基礎編・理論編

比喩としてのキルト|テクノファ

投稿日:2022年9月2日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。横山先生の翻訳を紹介しながら、彼の思想の系譜を探索したいと思います。

<ここより翻訳:サニー・s・ハンセン著>

  • 比喩としてのキルト

統合的ライフ・プランニングでは、キルトとキルター(quilter)を比喩として使う。開拓時代、キルトは主に女性によって制作されたが、現在では、エイズで亡くなった人を偲ぶために作られるエイズ・キルトなどに見られるように、多種多様な人がキルトを創っている。キルトはしばしば芸術作品として作られ、そしてそれは人々の人生の一里塚を象徴する。キルトは、一片一片がそれ自体固有の物語りを有していると同時に、それらが組み合わされて1つの全体的な物語りを形作る。

ILPは、多くの理由からキルトと似ている。あるレベルで見れば、ILPキルトは、劇的な変化が1人ひとり、家族、コミュニティ、国家、そして地球全体に影響を及ぼしていくグローバルな世界または文脈を象徴する。もう1つのレベルでは、ILPキルトは、キャリアの世界、すなわち、キャリア・ディベロプメントとキャリア・プランニング、そしてそのなかで専門的知見と実践が変化していく様子を表している。それはまた、ILPモデル、すなわち、現代社会の重要な構成部分であるにもかかわらず、従来のキャリア・プランニングでは無視され見過ごされてきた6つの重要課題を象徴している。それらの重要課題は、統合的ライフ・プランニング・キルトの中核を形成し、そしてその基本的デザインを合わせ創る布片あるいは一片一片である。4番目のレベルでは、そのキルトは、私自身の人生の一片一片、ILPに直接関係する私の体験における一片一片を象徴する。というのは、それらが、私自身と、キャリアとライフ・プランニングに関する私の理論を形作り、同時に私自身がこれまで行ってきた選択、直面した困難、そしてそのなかで行った決断を表しているからである。

本書を著すことは、1つのリスクであったが、しかし私はこれまでの人生において多くのリスクを冒し、その大半が最終的には肯定的結果を生み出してきた。私は、ほとんど貯金を持たずに大学に入った(今日経済的困窮にある人々にとっては、それはもっと困難であろう)。イギリスに留学し、奨学金の受給を断念せざるを得なくなり、大学を終えるためにお金を借りなければならなかったが、ノルウェーで私自身のルーツを発見するという、人生を変える大きな体験をした。インド出身の友人と共に合衆国南部を旅行していたとき、人種差別主義の実態を目の当たりに体験し、目を開かされた。大学で働いていた頃、人種差別主義や女性差別主義などの種々の「主義」について、私はそれほど重要なこととして考えておらず、どこか遠くの、未開の地の問題としてしか認識していなかった(幸い今は違う)。

私はまた宗教の面でも、伝統的なものから、より民主主義的でリベラルな会衆派へと変わった。30歳代初めに、あるノルウェー人男性と結婚し、30歳代後半に一男一女を得た。さまざまな職業につき、多くの国で生活し、講義を行った。中学生のときから、社会正義と社会変革のために活動している。BORN FREEと呼ばれるプログラムを開発した。そして、専門学会やその他の組織のために働き、指導した。

これらは、ミネソタ南部の小さな町出身の若い女性にとっては、多大なリスクを意味した。しかし非伝統的な女性として、私は夢にも思わなかったような幸運に恵まれた。私のキルトはとても大きなもので、そのうちの数片はまだ完成されていない。キャリア・ディベロプメントに関するキルトの数片を縫い合わせる私の努力―専門家に向けて情報を発信し、変化に向けて動き出すように呼び掛ける新しい方法による―は、私のライフワークと価値観、そして専門領域、仕事と家族、コミュニティ、社会における建設的な変化への希望の統合を象徴している。

■謝辞
私はこの本を準備する数年間だけでなく、教授職というキャリアの初期の頃から、多くの人々に支えられてきた。私はここで、それらの人々すべてに感謝の意を表したい。

専門領域の多くの同僚、友人が私を導いてくれた。なかでもHenry Borowは、私が大学生のとき、私を秘書として雇ってくれ、私をヴォケーショナル・ガイダンスとキャリア・デイベロプメントの分野へと導いてくれた。また彼の妻のMarionとは、生涯を通じた友となることができた。

