基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 187 | テクノファ

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横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
6.将来に向けて前向きの指向性
学習にとっての最適の時間の指向性は,遠い未来と近い未来の中間に存在すると言えそうだ。われわれは,さまざまなアクションのコースの組織的な結果がアセスできるように十分に遠い未来を見通すことができなければならない。しかし同時にわれわれのソリューションがうまく機能しているか否かをアセスするために近未来の範囲内で思考できなければならないのだ。もし環境がさらに激しく変化するようになったら,その状態での最適の時間的指向性を,過去に生きている状況,あるいは現在に生きている状況にのみ求める考え方はあきらかに機能不全に陥る。

7.完璧で,オープンなタスクに適合したコミュニケーションに対するコミットメント
学習を続ける文化は,コミュニケーションと情報がその組織の健全性にとってもっとも重要であり,したがってメンバーの誰もがお互いに接触できる多元的なチャネルを備えたコミュニケーション・システムを作り上げるという考え方にもとづいて築かれなければならない。しかしすべてのチャネルが使われる,あるいはある種のチャネルがすべての目的のために使われる,ということを意味しているわけではない。この意味するところは,メンバーの誰もがほかの誰ともコミュニケートでき,さらにできる限り真実を語ることはすぐれたことで,かつ望ましいことだということを誰もが信じている状態を意味しているのだ。

「オープンさ」についてのこの原則は,「何ごとも開けっぴろげに話し合おう」という諺と同程度のオープンさの定義を採用して,文化に関するすべてのルールを無視してよいということを意味しているわけではない。世の中には対人関係におけるオープンさ,あるいは開けっぴろげな行動が階層組織のすべてのレベルで,さらに多元的文化環境において深刻な問題を発生させたケースも無数に存在するのだ。とはいえわれわれは,タスク遂行にとって役に立つ情報に対しては敏感に反応し,その情報の共有についてはできる限りオープンさを保つことが求められている。学習するリーダーにとってもっとも重要な役割のひとつは,すべての遂行すべきタスクに対して,最小限のコミュニケーション・システムがどのようなものであり,さらに効果的な問題解決と学習にとってどのような情報が不可欠であるのかを具体的に指示することである。より多くの情報を持つことが必ずしも望ましいとは言えない。何故なら多くを知れば知るほど,われわれは自分が理解していない点についてより多くの疑問を抱くようになるからだ。タスクに妥当性の高い情報を完璧に入手するためには,グループのメンバー間でお互いに信頼し合うことを学ばなければならない。またこの種の信頼は,メンバーたちが,社会的秩序に伴うルールが許す範囲内でお互いに真実を語り合うことから築かれる。学習するリーダーにとっての重要なチャレンジのひとつは,メンバーたちがフェイス・トゥー・フェイスの接触のないなかで,そのネットワーク内にどのように信頼を築いていくか,という挑戦なのだ。

8.文化の多様化に対するコミットメント
環境がますます乱気流に巻き込まれると,より多様化された文化のリソースを備えた組織ほど予測しにくい出来事に対して,より効率的に対応できるようになる。したがって学習するリーダーは文化の多様性を促し,さらに個人レベルでもサブグループレベルでも多様性は望ましいものだという考え方を公に支持すべきなのだ。このような多様性は必然的にサブカルチャーを形成し,さらにこのサブカルチャーは学習とイノベーションのために必要とされるリソースになる。

しかし多様性がリソースになるためには,サブカルチャー,ないし多元的文化タスクグループに属する個人たちが連携し,それぞれが相互に相手の文化や言語から何かを学び合えるようにお互いを尊重し合うことが求められる。この際,学習するリーダーにとっての最重要の役割は,効果的なクロスカルチュラルな(異文化間の)コミュニケーションと理解をたしかなものにすることだ。これをどのように達成するかについては次章で検討する。多様性を生みだすといっても,調整を伴わない形で,全体システムに属するさまざまな部門が自分勝手に動くことを意味しているわけではない。放任主義のリーダーシップは効果的に機能しない。何故なら,サブグループ,またはサブカルチャーは本来的に自分自身の利益を守ろうとするからだ。したがって多様性の利点を最大に活かすためには高度な調整機能と文化の相互的な理解が必要となるのだ。

9.体系的な思考に対するコミットメント
世界が複雑性と相互依存性を増すに連れて,体系的に思考を進め,フォース(力)の作りだす場を分析し,かつ各フォースの生みだす相乗効果を理解し,高度な知能モデルを優先させて単純なリニアの原因結果ロジックを捨てる能力が,学習にとってさらに不可欠のものとなってくる。学習するリーダーは,世界は本来的に複雑であり,直線的であるとは言えず,複雑にからみ合っており,ほとんどのことが多元的に影響し合っているという意味で「多元的にからみ合っている」と認識すべきなのだ。このことは,環境破壊を生む危険性を含む産業やヘルスケア産業における安全課題の分析においては中心的課題になってきている。

10.文化の分析は,世界を理解し,向上させるためのレンズとして妥当なセットであることへの確信
文化を学ぶうえで,リーダーとそのメンバーは,その文化を分析し,内省することが学習のプロセスの重要な部分であることを理解する。文化の分析は,グループと組織がそのタスクを完遂するプロセスにおいて機能する。

