基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 186 | テクノファ

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横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第20章 学習する文化と学習するリーダー
グローバル化 ナレッジベースの組織,情報化時化 バイオテック時代,組織間の垣根の撤廃,ネットワーク等のすべてには,ひとつの共通のトレンドが見いだせる。すなわちわれわれは明日の世界がどのような姿になるかについてはっきり理解していないという共通のトレンドである。もちろん未来の世界は,現在とは違っており,より複雑性を増し,きわめてスピードが速まり,さらに文化的にも益々多様化が進むことは十分に認識している(Drucker Foundation eds.,1999;Global Business Network,2002;Schwartz,2003;Michael,1985,1991)。

ということは,組織,そのリーダー,そのほかのメンバーは,永続的な学習者になることが求められていることを意味する(Michael,1985,1991;Kahane,2010;Scharmer,2007;Senge,Smith,Kruschwitz,Laur & Schley,2008)。ここでこの永続的学習の課題を文化の分析の枠組みのなかでとらえると,われわれは矛盾に突き当たる。元来,文化は安定をもたらし,保守的なフォースであり,さらにものごとに意義と予測可能性をもたらすものなのだ。数多くのコンサルタントと学者たちが,「強力な」文化が効果的で,永続的な業績を生むベースとして望ましい,ということを主張してきた。定義上,強力な文化は安定的で,変革しにくい存在なのだ。もし世界がさらに激しい乱気流に巻き込まれて,柔軟性と学習が求められることになると,強力な文化はますます不都合を生む要因にならざるをえないのではないか? さらに文化創造のプロセスそのものが,潜在的に機能不全に陥るということを意味しないだろうか?何故なら柔軟性がより強く求められている状況で,文化はものごとをより安定する方向に導くからだ。あるいは逆に,文化は本来的に学習指向であり,適応性と柔軟性が高いという風にとらえることは可能だろうか? つまり永続的学習と変革を定着させることができるのだろうか? 永続的学習と柔軟性を支援する文化はどのような姿になるのだろうか?

上記の問いをリーダーシップの言葉に置き換えると,今日のリーダーは,明日に発生してくる驚きに準備しておくべきなのか? また明日のニーズを理解し,生存のための変革を推進するために,リーダーはどのような特性とスキルを身につけておかなければならないのか?

学習する文化はどのような姿となるのか?
本章で紹介するアイデアは,次の方々との私の会話から生まれた。つまり故ドナルド・マイケル(Donald Michael,1985,1991),私の同僚トム・マローン(Tom Malone,2004;Malone & others,1987),ピーター・センゲ(Peter Senge,1990;Senge & others,2008),さらにオットー・シャーマー(Otto Schamer,2007)の各氏であり,将来における組織とその働き方の特徴についてこの人たちと話し合ってきた。また上記のアイデアは,私の企業と非営利セクターに属する多数のリーダーから直接私が聴取した,数多くのセミナーでのテストを経ている。これらのリーダーたちとは,いかに急速に,世界が地図のない新しい領域に突き進んでいるか,について話し合ってきた。

1.先取り的発想(proactivity)
学習する文化では,人間がその環境との関係において適切な行動を取るためには,先取り的に問題を解決し,学習する人材でなければならないと想定することが求められている。もしその文化が受動的な容認という宿命論的な前提認識にもとづいて築かれているときには,そこでの学習は,環境における変化のスピードが速くなればなるほど,ますます困難なものになる。
学習重視のリーダーは,活発な問題解決が学習に結びつき,その結果組織のほかのメンバーたちにとってのモデルを示すことができるという確信をしっかり表明しなければならない。問題解決のためのいかなる具体的な方法よりも,学習するプロセスにコミットすることがもっとも重要となる。きわめて大規模な複雑な問題に局面すると,リーダーの解決策を導きだすうえでのほかの人々への依存度はさらに増大する。さらに組織メンバーがその学習プロセスに参画していた場合に,新しい解決策が採用される確率は圧倒的に高まるということも確認されている(Schein,2009a,2009b)。

2.学習することを学ぶことにコミットする
学習する文化は,そのDNAのなかに「学習する遺伝子」を備えていなければならない。つまりメンバーは,学習することは投資対象としてすぐれたものであり,学習することを学ぶことはそれ自体が修得すべきスキルであるという共有する前提認識を身につけておくことが求められている。「学習すること」では,外部環境における変化を学ぶだけでなく,組織内の諸関係,さらに自分の組織がいかにたくみに外部の変化に適応しているかについても学ばなければならない。たとえばDECの倒壊を理解するひとつの方法は,彼らは技術の継続的なイノベーションにはコミットしていたが,自分自身の組織がグループ内の破壊的な競争を生みだしていることを学習することには全く関心を示さず,コミットメントもしていなかった事実を認識することが重要なのだ。

学習することに伴う鍵は,まずフィードバックを受け,そのフィードバックが何を意味するかについて内省し,分析し,消化する時間を十分に取ることだ。フィードバックは,もし学習者がそれを求めたときにはじめて効果を発揮する。したがって学習するリーダーにとっても重要なモティベーションのひとつは,支援を求め,その支援を受けいれることだ(Schein,2009a)。学習にとってもうひとつ重要な鍵は,新しい反応を生む能力,ものごとを実行する新しい方法を試みる能力に求められる。この努力には時間,エネルギー,リソースが必要となる。したがって学習する文化では,消化と実験を重視し,さらに組織メンバーに実行のための時間とリソースを提供することが求められる。

