コロナ感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。
● 精神保健医療福祉の現状と課題について
精神疾患の総患者は、2017(平成29)年は419.3万人(入院患者数30.2万人、外来患者数389.1万人)となっており、いわゆる5大疾患(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)の中で最も多い状況となっています。
近年の、精神病床における新規入院患者の入院後1年以内の退院率は約9割でほぼ横ばいではあるが、退院患者の平均在院日数は減少傾向にあります。1年以上の長期入院患者も減少傾向にありますが、2017年は17.1万人であり、入院患者の過半数を占めています。
また、うつ病等の気分障害や認知症の患者数が増加し、薬物依存や発達障害への対応等の社会的要請が高まっているなど、精神科医療に対する需要は多様化しています。さらに、近年は、身体拘束の判断や本人の同意によらない入院の判断等を行う資格を持つ精神保健指定医の診療所開業が増えている一方で、ニーズの高まっている病院での急性期医療に携わる人材が不足するなどの課題が生じています。
<精神保健医療福祉の取組状況について>
これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書(概要)(平成29年2月8日)につきまして。精神保健医療福祉に関しては、2004(平成16)年9月に、厚生労働大臣を本部長、省 内の関係部局長を本部員として発足した精神保健福祉対策本部において、精神保健福祉施策の改革ビジョン*1を決定して、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念を示しました。その後、2009(平成21)年9月の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」報告書*2では、精神保健医療福祉体系の再構築や精神医療の質の向上などに関する様々な提言がなされました。
さらに、1の現状と課題を踏まえ、保護者に関する規定の削除、医療保護入院の見直し等を盛り込んだ「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」の一部を改正する法律(平成 25年法律第 47号。以下「平成25年改正法」といいます。)が2013(平成25)年6月13日に成立して、同月19日に公布、2014(平成26)年4月に施行しました。
また、2014年3月には「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念に沿って、精神障害者に対する保健医療福祉に携わる全ての関係者が目指すべき方向性を定める指針として、「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」を公布しました。
この指針において、長期入院精神障害者の更なる地域移行が引き続きの検討課題とされて、2014年3月から7月まで「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」で検討が行われて、今後の方向性*3が取りまとめられました。
検討会の取りまとめでは、長期入院患者の実態を踏まえ、退院意欲の喚起や本人の意向に沿った移行支援といった退院に向けた支援と、居住の場の確保などの地域生活の支援に分けて、それぞれの段階に応じた具体的な支援を徹底して実施することが盛り込まれました。
さらに、この基本理念をより強力に推進する観点から、2016(平成28)年1月から開催された「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(以下「あり方検討会」といいます。)が取りまとめた報告書の内容及び社会保障審議会障害者部会の議論を踏まえて、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」が新たな政策理念として掲げられました。
これを受けて、2017(平成29)年度より、精神障害者が地域の一員として安心をして自分らしい暮らしをすることができるように、第5期障害福祉計画(2018(平成 30)~2020(令和2)年度)において、保健・医療・福祉関係者による協議の場の設置を成果目標とすることとして、障害保健福祉圏域ごとの保健・医療・福祉関係者による協議の場を通じて、精神科病院等の医療機関、地域援助事業者、自治体等、関係者間の顔の見える関係を構築して、地域の課題を共有化した上で、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」に資する取組みを推進しています。
また、「平成25年改正法」附則の検討事項のほか、措置入院後の継続的支援のあり方や、精神保健指定医の資格の不正取得の防止等の観点から精神保健指定医の指定のあり方等を検討し、あり方検討会においては、今後の取組みが報告書に盛り込まれました。
本報告書の内容を踏まえ、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案」が2017年2月に閣議決定され、第193回国会に提出されました。同法案は参議院先議で参議院で一部修正の上可決され、衆議院で継続審議となったが、2017年9月の衆議院の解散に伴い廃案となりました。
2018年3月には、現行法下においても、各地方公共団体が、精神障害者が退院後に円滑に地域生活に移行できるようにするための退院後支援の取組みを進められるよう「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」を作成するとともに、全国の地方公共団体で、措置入院の運用が適切に行われるように、「措置入院の運用に関するガイドライン」を作成し都道府県知事等宛てに通知しました。
*1 「精神保健医療福祉の改革ビジョン」について https://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/tp0902-1.html
*2 「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」(今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会報告書)について
*3 「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策の今後の方向性」について
(つづく)K.I