キャリアコンサルタントがキャリアコンサルティングを行う際に必要な知識とそれを補う資料について、メンタルヘルス、自殺・過労死、ハラスメント等に関する知識、資料について説明していますが、今回は令和3年版過労死等防止対策白書について前回の続きから説明します。
国会への年次報告を義務付ける過労死等防止対策推進法及び過労死等の防止のための対策に関する大綱には、国が取り組む重点対策として、過労死等の調査研究を行うことが明記されており、令和3年版過労死等防止対策白書では「過労死等をめぐる調査・分析結果」の章の中で調査研究の結果報告を行っています。今回は過労死等をめぐる重点業種・職種の調査・分析結果を大綱で重点業種としている外食産業について、労働・社会分野の調査のアンケート調査結果を、前回の続きの調査項目から説明します。
・(パワーハラスメントの有無)
労働者調査結果によると、パワーハラスメントの有無について、「ハラスメントはなかった(ない)」(83.2%)が最も多かった。また、性・年代別にみると、男女ともに年代が下がるほど「ハラスメントを受けていた(いる)」の割合が高く、男性20歳以下では25.0%となっており、女性20歳以下では14.4%となっている。
・(パワーハラスメントの予防・解決のための取組の実施状況)
企業調査結果によると、パワーハラスメントの予防・解決のための取組の実施状況について、「実施していない」と回答した割合が52.6%であった。なお、本調査は令和元年10月1日時点のものであり、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行前であることに留意する必要がある。
・(顧客からの理不尽な要求・クレーム、暴言・暴力等)
労働者調査結果によると、理不尽な要求・クレーム・暴言などがある(「よくある」「たまにある」を合算)と回答したものの割合は37.5%だった。職種別にみると、スーパーバイザー等では理不尽な要求・クレーム・暴言などがあると回答したものの割合(47.7%)が他の職種と比べて高かった。
企業調査結果によると、顧客からの理不尽な要求・クレームや暴言・暴力等の対策・取組の具体的な内容は、「目撃・遭遇した場合の報告・対応方法の明確化」(41.9%)が最も高かった。「特になし」と回答した企業の割合は 39.1%だった。
・(過重労働防止に向けた取組)
労働者調査結果によると、過重労働の防止に向けて必要だと感じる取組は、「週1日(以上)の定休日の設定」(32.1%)が最も多く、次いで「休日の振替又は代休(代償休日)の付与」(29.3%)、「休憩時間の確保の促進」(26.5%)であった。職種別にみると、スーパーバイザー等において「管理職・経営幹部を対象とした労務管理に関する教育研修」(33.9%)の割合が他の職種と比べ高かった。
企業調査結果によると、過重労働防止に向けて実施している取組は、「週1日(以上)の定休日の設定」(33.7%)が最も多く、次いで「安全面・健康面に配慮したゆとりのあるシフト編成」(33.6%)、「休憩時間の確保の促進」(32.6%)であった。企業調査結果によると、過重労働防止に向けた取組を実施するに当たって困難と感じることは、「特にない」が33.7%であるほかは、「人員不足のため対策を取ることが難しい」(27.8%)が最も多く、次いで「収益が悪化するおそれがある」(21.8%)、「労働者間の業務の平準化が難しい」(19.7%)であった。
・(新型コロナウイルス感染症の影響)
企業調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により人手不足感は少なくなったと回答した割合(「少なくなった」、「やや少なくなった」を合算)は 49.7%であった。労働者調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により労働時間が短くなったと回答した割合(「短くなった」、「やや短くなった」を合算)は 57.3%であった。
職種別にみると、店長では労働時間が短くなったと回答した割合(63.5%)が他の職種と比べて高かった。労働者調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により休日・休暇が取得しやすくなったと回答した割合(「取得しやすくなった」、「やや取得しやすくなった」を合算)は 32.9%であった。
職種別にみると、スーパーバイザー等では休日・休暇が取得しやすくなったと回答した割合(41.6%)が他の職種と比べて高かった。労働者調査結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、業務に関連するストレスや悩みが増えたと回答した割合(「増えた」、「やや増えた」を合算)は 36.2%であった。職種別にみると、スーパーバイザー等では業務に関連するストレスや悩みが増えたと回答した割合(43.9%)が他の職種と比べて高かった。
〇外食産業(労災支給決定(認定)事案の分析、労働・社会分野の調査)まとめ
外食産業(飲食店)において、調理人・店長・店員について平成22年4月から平成31年3月までに労災支給決定(認定)された脳・心臓疾患事案 144 件を男女別にみると、9割が男性の事案であり、発症時の年齢階層別では、40歳代が最も多く、次いで 50 歳代、30 歳代となっている。労災認定要件をみると、いずれの職種も全てが長期間の過重業務となっている。
上記と同じ期間中の外食産業における精神障害事案のうち、店長、調理人等の自殺(未遂を含む)事案の22件を男女別にみると、21件が男性の事案であり、年齢階層別にみると、20 歳代が最も多く、次いで 30 歳代及び 40 歳代となっている。
具体的出来事の内訳をみると、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が最も多く、次いで「仕事内容・量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」、「上司とのトラブルがあった」となっている。外食産業に関し、企業を対象としたアンケート調査によると、過重労働防止に向けた取組を実施する上で困難と感じることは、「特になし」が3割を占めているほかは、「人員不足のため対策を取ることが難しい」が多く、次いで「収益が悪化するおそれがある」、「労働者間の業務の平準化が難しい」となっている。
外食産業に関し、労働者を対象としたアンケート調査によると、約6割の労働者が業務に関連したストレスや悩みがあると回答しており、その内容として「職場の人間関係」が最も多くなっている。特に店舗従業員では「職場の人間関係」の割合が高い。また、職場でのパワーハラスメントの有無について、「ハラスメントを受けていた(いる)」の割合は全体では8%程度であるが、20 歳代以下の男性では 25%(4人に1人)となっている一方で、企業を対象としたアンケート調査によると、パワーハラスメントの予防・解決のための取組の実施状況について、約半数の企業が「実施していない」と回答している。なお、本調査は令和元年10月1日時点のものであり、改正労働施策総合推進法の施行前であることに留意する必要がある。
さらに、労働者を対象としたアンケート調査によると、約4割の労働者が顧客からの理不尽な要求・クレーム等があると回答している一方で、企業を対象としたアンケート調査によると、約4割の企業が顧客からの理不尽な要求・クレーム等の対策を実施していないと回答している。これらのことから、外食産業においては、長時間労働の削減に向けた取組を行う企業に対して必要な支援を行うとともに、カスタマーハラスメントを含めた職場におけるハラスメント防止の取組を進める必要がある。
また、労働者を対象としたアンケート結果によると、過去約4~5年前と比べた働き方の変化について、約3割5分の労働者が労働時間が短くなったと回答、3割弱の労働者が休日・休暇を取得しやすくなったと回答している。さらに、企業を対象としたアンケート調査によると、約5割の企業が新型コロナウイルス感染症の影響により人手不足感が少なくなったと回答しており、労働者を対象としたアンケート結果によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、約6割の労働者が労働時間が短くなったと回答、約3割の労働者が休日・休暇を取得しやすくなったと回答している。
一方で、労働者を対象としたアンケート調査によると、新型コロナウイルス感染症の影響により、4割弱の労働者が業務に関連するストレスや悩みが増えたと回答していることから、ストレスチェックにより気付きを促進し、集団分析結果を活用した職場環境改善を推進する必要がある。
(つづく)A.K