キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。
<ここより翻訳:サニー・s・ハンセン著>
□発達/文脈理論
最近の心理学的文献、特に職業心理学とキャリア・ディベロプメントに関する文献に特徴的なことは、文脈、それも文化的文脈に焦点を当てたものが多く現れているという事実である。このことは、外部に外向きにではなく、伝統的に精神内に目を向けてきた分野においては、特に重要な意味を持っている。最近出ている相当数の文献では、初期の理論の限界を認め、新しい概念化を提案しながら、キャリア・ディベロプメントに対する発達的―文脈的アプローチ(developmental-contextual approach)を容認している。その発達的―文脈的アプローチは、個人の発達を文脈のなかで見ることに焦点を合わせたもので、心理学やカウンセリングがこれまでしばしば批判されてきた、精神内部と個人の内面への過度の強調を避けるものである(Vondracek,LernerとSchulenberg,1986;VondracekとSchulenberg,1992)。
時間的短さ(ブリーフ・カウンセリング)と多様性の懸け橋となるこの多文脈的カウンセリング・モデルは、世界をより相互作用的に関係性のなかで見る方法として、文脈と発達の連携に目を向ける(Steenbarger,1991,1993)。このような文脈理論の世界観は、多文化主義の理論家 Derald Wing Sue(1991)から支持されている。彼はおそらく、文脈理論は多文化理論の要石の1つだと言うであろう。
キャリア・カウンセリングとキャリア・ディベロプメントに関する実践と研究の年報のなかで、E.P Cook(1991)は、発達的―文脈的主題に関する文献が多く現れていることを強調している。その年報は特に、「人生の中での仕事」に関連したアプローチや介入に焦点を当て、1人ひとりが「統合された心理学的存在(integrated psychological beings)」(p.99)として機能することの必要性を強調した。同書はまた、多様な役割に関する文献を引用し、複数の役割カミ女性と男性の人生にどのような影響を与えるかについて注意を向けるように喚起している。この枠組みは、統合的ライフ・プランニングの進展とも一致している。
■ジェンダー役割理論
統合的ライフ・プランニングの1つの次元としてのジェンダー役割について、その重要性をこれからのページで明らかにしていきたい。執筆家や研究者のなかには、ジェンダーによる差異の重要性を認めることを拒否し、ジェンダーという変数を除外しようとする人たちがいる。しかし、ジェンダー役割が必ずしも決定的な問題になっているわけではないことを認めたとしても、男性および女性のキャリア・ディベロプメントにおいて重要であることを私は強く主張する。男性と女性のジェンダー役割の社会化に関する文献が多く現れ、それらがILPの発展に大きく寄与し、ジェンダーの影響とジェンダーの力は、本書のいくつかのテーマの基盤となっている。1970年代後半、1つの概念、1つのプロセス、1つのモデルとしてつくられたBORNFREEプログラムもまた、ILPの理論的基盤の一部になっている(Hansen,1979)。
■ジェンダー役割システム
ジェンダー役割システムは、文化的規範の中核をなすもので、女性にも男性にも大きな影響を与える。このシステムは、態度、感情、行動のネットワークであり、ジェンダー役割のステレオタイプ化の浸透により生じたものである。あらゆる文化が固有のジェンダー役割システムを有し、ある特定の役割を男性と女性それぞれに割り当てているのは明らかである(Chetwynd nd と Hartnett,1977)。以下の3点が、そのシステムの主要な要素である。
1.男性と女性のステレオタイプ その人のジェンダーに従って、2種類の異なった一連の性格特性のうちの1つが割り当てられる。男性のステレオタイプは、支配、独立、攻撃性、問題解決能力によって特徴づけられ、女性のステレオタイプは、従属、依存、受動性、問題に向かうときのより強い主観性によって特徴づけられる。
