の課題です。
我が国における医療及び介護の提供体制は、世界に冠たる国民皆保険を実現した医療保険制度及び創設から22年目を迎え社会に定着した介護保険制度の下で、着実に整備されてきました。しかし、高齢化の進展に伴う高齢者の慢性疾患の罹患率の増加により疾病構造が変化し、医療ニーズについては、病気と共存しながら、生活の質(QOL)の維持・向上を図っていく必要性が高まってきています。一方で、介護ニーズについても、医療ニーズを併せ持つ重度の要介護者や認知症高齢者が増加するなど、医療及び介護の連携の必要性はこれまで以上に高まってきています。特に、認知症への対応については、地域ごとに、認知症の状態に応じた適切なサービス提供の流れを確立するとともに、早期からの適切な診断や対応等を行うことが求められています。また、人口構造が変化していく中で、医療保険制度及び介護保険制度については、給付と負担のバランスを図りつつ、両制度の持続可能性を確保していくことが重要です。
こうした中で、医療及び介護の提供体制については、サービスを利用する国民の視点に立って、ニーズに見合ったサービスが切れ目なく、かつ、効率的に提供されているかどうかという観点から再点検していく必要があります。また、高齢化が急速に進む都市部や人口が減少する過疎地等といったそれぞれの地域の高齢化の実情に応じて、安心して暮らせる住まいの確保や自立を支える生活支援、疾病予防・介護予防等との統合も必要です。このように、利用者の視点に立って切れ目のない医療及び介護の提供体制を構築し、国民一人一人の自立と尊厳を支えるケアを将来にわたって持続的に実現していくことが、医療及び介護の総合的な確保の意義です。
2 地域医療介護総合確保基金
「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」(平成元年法律第64号)に基づき、消費税増収分等を活用した財政支援制度(地域医療介護総合確保基金)を創設し、各都道府県に設置しています。都道府県は、「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針」(総合確保方針)に即して、かつ、地域の実情に応じて、地域における医療及び介護の総合的な確保のための事業の実施に関する計画(都道府県計画)を作成し、地域医療介護総合確保基金を活用しながら、当該計画に基づく事業を実施することとしています。地域医療介護総合確保基金については、都道府県において毎年度事業の評価を行うとともに、医療介護総合確保促進会議においても議論いただくこととされており、基金が有効に活用されるように取り組んでいくこととしています。2014(平成26)年度から2021年度(令和3)年度の地域医療介護総合確保基金の変遷もご参考ください。
第2節 安心で質の高い医療提供体制の構築
1 質が高く効率的な医療提供体制の構築
我が国の医療提供体制は、国民皆保険制度とフリーアクセスの下で、国民が必要な医療を受けることができるよう整備が進められ、国民の健康を確保するための重要な基盤となっています。
しかし、急速な少子高齢化に伴う疾病構造の多様化、医療技術の進歩、国民の医療に対する意識の変化等、医療を取り巻く環境が変化する中で、将来を見据え、どのような医療提供体制を構築するかという中長期的な課題にも取り組む必要があります。また、現在、都道府県間及び都道府県内の医師の地域的な偏在、及び診療科間の偏在の問題や救急患者の受入れの問題等に直面しており、これらの問題に対する緊急の対策を講じる必要があります。
(1)地域医療構想の策定と医療機能の分化・連携の推進
医療・介護サービスの需要の増大・多様化に対応していくためには、患者それぞれの状態にふさわしい良質かつ適切な医療を効果的かつ効率的に提供する体制を構築する必要があります。このため、2014(平成26)年6月に成立した医療介護総合確保推進法では、病床の機能の分化・連携を進めるとともに、地域医療として一体的に地域包括ケアシステムを構成する在宅医療・介護サービスの充実を図るための制度改正を行いました。
具体的には、長期的に継続する人口構造の変化を見据えつつ、将来の医療需要に見合ったバランスのとれた医療機能の分化・連携の議論・取組みを進めるため、まずは、団塊の世代が75歳以上となり、高齢者が急増する2025(令和7)年の医療需要と病床の必要量について地域医療構想として策定し、医療計画に盛り込むこととしました。
