実践編・応用編

血液製剤対策の推進|テクノファ

投稿日:2022年10月24日 更新日:

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。ここでは厚生労働省の白書からキャリアコンサルタントが知っておくべき情報をお伝えします。

第9節 血液製剤対策の推進
1 献血の推進について
2025年度までの達成目標(「献血推進2025」より)があります。献血者数及び献血量の推移が書かれています。
2019(令和元)年度の延べ献血者数は約493万人(対前年度比約19万人増、約4%増)でした。医療需要に応じて、日々計画的に採血を行っており、毎年、安定供給に必要な血液量が確保されています。

一方で、10代から30代の若年層の献血者数は、この10年で約35%減少しており、全献血者に占める若い世代の割合は減少しています。少子化で献血可能人口が減少している中、将来に亘り、安定的に血液を確保するためには、若年層に対する献血推進がこれまで以上に重要になってきます。このため、厚生労働省では、若年層を主な対象とした「はたちの献血」キャンペーンの実施、中学生向けのポスターや高校生向けのテキスト「けんけつ HOP STEP JUMP」、大学生等向けのポスターを作成し、配布しています。

2019年度においては、若年層(10代から30代)の献血者数は前年度を上回るとともに、総献血者数も2年連続で増加しています。2020(令和2)年度においては、新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年2月下旬から献血血液の確保量が減少しました。このため、日本赤十字社では、ホームページやWeb会員サービスで献血への協力を呼びかけるとともに、厚生労働省においても、2020年3月3日付けで事務連絡を発出し、自治体に献血への協力を依頼しました。

また、2020年4月及び2021(令和3)年1月に緊急事態宣言が行われた際にも、献血血液の安定的な確保のための対応についての事務連絡を発出し、管下市町村や関係団体等へ、「緊急事態宣言時に事業の継続が求められる事業者」には「献血を実施する採血業」が含まれていること(※)の周知及び献血への協力を依頼しています。
※新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2年3月28日(令和2年5月 25日、令和3年1月7日変更)新型コロナウイルス感染症対策本部決定)の別添

これらの取組みにより、2020年3月以降は、多くの方に献血にご協力をいただき、必要な献血血液を確保することができています。
2015(平成27)年度から2020年度までの6年間を目標期間とする中期目標「献血推進2020」に続き、新たに2021年度から2025(令和7)年度までの5年間を目標期間とする中期目標「献血推進2025」を策定し、①若年層(10代から30代)の献血者数の増加、②安定的な献血の確保、③複数回献血の推進、④献血Webサービスの利用の推進のを目標に掲げ、引き続き、献血推進の取組みを強化しています。

具体的には、以下の事項を重点的に取り組んでいる。
(1)献血の普及啓発
広く国民に献血の意義を理解して、献血を行っていただくために、効果的な普及啓発を促進します。
(2)若年層対策の強化
①10代への働きかけ
献血への理解を深めてもらうことにより、初めての献血を安心して行っていただくため、SNSを含むインターネット等を主体とした情報発信を行うとともに、日本赤十字社が実施する献血セミナーなどの献血普及の取り組みを推進します。
②20代・30代への働きかけ
献血率の減少傾向が続いている20代・30代の方が献血に協力しやすいよう、献血 Web会員サービス「ラブラッド」の活用を促すなど、献血を体験した方が、長期にわたり複数回献血に協力してもらえるような普及啓発、環境整備に取り組みます。また、企業などへの働きかけを一層強化することにより、安定的な献血者の確保を図るとともに、予約献血の活用など献血者の利便性に配慮した新たな仕組みを検討していきます。

(3)安心・安全で心の充足感が得られる環境の整備
献血は相互扶助と博愛精神による自発的な行為であり、献血者一人一人の心の充足感が活動の大きな柱となっています。
献血に協力いただく方々が、より安心・安全に献血ができるとともに、心の充足感を得られ継続して献血いただける環境整備を図ります。併せて、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況下においても、安心・安全な献血環境の保持と献血者への感染防止対策を講ずるとともに、様々な広報手段を用いて、感染防止対策を周知します。