3.人間の本性についての前向きの前提認識
学習するリーダーは人材を信頼し,さらに人間は本来的に善良で,鍛錬することができることを確信していなければならない。またリーダーは人間はもしリソースと必要な心理的な安心感が与えられれば,学習をすることができ,かつ学習を進めるということを信ずることが求められる。ここで学習とは生存と向上のための願望ととらえることが可能だ。もしリーダーが人間は生来なまけもので,消極的であるととらえ,さらに人間は組織に対して全く関心を示さず,自分自身を越えて成長しようとはしないという前提認識から出発すると,この種のリーダーは必然的に自己満足的な傾向の強い組織を生みだす。またこの類のリーダーはその従業員を怠けもの,自己防衛的,自己本位の人材に育て上げ,最終的には人間の本性についての彼らの最初の前提認識,つまり人間の本性は悪だという前提認識の証拠として,上記のような悪しき特性を挙げつらう結果を招く。結果として生まれてくるコントロール重視の組織はたしかに安定的な環境では存続し,ときによっては成長する。しかし環境がさらに悪化し,また技術とグローバルのトレンドが問題解決をより複雑なものに導くに連れ,この種の組織は衰退に向かうことはまず間違いない。

知識とスキルがより広範に伝播されると,リーダーは好き嫌いにかかわらず,その組織のほかの人たちに依存を強める方向に導かれる。そのような状況では,人間の本性に関わって否定的な態度が醸成されやすい。ベストの場合でも厳格な官僚主義,最悪の場合には組織に反抗するサブグループが形成される。

4.環境はマネジできるという信念
学習する文化はそのDNAのなかに,環境はある程度マネジが可能だと考える共有された前提認識を包含した遺伝子を含んでいなければならない。組織は共生的にその適所を承認しなければならないと考える学習するリーダーは,環境がさらに混乱の度を強めると,その学習により大きな困難を経験する。ゆっくり変化する環境に適応することもひとつの学習プロセスであるけれども,今日のように世界が激しく変化を続けている状況では上記のような方法はますます実行が難しくなっていると考えられる。言い換えると,環境が荒れ模様になればなるほど,リーダーが環境のある程度のマネジメントは望ましく,かつ可能であることを主張し,実際に証明することがますます重要になってきている

5.プラグマティズムと探求を通じた真実に対するコミットメント
問題に対するソリューションは探求に含まれる深い信念と「真実」に対するプラグマティックな実用主義にもとづく探求から生まれてくる,という共有された前提認識を,学習する文化は備えていなければならない。この探求プロセス自体は柔軟であり,遭遇している環境変化の特性を反映するものでなければならない。学習する文化で避けなければならないことは,知恵と真実はたったひとつのソースや方法に内在していると自動的に認識することだ。このポイン

トは,とくにマクロカルチャーの世界で重要だ。つまり「科学的」と考えられていることでさえ,きわめてさまざまな差異を伴っているのだ。したがって科学における物理学のモデルでさえ,真実に至る唯一の道であるととらえることはできないのだ。

われわれが遭遇する問題がつねに変化しているのだから,われわれの学習の方法もそれに応じて変化させなければならない。ある目的のために,われわれは「正常な科学」に依存していなければならない。またそのほかの目的のためには,経験を積んだ実務家のなかに真実を見つけださなければならない。何故なら科学的証明は入手不可能だからだ。さらにほかの目的のためには,われわれは共同して実験に取り組み,エラーも許容しながら,すぐれたソリューションを見つけださなければならない。知識とスキルはさまざまな形で発見される。私が臨床的な研究プロセスと名付けた方法では,支援者とクライアントが協力して仕事を進める。何びとも正当な解答をだすだけの「専門家」になり得なくなっていることから,この臨床的な研究方法がますますその重要性を増しているのだ。学習する組織では,すべての人材が「いかに学習するか」を学ぶことが求められているのだ。

学習するリーダーにとってもっとも困難な課題は,自分自身の専門能力と知恵の不足に気づくことである。一度われわれはリーダーの地位につくと自身のニーズと,ほかの人たちからの期待から,われわれが解答を知っており,状況をコントロールしていることが当然のこととして求められる。そこでわれわれは解答を出すと,必然的に現実と真実に関して教育者的なポジションを取る文化を生みだすことになる。継続して学習を続ける「学習する文化」を築く唯一の方法は,リーダー自身が自分が知らないことがたくさんあることを認め,さらにほかの人たちに,彼らにも知らないことがたくさんあることを教える方法だ。学習を続けるタスクがそこで共有された責任として受け止められることが重要となる(Schein,2009a)。

私自身,文化に対してわれわれの感受性をさらに高めるためにはどうしたらよいかという質問をたびたび受ける。私の即答は「もっと旅をしてください」というものだ。われわれ自身により多様な文化におけるさまざまな経験を付与することを通じて,われわれは文化の多様性を学び,文化に対する謙虚な態度を育むことができる。学習するリーダーは,自分の組織の外でたくさんの時間を費やし,できるだけ数多くのほかの文化へ旅をすることを心掛けるべきなのだ。
(つづく)平林

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