基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 190 | テクノファ

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横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
第21章 文化の島 ― 多元的文化グループをマネジする
前章で私は,学習する文化と学習するリーダーシップがどうあるべきかを概説した。これらの要求について語ることはたやすいけれどもそれらを達成することはきわめて難しい。とくに多元的文化の環境,グループ,組織といった,いくつかの国々,または職業別の文化が含まれる環境において,いかに文化に対する洞察と相互理解を深めるかが不透明のときにその困難さが倍加する。多元的文化のタスクフォースやプロジェクトはますます一般的になっていると同時に,これらは新しい名前,つまり「協調的組織(collaborations)」という呼び名を獲得している。このようなグループは,ギブソンとデイブルの文献に次のように紹介されている(Ang & Van Dyne,2008)。

「協調的組織への参加者は,継続的な接触を前提とせずに,たった1度の形で参加してくることもある。主要なメンバーは一定期間そのグループに留まることはあり得るけれども,ほかの参加者は,『必要なときに』一時的な形で仕事に加わったり,離れたりする。さらに,この協調的組織では活発な相互依存的な接触を求めることもあり得るけれども,通常はきわめて独立的なアクターたちによって構成されている。ほとんどのメンバーは特定の組織関係に固定されておらず,多角化された企業を代表するか,ないしは全く組織に所属していないかのいずれかとなる。参加者はあるプロジェクトが存続する間だけ共通の目的を共有しているかのように感ずるかも知れない。しかし,自分たちの『ティーム』と認識することはあまりない。協調的組織のメンバーは,一対一で対面することがない場合もあるし,地理的にばらばらに散らばっていることもある。基本的にはコミュニケーション・テクノロジーで結ばれている。したがってこの協調的組織では,きわめて緩やかに構造が作られ,一時的で,流動的で,伝統的なティームによってではなく電子的手段によって機能している」(Gibson & Dibble2008,pp.222-223)。

ここで考慮すべきふたつの典型的な状況は,(1)各メンバーが異なった国々から来ているタスクフォース,(2)外科の手術ティームのように,各メンバーが異なった職業文化から来ており,そのティーム内では階層の差が生ずるようなティームのふたつである。この種のグループに備わるユニークな側面は,われわれは国別と地位別の差異の両方に対応するという点だ。文化のマネジメントと学習するリーダーの視点からすると,そのようなグループをどのように形成し,どのように効果性を高めるか,という問いが生まれてくる。

上記のいずれのケースでも,そのグループは特別な経験を経過することが求められる。すなわち各メンバーがほかのメンバーに伴う,文化の基本的な特徴を見いだすように導き,地位のレベルを越えたオープンなコミュニケーションを抑圧している服従や振る舞いの悪しき習慣を克服することを可能にし,さらに理解と共感性をある程度向上させ,共通のグラウンドを見つけることを促すといった経験だ。とくにメンバーは,権威と親密に対応する規範や底を流れる前提認識を見つけださなければならない。何故ならこの分野に存在する共通グラウンドは効果的な仕事の関係を構築するために不可欠となるからだ。しかしこのタスクの達成はかなり難しい。というのはそれぞれの文化に伴う社会秩序には「顔」に関する規範が備わっており,その結果オープンにこの分野を語ることは困難であり,かつ危険を伴うものになっている。礼儀正しいことに対するルールや攻撃的に振る舞うことへの怖れが,メンバーが権威と親密についての深いところの感情を容易に外へ現わさない態度を間違いなく助長している。

ここでわれわれは,たったふたつの文化が関係し,また公式的な相互教育がうまく機能するかも知れない合併やジョイントベンチャーをいかにマネジするかについて議論しているわけではない。むしろわれわれは,アラブ人,イスラエル人,日本人,ナイジェリア人,米国人を集めてうまく機能するグループを作ることができるか否かを検討しているのである(一応全員が英語を理解できることを前提としているが)。ここでグループに対して,ホフステッドが提唱した次元において,各国がどの位置を占めているかを説明したところで,メンバーに対する理解も共感性もほとんど向上しない。あるいは,外科医,麻酔医,幾人かの看護師,技師が新しい外科手術手法を試行するときに,どのように成功を収めるティームを築き得るかを考えてみよう(Edmondson,Bohmer & Pisano,2001)。さらにこのメディカルティームにさまざまな国から,それぞれの国でトレーニングを受けてきた3人のメンバーが加わった状況を考えてみて欲しい。彼らはどのように共通のグラウンドを見つけることができるのか? そのようなグループに,医師の文化,看護師の文化について講義を提供したところで,彼らが建設的に協力していく必要があるときに,表面をなでた程度の効果しか生みだせないだろう。どのような教育や経験がそのようなグループに,効果的な仕事の関係,信頼,さらにタスクに適合したオープンなコミュニケーションを築くことを可能にするのだろうか? 今後解決すべき難しい課題である。

