基礎編・理論編

BORN FREEは、1つの概念、1つのプロセス、そして1つのモデル | テクノファ

投稿日:2022年11月13日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。
<ここより翻訳:サニー・s・ハンセン著>
すでに述べたように、BORN FREEは、1つの概念、1つのプロセス、そして1つのモデルである。その概念は、キャリア・ディベロプメント、ジェンダー役割理論、教育と社会の変革のうつの実質的な領域に焦点を当てている。そのプロセスは、協働、コンサルテーション、そして、参加者へ変化の原理と組織の変化について訓練し教えることなどである。そのモデルは、どのようにして組織の変化が起こるか、そして、どうすればいま自分がいる組織のなかで、チェンジ・エージェントとなることができるかを示すものである。BORN FREEは、教育および社会を変革するという私自身のコミットメントから多くのものを受け継いでいる―その視点は、必ずしも自然科学および行動科学が求めている客観性とは相容れないかもしれない。

私は、中西部の小さな町の低所得家庭に生まれ育った。その後、私は専門家としての人生の大半を通じて、カウンセラーは人間の発達に貢献するチェンジ・エージェントになるようにと教えてきた。そして私は今、人生の選択肢と人生すべての側面に影響を与えている社会的、政治的、経済的、その他の環境要因を非常に強く感じている。教育者と親たちに、チェンジ・エージェントになるように教えることに強く力点を置くことは、BORN FREEの他に例を見ない特長である。どんなに優れた考えやプログラムであっても、変化に抵抗する人々によって妨害されることがあり得るということを、われわれはみな知っている。組織の変革と変化のプロセスの原理が用いられたのは、抵抗に立ち向かうためだけではなく、BORN FREE戦略と介入のためのシステム的な支援を得るためでもあった。

BORN FREEの目標の1つは、波及効果を生むことである。つまり、トレーニングを受けた人々が所属する組織に帰り、今度はそこで他の人々をトレーニングし、それらの人々と共にわれわれの努力の最終的な受益者になることである。参加者に大きな影響を与えたことを示す多くの証拠がある。BORN FREEが提供したマルチメディア資料(音声、映像、文字を組み合わせた資料)の強さ、キャリア、ジェンダー役割そして社会変革を結びつける概念の魅力、予期した通りの波及効果の達成などである。しかし1990年代半ばの現在、男性と女性の間だけでなく、あらゆる人種、民族、身体的障害を抱えた人々、その他のグループの間の平等を真の平等に近づけるためにしなければならないことは山積している。この目標に向かって、BORN FREEは現在「再構想(reenvisioned)」中であり、文化のより全体的な概念を強調するために更新中である。

この15年間に、BORN FREEは、教師教育、カウンセラー教育、女性センター、メディア・プロジェクト、そして人間関係とジェンダーの平等のためのプログラムおよびプロジェクトを通じて広く波及し、その成果と参加者の態度についての評価がいくつか行われた。しかし多くの事実が、依然としてステレオタイプ化、偏見、差別の問題が存在していることを示している。1970年代には、われわれは性役割ステレオタイプ化(sex-rolestereotyping)という用語を使っていたが、現在はジェンダー役割のステレオタイプ化という用語を好んで使っている。本書では、男性または女性であることの生物学的状態については性(sex)という用語を使い、生後与えられた社会的な役割についてはジェンダー(gender)という用語を使うことにする。

■女性の発達理論
ILPの背景にある考え方の多くが、女性の発達に関する新たに出版された文献、そして最近では「新しい男性(new male)」の発達に関する文献に端を発した。同様に重要なものが、今も広がりを見せている仕事と家族についての議論である(Hansen と Rapoza,1978)。本書の性質上、それらすべての文献について検証することはできないが、男性と女性の、統合された、つながりのある、ジェンダー役割的な発達を支援する文献に注意を向けることが大切である。女性によって展開された理論と研究のいくつかを以下に紹介する。

女性心理の理解に向けた新しいアプローチが、1970年代半ばに紹介された(Miller,1976)。真正性(authenticity)、支配と従属、自尊心、力と自己決定、葛藤、親和と愛着(アフィリエーションとアタッチメント)などの問題に関する知見を検証するために、数人の女性の経験について研究が行われた。Millerの研究は、人種や階級に関する問題に意識的には触れていないが、すべての女性に影響を及ぼす力を識別した。この新しい、関係のなかの自己というアプローチは、女性の人生の概念化において画期的なものであった。

関係のなかの自己という概念は、過去20年間の女性に関する研究の大半を支配してきた。初期の関係のなかの自己理論の1つが、女性の声はケアの倫理の象徴であるという考え方を提示した。それはKohlbergの道徳性発達段階の女性への適用に一石を投じ、青春期および成人期の女性の人生に関する多くの量的および質的研究を生み出す引き金となった(Gilligan,1982)。

