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過労死等の発生の実態解明を進める|テクノファ

投稿日:2022年11月2日 更新日:

キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを行う際に必要な知識とそれを補う資料について、メンタルヘルス、自殺・過労死、ハラスメント等に関する知識、資料について説明していますが、今回は前回に続き令和3年版過労死等防止対策白書について説明します。
国会への年次報告を義務付ける過労死等防止対策推進法及び過労死等の防止のための対策に関する大綱には、国が取り組む重点対策として、過労死等の調査研究を行うことが明記されていますが、令和3年版過労死等防止対策白書では「過労死等をめぐる調査・分析結果」の章の中で調査研究の結果報告を行っています。

今回は、白書の「過労死等をめぐる調査・分析結果」の章中の項目、疫学研究等の分析結果について説明します。

  • 疫学研究等の分析

(1)職域コホート研究
過労死等防止調査研究センターにおいて、過労死等の発生の実態解明を進めるため、どのような要因が過労死等のリスク要因として影響が強いのかを調査することを目的に、共同研究機関である従業員支援プログラム提供機関の顧客企業のうち、本研究に参加同意の得られた企業で働く労働者の同意を得た上で、勤怠記録、ストレスチェック結果、健康診断結果、JNIOSH式労働時間・睡眠調査票の回答を長期間(5~10年)にわたって収集し、令和2(2020)年11月までに「建設業」、「運輸業、郵便業」、「卸売業、小売業」、「不動産業、物品賃貸業」、「生活関連サービス業、娯楽業」の企業(6社)の参加を得ることができた。

入手できたデータが限られている企業等を除いた4社(「建設業」、「運輸業、郵便業」、「不動産業、物品賃貸業」、「生活関連サービス業、娯楽業」)について集計を行ったところ、平均年齢(標準偏差)は、男性(8,273人)では 40.1(±11.5)歳、女性(3,040人)では36.3(±11.2)歳であった。また、男女とも月当たりの平均労働時間は180-205時間未満群が最も多かった。

非服薬群(血圧・血糖・脂質薬)における月当たりの平均労働時間と健康指標との関係をみると、労働時間が長くなると、BMI、ALT、空腹時血糖、HbA1c、中性脂肪が基準値以上となるオッズ比が高くなる傾向がみられた。
月当たりの平均労働時間と睡眠指標の関係をみると、労働時間が長くなると、入眠困難が発生するオッズ比が低く、短時間睡眠、起床時疲労感、仕事中の強い眠気が発生するオッズ比が高くなる傾向がみられた。
月当たりの平均労働時間とストレスチェック結果との関係をみると、労働時間が長くなると不安感や疲労感に関する項目の平均点が高く、活気に関する項目の平均点が低くなる傾向がみられた。

(2)職場環境改善に向けた介入研究
過労死等防止調査研究センターにおいて、600床以上ある病院で交替制勤務に従事する看護師30人(平均年齢±標準偏差;28.2±5.9 歳)を対象に、2グループに分け、勤務間インターバルの確保と夜間睡眠の取得を促す交替制勤務シフトへの現場介入調査を4か月間(介入期間を2か月間、その後の2か月間を従来のシフト(統制期間)とする、又はその逆)実施した。
2か月間の中で「深-深-準-準」となっているシフトを「深-深-休-準-準」に変更する介入内容である。調査前に行った看護師へのヒアリングの結果、最も負担の大きいシフトの組み合わせが2連続の深夜勤と2連続の準夜勤が入る「深-深-準-準」であった。2連続の深夜勤と2連続の準夜勤の間に勤務間インターバルを確保し、かつ疲労回復に重要な夜間睡眠を取得できるような新シフトを協力病院の看護師長と共に考案した。

4か月のうち最初の1か月分のデータで比較すると、介入群の方が統制群より疲労度(Need for recovery 尺度による)が低い傾向がみられた。
今後、主観指標だけでなく、生化学的なストレスホルモン、客観的な睡眠や疲労評価のデータも追加される予定であるので、それらのデータの解析を行い、新シフトの効果を多角的に検証する。