社会秩序に伴う,礼儀正しさ,機転,顔をつぶさないことに対する規範は,社会の存続をたしかなものにするために設計された,文化の不可欠の部分であることを理解することが大切だ。それぞれのマクロカルチャーで社会秩序が築かれているけれども,実際の規範は文化ごとに異なっている。たとえば米国では,相手に対面して批判することが許されているけれども,日本ではこれは許されない。一部の国々では親類を雇うことが唯一信頼できる従業員を雇い入れる方法であるのに対し,ほかの国々ではこれをネポティズム(縁故採用)と呼び,禁止されている。また一部の国々では握手によって信頼を勝ち取るのに対し,ほかの文化では贈賄,またはわいろによってのみ信頼を勝ち取ることが一般的だ(この「わいろ(bribe)」という言葉もその文化から強い影響を受けているが)。職業ごとの枠を越えた差異はそれほど極端なものではないけれども,もしティームが階層組織の段階や職業の枠を越えて組織され そこで効果的に仕事を進める場合には,この差異が重要になってくるのだ。

文化についての学習能力
この種類の多元的文化の課題を解決するための方法は,そこに含まれる文化のそれぞれの規範や前提認識について各メンバーを教育する方法だ。しかし私が先に指摘したように,そこに含まれる文化の数が多いことからその実施が厄介なものになる。また学習者が教えられたことをどう活用してよいのかがわからないほど抽象的レベルに終わることも多い。

第2の方法は,文化の能力と学習スキルにフォーカスする方法であり,最近では文化についての学習能力(cultural intelligence)と呼ばれはじめている(Thomas & Inkson,2003;Earley & Ang,2003;Peterson,2004;Plum,2008;Ang & Van Dyne,2008)。世界にはあまりに数多くのマクロカルチャーが存在するので,その内容をひとつひとつ学ぶことは実現不可能のように見える。そのかわりに,具体的な状況において,その文化について学ぶ必要がある知識を素早く吸収する学習スキルを身につける方法が考えられる。多元的文化環境に伴う基本的な問題は,それぞれのマクロカルチャーのメンバーが「ほかの文化」に対して自説や偏った意見を抱きがちだという点であり,さらに「ほかの文化」に関して一定のレベルの理解を示しながら,自分たちの文化がより「適切な」文化だという前提にもとづいて行動しがちだ。したがって,多元的文化組織,プロジェクト,またはティームにおいて協調性を築くためには,前章で検討した単一のマクロカルチャーで文化変革をマネジし,推進するケースに較べて,数段大きな文化上のチャレンジが課せられる。

文化についての学習能力の概念は,ほかの文化からやってきた人々を理解し,共感を感じ,さらに一緒に働く能力を身につけるためには次の4つの能力が要求されるという前提認識にもとづいて作られている。(1)対象となるほかの文化の基本的な特性の一部についての実践的な知識,(2)文化に対する感受性,または文化に対する配慮,(3)ほかの文化を学ぶことに対するモティベーション(意欲),(4)ものごとを遂行するための新しい方法を学ぶ行動上のスキルと柔軟性,の4つである。したがって多元的文化ティームを効果的に運用するためには,多元的文化学習を促すために一定の個人特性が現わされる必要がある,ということが示唆されている(Earley & Ang,2003;Thomas & Inkson,2003)。

アングとフアン・ダインは,その著書のHandbook of Cultural Intelligence(Ang & Van Dyne,2008)において,文化の学習能力のスケール(尺度)の開発について記述し,さらにこの尺度において高得点を収めたメンバーをたくさん抱えたティームのほうが低い得点を収めたティームよりもすぐれた業績を上げたと説明している。つまり文化に対する感受性と学習能力において個人ごとにあきらかな差異が発見されたのだ。また何が人々を文化的により有能にするかについて数多くの心理学の文献が発表されているけれども,この能力を備えた人材を採用する点に関しては,今まで次のふたつの問題に関しては取り組んでこなかった。第1に数多くの仕事の状況で,われわれは誰を任命するかについてあまり選択が許されなかった。何故ならその仕事をこなすことに要求される技術的スキルを備えた人材に限りがあったからだ。第2に,もしリーダーが部下の文化の能力を高めようと決断したとしても,彼らにどのような経験を付与したらよいのか?リーダーはまたこの種の能力を刺激する学習プロセスをデザインする際に何をすべきなのか? 参加者の文化の学習能力の当初の状態を考慮しなくてよいのか? 本章のゴールはこのようなプロセスを説明しはじめることに求められる。

