キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。
<ここより翻訳:サニー・s・ハンセン著>
○ILPの原理
統合的ライフ・プランニングは、本来全体的であるライフ・プランニングのプロセスを学ぶことができるように若者や成人を支援するキャリアの専門家―カウンセラー、キャリア・スペシャリスト、アドバイザー、成人教育の専門家、組織開発のスペシャリスト、人事の管理職を含む―のために考え出された包括的な概念である。そのプロセスは6つの視点から見ることができる。最初の視点は、自己と世界を見る視点であり、個人の発達と、われわれが生活する文脈の両方を考慮に入れたものである。具体的には、地域的、国家的、地球規模の変化、仕事、家族、教育、余暇における変化、文化的変容と女性と男性の変化しつつある役割、さまざまな人生役割の相対的重要性(すなわち学習、愛、仕事、くつろぎ)、こころとからだとスピリットのための自分自身の発達優先順位についての反省の必要性、そして個人と社会の両面での、変化そのものの重要性である。
第2の視点は、特に合衆国では、数世代にわたって仕事がわれわれの人生の中心であったが、ILPは、キャリアと組織開発、ジェンダー役割、多文化主義と多様性、社会および個人の変化などに関する分野で現れてきた最新の知識を、実践のための統合された枠組みへと組み入れるモデルである。多様性と包含性に価値を置くことに焦点を合わせるのがILPの1つの側面であり、これがILPを他に類のないユニークなものにしている。ILPの概念は、専門家が自分自身の人生のさまざまな側面を検証し、それをより意味のある全体へと統合させ、学生、クライエント、被雇用者と共にそのモデルを使うためのスキルと戟略を発展させる方法を提示する。そしてそのような方法が、Abraham Maslow(1962)の欲求段階説―生理的欲求から始まり、安全、所属、承認、自己実現へと高まっていく欲求に関する理論―を超えていく者にとって非常に有益なものであるということも認識されている。
第3の視点は、その統合的モデルには、社会、組織(特に仕事組織)、家族、個人に対する検証が含まれるということ、そしてそのモデルは、業績目標、コミュニティ目標だけでなく、人間の発達における関係性を目標として考慮に入れるという点である。それは新しいアプローチを必要とする社会的変化の文脈を示し、キャリア・ディベロプメントとキャリア・プランニング、そして人材開発のための拡張された枠組みを提供する。
第4の視点は、ILPモデルは、多くのつながりと関連性を探索するということである。それは、統合的ライフ・プランニングが可能となる方法を実証するために、仕事と家族の関連性を、そして共稼ぎ家族を検証する。ILPモデルは、理想的な家族の存在を前提にするのではなく、現代合衆国に実在している多様な家族のタイプを取り上げ、ILPがそれらすべてに対して適用可能であることを示す。また家族と仕事以外の役割についても探索するが、仕事をすることと愛することが人生の最も重要な2つの経験であるがゆえに、これらの役割が家族と職場でどのように遂行されるかという点に重点を置く。
第5の視点は、ILPは、ライフ・プランニングの主要な側面として、従来のキャリア・プランニングではしばしば無視されてきた、スピリチュアリティおよび人生の意味と目的を導入するということである。それらは、スピリチュアルな関心を重視する文化的グループ、民族グループにとって特別重要である。過去の、合理的で論理的なキャリア・プランニング・モデルは、還元主義的ニュートン主義者の伝統を踏襲し、人間の発達のスピリチュアルな側面には、特に仕事との関係では、ほとんど関心を払ってこなかった。
最後の視点は、ILPは、人々が変化に対応し、社会的文脈のなかで自らの人生選択、意思決定、転換(期)を理解することができるように支援することに焦点を定めることにある。ILPは、われわれすべてが、自分自身の人生においても、そして他者の人生においても、さらにはより大きな社会のなかにおいても、チェンジ・エージェントとなれることを提案する。われわれ自身の個人的選択と転換(期)が、地域的コミュニティ、そして地球規模のコミュニティに対してどのように影響を及ぼすかということを理解することが大切である。仕事、家族、学習、余暇は、コミュニティの大きな構成要素であり、それに貢献しているがゆえに、もしもわれわれの個人的な発達、男性と女性の問題、文化的多様性、転換(期)のプロセス、社会的変化などについて理解すれば、われわれはより有効なコミュニティを実現することができると私は考える。ILPの概念の広範な基盤は、知識の多様な分野からの、量的および質的な研究に基づく幅広い文献に由来するものである。