ニューイングランドの大学およびコミュニティの女性を対象とした研究が行われ、女性の「自己、声、心(self, voice,and mind)」の発達を分析し、6つの「女性の知ることの方法(women’s ways or knowing)」を類型化した。それらは、受け入れられた知識(received knowledge)すなわち、他者の声を聞くことによって得られた知識、自己の内なる声である主観的知識(subjective knowledge)、自己決定と修正された自己概念の探索としての主観的知識(subjective knowledge)、理性的で客観的な手続き的知識(pro-cedural knowledge)、(男性に重ね合わされる)断片化された、および、(もう一方の女性に重ね合わされる)つながれた手続き的知識(procedural knowledge)、構築された知識(constructed knowledge)すなわち、女性の声を統合したもの、である。著者らは声と沈黙の比喩を用いて、最も真実である知識は、女性自身の体験と物語りを通して獲得された知識であることを示した(Belenky,Clinchy,GoldbergerとTrule,1986)。

マサチューセッツ州ウェルズリーのストーン・センターの理論家たちは、関係のなかの自己概念をさらに発展させた。それらの人々は女性の自己概念は、達成よりも関係を重視し、自律よりも結びつきを重視すると主張し、女性の発達における関係のなかの自己理論を提案した(Jordanら、1991)。その理論は、Jean Baker Millerを含む何人かの研究者によって、女性の人生における以下のようなテーマに関して詳細に検討された。自己感覚、共感、相互性、母と娘、依存、力、抑うつ、禁忌とされている仕事、摂食パターン、そしてセラピーへの影響。研究者の視点は、以下のように要約することができる。

われわれの文化は、人生の自主的で、個人主義的で、競争的で、孤独な面を過度に強調してきた。そして、関係性の重視、ケアへの没頭、つながりへの要求が過小に評価されるなかで、女性はそれに耐えてきた。(中略)そしてもちろん、女性は自由を享受すべきであり、他者の利益のためだけでなく、自分自身の喜びのために、自らの創造的、知的能力および自己表現能力を発展させ、発揮するように鼓舞されるべきである。(中略)女性にとっては、自己表現と関係性の強化を両立することが特に重要である。というのは、われわれ自身に対する感覚の多くが、関係性という文脈のなかで形作られているからである。他者とつながり接触しているという感覚は、多くの場合われわれに、自己の存在意義と現実についての最も深遠な感覚をもたらすからである(Jordanら,1991,P.289)。

しかし、女性の人生を関係性のなかで定義する(あるいはすべき)ことに全員が同意しているわけではない。それを、「性差フェミニズム(difference feminism)」(すなわち、ジェンダー差理論の永続化)であるとして批判し、それは女性をエンパワーするどころか、現状維持の手段となり、女性の人生の最も重要な側面の1つ―経済力―を無視していると批判する理論家もいる(Pollitt,1992)。

ポストモダンの視点から、ジェンダーの違いが強調されすぎてきたという立場をとる別のフェミニストの理論家もいる。彼女らは、ジェンダーは人間社会によって創造された現実世界のイデオロギー的構築物であり、それは構築されたものであるがゆえに、脱構築することもできると主張する(Hare-MustinとMaracek,1990)。彼女らは2つの前提に基づいて、性、心理、個人差に関する伝統的な心理学的解釈を批判する。(1)男性と女性の間の差異は、大半が作られたものであり、ジェンダーは両性の間の本質的な差異を表す自然なカテゴリーではない。(2)われわれがジェンダーの違いを定義する仕方が、すなわち、われわれがジェンダーをどのような意味に解釈するかが、真の差異を生み出している。著者らは次のように述べている。「われわれがジェンダーという言葉から思いつくもの、そしてわれわれが男性と女性を定義する仕方、それらが、人々が自分自身と世界を見る見方に大きな影響を及ぼす。ジェンダーの意味はまた、行動、社会的な取り決め、そして、仕事、生殖、育児、教育、家族などの極めて重要な社会システムにも影響する」(p.5)。

Hare-MustinとMaracekは、心理学、ジェンダー、差異に対する新しいアプローチを提唱し、「フェミニスト構成主義を作り上げることは可能で、それは女性の生きた体験を中心に置くことができる」(1990,p.195)と主張した。Belenkyらと同様に、彼女らは、知ることの唯一の方法としての古い論理実証主義的パラダイムを拒否し、主観的なものと客観的なものの両方を肯定し、人間の経験を解釈するための基礎と方法についての不確実性をより大きく認容したうえで、知識に対するより開かれたアプローチを探究する。これらの理論は、これまでの心理学は女性を心理学の本流から排除し、女性の人生を主に男性との関係のなかで解釈し、そして、心理学を発展させる新しい方法と同様にポストモダン時代の新しい包含的な心理学の必要性がある、ということを認識するという点において共通の基盤を有している。
(つづく)平林

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