2 輸血用血液製剤の安全対策について
国内の輸血用血液製剤には、これまで献血時の問診、HBV、HCV、HIVなどに対する 抗原抗体検査、核酸増幅検査(NAT:Nucleic Acid Amplification Testing)、供血者 からの遡及調査の徹底等の対応を講じてきました。NATに関しては、2014(平成26)年8月からは、20人分の血液をまとめて検査する20プールNATを変更して、1人分ずつ検査する個別NATを導入し、検査の感度が飛躍的に向上しています。また、血清学的検査の精度向上やHBV抗体検査の基準を厳格化するなど、更なる安全性の向上に取り組んでおり、今日、我が国における血液製剤は世界でも有数の安全性を有するものといえます。しかし、血液製剤は、原料である人血液に由来する感染症等の発生を完全には排除できないものであるため、技術の進歩や社会情勢の変化に即応した安全性確保のために関係者の不断の努力が必要です。

輸血用血液製剤は、赤血球製剤、血漿製剤、血小板製剤、全血製剤に大別されます。特に血小板製剤においては、その有効性を維持するため、常温で保存する必要があるなどの特性から細菌感染のリスクがあります。そのため、問診、消毒、初流血除去、保存前白血球除去、有効期限の制限などの種々の安全対策がとられています。それでもなお、輸血用血液製剤からの細菌感染事例の報告はされており、2017(平成29)年に細菌が混入した血小板製剤の投与後、細菌感染により重篤な症状を呈し、死亡した事例が報告されました。そのため、「人血小板濃厚液の使用時の安全性確保措置の周知徹底について」(平成29年12月4 日薬生安発1204第2号、薬生血発1204第1号)を発出し、輸血用血液製剤の使用時の安全対策の徹底について周知しています。

近年、輸血用血液製剤によるE型肝炎ウイルス(HEV)の感染が課題となっています。2002(平成14)年にHEVの感染例が報告されたため、2005(平成17)年からHEVの罹患率が比較的高いとされる北海道においてHEV NATを試験的に導入しており、2016(平成28)年の献血者のHEV-RNAの陽性率は0.045%(1/2,212本)と報告されています。同年、関東甲信越地域のHEV感染実態調査が行われ、HEV-RNAの陽性率は 0.073%(1/1,367本)と報告されています。また、2015(平成27)年11月までに、生体肝移植時の輸血用血液製剤の使用によるHEV感染が2例あり、そのうち1名の慢性肝炎の発症が確認されています。現時点では慢性肝炎の機序等不明な部分が多いものの、臓器等を移植された方で免疫抑制状態にある方に原因不明の肝機能低下が疑われる場合、HEV感染の可能性を考慮するよう注意喚起されています。2018(平成30)年には輸血用血液製剤からHEVに感染し、複合的な要因で劇症肝炎となった事例を受けて、「輸血用血液製剤の使用時の安全確保措置の周知徹底について」(平成30年2月1日薬生安発0201第1号、薬生血発0201第1号)」を発出しました。

こうした状況から、2017年度には血液事業部会安全技術調査会で議論を行い、日本赤十字社が輸血用血液製剤の安全性の向上のためHEV NAT導入を進めることとされ、 2020(令和2)年8月より全国的に導入されました。一方、血漿分画製剤については、2018年度の安全技術調査会において、現行の製造工程でのウイルス除去・不活化処理により、HEVに対する安全性は確保されているとの見解が示されています。

輸入感染症については、2014年8月に蚊を介して感染するデング熱の国内感染事例が発生した際、輸血を介して感染するおそれもあることから、献血時の問診などの強化、国内感染発生地域に行かれた方の献血制限、「デング熱国内感染事例発生時の対応・対策の手引き 地方公共団体向け」(国立感染症研究所)の記載に感染者への問診事項として最近の献血の有無の質問の付記など、献血血液の安全対策を講じています。

中南米地域に棲息するサシガメ(昆虫)を介する感染症であるシャーガス病に関しては、輸血伝播を未然に防止するための措置として、中南米諸国に通算4週間以上滞在歴のある方、中南米諸国出身の方、あるいは母親が中南米諸国出身の方の献血血液は、血漿分画製剤の原料にのみ使用することを決定し、2012(平成24)年10月15日より実施しました。その後、保管検体の抗体検査及び疫学研究の結果を踏まえて、2016年8月からは、中南米諸国に連続4週間以上滞在歴のある方、中南米諸国出身の方、あるいは母親が中南米諸国出身の方を対象に抗体検査を行っており、陰性だった方の献血血液については、血漿分画製剤の原料に加え、輸血用血液製剤の原料として使用する措置を実施しています。

