基礎編・理論編

キャリヤコンサルタント養成講座 197 | テクノファ

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私は横山先生と2004年に初めてお目にかかりました。当時テクノファはISOマネジメントシステムの研修機関として、JAB(一般公益法人日本適合性認定機関)の認定を日本で最初に受けた第三者審査員養成講座を開設しておりました。当時、ISOマネジメントシステム規格には心が入っていないと感じていた私は、その時に横山先生にキャリアコンサルタント養成講座立ち上げのご指導をお願いしました。

横山哲夫先生は、個人が人生を通じての仕事にはお金を伴うJOBばかりでなく、組織に属していようがいまいが、自己実現のためのWORKがあるはずであるとキャリアコンサルタント養成講座の中で強調されていました。そして数多くの著書を世の中に送り出しています。

今回はその中からキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。

本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。横山先生の翻訳を紹介しながら、彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:サニー・s・ハンセン著>
序文
「労働者たちは安心して働ける新しい職場を求めている」
「企業の殺し屋たち:ウォールストリートはレイオフが好きだ。
しかし一般大衆はひどく怯えている。何か良い方法はないか?」
「事業が見直されるとき、何百万もの人間が路頭に迷う」
「履歴書を何千通送っても元管理職はまだ仕事を見つけられない」
「厳しい仕事、容赦のない賃下げ:ブルーカラーを叩きのめすレイオフ」

本書の原稿を書き終える1週間前の新聞や雑誌の紙面に踊るこれらの衝撃的な見出しは、本書が取り扱うテーマの1つ、アメリカの労働環境の劇的変化を鮮明に描き出している。本書を執筆している間、この問題が新聞の見出しを占領していた。私は、キャリアの専門家として、言い換えると、人々がただ生き延びるだけでなく、21世紀の生活と仕事に向けて準備できるように支援する者の視点から、本書を書いている。私は、今われわれには、キャリア・プランニングのための新しい哲学、仕事や家族そして他の人生の役割についての新しい態度、他者と関わる新しい方法、そしてコミュニティにおける仕事の目的についての新しい感覚が必要だと強く主張したい。

ここ数年、キャリア・ディベロプメントの専門家は、キャリア・プランニングについての従来の考え方が時代遅れとなり、不十分であることを認識してきた。多くの人々が、既存のキャリアと職業活動に関する理論では、今現実に人々の生活で起こっているさまざまな事態に対処することができないと批判している。教育、仕事、家族、ビジネス、産業、テクノロジー、人間の成長、そして国境を巡る国際的紛争等のあらゆる分野で起こっている劇的な変化は、世界をますます不確実性の高いものにしている。人々を職業にマッチングするという古いパラダイムは、キャリアとライフ・プランニングのための新しいパラダイムに道を譲りつつある。しかしわれわれは、新しいアプローチがどのような形を取るべきかをまだ正確には知らない。

■本書の必要性
本書は、21世紀の人生および仕事に向けて準備しているクライエントを支援するキャリアの専門家に、新しい概念的枠組みを提供することを目的とした10年間に及ぶ研究の成果である。本書を執筆するために行った準備は膨大で、困難を極めるものだった。本書は、さまざまな状況に置かれている学生、クライエント、被雇用者を支援しているキャリアの専門家が、新しい考え方、新しい世界観を発展させ、不断に変化する世界のなかでどうすれば人々の人生選択と意思決定を最善の形で支援することができるかについて、新しい方法で考えるようになることを目的として書かれた。

本書は、機械的、断片的、還元主義的世界観から離れ、人々とコミュニティの、つながりのある、全体的で、競合された新しい世界観へと向かう最近の潮流と合致している。

この新しい理論体系は、統合的ライフ・プランニング(Integrative Life Planning:ILP)という。ILPは、キャリア・プランニングのための従来の「特性因子理論」―個人の特性を研究し、職務を研究し、それからその2つをマッチングさせる―から離れ、1人ひとりの人生コースそのものを設計する全体的アプローチへと向かう動きを象徴している。ILPは、これまでのキャリア・ディベロプメント理論、とりわけ故ドナルド・スーパー(Donald Super)の理論から多くを継承している。スーパーはキャリアを、個人にとって満足でき、社会にとっても利益となる自己概念の発達と実現として、そして人が生涯を通じて持つ役割の連続として、他の誰よりも幅広く定義した。そこでは、職業はそのほんの1つの役割でしかない。

