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長時間労働・所定外労働が生じる理由|テクノファ

投稿日:2022年10月29日 更新日:

キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを行う際に必要な知識とそれを補う資料について、メンタルヘルス、自殺・過労死、ハラスメント等に関する知識、資料について説明していますが、今回は前回に続き令和3年版過労死等防止対策白書について説明します。

国会への年次報告を義務付ける過労死等防止対策推進法及び過労死等の防止のための対策に関する大綱には、国が取り組む重点対策として、過労死等の調査研究を行うことが明記されており、令和3年版過労死等防止対策白書では「過労死等をめぐる調査・分析結果」の章の中で調査研究の結果報告を行っています。

今回は、白書の「過労死等をめぐる調査・分析結果」の章中の項目「過労死等をめぐる重点業種・職種の調査・分析結果」について、大綱で重点業種としている自動車運転従事者の労働・社会分野の調査結果を、前回の続きから説明します。

・(労働時間の状況)

労働者調査結果によると、平均的な時期(通常期)における1週間の労働時間について、「50時間以上」(49.7%)が最も多く、平均45.3時間であった。最も忙しかった時期(繁忙期)における1週間の労働時間は「50時間以上」(66.8%)が最も多く、平均 54.2時間であった。

・(長時間労働・所定外労働が生じる理由)

企業調査結果によると、長時間労働・所定外労働が生じる理由は、「仕事の繁閑の差が大きいため」(39.7%)で最も多く、次いで「仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため」(38.8%)、「予定外の仕事が突発的に発生するため」(28.9%)であった。

業種別にみると、トラックでは「取引先の都合で手待ち時間が発生するため」(39.7%)の割合が他の業種と比べて高かった。

労働者調査結果によると、長時間労働・所定外労働が生じる理由は、「業務量が多いため」(33.7%)で最も多く、次いで「仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため」(30.3%)、「人員が不足しているため」(27.1%)であった。

職種別にみると、バス運転者では「欠勤した他の労働者の埋め合わせが必要なため」(35.6%)の割合が、他の職種と比べて高かった。

・(年次有給休暇の取得状況)

労働者調査結果によると、2019年の年次有給休暇の取得状況は、「概ね全て取得できている」の割合が33.2%であった。

職種別にみると、バス運転者では「概ね全て取得できている」(49.6%)の割合が、他の職種と比べて高かった。

・(働き方の変化)

労働者調査結果によると、過去約4~5年前と比べた働き方の変化について、労働時間が短くなった(「短くなった」、「やや短くなった」を合算)と回答した割合は35.2%であった。

職種別にみると、短くなった(「短くなった」、「やや短くなった」を合算)と回答した割合はバス運転者が37.6%で、他の職種に比べて高かった一方で、長くなった(「やや長くなった」、「長くなった」を合算)と回答した割合(12.2%)も高かった。

労働者調査結果によると、過去約4~5年前と比べた働き方の変化について、休日・休暇が取得しやすくなった(「取得しやすくなった」、「やや取得しやすくなった」を合算)と回答した割合は27.4%であった。

職種別にみると、取得しやすくなった(「取得しやすくなった」、「やや取得しやすくなった」を合算)と回答した割合は、バス運転者が31.3%で他の職種と比べて高かった一方で、取得しづらくなった(「やや取得しづらくなった」、「取得しづらくなった」を合算)と回答した割合(8.1%)も高かった。

・(睡眠の状況)

労働者調査結果によると、平日1日あたりの平均的な睡眠時間について、「6~7時間未満」の割合が40.0%と最も高かった。

職種別にみると、タクシー運転者では「7時間以上」(46.9%)の割合が他の職種と比べて高かった。

また、平日における睡眠時間の充足状況について、足りている(「足りている」、「どちらかといえば足りている」を合算)と回答した割合は54.7%であった。

職種別にみると、足りている(「足りている」、「どちらかといえば足りている」を合算)と回答した割合はタクシー運転者が68.7%で他の職種と比べて高かった。

・(業務に関連したストレスや悩み)

