新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。ここでは厚生労働省の白書からキャリアコンサルタントが知っておくべき情報をお伝えします。
第15節 ハンセン病対策の推進
1 ハンセン病問題の経緯について
1996(平成8)年4月に「らい予防法の廃止に関する法律」が施行され、入所者などに対する必要な療養、社会復帰の支援などを実施してきました。その後、国を被告とした国家賠償請求訴訟が熊本地裁などに提起され、2001(平成13)年5月に熊本地方裁判所で原告勝訴の判決が言い渡されました。政府は控訴しないことを決定し、5月25日に「ハンセン病問題の早期かつ全面的解決に向けての内閣総理大臣談話」を公表、同年6月22日に「ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律」(以下「補償法」という。) が公布・施行され、入所者などに対する補償を行うこととしました。さらに、2006(平成 18)年2月に補償法が改正され、国外療養所の元入所者についても補償金を支給することとしました。
その後も、厚生労働省と元患者の代表者等との間で、定期的に「ハンセン病問題対策協議会」を開催し、名誉の回復や福祉の増進の措置などについて協議を行っています。元患者の方々に対しては、裁判による和解金に加えて、2002(平成14)年度から、退所者の生活基盤の確立を図るための「ハンセン病療養所退所者給与金」、死没者の名誉回復を図るための「国立ハンセン病療養所等死没者改葬費」、2005(平成17)年度から、裁判上の和解が成立した入所歴のない元患者が平穏で安定した平均的水準の社会生活を営むことができるための「ハンセン病療養所非入所者給与金」の支給を行っています。
また、2016(平成28)年、ハンセン病元患者の家族により、国の隔離政策による偏見や差別の被害等に対する損害賠償を求める訴訟が熊本地方裁判所に提起されて、2019(令和元)年6月に熊本地方裁判所で原告勝訴の判決が言い渡されました。政府は控訴しないことを決定し、7月12日、「ハンセン病家族国家賠償請求訴訟の判決受入れに当たっての内閣総理大臣談話」(以下「令和元年総理談話」といいます。)を公表、同年11月22日に、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が公布・施行され、元患者家族に対する家族補償金の支給を行っています。
2 「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」について
2001(平成13)年の熊本地裁判決を踏まえた補償法の成立・施行やハンセン病問題対策協議会の開催、各種給与金の支給等の取組みにより、ハンセン病の元患者が受けた被害の回復については一定の解決が図られていたが、元患者の名誉の回復、福祉の増進等に関し、未解決の問題が残されていました。このような状況を踏まえ、これらの問題の解決の促進に関して、必要な事項を定めた「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律」(以下「促進法」といいます。)が、2008(平成20)年6月に議員立法により成立し、2009(平成21)年4月1日から施行されました。
これにより「らい予防法の廃止に関する法律」は廃止され、促進法の下、①国立ハンセン病療養所等における療養及び生活の保障、②社会復帰の支援並びに日常生活及び社会生活の援助、③名誉の回復及び死没者の追悼、④親族に対する援護などに関する施策が実施されることとなりました。また、2014(平成26)年11月に促進法の一部が改正され、ハンセン病療養所退所者給与金受給者の配偶者等の生活の安定等を図るための「特定配偶者等支援金」を2015(平成27)年10月から支給しています。さらに、2019(令和元)年11月には名誉の回復等の諸規定の対象に、ハンセン病の患者であった者等の「家族」を対象として追加することなどを内容とする改正法が公布・施行されました。
3 ハンセン病の歴史に関する普及啓発の取組みについて
ハンセン病及びハンセン病対策の歴史に関する正しい知識の普及啓発として、2002 (平成14)年度から中学生向けのパンフレットを作成し、全国の中学校などに配付するとともに、厚生労働省等の主催で「ハンセン病問題に関するシンポジウム」を開催しています。また、2009(平成21)年度から、補償法の施行の日である6月22日を「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の日」とし、厚生労働省主催の追悼、慰霊と名誉回復の行事を実施しています。2011(平成23)年度には、厚生労働省玄関前に「らい予防法による被害者の名誉回復及び追悼の碑」が建立され、追悼等の行事に併せて除幕式が執り行われました。
国立ハンセン病資料館については、2007(平成19)年の再オープン以来、①普及啓発の拠点、②情報発信の拠点、③交流の拠点として位置づけて、ハンセン病及びハンセン病の対策の歴史に関するより一層の普及啓発に向けた取組みを行っています。また、ハンセン病に対する偏見・差別の早期かつ抜本的な解消が実現されるよう、普及啓発活動の一環として、ハンセン病隔離政策の歴史において象徴的な施設である重監房(特別病室)の一部を再現し、更なる啓発活動に資するため、群馬県草津町に重監房資料館が整備され、2014(平成26)年にオープンしました。
2016(平成28)年は「らい予防法」が廃止されてから20年という節目の年でもあり、今後の普及啓発の在り方を検討するために「ハンセン病資料館等運営企画検討会」を開催し、2017(平成29)年3月に検討内容を提言として取りまとめました。2019(令和元)年からは、同年の家族訴訟熊本地裁判決及び令和元年総理談話を受けて、ハンセン病の患者・元患者やその家族が置かれていた境遇を踏まえた人権啓発、人権教育などの普及啓発活動の強化等に向け検討を進めるために、法務省、文部科学省も参画する「ハンセン病に係る偏見差別の解消に向けた協議」を開催しています。
第16節 カネミ油症患者に対する総合的な支援策の実施
カネミ油症患者に対する総合的な支援策の体系について。
カネミ油症事件は、1968(昭和43)年10月、カネミ倉庫株式会社製造のライスオイル(米ぬか油)中に、脱臭工程の熱媒体として用いられたカネクロール(ポリ塩化ビフェニル(PCB)やダイオキシン類の一種など)が混入したことを原因とする大規模な食中毒事件で、被害は、西日本を中心に広域に及びました。
カネミ油症の患者への支援については、これまで、原因企業であるカネミ倉庫株式会社(以下「カネミ倉庫」という。)が医療費等の支払を行ってきたが、政府としても油症治療研究班による研究・検診・相談事業の推進やカネミ倉庫に対する政府所有米穀の保管委託を通じた支援を行ってきました。2012(平成24)年8月には、超党派の議員連盟等における新たな総合的な支援策を講ずるべきとの意見を踏まえ、議員立法により「カネミ油症患者に関する施策の総合的な推進に関する法律」(平成24年法律第82号)が成立し、この法律に基づいて、カネミ油症患者の支援を行っていくこととなりました。
同法やカネミ油症患者に関する施策の推進に関する基本的な指針(平成24年厚生労働省・農林水産省告示第2号)に基づき、2012年12月に油症診断基準が改定され、新たな基準に基づき、333名(2021(令和3)年3月31日現在)がカネミ油症患者として認定されています。また、2013(平成25)年度からカネミ油症患者に対する健康実態調査を実施し、毎年度調査に協力いただいた方々に健康調査支援金(19万円)を支給しています。また、2015(平成27)年9月にカネミ油症患者に関する施策の総合的な推進に関する法律施行後3年を迎えたことから、三者協議で意見交換を実施し、法附則第2条の検討規定に基づく必要な措置の一環として、相談体制の充実など4つの支援措置を実施するため、2016(平成28)年4月1日にカネミ油症患者に関する施策の推進に関する基本的な指針の一部改正を行いました。
2021(令和3)年1月に第16回の国(厚生労働省、農林水産省)、カネミ倉庫、カネミ油症患者による三者協議が開催され、カネミ油症患者に関する施策の推進のために必要な事項について協議を行いました。
(つづく)I.K