この広義のキャリアの概念は行きわたってきたものの、依然としてキャリアの古い意味が支配的である。多くの人々がキャリアという概念を、単純に職務や職業と同一視している。ミネソタ大学でキャリア・ディベロプメントに関する講義を25年ほど行ってきた後、私はキャリア・ディベロプメントについての新しい用語、新しい概念を確立する必要があると確信した。1987年にフロリダ州オーランドで、全米キャリア・ディベロプメント学会の第1回全国大会が開催されたが、私はそこで、統合的ライフ・プランニングの概念を初めて体系的に提示した。それは、キャリアの専門家の間にかなり大きな反響を呼び起こした。その後、このモデルはワークショップや講義のなかで、さらに4年前から冊子の形で配布するなかで、何百人もの実践家によって検証され、質問を受け、討論するなかで、私はこの理論に変更を加え、さらに精微なものにしていった。

キャリア・ディベロプメントと組織開発の分野では、多くの専門家がキャリアを新しい観点から見直し始めている。1992年のオハイオの全国大会には、理論家と実践家の両方が結集し、職業発達とキャリア・ディベロプメントの2つの発達理論の統合を模索した。1994年の第2回会議では、キャリア・カウンセリング実践、すなわちキャリア介入理論の開発が始まった。その会議の報告でMark Savickasは、Frank Parsons の論理的合理的モデルは、20世紀初頭の職業ガイダンス(vocational guidance )のための一解決策となることができ、またドナルド・スーパーのキャリア・ディベロプメント理論は、20世紀後半の一解決策となることができたが、20世紀が終わり新しい世紀に入ろうとしている今、人々の生活の文脈とキャリア・カウンセリング実践に適切な新たな解決策が求められていると提起した。

統合的ライフ・プランニングモデルは、そのような解決策の一部として包括的枠組みを提供する。それは変化している家族、仕事、学習、余暇という文脈のなかで、また世界が日々刻々と1つのグローバル・コミュニティになりつつあるという文脈のなかで、人々が人生選択と意思決定を行うのを支援する。初期のモデルは、ますます小さくなりつつある労働市場いう1つのパイから、個人が1つの職業を見出すのを支援することに重点を置いたものであったが、次に現れたモデルは、人生の役割の探求を奨励するものであった。しかし、実践に移すことは非常に難しいということが判明した。

1990年代に入ると、未来を計画するには熟考しなければならないあらゆる種類の新しい問題が出現していることに気づかされた。さまざまな世界的および地域的問題が、われわれの関心を呼んでいる。そしてわれわれの周りには、仕事の性質と労働形態の変化、女性と男性のキャリア・ディベロプメント、仕事と家族のつながり、ますます多様化しつつある職場における人間関係の有効性、スピリチェアリティ、人生の意味と目的、そして個人の転換(期)と組織の変化などに関わる問題が噴出している。

組織的キャリア・ディベロプメントの専門家と経営コンサルタントもまた、職場で実際に起こっているさまざまな劇的な変化についての書物を著し、未来の組織におけるまったく異なったパターンのキャリア・ディベロプメントを示唆している。Douglas T.(Tim)Hallが、「変幻自在のキャリア(protean career)」について初めて記述したのは、1976年のことであった。1996年の現在、彼が予言した内容は現実となりつつある。「変幻自在の(プロテアン)キャリア―その名前は、ギリシャ神話のプロテウスに由来する―は、多くの形を取ることができる。それは、素早く変化しながら適応し、人間関係における成長を経験し、常に自らの意思で学び続ける学習者としての個人を意味する。William Bridges(1993,1994a,1994b)も同様に、21世紀におけるキャリア・プランニングは、「脱職務化した(dejobbed)」社会における変化に適応でき、自らを起業家、すなわち「ベンダー(vendors)」として売り込むことができる人間となることを要求するであろうと予言した。Jeremy Rifkin(1995)はさらに進んで、「仕事の終わり(the end of work)」を予言した。個人のキャリア・ディベロプメントと組織的キャリア開発という2つの分野が、本書で述べているような形で共に変化しつつある―そしてそこでは、変化している社会における、個人のキャリア・ディベロプメントと組織のキャリア開発の相互作用が重要となる。

私は、ILPは、人々の人生の文脈と、そこにおける選択の両方を検証するための学際的枠組みを提供することによって、個人と組織の間にある溝を埋めることができると信じている。ILP概念を構築していく努力は、心理学、キャリア・ディベロプメント、家族社会学、多文化主義、組織開発、成人の発達、経済学、社会学、未来学、さらには神学に至るまでのさまざまな学問領域の文献に及んだ。この意味で本書は、非伝統的である。それはカウンセリングとキャリア・ディベロプメントという私自身の境界を越えて、他分野の思索の成果を取り込んだものになっている。私は主観的なものから客観的なもの、学問的なものから大衆的なもの、個人的なものから専門的なものまで、ありとあらゆる種類の文献に目を通した。ある意味で本書は、箱の外に出る試みを象徴している。本書は、変化する女性と男性のニー。ズを地域的およびグローバルな規模で見つめ直すのを助ける。本書はまた、キャリアをただ単に個人的な成果として捉えるのではなく、コミュニティ全体の幸福のためのものとして捉えることを強く主張する。
(つづく)平林

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