キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。横山先生の翻訳を紹介しながら、彼の思想の系譜を探索したいと思います。
<ここより翻訳:サニー・s・ハンセン著>
監訳者まえがき
100時間を超える監訳討議を共にした仲間から要請があった。「永く日本におけるキャリア開発にコミットし続けた横山の“思い”を記す」ことが本書の「監訳者まえがき」になる、と。この要請を受けさせていただくことにした。
事実、少数の同志と限られた支援者に勇気づけられながら、日本のキャリア開発のありようとあるべき姿についての発信と実践を永く続けてきたが、その発端は、個人の主体性軽視の日本型人事・人材管理に対する人事マンとしての造反、挑戦にあった。半世紀前からのことである。多くの試行錯誤と教訓のなかから理論づくりにも挑戦した。今なお燃え続ける“思い”は、「自由で、自主的で、多様な、個人の生き生きした姿づくり」と「そのような個人との共生を可能とする組織、社会環境づくり」の支援へのコミットメントである。
過去半世紀の半ばはその実現を阻む既成概念との闘いに明け暮れた観があるが、その間に活動の焦点は「キャリア開発の啓発・普及・浸透」に定まった。学会、専門・教育機関をはじめ、行政を含む組織、社会の一部にも、注目すべき変化がこのころから見られるようになった。キャリア開発の内的(内在的)把握を含め、その正当な理解の浸透は現在なお不十分と言わざるを得ないが、このタイミングでサニー・ハンセン先生のIntegrative Life Planning(ILP)の邦訳が可能になったことは特筆すべき出来事になるに相違ない。
ILP原著の出版(US)は16年を遡るにもかかわらず、その内容は日本社会がいま、まさに必要としているものである。不確実で激しくグローバル化しつつある重要課題に関する指摘は「われわれはいかに生き、いかに働くか」という問いに答える観点、指針、戦略を示唆し、多様性の前提としての多元性、包含性と、スビリチェアリティを含める。特にキャリア開発、キャリア・カウンセリングに携わる者にとっては、現場の問題、課題に対する対応への示唆・活用に富むことも本書の貴重な側面であろう。本書が、未だ道半ばにある日本のキャリア開発の支援活動やキャリア教育の発展と充実の支えとなることを心から願う。
私的には、先にエドガー・シャイン先生によって風穴を開けていただいた内的(内在的)キャリア開発の視点に大きなインパクトを受けたこと、そして、今ハンセン先生の壮大・深遠で、熱情的なILP実践哲学の監訳に参加できたことによる充足感に痺れている次第である。
全巻を通して困難な訳に大変な労を執られた乙須敏紀氏、価値ある学術書として立派に作り上げてくださった編集者の小川和加子氏、そして当初の予定よりも発刊の大幅な遅延をもたらしたにもかかわらず、ここまでご辛抱いただき、しかも絶え間ない励ましを送っていただいた福村出版の常務取締役宮下基幸氏にお詫びとともに感謝の意を表したい。監訳者一同(平木典子・今野能志・平和俊・横山哲夫)の熱意を読者は汲んで下さることを信ずる。なお力の及ばぬ点についてはご叱正とご寛容をお願いしたい。
2013年1月
横山哲夫
日本キャリア開発研究センター(JICD)顧問
日本キャリア・カウンセリング研究会(JCC)顧問
(つづく)平林良人