基礎編・理論編

ポイントは意図的に一般的,かつ抽象的に書かれている | テクノファ

投稿日:2022年8月6日 更新日:

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「組織文化とリーダーシップ」を紹介します。

本記事はエトガー・H・シャインの著作「組織文化とリーダーシップ」を横山先生が翻訳されたものです。横山先生の思想の系譜をたどるときには、エドガー・シャインにかならず突き当たるので今回から横山先生の翻訳を紹介しながら彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:2010年シャイン著>
この表に表示したいくつかのポイントは意図的に一般的,かつ抽象的に書かれている。というのは文化の島を最初に作るときの目的によってその実施の方法が違ってくるからである。しかしその基本的なロジックは,そのグループによって抱かれているマクロカルチャーの深い部分の前提認識を本格的に理解するためには,われわれはこれらの前提認識を個人レベルに落とし込み,それらを内省と理解の対象にすることを可能にするマイクロカルチャーを生みだすことが求められている,というロジックであった。

表21-1 多元的文化のワークグループの一時的な文化の島に対する条件
・参加者は新しい学習にモティベートし,コミットしていなければならない
・参加者は日常の職場から物理的に離れていなければならない
・権限を備えたコーディネーターは,平等主義の原則を遵守し,学習は相互の責任であることを強調しなければならない
・権限を備えたコーディネーターは,ファシリテーター兼プロセスマネジャーでなければならない
・ファシリテーターは,社会秩序の一部のルールを停止することによって,参加者が心理的な安心感を感じられるように,グループのゴールと作業のためのルールを定めなければならない
・ファシリテーターは,権威と親愛に関して主要な学習のためのフォーカスを決めなければならない
・討議のプロセスでは,具体的な経験と感情について語り合うことを含めなければならない

私自身米国人として,米国文化において,かなり「低いパワーの距離」をわれわれは保っていると理解している。さらに私のティームメンバーのメキシコ人は,「より高いパワーの距離」の文化から来ていることを理解している。しかしわれわれがこれらの自分自身の行動や感情に対する一般化した考え方を具体化することができるまで,上記の理論は私にとって全く無意味であると言わざるをえないのだ。私自身で,権威を保持する人たちと私がどのように関係を築いているかを見つけださなければならない。また私のティームメイトのメキシコ人が彼と権威を持つ人との関係をどのように感じているかについて私のほうが共感を込めて耳を傾けることが求められる。もし3人以上のメンバーがいるときには,お互い同士の理解と共感を築かなければならない。

このような相互理解を促す文化の島は,われわれはティームを山や海の訓練施設に集合させ,そこでシミュレーション,ロールプレイ,あるいは事後の,または行動のあとのレビュー(ここでは低い地位にある参加者にオープンなコミュニケーションを促し,階層差をできるだけ減らした形で,運行と経験をレビューする)を実施する形で作り出される(Conger,1992;Darling & Parry,2001;Mirvis, Ayas & Roth,2003)。これらの状況とプログラムに共通して含まれる要件は,参加者を文化の島に物理的に参加させるけれども,文化の島のなかで実施することは,その演習も目的に従って大幅に違ってくる。多元的文化環境に対する洞察と理解を得るために文化の島で実施される活動にフォーカスするためには,その参加者たちは,対話(dialogue)の形を取った「会話」の機会を生みださなければならないのだ。

文化の島としての的を絞った対話
対話(dialogue)は,参加者が彼らの思考プロセスの背後に存在する前提認識を検討することを開始するのに十分にリラックスした形を実現する会話の一形態である(Isaacs,1999;Schein,1993a)。急速に問題を解決しようとするのではなく,対話プロセスでは,参加者が自分の口から何が語られるかについて内省し,さらに他人の口から彼らが何を聴いたかについて検討する時間を十分取れるように会話を敢えてスローダウンするように誘導する。対話的な会話をはじめる鍵は,参加者が討論に勝つというニーズを抑制し,自らが発言したことを明確にし,また双方が同意できないときにはお互いにチャレンジできるほどに,参加者に安心感をもたらす環境を設定することに求められる。対話においては,直前にほかの誰が発言したことに同意できないと感じたときに,意見を一時抑制する。自分の不同意を声に出して即座に発言することは控え,むしろ自分自身に何故自分が不同意なのかを静かに問いかけ,自分がその不同意の理由を説明できるかも知れない,どのような前提認識を作りはじめているのかを吟味する時間を取る。