労働者調査結果によると、業務に関連したストレスや悩みの有無について、「ある(あった)」と回答した割合は64.2%であった。

職種別にみると、「ある(あった)」と回答した割合はバス運転者が他の職種と比べて高かった。

労働者調査結果によると、業務に関連したストレスや悩みが「ある(あった)」と回答したものについて、その内容をみると、「賃金水準の低さ」(44.1%)が最も多く、次いで「事故等の恐れ」(39.4%)、「不規則な勤務による負担の大きさ」(35.7%)であった。

職種別にみると、トラック運転者では「賃金水準の低さ」(40.2%)が最も多く、次いで「職場の人間関係」(35.5%)、「事故等の恐れ」(34.1%)であった。バス運転者では「不規則な勤務による負担の大きさ」(59.0%)が最も多く、次いで「賃金水準の低さ」(55.1%)、「事故等の恐れ」(53.5%)であった。タクシー運転者では「賃金水準の低さ」(47.6%)が最も多く、次いで「売上・業績等」(45.7%)、「事故等の恐れ」(45.2%)であった。

・(パワーハラスメントの有無)

労働者調査結果によると、パワーハラスメントの有無について、「ハラスメントはなかった(ない)」(77.1%)が最も多かった。

職種別にみると、バス運転者では「ハラスメントはなかった(ない)」(72.6%)の割合が、他の職種に比べて低かった。

また、性・年代別にみると、女性の方が「ハラスメントを受けていた(いる)」の割合が高く、30歳代では20.7%となっている。

男性は年代が下がるほど「ハラスメントを受けていた(いる)」の割合が高く、20歳代以下では18.6%となっている。

・(パワーハラスメントの予防・解決のための取組の実施状況)

企業調査結果によると、パワーハラスメントの予防・解決のための取組の実施状況について、「実施している」と回答した割合が51.5%であった。

業種別にみると、バスでは「実施している」と回答した割合(49.7%)が、他の業種に比べて低かった。

なお、本調査は令和元年10月1日時点のものであり、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行前であることに留意する必要がある。

・(過重労働防止に向けた取組)

労働者調査結果によると、過重労働防止に向けて企業や事業所において必要だと感じる取組について、「安全面・健康面に配慮したゆとりある運行管理」(36.6%)が最も多く、次いで「時間外労働時間や年次有給休暇取得率の『見える化』」(29.4%)、「業歩合給の割合や累進歩合制等の賃金体系の見直し」(28.6%)であった。

職種別にみると、バス運転者では「安全面・健康面に配慮したゆとりある運行管理」(54.4%)の割合が、他の職種に比べて高かった。

企業調査結果によると、過重労働防止に向けて実施している取組は、「安全面・健康面に配慮したゆとりのある運行管理」(61.2%)が最も多く、次いで「休日の振替又は代休(代償休日)の付与」(55.0%)、「改善基準告示や国土交通省告示に関する従業員への教育研修」(37.8%)であった。

業種別にみると、バスでは「全ての取引において、契約内容の書面による明確化」(65.9%)、「顧客への過重労働防止のための協力要請」(49.7%)の割合が、他の職種に比べて高かった。

企業調査結果によると、過重労働防止に向けた取組を実施するに当たって困難と感じることは、「業界全体で取り組む必要があり、労使の取組だけでは解決できない」(27.1%)が最も多く、次いで「収益が悪化するおそれがある」(25.8%)、「人員不足のため対策を取ることが難しい」(25.7%)であった。

業種別にみると、トラックでは「荷主・発注者の理解・協力が得られにくい」(43.1%)、「荷主・発注者との取引慣行の見直しが実質的に難しい」(29.2%)の割合が、他の職種に比べて高かった。

・(事故の目撃・遭遇等の悲惨な体験)