また、2020年度においては、新型コロナウイルスに係る安全対策について実施することが求められました。現段階において日本赤十字社では、新型コロナウイルス感染症(又は感染疑い)と診断された方からの献血を受け入れていないこと、また、献血後に感染と診断された方から採血された血液を回収するなどの安全措置を行っています。一方、血漿分画製剤については、血液事業部会安全技術調査会において議論を行い、現行の製造工程でのウイルス除去・不活化処理により、新型コロナウイルスに対する安全性は確保されているとの見解が示されています。

第10節 医薬品・医療機器による健康被害への対応
1 医薬品副作用被害救済制度・生物由来製品感染等被害救済制度
国民の健康の保持増進に欠かせない医薬品は、適正に使用しても副作用の発生を完全に防止できず、時に重い健康被害をもたらす場合があることから、迅速かつ簡便な救済を図るため、1980(昭和55)年5月に、医薬品製造販売業者等の拠出金を財源とする医薬品副作用被害救済制度が創設されました。2004(平成16)年度には、適正に使用された生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して生物由来製品感染等被害救済制度が設けられています。

医薬品副作用被害救済制度では、これまでに19,166名(2020(令和2)年度末時点)の方々に救済給付が行われており、近年給付件数が増加しています。最近の取組みとしては、必要な時に制度が適切に活用されるよう、テレビや新聞等を活用した広報や医師、薬剤師などの医療関係者を中心とした広報、医療機関等が開催する研修会への講師派遣などを行っています。

2 薬害被害者への恒久対策
サリドマイド製剤やキノホルム剤、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が混入した血液製 剤など医薬品の使用により生じた健康被害については、訴訟の和解に基づいて手当の支給や相談支援事業などの恒久対策を実施してきています。
(1)サリドマイド訴訟
昭和34年頃から妊娠中の母親がサリドマイド製剤(鎮静催眠剤など)を服用したことにより、四肢、耳などに重篤な障害のある子どもが出生した事件で、1974(昭和49)年10月に和解が成立しました。和解に基づいて設立された「サリドマイド福祉センター」(公益財団法人いしずえ)では、和解一時金の一部を長期継続年金として被害者に支給するとともに、国の補助を受けて被害者の生活全般に関する相談・生活支援のための事業を実施しています。

(2)スモン訴訟
昭和30年代から発生した腸疾患加療中に神経炎症状や下半身麻痺症状を併発した原因不明の疾病(スモン=亜急性脊髄視神経症)は、その後キノホルム剤(整腸剤)が原因であると判明し、1979(昭和54)年9月に和解が成立しました。国は介護費用の支給費の一部を負担するとともに、難病対策(特定疾患治療研究事業)の一環としての医療費の公費負担、厚生労働科学研究費補助金による調査研究、はり、きゅう、マッサージの利用料補助などの事業を実施しています。2012(平成24)年には、公的支援の内容をまとめた「スモン手帳」をスモン患者に配布しました。

(3)HIV訴訟
血友病治療のために血液製剤を使用していた患者が製剤に含まれたヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した事件で、1996(平成8)年3月に和解が成立しました。国では、エイズ発症者健康管理手当・エイズ発症予防のための健康管理費用の支給を行うとともに、国立国際医療研究センターにエイズ治療・研究開発センターを設置し、全国8地域に整備された地方ブロック拠点病院、各都道府県の中核拠点病院及び地域のエイズ治療拠点病院の連携をもとに、必要な医療の確保に努めています。さらに、遺族に対する相談会の開催や医療に関する相談窓口の設置、被害者団体を通じた被害者に向けた医療・福祉・生活面での相談援助事業を実施しています。2016(平成28)年3月には、公的支援の内容をまとめた「血友病薬害被害者手帳」を被害者に配布しました。

(4)クロイツフェルト・ヤコブ病訴訟
脳外科手術に使用したヒト乾燥硬膜「ライオデュラ」を介してクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)を発症した事件で、2002(平成14)年3月に和解が成立しました。国はCJD患者の安定した療養を確保するため、専門医による在宅医療支援チームの派遣体制を整備するとともに、CJD患者と家族・遺族の福祉の向上を図るため、遺族自身による電話相談を中心としたサポート・ネットワーク事業に対する支援を行っています。

(5)「誓いの碑」
サリドマイド、スモン、HIV感染のような医薬品による悲惨な被害を再び発生させることのないよう医薬品の安全性・有効性の確保に最善の努力を重ねる決意を銘記した「誓いの碑」を厚生労働省前庭に設置しています。
(つづく)K.I

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