(3)実験研究
過労死等防止調査研究センターにおいて、過労死等防止のためのより有効な健康管理の在り方の検討に資するため、長時間労働が血圧等の血行動態に及ぼす影響と、それらの影響が加齢により、どのように変化するのかについて、長時間労働を模擬した実験の手法により検証した。
なお、本研究は、実験の手法により検証を行っており、実際の職場とは環境が異なることに留意する必要がある。

日中の安静時収縮期血圧(最大血圧)<160mmHgかつ拡張期血圧(最小血圧)<100mmHgの30 代から 60 代(65 歳未満)の男性を対象とした。具体的には、30代16人(平均年齢と標準偏差;33.9±2.7 歳)、40代 15人(平均年齢と標準偏差;45.5±2.9歳)、50 代16 人(平均年齢と標準偏差;54.1±2.7 歳)、60代8人(平均年齢と標準偏差; 62.1±1.2 歳)を対象とした。
9:00から22:00の実験中に、実験参加者は座位姿勢で簡単なパソコン作業(以下「模擬長時間労働」という)を行った。血圧等の血行動態反応を作業前の安静時(B0)から計12回の作業セッション(T1-T12)にかけて測定を行った。なお、昼間に60分(BN)及び夕方に50分(BE)の長めの休憩時間と、各作業セッション後に10~15分の小休止時間を設けた。
30代、40代、50代、60代の模擬長時間労働時の血行動態反応を比較したところ、全ての年齢群は作業時間の延長に伴い収縮期血圧(最大血圧)が上昇したが、30代と比べ、50代と60代の作業中の収縮期血圧が有意に高かった。

〇ここまでは白書の過労死等の調査研究結果の説明を行ってきました。次には白書の第5章 過労死等の防止のための対策の実施状況を説明します。

  • 過労死等の防止のための対策の実施状況

1 労働行政機関等における対策
国が過労死等の防止のために重点的に取り組まなければならない対策として、過労死等防止対策推進法第3章に規定されている調査研究等、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援について関係行政機関が緊密に連携するとともに、長時間労働の削減、過重労働による健康障害防止、勤務間インターバル制度の導入促進、年次有給休暇の取得促進、メンタルヘルス不調の予防及びハラスメントの防止について、関係法令等に基づき強力に推進することとしている。

昨今の長期化する新型コロナウイルス感染症の対応は、労働環境にも大きな影響を及ぼしており、同感染症により、人手不足の状態となった現場があることや一部の職場で過重労働が明らかになっていることから、同感染症の対応等のために発生する過重労働によって過労死等が発生しないよう、その対策をより一層推進する必要がある。

また、同感染症を契機としてテレワークといった新しい働き方が進んでいるが、テレワーク下では、仕事と生活の時間の区別が曖昧となり労働者の生活時間帯の確保に支障が生じるおそれがあること、労働者が上司等とコミュニケーションを取りにくい、上司等が労働者の心身の変調に気付きにくいという状況となる場合もあることや、テレワーク等の場合におけるハラスメントが発生するおそれがあることにも留意する必要がある。

同感染症が与える影響に配慮し、これらの課題への対応を踏まえた過労死等防止のための対策が企業の規模にかかわらず実施されるよう、都道府県労働局・労働基準監督署においては、長時間労働の削減に向けた取組の徹底、過重労働による健康障害の防止対策、メンタルヘルス対策・ハラスメント防止対策について、引き続き重点的に取り組んでいる。

(労働基準監督署の体制整備)
労働基準監督機関においては、働き方改革関連法により改正された労働基準法等関係法令の内容を含め、労働時間に関する法制度の周知と法令遵守のための指導に万全を期す必要がある。平成30(2018)年4月1日から、全ての労働基準監督署において、「労働時間改善指導・援助チーム」を編成し、長時間労働の是正及び過重労働による健康障害の防止を重点とした監督指導を行うとともに、「労働時間相談・支援コーナー」を設置し、働き方改革推進支援センターとも連携しつつ、法令に関する知識や労務管理体制が必ずしも十分でないと考えられる中小規模の事業場に対して、法制度の周知及びその遵守を目的としたきめ細やかな支援を行っている。
(つづく)A.K

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