今回はキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。横山先生の翻訳を紹介しながら、彼の思想の系譜を探索したいと思います。
★世界人口問題に取り組む
世界人口問題は、人権上の重大な懸念事項である。世界中で多くの女性が、自分自身の身体について意思決定する権利を否定されている。合衆国と多くの発展途上国で、子どもを産む子ども、そしてその結果として適切な世話、栄養、育児、あるいは、肯定的な未来へのビジョンのない世界へ生まれる新生児について強い懸念がある。国務省の人口問題担当官であるTimothy Wirthによれば、その結果は、飢餓であり、環境問題であり、政治的不安定である。彼は、人々は妊娠中絶問題と人口抑制問題を混同していると指摘する。彼は家族計画を、世界の人口増加を抑制し、世界的人口危機を避ける1つの方法として見ている(Sternberg,1994)。妊娠および生殖の自由、自分自身の人生と未来をコントロールするための女性の能力という問題は、文化を越えた多くのニーズのなかにある問題である。カウンセリング、キャリア、人間の発達におけるそれらの重要性は、いくら強調してもし過ぎることはない。
□変化するジェンダー役割を受け入れる
世界中で女性と男性の役割が、両者の関係性と同様に変化しつつある。どのくらい変化したかは、さまざまな要因―ある文化における男性と女性の歴史的地位、その文化において宗教が占める位置づけと宗教のジェンダー役割への影響、社会的政治的風土、政治制度への女性の参加度、女性の教育(と基本的な読み書き)、医療状態(特に避妊具の入手しやすさと性教育)、そして結婚と財産に関する法律など―に依存している。
仮に、変化を直線で表すこととしその線上に国々を置いたとすると、女性の権利に関するかぎり、検討する項目あるいは状況によって、各国はそれぞれ違うところに位置づけられるだろう。人口危機会議(1988)は、結婚と子ども、教育、健康、社会的平等、雇用を含む多くの評価基準について、世界99カ国の女性の地位を比較し、多くの評価基準でそれぞれ異なる国が上位に入っていることを見出した。総合で上位に入った国は、フィンランド、スウェーデン、ソ連邦、ノルウェー、合衆国であった。合衆国は教育の面で最高位だったが、全体では25点満点中22点で、ノルウェーと同点の4位であった。
こうした上位の国々と、最下位に属するバングラデシュ、サウジアラビア、エジプト、シリア、ナイジェリアなどの発展途上国との間には大きな開きがあり、それらの諸国の得点は、5.5点から8.5点までであった。その他の南アジアやアフリカ諸国も、政治的で法的な問題、経済的な問題、家族内の平等の問題によって最下位群に位置づけられた。
ロシアと東欧諸国(チェコスロヴァキア、ポーランドなど)の女性の地位に関する最近の多くの報告は、女性が、平等の追求におけるこれまでの地歩を失ったことを明らかにしている。
欧州評議会主催のジェンダー役割に関する重要な会議である「変化するヨーロッパにおける女性と男性の平等に関する会議(The Conference on Equality Between Women and Men in a Changing Europe)」が、1992年3月にポーランドのワルシャワで開催された。参加者は、民主主義の進展のためには、女性と男性の間に平等な地位がなければならないということに賛同した。大会は以下の提言を採択して閉幕した(Estor, 1994)。
1.男女間の平等は、民主主義と人権の実現にとって最重要課題である。
2.ヨーロッパの政治的変動や、権力の平等な分配を求めて女性がこれまで築いてきた地歩を失ったという事実によって、平等を促進するための挑戦は多大である。
3.社会と経済の変化は、労働力への参入、訓練、仕事と家族、および労働報酬における男女間のより平等へと方向づけられなければならない。
4.自分たちの関係と家族設計を決定する自由と責任に関する女性と男性の人権は、強化されなければならない(この問題は頻繁に起こるため、これについて多くの議論が交わされた)。
5.ヨーロッパ評議会とその参加国は、男性と女性にとっての平等の権利を、それらが後援するいかなる協同的で専門的な支援プログラムのなかへも、十分に統合しなければならない。評議会は、平等を促進するための法律的文書(たとえば、欧州人権条約に含めること)、情報と認知およびその他の平等へ向けた戦略と仕組みを活用すべきである。
これは、世界がジェンダー問題に取り組み、男女間の役割を変えようとしている動きの一部分であり、一例である。スカンジナビア諸国はまた、何年も前からリーケスティーリング(likestilling:男女の地位の平等)の問題に取り組んできた。そしてそれらの諸国は、その問題に女性の視点のみからではなく、男性と女性の両方の視点からアプローチする。いくつかの国々は、仕事と家族のつながりに気づいている。日本が1987年に男女雇用機会均等法を成立させたとき、日本政府は、「仕事と家族の調和(Harmonizing Work and the Family)」について検討した文書を作成した。このテーマは、過去10年間の合衆国における多くの研究と議論を刺激した(この主題については、第5章でさらに詳しく検討する)。
(つづく)平林