各都道府県においては、2014年度末に国が示したガイドラインに沿って検討が進められ、2016(平成28)年度末までに、全ての都道府県において地域医療構想の策定が完了しました。その後、都道府県に対し、公立・公的・民間を問わず、各医療機関において、地域医療構想を踏まえた具体的対応方針を定めるとともに、医療関係者や自治体など幅広い関係者が参画する地域医療構想調整会議において議論するよう求め、特に、2017(平成29)年度と2018(平成30)年度の2年間の集中的な議論を要請しました。
こうした中、公立・公的医療機関等については、民間医療機関では担えない機能に重点化する方向で検討を求めてきましたが、2018年度末において公立・公的医療機関等の具体的対応方針の策定について、病床の機能分化・連携に向けた実質的な議論が行われていないことが懸念されるとの指摘がなされたため、2020(令和2)年1月に、国において診療実績を分析した上で、都道府県を通じ、公立・公的医療機関等に対し、具体的対応方針の再検証等について要請しました。
このように地域医療構想を進めていく中、2020年1月から発生した新型コロナウイルス感染症への対応を契機に、同年10月から、「医療計画の見直し等に関する検討会」及び「地域医療構想に関するワーキンググループ」において、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた今後の医療提供体制の構築に向けた議論が重ねられ、同年12月に同検討会で取りまとめられた報告書では、中長期的な視点に立った地域医療構想については、その基本的な枠組み(病床の必要量の推計・考え方など)を維持しつつ、引き続き、着実に取組みを進めていく必要があるとされました。 また、同報告書において、今後、地域医療構想の実現に向けた取組みとして、公立・公的医療機関等において、具体的対応方針の再検証等を踏まえ、着実に議論・取組みを実施するとともに、民間医療機関においても、改めて対応方針の策定を進め、地域医療構想調整会議の議論を活性化していく必要があるとされました。
さらに、病床機能の分化・連携に関する地域での議論が進められている医療機関・地域に対しては、国において技術的・財政的支援を進めていく必要があるとされたところであり、こうした議論を踏まえ、厚生労働省では、以下のような支援を行うこととしており、②及び③については、法的に措置するための医療法改正法案を2021(令和3)年2月2日に第204回通常国会へ提出し、5月21日に成立した(令和3年法律第49号)。
①国による助言や集中的な支援を行う「重点支援区域」を選定し、積極的に支援します。
②2020年度に、病床機能の再編や統合を進める際に生じうる、雇用や債務承継などの課題を支援するため、「病床機能再編支援事業」を新たに措置しました。当該事業について2021年度以降も、消費税財源を活用した地域医療介護総合確保基金の中に位置付け、全額国庫負担の事業として実施します。
③複数医療機関の再編・統合に関する計画(再編計画)について、厚生労働大臣が認定する制度を創設しました(租税特別措置法改正により、認定を受けた再編計画に基づき取得した不動産に関する登録免許税を優遇)。
また、外来機能の明確化・連携について、2020年2月から、「医療計画の見直し等に関する検討会」で議論が行われ、同年12月に報告書が取りまとめられました。同報告書では、患者の医療機関の選択に当たり、外来機能の情報が十分得られず、また、患者にいわゆる大病院志向がある中、一部の医療機関に外来患者が集中し、患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の課題が生じていることが指摘されて、人口減少や高齢化、外来医療の高度化等が進む中、かかりつけ医機能の強化とともに、外来機能の明確化・連携を進めていく必要があるとされました。これを踏まえて、取組の第一歩として、医療機関が都道府県に外来医療の実施状況を報告し、地域の協議の場で外来機能の明確化・連携に向けて必要な協議を行うことにより、「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関(紹介患者への外来を基本とする医療機関)を明確化すること等を内容とする医療法改正法案を 2021年2月2日に第204回通常国会へ提出し、5月21日に成立しました(令和3年法律第49 号)。
出典・2019年度病床機能報告についてもご参考ください。
(つづく)A.K