- 6つの重要課題
現在、統合的ライフ・プランニングの概念は、人生における6つの重要課題に集約されており、私の観点では、それらはキャリア・ディベロプメントと意思決定の中心に位置するものである。それらの課題は、従来のキャリア・ディベロプメント理論と実践では無視されるか、ほとんど関心が向けられてこなかったものである。しかしその6つの重要課題は、20世紀の終わりに人類が直面している重要な問題と関係するものであり、新世紀になっても重要であり続けるものであろう。それらの重要課題については、第3章から第8章までの各章で1つずつ解説していくが、ここで簡単に概略を紹介する。
- 重要課題1:変化するグローバルな文脈のなかでなすべき仕事を見つける
世界が単一の地球村になっていくにつれ、非常に多くの社会的ニーズや問題が生じている。そのため、そのすべてを含めることはほとんど不可能に近い。それゆえ、私にとって最も重要と思われるものをいくつかを特定してみた。私が選択した問題は、ローカルとグローバルの両方の場面でなすべき仕事を反映した問題である。私は、読者自身が自分の支援している
人々とコミュニティにとって最も重要と思われる問題を特定し、そのような問題が、どのように人々の仕事の選択や決定に影響するのかを、理解できるように支援することを望んでいる。
- 重要課題2:人生を意味ある全体の中に織り込む
世界中で、女性と男性の両方にとってのキャリア・ディベロプメントが変化しているが、最も劇的に変わっている国は合衆国であろう。1970年代以降、キャリアにおけるジェンダーの重要性と、さまざまな人生の役割に向けた、男性と女性に対する異なったキャリアの社会化に対して、ますます多くの関心が向けられるようになった。女性と男性のそれぞれのライフ・プランニングに影響する内的および外的要因は、異なっているものもあれば、同じものもある。以前、ジェンダー、キャリア、社会的変化に焦点を当てていたBORN FREEの概念は、ILPの基盤の一部を構成している。BORN FREEの概念、プロセス、トレーニングモデルの目的は、男性および女性のためのライフ・キャリアの選択肢を広げることであった。現在その枠組みは、さらに文化とコミュニティを反映するために、「再構築(re-visioned)」中である。その概念は、BORN FREE International(BFI)という名前のグローバルなネットワークを通じて、文化の垣根を越えて大きな反響を呼び起こしている(BORNFREE概念については、第2章でくわしく解説する)。
全体的なライフ・プランニング―社会的、知的、身体的、情緒的およびキャリア的なディベロプメントはもとより、こころとからだとスピリットをも包含する―は、働くことにそれほどまで力点を置く社会とは、どこか相容れないもののように思えるかもしれない。しかし、われわれの人生は都合よく分割できるようなものではなく、その一部で生起したことが、他の部分に影響を与えるということがますます広く認識されるようになってきた。また、人生のなかで職場が占める役割が変化していく今、将来においては、有給の仕事が今日ほどの中心的な位置を占めるということはないかもしれないということも認識されるようになっている。男性も女性も、もはや仕事だけでは自己のニーズのすべてを満たすことができず、より統合された人間になるために、仕事とその他の人生役割の間のバランスを取りたい-「人生全体のなかでの仕事」を理解したい-という願望を表現するようになっている。不可能ではないにしろ、人間にとってこれらすべての分野を一度に発達させることは難しいので、人々は、個人、家族、仕事、そしてコミュニティ特有のニーズと価値観に従って、それらに優先順位を付けるための支援を必要としている。
(つづく)平林