文化はわれわれのそれぞれにあまりに深く定着しているために,このプロセスはそれぞれの文化に属するそれぞれの個人が,彼らが行うことは正しく,ものごとを遂行するうえで適切な方法だという前提認識からはじまる「基本的な現実」に直面せざるを得ない。われわれ各人は,おのおのが社会化し,それ故,その前提認識を当然のものと認める社会的秩序からやってきている。ほかの文化を理性的に理解することは,ものごとを遂行するほかの方法が存在することを認める第一歩に当たるかも知れないけれども,そのことによって共感を築くことはできない。またわれわれが協調して仕事を進めるための共通のグラウンドを見つけだすことを可能にしてくれるわけでもない。むしろわれわれが,「ほかのプロセスや立場は機能せず,間違っている」ということに気づくレベルに終わってしまうかも知れない。

ここで十分なレベルの共感を築き,さらにグループが共通のグラウンドをお互いに探求し合うことに取り組むことにモティベートされた関係を築くためには,社会的秩序のルールの一部を一時的に停止することが求められる。われわれは,自らの前提認識を内省することができ,さらにほかの前提認識と自分たちの前提認識と同程度に妥当であるという可能性を考慮できるポイントまで到達しなければならない。このプロセスは,ほかの前提認識の妥当性に納得する前に,まず自分自身に対して疑問を投げることからはじまる。これをどのように実現するのか? このような内省を導くためには,どのような社会プロセスが生みだされなければならないのか?

一時的に作られる文化の島の概念
文化の島とは,お互いのメンツ(顔)を守るというルールを一時的に棚上げにし,その結果われわれが自分のイメージを探求し,さらに権威や親密を巡るわれわれの価値や暗黙の前提認識を探りだすことを可能にする状況を意味する。この言葉が組織の分野で最初に使われたのはメイン州のベーセル(Bethel)においてであり,そこでは人間関係トレーニングのグループがリーダーシップとグループ力学を学習する目的で数週間にわたり集まった(Bradford,Gibb & Benne,1964;Schein & Bennis,1965)。このトレーニングのプロセスの要点については第12章で詳しく紹介したが,この種の学習は「経験にもとづく」ものでなければならないという理論にもとづいて作られていた。つまりグループメンバーは自らの努力でグループを作るという行動から学習を進める,という理論であった。このグループは意図的にお互いが見ず知らずの状態で集まり,その結果各人はグループ内のほかの人たちに対して自らのアイデンティティーを守ることは求められなかったのだ。同時にこのTグループ(トレーニンググループ)の「トレーナー」,またはスタッフは,意図的に,グループのスケジュール,進め方,構造については全く助言を提供しなかった。その結果メンバーたちは,自分たち自身の社会的秩序,規範,協力して仕事を進める方法を自分たちで生みだすことが求められた。この種の学習から生ずる重要な影響は,参加者が自らの前提認識に直面し,それらがほかの人たちの前提認識とどのように違うのかを自ら観察するという点に求められた。

第12章で紹介したように,権威,親愛,アイデンティティーの問題は,個人の試行,さらにほかの人たちに及ぼす影響の観察を通じて,ただちに取り組むことが求められた。メンバーは,ものごとを遂行するための唯一かつベストの方法は存在せず,ベストの方法は自ら見つけだし,折り合いをつけ,認定すべきであり,最終的には各Tグループのマイクロカルチャーを形成するための強力なグループの規範に到達すべきであることを鋭敏に感じ取った。さらにメンバーは協力してタスクに取り組むためにはお互いを好み合っている必要はないけれども,ほかの人たちを受けいれ,一緒に仕事を進めることに十分な共感性は備えていなければならないことを理解した。このマイクロカルチャーはこの種のTグループでは通常1日か2日の間に形成され,各グループによって,ものごとを遂行するためのベストの方法,あるいは「われわれこそベストのグループだ」というように受け留められるところまで到達した。

このTグループの実体験にもとづく学習を可能にした条件は,学習はメンバーがお互い見ず知らずであったことから,彼らが自らの文化の前提認識を防衛するニーズを緩和することが許された状況で実現するというものであった。さらに彼らのタスクは仕事の遂行ではなく,「学習すること」と定義されていたこと,また自らの学習スキルを向上させるために十分な時間とスタッフというリソースが提供されていたことも,この学習を促した。また第17章で述べた変革モデルに関して言えば,これらは心理的に安全な状況で促進されることに貢献した。

私自身の意見としては,多元的文化間の協調(collaborations)が機能するためには,メンバーがまず一時的な文化の島の環境でお互いを学び合うことが求められるというものである。このようなグループを形成するリーダーやマネジャーは,そのメンバーが効果的に仕事を遂行できるように,メンバーたちに一時的な文化の島の経験を提供するスキルを開発することが求められる。では,リーダーはどのようにしてその種の状況を作りだすことができるのか?
表21-1に,この学習プロセスを成功に導くために必要となる基本的な条件を提示した。
(つづく)平林

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