キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを行う際に必要な知識とそれを補う資料について、メンタルヘルス、自殺・過労死、ハラスメント等に関する知識、資料について説明していますが、今回は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」について前回の続きから説明します。
7. メンタルヘルスに関する個人情報の保護への配慮
メンタルヘルスケアを進めるにあたっては、健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮することが極めて重要です。
事業者は、健康情報を含む労働者の個人情報やストレスチェック制度における健康情報の取扱いについて、個人情報の保護に関する法律及び関連する指針等を遵守し、労働者の健康情報の適切な取扱いを図ることが重要です。 (指針:7)
8. 心の健康に関する情報を理由とした不利益な取扱いの防止
事業者が、メンタルヘルスケア等を通じて把握した労働者の心の健康に関する情報は、その労働者の健康確保に必要な範囲で利用されるべきものです。その範囲を超えて、事業者がその労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはなりません。労働者の心の健康に関する情報を理由として行う以下の取扱いについては、一般的に合理的なものとはいえず、事業者はこれらを行ってはなりません。
❶ 解雇すること。
❷ 期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと。
❸ 退職勧奨を行うこと。
❹ 不当な動機・目的をもってなされたと判断されるような配置転換又は職位(役職)の変更を命じること。
❺ その他の労働契約法等の労働関係法令に違反する措置を講じること。
また、派遣労働者の変更など、派遣先事業者による派遣労働者に対する不利益な取扱いについても一般的に合理的なものといえないものは、派遣先事業者は行ってはなりません。 (指針 8)
9. 小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取組みの留意事項
小規模事業場においては、事業者がメンタルヘルスケア実施の表明をし、セルフケア、ラインによるケアを中心として、実施可能なところから着実に取組みを進めることが望ましい。
また、必要な事業場内産業保健スタッフが確保できない場合、衛生推進者または安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任するとともに、地域産業保健センター等の事業場外資源の提供する支援等を積極的に活用することが有効です。 (指針:9)
■労働災害防止計画
厚生労働省は、平成18年に労働安全衛生法に基づく指針として事業者がメンタルヘルスケアに取り組む際の原則的な実施方法を示した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定し、本指針に基づく取組が実施されるよう、事業者に対し、労働基準監督署を通じた指導やメンタルヘルス対策支援センターによる支援を実施していること、また平成21年10月には、厚生労働省のウェブサイトに働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」を設置し、事業者、産業保健スタッフ、労働者やその家族等に対して「メンタルヘルス対策の基礎知識」や「悩みを乗り越えた方の体験談」など、メンタルヘルスに関する様々な情報を提供していることなどをこれまで説明してきました。
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」、メンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」などとは別に、労働安全衛生法第6条に基づき、国が定めることとされている労働災害防止計画にもメンタルヘルス対策などが盛り込まれています。
■第11次労働災害防止計画(平成20年度~平成24年度)
厚生労働省のサイト
https://kokoro.mhlw.go.jp/guideline/guideline-11outline/ よりメンタルヘルス、過重労働に係るものを引用説明します。
この計画におけるメンタルヘルス対策(心の健康確保対策)と過重労働対策(過労死等予防対策)に関連する主な記述は次のとおりです。
計画の目標
(1) 目標
労働災害の防止並びに労働者の健康の確保及び快適職場の形成促進を図り、安全衛生水準の向上を期すために、次の目標を設定する。国、事業者、労働者をはじめとする関係者は、それぞれの立場で、目標達成に向けて積極的に取り組むこととする。
なお、平成24 年までの間、これらの目標に向けた逐年での減少等を図る。
ア 死亡者数について、平成24 年において、平成19 年と比して20%以上減少させること。
イ 死傷者数について、平成24 年において、平成19 年と比して15%以上減少させること。
ウ 労働者の健康確保対策を推進し、定期健康診断における有所見率の増加傾向に歯止めをかけ、減少に転じさせること。
(2) 重点対策及びその目標
キ 労働者に対する健康診断について、労働者の自主的な取組を促進するとともに、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針→(平成8 年健康診断結果措置指針公示第1号)」に基づく措置を徹底し、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80 号)に基づく医療保険者が行う措置とも連携することにより、健康診断結果等に基づく健康管理措置の実施率の着実な向上を図ること。
ク メンタルヘルスについて、過重労働による健康障害防止対策を講じた上で、労働者一人ひとりの気づきを促すための教育、研修等の実施、事業場内外の相談体制の整備、職場復帰対策等を推進することにより、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業場の割合を50%以上とすること。
計画における労働災害防止対策
(7) メンタルヘルス対策及び過重労働による健康障害防止対策
ア メンタルヘルス対策
職場におけるメンタルヘルス対策について、労働者のメンタルヘルス不調に対する早期の気づき等を促すための教育、研修等の実施を促進するとともに、相談体制の整備、事業場外資源との連携の促進、職場復帰のための対策の推進を図る。
メンタルヘルス対策及び職場復帰のための対策に取り組み、成果をあげている事業場の事例を収集し、分析を行うことにより、他の事業場においても取組が可能な具体的かつ効果的な手法の検討を行い、その普及を図る。
精神障害に関する労災認定事案等について、再発防止の検討を中心とした調査を実施し、これらの調査結果を活用した再発防止対策の徹底を図る。
さらに、自殺対策基本法→(平成18 年法律第85 号)に基づく取組が政府一体となって推進されているところであるが、職場におけるメンタルヘルス対策は労働者の自殺の予防にも資するという観点から、メンタルヘルス対策を通じた自殺予防の一層の推進を図る。
(ア) 相談体制の整備
職場の相談体制を強化するため、すべての事業場において事業場内の管理監督者や産業保健スタッフに対し、労働者のメンタルヘルス不調についての気づき、職場環境等の把握と改善及び相談対応、個人情報の保護、うつ病等の早期発見・早期治療に係る教育、研修を促進することにより、事業場内相談体制の整備を図る。また、職場においてメンタルヘルスの不調を感じた労働者がいつでも相談できるようにするため、メンタルヘルス相談担当者の配置や事業場外資源の有効な活用についての啓発指導を行う。
(イ) 事業場外資源との連携の促進
事業場外資源であるメンタルヘルス相談の専門機関について、一定の要件を満たしたものについて登録・公表することにより、メンタルヘルスに係る優良な事業場外資源の確保を図り、その利用を促進する。
長時間労働者に対する面接指導、メンタルヘルスの相談、周囲の気づきなどを端緒としてメンタルヘルス不調者が発見された場合において、迅速に医療機関や専門相談機関に取り継がれるような仕組みを構築し、積極的な利用の促進を図る。
(ウ) 職場復帰のための対策の推進
厚生労働省が平成16 年に作成した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を充実し、円滑な職場復帰が図られるよう対策を推進する。
職場復帰については産業医と精神科医の連携が不可欠であるため、産業医と精神科医のネットワークの強化を図る。
(つづく)A.K