2人の、デュアル・キャリアという結婚生活は、私の初期の役割モデルとなった。

「カウンセリングと学生支援心理学プログラム(CSPP)」のコーディネーターであるTom Skovholt は、古くからの同僚、友人であり、カウンセリングとキャリア・ディベロプメント、ジェンダー役割、多文化主義に関する多くの問題で、私と同質の考えを持ち、私を支えてくれた。

これ以外にも、多くの同僚、キャリアの専門家が、私に情報を伝えてくれ、影響を与え、その仕事を本書のなかに生かすことに同意してくれた。

本書のなかにそれらの考えが多く取り入れられているが、あまりにも数が多すぎてすべての名前を挙げることができなかった。ここであらためてお礼を述べたい。

多くの専門学会が私の成長を支えてくれた。「全米カウンセリング学会(ACA)」とその専門部会、とりわけ「全米キャリア・ディベロプメント学会(NCDA)」などである。

ミネソタ大学教育人材開発学部(教授としてのキャリアの大半を過ごした)、特にRobert Bruininks学部長と、教育心理学科長のMark Davison教授は、本書を執筆するための研究休暇(1993-94)を取るために尽力してくれた。

メリーランド大学の教授Nancy Schlossbergとボルティモアのロヨラ大学教授Lee Richmond、それにボストン大学のDouglas T.Hall、3人は私の原稿を注意深く読み、批判的で建設的な価値ある助言を多く与えてくれた。そのおかげで、本書は最初の原稿とは比べものにならないほど優れたものになった。

キャリア・ディベロプメントとカウンセリングに関する多くの理論家と実践家が、何年にもわたり私を激励し、私の仕事に多大な影響を与えてくれた。特に、故ドナルド・E・スーパーは特記すべき存在である。

ジョシー・バス社のスタッフと共に仕事をすることは、私の大きな喜びであった。特に、私を担当してくれた編集主任のGale Erlandsonは、私の原稿について意義深いコメントや示唆を与えてくれ、私に前へ進み続ける勇気を与えてくれた。編集助手のRachel Livseyは、私の進捗状況を見守ってくれ、多くの資料を用意してくれた。制作主任のJoanne Clapp Fullagarと彼女のスタッフの編集能力のおかげで、この本は完成することができた。またSusan Choは、本書のマーケティングを担当してくれた。

法律家から、CSPPプログラムの大学院生となったDavid Riversは、本書の参考文献目録を作成するための緻密な作業を手伝ってくれた。

カウンセリングとキャリア・ディベロプメント・コースの学生たちは、統合的ライフ・プランニングに関するレポートで、私にさまざまな刺激を与えてくれた。私は長い間学生たちに、重要な宿題として、そのレポートの提出を求めてきた。またワークショップの参加者たちは、ILPに関する貴重で建設的なフィードバックを返してくれた。それらの人たちは、ILP概念を実行に移すにあたって、その革新的なプロジェクトのなかで驚くほどの創造性を発揮した。

修士課程や博士課程の学生たちは、非伝統的な主題や方法を選択する危険を冒し、研究に取り入れてくれた。私は学生たちとの研究のなかで、相互に学び合い、互いを思いやり尊敬する心を共有することができた。

CSPPのオフィス・スーパーバイザー、秘書、そして私の友人でもあるCarla Hillは、原稿の書式を整えてくれた。彼女は長い間、献身的に、忠実に、そして効率的に私を支えてくれ、ワープロを巧みに操り、通信を円滑に進めてくれた。彼女の緻密な卓越した能力のおかげで、私は本書のような野心的な仕事に安心して取り組むことができた。

私の生涯の友であるPhyllis Kragsethは、英語教師の目と、友の心と、チアリーダーの応援で私の原稿に目を通してくれた。

そして私の家族。数学から美術、スポーツまで多くの才能に溢れ、私を驚かせることを片時も止めない娘のソーニヤ、そして技術者としての父の足跡を踏襲し、さらに先へ進んでいる息子のトール、2人は成長のさまざまな段階で、カウンセリングとキャリア・ディベロプメントに関して私が書いたり読んだりしている内容の生きた見本であった。そして最後に、私の夫トール。彼は真の「伴侶」であり、友人、同胞、そして語り部であり、私が知る限りでの最高の平等主義者である。

ミネソタ州ホワイト・ベアー・レークにて  サニー・S・ハンセン
1996年7月
(つづく)平林

-基礎編・理論編

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