労働者調査結果によると、事故の目撃・遭遇等の悲惨な体験がある(「よくある」「たまにある」を合算)と回答したものの割合は41.3%だった。

企業調査結果によると、メンタルヘルス不調や精神障害の原因として事故の目撃・遭遇等の悲惨な体験の対策・取組の具体的な内容は、「事故防止のための教育研修」(61.5%)が最も高かった。

「産業医やカウンセラー等による面談や相談窓口の整備」と回答した企業の割合は7.1%だった。

・(新型コロナウイルス感染症の影響)

企業調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、取引件数が減ったと回答した割合(「減った」、「やや減った」を合算)は 75.9%であった。

業種別にみると、バス、タクシーでは減ったと回答した割合はそれぞれ93.4%、89.7%であったが、トラックでは 43.2%であった。

労働者調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により労働時間が短くなったと回答した割合(「短くなった」、「やや短くなった」を合算)は32.9%であった。職種別にみると、タクシー運転者では労働時間が短くなったと回答した割合(60.2%)が他の職種と比べて高かった。

労働者調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により休日・休暇が取得しやすくなったと回答した割合(「取得しやすくなった」、「やや取得しやすくなった」を合算)は22.3%であった。

職種別にみると、バス運転者では休日・休暇が取得しやすくなったと回答した割合(41.6%)が他の職種と比べて高かった。

労働者調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、業務に関連するストレスや悩みが増えたと回答した割合(「増えた」、「やや増えた」を合算)は 29.1%であった。

職種別にみると、タクシー運転者では業務に関連するストレスや悩みが増えたと回答した割合(44.2%)が他の職種と比べて高かった。

〇自動車運転従事者(労災支給決定(認定)事案の分析、労働・社会分野の調査)まとめ

道路貨物運送業(トラック)、運輸に付帯するサービス業において平成22年4月から平成30年3月までに労災支給決定(認定)された精神障害事案の237件を男女別にみると、男性が214件、女性が23件であり、発病時の年齢階層別では40歳代が最も多く、次いで30歳代、50歳代となっている。トラック運転従事者では40歳代が多くなっている。具体的出来事別にみると、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が最も多く、次いで「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」、「上司とのトラブルがあった」、「(重度の)病気やケガをした」となっている。

運送業に関し、企業を対象としたアンケート調査によると、トラックの長時間労働・所定外労働が必要となる理由は、「仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため」が最も多く、次いで「取引先の都合で手待ち時間が発生するため」となっている。また、過重労働の防止に向けた取組を実施する上で困難に感じることは、トラックでは「荷主・発注者の理解・協力が得られにくい」が最も多かった。

運送業に関し、労働者を対象としたアンケート調査によると、約4割の労働者が事故の目撃・遭遇等の悲惨な体験があると回答しているが、企業を対象としたアンケート調査によると、約2割の企業が事故の目撃・遭遇等の悲惨な体験の対策・取組を実施していないと回答している。対策・取組の具体的な内容をみても、「産業医やカウンセラー等による面談や相談窓口の整備」と回答した企業の割合は7%程度にとどまっている。

これらのことから、トラック運転従事者においては、取引環境の改善に向けた取組の実施、事故防止に向けた取組に加え、事故を起こした者、目撃した者に対する心のケアの取組を推進する必要がある。

また、労働者を対象としたアンケート結果によると、過去約4~5年前と比べた働き方の変化について、約4割の労働者が労働時間が短くなったと回答、約3割の労働者が休日・休暇が取得しやすくなったと回答している。

さらに、企業を対象としたアンケート結果によると、約8割の企業が新型コロナウイルス感染症の影響により取引件数が減ったと回答しており、労働者を対象としたアンケート結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、約3割の労働者が労働時間が短くなったと回答、約2割の労働者が休日・休暇を取得しやすくなったと回答している。

一方で、労働者を対象としたアンケート結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、約3割の労働者が業務に関連するストレスや悩みが増えたと回答していることから、ストレスチェックにより気付きを促進し、集団分析結果を活用した職場環境改善を推進する必要がある。
(つづく)A.K

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