キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを行う際に必要な知識とそれを補う資料について、メンタルヘルス、自殺・過労死、ハラスメント等に関する知識、資料について説明していますが、今回は前回に続き令和3年版過労死等防止対策白書について説明します。
国会への年次報告を義務付ける過労死等防止対策推進法及び過労死等の防止のための対策に関する大綱には、国が取り組む重点対策として、過労死等の調査研究を行うことが明記されており、令和3年版過労死等防止対策白書では「過労死等をめぐる調査・分析結果」の章の中で調査研究の結果報告を行っています。
今回は、前回に続き「過労死等をめぐる調査・分析結果」の章中の項目「過労死等をめぐる重点業種・職種の調査・分析結果」について、大綱で重点業種としている外食産業について説明します。
◎外食産業
〇 労災支給決定(認定)事案の分析結果
令和2(2020)年度に過労死等防止調査研究センターにおいて、平成22(2010)年4月から平成31(2019)年3月までに労災支給決定(認定)された事案のうち、「飲食店」に該当する事案(脳・心臓疾患事案が151件、精神障害事案が172件)を外食産業事案として抽出して分析を行った。
職種別にみると、脳・心臓疾患事案では、「調理人」(47.0%)が最も多く、次いで「店長」(42.4%)であった。
このうち、調理人に関する事案127件(脳・心臓疾患事案が71件、精神障害事案が56件)、店長に関する事案115件(脳・心臓疾患事案が64件、精神障害事案が51件)及び店員に関する事案56件(脳・心臓疾患事案が9件、精神障害事案が47件)を対象に分析を行った。
調理人・店長・店員事案を男女別にみると、脳・心臓疾患事案では93.1%、精神障害事案では67.5%が男性であった。
年代別にみると、脳・心臓疾患事案では「40~49歳」(33.3%)が最も多く、次いで「50~59歳」(31.9%)、「30 歳~39歳」(19.4%)の順であった。精神障害事案では「29歳以下」が(36.4%)が最も多く、次いで「30~39 歳」(29.2%)の順で、39歳以下が全体の約6割(65.6%)を占めている。
調理人・店長・店員事案について、脳・心臓疾患事案を労災認定要件別にみると、「調理人」(71 件)、「店長」(64件)、「店員」(9件)の全ての事案が「長期間の過重業務」であった。
平成22年度から平成30年度までの外食産業で労災支給決定(認定)された精神障害の自殺(未遂を含む)事案の22件について、具体的な出来事別にみると、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が6件と最も多く、次いで「仕事内容・量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が5件、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」、「上司とのトラブルがあった」が4件であった。年齢階層別にみると、20歳代が6件、30歳代、40歳代が5件の順になっている。
なお、平成24年度から平成30年度までの外食産業を含む「宿泊業、飲食サービス業」で労災支給決定(認定)された精神障害事案の214件について、具体的な出来事別にみると、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が48件(22.4%)と最も多く、次いで「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」が46 件(21.5%)、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が40件(18.7%)であった。
〇労働・社会分野の調査
全国の外食産業の企4,000社(有効回答数 742件)、全国の外食産業に勤める労働者4,860人(有効回答数4,860件)を対象に新型コロナウイルス感染症に関する設問等の一部の設問を除き、原則として令和元(2019)年の状況についてアンケート調査を実施した。
・(労働時間の把握方法)
企業調査結果によると、労働時間の把握方法について、スーパーバイザー等、店長、店舗従業員のいずれにおいても「IC カード、タイムカード等の客観的な記録を基に確認」の割合(28.0%、39.5%、45.4%)で最も高かった。
労働者調査結果によると、把握されている労働時間の正確性について、「正確に把握されている」(53.1%)、「おおむね正確に把握されている」(38.1%)と回答した割合の合計は 91.2%であった。