2.「男性の仕事」と「女性の仕事」の分離 これは、生活手段として、または生活の改善に必要あるいは適切と思われる、異なったタイプの活動の性別による割り当て―すなわち、仕事の区分け―のことである。この仕事の区分けは、いくつかの職業では改善が見られるにもかかわらず、1990年代の今も変わることなく存在している。
3.男性により高い価値を置く 男性に関連する特徴や特性を、女性に関連するものよりも、より重要で高い価値があると見なす。
この15年間に社会はいくつもの重要な変化を経験してきたが、ステレオタイプが依然として存在していること、社会化のパターンはゆっくりとしか変化しないこと、職場には依然として性差による仕事の分離が存在していること(ある程度の調整が行われたにもかかわらず)、そして依然として女性がすることよりも男性がすることにより高い価値が置かれていること、これらの事実に対して反論するものはほとんどいないだろう。
□いくつかの定義
われわれのすべてが、ステレオタイプという用語が意味するものに気づいている。すなわち、単に人々の帰属グループ、この場合は男性か女性かだけに基づいて、1人ひとりの属性とは無関係に何らかの傾向、期待、能力を人に割り当てるプロセスのことである。しかし、いくつか特定のステレオタイプと、それに関連する読者にあまりなじみのない用語に関しては、以下で簡単に説明しておく。
ジェンダー役割のステレオタイプとは、一般的に、女性にも男性にも、それぞれにふさわしいさまざまな役割と活動がある、という思い込みである。ジェンダー特性のステレオタイプとは、一方の性を他方に比べてより特徴づける、ある種の心理学的特徴や行動特性があるとする考え方のことである。したがって、ジェンダー特性のステレオタイプは、ジェンダー役割のステレオタイプとジェンダー役割そのものの両方を含む(Williams と Best,1982)。
ジェンダー差のステレオタイプとは、男性と女性にはそれぞれに「典型的な」特徴や行動様式があるという認識、または、男性とは「こんなもの」、女性とは「こんなもの」という見方のことをいう。ジェンダー役割の指向性とは、男らしさや女らしさ、および男性の役割と女性の役割の社会化を通して、われわれが学習してきた考え方から成っている。ジェンダー役割のイデオロギーとは、男性と女性にふさわしい行動についての規範的見方―すなわち、男性は「こうすべき」、女性は「こうすべき」こと―をさす(KutnerとBrogan,1976)。
社会化とは、行動、役割、態度、信念が次世代へ伝えられていくプロセスをいう。家族、学校、宗教団体、テレビ、職場、仲間同士などの社会化の担い手は、ジェンダーにふさわしい特徴があるというステレオタイプの信念を有していることが多い。キャリアの社会化とは、女性および男性が、性別、人種、階級に基づき、それぞれにふさわしいと考えられる教育上、職業上、そして人生の役割上の選択肢を準備していく人生を通した一連の差別化過程、差別化体験をさす(Hansen,1979)。女性および男性のキャリア・ディベロプメントを検証していくとき、これらの概念と定義を頭に入れておくことが重要である。それらは、ILPとBORNFREEの基盤の1つになっている。
□BORNFREEプログラム
統合的ライフ・プランニングが最も重要視していることの1つが、ジェンダーとキャリアの相互関係性である。私は過去20年以上の専門家としての人生の大半を、人生上の役割と選択におけるジェンダーの影響、そして関連するジェンダー役割問題を研究することに捧げてきた。これが、国家的プログラムであるBORNFREEにつながった。その目標は、キャリアに対するジェンダー役割のステレオタイプ化への影響を減らすこと、そして女性と男性の選択肢を広げ、両者の関係を改善することである。
BORNFREE概念は、私自身のキルトの重要な1片である。私がジェンダーとキャリアの関係を初めて現実として意識したのは、博士号を授与されて大学の助教授に任命された後のことだった。私は、高校、大学を通して、人種差別主義と偏見について―当時私たちはそれを「兄弟愛」について、と言っていた―論説を書くことに深く関わっており、ジェンダー問題についての私の意識は、1960年代半ばから1970年代初めまでは、まだ限られたものであった。ちょうどその頃、女性運動、女性の職場進出の増加、また私の教師および青年期男女のカウンセラーとしての経験、大半が白人男性という環境のなかにいる数少ない女性教授としての経験などを通して、私の意識は高められていった。