このような形の対話は,格式張らない「キャンプファイアを囲んで語り合う」形を取り,対決的な会話,議論,討論というよりは,内省的な会話に十分な時間を割き,これを奨励するものとなる。「キャンプファイアに」語り掛けるという形では目を合わすことがないことからこの対話の形として重要な意味を持っている。つまり直接的な対応 不同意,反対,そのほかフェイストゥフェイスの会話においては生じやすい,そのほかの反応を抑制しやすいからである。もちろんここでの目的はただ静かで,内省的な会話を進めるだけに留まらない。むしろ参加者たちが彼らの深いレベルの思考や暗黙の前提認識がどのように違っているのかを理解することを可能にすることが目的である。このような内省がより効果的な傾聴を促す。つまりもし私が自分自身の前提認識やフィルターを明確にしておけば,ほかの人たちの言葉に含まれる微妙な意味を聞き間違えたり,間違って理解することが少なくなるからだ。つまり自分自身に対する洞察を持たずに,ほかの文化を理解することなどありえないのだ。

このことがうまく行くためには,対話に参加するすべてのグループに,不同意,挑戦,明確化,詳細説明に対する願望を抑制することに協力しなければならない。この会話のプロセスは,他人の発言をさえぎらないこと,お互いに会話するよりは象徴的なキャンプファイアに語り掛けること,目を合わすことを減らすこと,さらに重要なこととして,「チェックイン」からスタートすることといった一定のルールをメンバーに課す。ミーティングの開始時のチェックインとは,各メンバーが順にグループ全体に対して,あたかもキャンプファイアに語りかけるように,自分の現在の精神状態,やる気,感情について語ることを意味する。すべてのメンバーがこのチェックインを済ませてはじめて,さらに流動的な会話を開始することができる。このチェックインを通じて,誰もがそのグループに対して最初の貢献をし,したがってグループの形成を支援することが可能になる。

自分自身の文化の発見の例は,キャンプファイアに向かって語り掛ける指示と目を合わせることを避ける方法から直接的に生じてくることが多い。一部の人たちにとっては上記の行動はきわめて易しいのに対して,ほかの人たちにとってはきわめて困難な要求となる。たとえば米国の人材マネジメント専門職にとっては,米国の文化ではお互い顔を見合わせながら話すことが「すぐれたコミュニケーション」であると信じられている。人材マネジメント分野の専門職の規範として,目を合わせるということは,彼が本当に熱心に聴いていることをほかの人々に理解させる点で必要であると考えられているのだ。

象徴としてのキャンプファイアに向けて話すという行為もいくつかの重要な機能を果たす。第1にこの行為はグループメンバーがさらに内省的になることを促す。何故なら,ほかの人たちがどのように見たり,反応するかについて心配する必要がなくなるからだ。第2に,象徴的に1,2人のメンバーに対してではなく,各コメントをグループの中心に向けて発言することによって,ひとつのまとまったグループだという感覚を保全することができる(たとえそのコメントが1,2人のメンバーによって触発された場合においてでもだ)。たとえば私がメンバーAによって発言されたことに対して,具体的な疑問が生じた場合でも,私が直接Aに対して「それによってあなたは何を意味しているのか」と尋ねる方法と,あたかもキャンプファイアに語りかけるように,「いまAさんが発言したことに触発されて,私は次のことを尋ねたい」と発言する方法との間には,結果として大きな差が生まれる。後者のような言い方はグループ全体に課題を提起することとなる。第3に,キャンプファイア方式は,2人のメンバーが議論をはじめ,残りのメンバーが受け身の聴衆になってしまう状況を防止してくれる。ここでのゴールは,異なった文化の社会的秩序からもたらされる会話に対するすでに設定されているルールのできるだけ多くの部分を制限し,その代わりにすべてのメンバーが自由に会話し,自分の意見を言葉にして発言できる,新しい場を作りだすことである。

多元的文化の探求のための文化の島としての対話
対話グループで生みだされた規範は,文化間の顕著な差異の探求へメンバーを導く。対話プロセスは個人レベルにおけるマクロカルチャーの差異を明確にすることを促すので,参加者はいかにマクロカルチャーが全体的レベルで異なっているかを学ぶだけでなく,これらの差異をクラスのなかで実際に経験することが可能となる。この学習は,権威と親密という最重要課題にフォーカスを当てたチェックインの方法を用いることによって達成できる。このプロセスはケースにも紹介したけれども,当該のリーダーが局面する実際の状況によって変わってくる。

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