職種別にみると、スーパーバイザー等において、「正確に把握されている」(51.5%)、「おおむね正確に把握されている」(41.8%)と回答した割合の合計(93.3%)が他の職種と比べて高かった。
・(労働時間の状況)
労働者調査結果によると、平均的な時期(通常期)における1週間当たりの労働時間について、「40~50時間未満」(34.8%)が最も高く、次いで「50 時間以上」(28.8%)、「20時間未満」(23.1%)であった。
また、最も忙しかった時期(繁忙期)においては、「50 時間以上」(50.4%)が最も高く、次いで「20時間未満」
(22.4%)、「40~50時間未満」(20.8%)であった。
・(長時間労働・所定外労働が生じる理由)
企業調査結果によると、長時間労働・所定外労働が生じる理由は、スーパーバイザー等では「予定外の仕事が突発的に発生するため」(16.6%)が最も多く、次いで「仕事の繁閑の差が大きいため」(15.0%)、「業務量が多いため」(11.6%)であった。店長では「仕事の繁閑の差が大きいため」(42.7%)が最も多く、次いで「予定外の仕事が突発的に発生するため」(36.0%)、「人員が不足しているため」(31.3%)であった。店舗従業員では「仕事の繁閑の差が大きいため」(53.7%)が最も多く、次いで「人員が不足しているため」(38.2%)、「顧客対応が長引くため」(33.2%)であった。
労働者調査結果によると、長時間労働・所定外労働が生じる理由は、「業務量が多いため」(31.2%)で最も多く、次いで「人員が不足しているため」(27.7%)、「仕事の繁閑の差が大きいため」(25.6%)であった。
・(年次有給休暇の取得状況)
労働者調査結果によると、2019年の年次有給休暇の取得状況は、「まったく取得出来ていない」(24.4%)の割合が最も多く、次いで「概ね全て取得出来ている」(24.1%)であった。
職種別にみると、店長では「まったく取得出来ていない」(29.1%)の割合が、他の職種と比べて高かった。
・(働き方の変化)
労働者調査結果によると、過去約4~5年前と比べた働き方の変化について、労働時間が短くなった(「短くなった」、「やや短くなった」を合算)と回答した割合は 34.6%であった。
職種別にみると、短くなった(「短くなった」、「やや短くなった」を合算)と回答した割合は、店長が 36.7%で、他の職種に比べて最も高かった。
労働者調査結果によると、過去約4~5年前と比べた働き方の変化について、休日・休暇が取得しやすくなった(「取得しやすくなった」、「やや取得しやすくなった」を合算)と回答した割合は 27.6%であった。
職種別にみると、取得しやすくなった(「取得しやすくなった」、「やや取得しやすくなった」を合算)と回答した割合は、スーパーバイザー等が 30.5%で他の職種と比べて高かった。
・(睡眠の状況)
労働者調査結果によると、平日1日あたりの平均的な睡眠時間について、「7時間以上」の割合が 43.2%と最も高かった。
職種別にみると、店長では「7時間以上」(47.0%)の割合が他の職種と比べて高かった。
また、平日における睡眠時間の充足状況について、足りていると回答した割合(「足りている」、「どちらかといえば足りている」を合算)は 66.1%であった。
職種別にみると、足りていると回答した割合(「足りている」、「どちらかといえば足りている」を合算)は店長が 72.3%で他の職種と比べて高かった。
・(業務に関連したストレスや悩み)
労働者調査結果によると、業務に関連したストレスや悩みの有無について、「ある(あった)」と回答した割合は 63.5%であった。
職種別にみると、「ある(あった)」と回答した割合はスーパーバイザー等が他の職種と比べて高かった。
労働者調査結果によると、業務に関連したストレスや悩みが「ある(あった)」と回答したものについて、その内容をみると、「職場の人間関係」(37.7%)が最も多く、次いで「売上・業績等」(34.2%)、「休日・休暇の少なさ」(27.7%)であった。
職種別にみると、スーパーバイザー等では「売上・業績等」(43.8%)が最も多く、次いで「職場の人間関係」(32.0%)、「休日・休暇の少なさ」(25.8%)であった。店長では「売上・業績等」(53.8%)が最も多く、次いで「休日・休暇の少なさ」(33.1%)、「時間外労働の長さ」(28.0%)であった。店舗従業員では「職場の人間関係」(48.3%)が最も多く、次いで「賃金水準の低さ」(28.7%)、「不規則な勤務による負担の大きさ」(27.8%)であった。
(つづく)A.K