私は、自分が結婚かキャリアかといった二者択一の選択はしたくない、と思っていることを自覚していた。その二者択一は私の世代の多くの女性に示唆されていた選択であり、それを私の周りの女性教授のほとんどは受け入れていなかった。そのため、女子学生をまともに受け入れようとしない教授もおり、大学は女性教員にとってはあまり居心地の良い環境ではなかった。ジェンダー役割と社会化に関するさまざまな文献を深く読み進んでいくうちに、私自身が全体的な人間になる必要があるという意識が強まり、個人と専門職の間の強いつながり、特にジェンダーとキャリアの間の強いつながりに関する私の確信は強まっていった。さらに力強い影響をもたらしたのは、私の子どもたちであった。1人の娘と1人の息子の母親として、私は2人が家に持ち帰ってくるジェンダー役割のステレオタイプを直接体験した(私と夫はそれを取り除くのに大変苦労した)。
このような高まりつつある意識のなかから―あるいはそれと共にBORNFREEプログラムは生まれた。BORN FREEは、幼稚園から中等教育後、そして大学教育レベルの段階までの少女と少年、男性と女性の、人生上のキャリアの選択肢を拡大するために設計された研究およびトレーニングのプログラムである。それは拡張されたキャリアの定義に立脚したプログラムであり、両性に焦点を当てているという点であまり例を見ないものであった。BORN FREEは主に教育者と親に的を絞った間接的介入であり、その主な貢献は、うつの領域、すなわち、キャリア・ディベロプメント、ジェンダー役割の社会化、そして社会的および教育的な変化を関連づける最初のジェンダー平等プログラムの1つとして、存在し続けていることである。
BORN FREEには2つの意味がある。その用語は、文字通り、われわれ人間はステレオタイプから自由に生まれてくるが、その後の社会化という過程を通してそれを学習するため、それを脱学習しなければならないということを意味している。しかしその用語はまた、そのプログラムがいかなるものかを正確に表現した言葉の頭文字を合わせたものでもある。すなわち、to Build Options for both women and men(女性と男性の両方にとっての選択肢を構築する)、to Reassess the Norms through which we have all been socialized(社会化を通して身に付けてきた規範を再評価する)、to Free Roles of both men and women in work and family(仕事と家族における男性と女性の両方の役割を解放する)to do this through Educational Equity(それを教育の平等を通じて行う)、すなわちあらゆる種類、レベルの教育機関における、気づきの促進とアクション・プランである(図2.2のBORN FREEのロゴを参照)。
BORN FREEの基盤となっているいくつかの前提は、男性と女性の人生および社会で生じている変化に基づいているが、それらは、本書のあらゆるところで強調されている。以下にそれを示す。
1.女性も男性も、社会におけるジェンダー役割のステレオタイプが蔓延したことと社会化によって、キャリア・ディベロプメントが著しく制限されている。女性のステレオタイプがあるのと同様に、男性のステレオタイプもある(詳細については第4章で検討する)。
2.発達に対するこのような障壁を、特定の個人や集団の責任とすることはできない。なぜなら、われわれは全員、われわれの社会化の産物であるからである。ほとんどの社会はこのようにして進化する。男性と女性はパートナーとして、キャリアに関係するジェンダー役割のステレオタイプの問題だけでなく、その他の社会的障壁の問題にも、協力して対応する必要がある。
3.学生は教育課程のどの段階でも影響を受ける。教育者と親は、キャリア・ディベロプメントを支援する促進要因だけでなく、それを制限する家庭や学校における阻害要因についても認識する必要がある。
4.システム的な介入と、男性と女性の両方によって展開されるアクション・プランを通じて、教育者と親は、すべての教育レベルで男性と女性の両方の機会を広げるために、より人間的な学習環境を創造するように尽力することができる。
(つづく)平林