ケーススタディー:SAAB Combitech
組織学習の分野で行われた文化的インターベンション(介入)の好例はSAAB Combitech(Saab社のR & D部門)とそのリーダーのペル・リスバーグによって実施された1997年のセミナーに発見することができる。Combitechは,高度なトレーニングのシステム,軍事用のハードウエア,海軍のエレクトロニクス,航空宇宙のテクノロジー,さらに宇宙探査テクノロジーといったさまざまな分野の技術に取り組む7つの独立したリサーチ部門から構成されていた。それぞれの部門は自分たちのタスク,テクノロジー,さらに従業員ごとの専門職務にもとづいて独自のサブカルチャーを築いていた。これらの部門はお互いに友好的に接していたけれども,もしそれぞれの技術と組織の洞察を分かち合えば,自分たちをさらに向上できるということを理解するほどにはお互いを理解し合っていたとは言えなかった。

リスバーグは,100人強のグループメンバーに対して文化について教育し,さらにそれぞれの部門の文化をお互いにより深く理解し合うことを支援するインターベンション(介入)のプログラムを設計することを目的として私を招いたのだ。リスバーグと私は3日間のワークショップを設計し,参加者たちには,このミーティングに参加するまでに私の文化に関する著書の主要な部分を読んでくるように要請した。さらに各グループはDECとチバ・ガイギーと彼ら自身を比較し,また自分たちの文化についての観察をまとめた手紙を私宛に書くことも求められた。

ワークショップの第1日目に私は,文化のモデルを紹介し,より多くの例を提供し,加えて彼らのグループの自己分析についても簡単にレビューした。次に各グループから2人のメンバーを指名してもらい,この2人組にはほかのグループを訪ねてそのグループの文化がどのようなものかを学習してもらうという「文化人類学者(anthoropologist)」の役割を担ってもらうこととした。私は本書の第5章から第9章で述べた類いの次元をいくつか提供したうえで,訪問先のグループの人工の産物,信奉された価値観,暗黙の前提認識(assumption)について,実際にグループを訪ね,観察し,探求するために数時間を提供した。第2日目には,全員が出席するセッションで各ペアによる観察結果が報告された。その結果各グループは,2人の社内文化人類学者によって自分たちがどのように認識されたのかを知らされた。このプロセスを通して,各グループによって保持されている前提認識の共通性と多様性が浮きぼりになった。全体グループはお互いに質問を交わすこととお互いの文化をさらに探求し合うことが奨励された。

第3日目は,リサーチの各ユニットがいかに相互に依存しており,さらにそれぞれのテクノロジーとノウハウを共有することによって,いかにお互いをさらに支援し合えるかという方法についてシステマティックな探求に時間を費やした。リスバーグはその夜,出席者全員とその配偶者を晩さん会に招いた。この晩さん会は,フォーマルなカクテルにはじまり,長いテーブルに座ったフォーマルなディナーが続いた。この晩さん会はとても打ち解けない雰囲気につつまれた。というのは,出席者はお互いを十分に知り合っていなかったし,配偶者たちもその場になじんでいなかったからだ。つまり全員が長い退屈な夜の展望に気が滅入ってしまったのだ。

しかし最初のディナーコースが終るとリスバーグは,全員が自分の部屋に戻り,そこに貼ってある指示に従うようにと求めた。各人が部屋に戻ると,新しい衣装がはいった箱を目にした。そのなかには絞り染めの施されたシャツ,ぶかぶかのズボン,スリッパ,ヘッドバンドがつめられていたのだ!! われわれはこれらの衣装を身につけ,駐車場に集まるように指示された。そこには大規模なオーディオ装置が据えつけられていた。そのあとは,インストラクターによる「ダンスレッスン」を受けるために列を作るように指示され,さらに全員が簡単なステップをマスターするように求められた。リスバーグはリズムに乗った音楽をかけ続け,われわれが本格的にダンスに取り組んで,楽しむことができるところまで何度もステップを練習させた。われわれはリラックスし,堅苦しい態度を捨てたレベルでお互いを知り合うことができた。全員が20分ほどダンスを楽しんだあと,またディナーに戻るように指示された。すでに全員は打ち解けた会話を楽しむことができた。

ディナーは,インディアン料理のバイキング方式であり,ここでも全員が動きまわり,さらに打ち解けた雰囲気が盛り上げられた。その夜がふけるころには,笑い声が満ちあふれ,背中をたたき合い,カードを交換し合い,将来に向けてコミットメントを契い合っていた。リスバーグは,彼のリサーチの各グループがお互いを知り合い,お互いに協力して働くように導びくという彼の目標を見事に達成する「文化的な」イベントを生みだしたのだ。各グループは概念としての文化を学んだだけに留まらず,各グループに「文化人類学者」の役割を担わせることによって,創造的に文化を活かしたワークショップのデザインを築いたのだ。

出席者の全員を心なごむ「ヒッピーの衣装」に着がえさせ,一緒にダンスを楽しむことを盛り上げたこのイベントは,チバ・ガイギーで全員が石弓のゲームやほかのスポーツに取り組んで,全員を同じレベルに築いた試みと似通ったものであった。リスバーグは,彼の組織が長い間存続してきていたにもかかわわらず,メンバーたちがお互い同士を十分に知り合っているとは言えず,共通の基盤を築くための何らかのイベントを全員が必要としていることを自覚していた。ここで,彼は,次章でさらに詳しく検討する概念,つまり「文化の島」を見事に築き上げたのだ。
(つづく)平林

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