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● 保健医療分野における国際貢献
近年、厚生労働行政の多くの分野で、国際社会での動きと国内政策が連動するように なっています。例えば、新型コロナウイルス感染症の世界的流行のように、感染症は国境を越えて世界の社会経済に大きな影響を与えるほか、高齢化の進展や生活習慣病の増加は、世界保健機関(World Health Organization:WHO)の総会やG7、G20サミット等でも取り上げられる大きな課題となっています。
(1)世界保健機関(WHO)
WHOは、全ての人々が可能な最高の健康水準に到達することを目的とし、感染症対策、医薬品・食品安全対策、健康増進対策等を行う国際機関です。日本は、総会や執行理事会における審議や決定等に積極的に関与しています。
WHOにおける取組みの一つとして、2005(平成17)年の国際保健規則(International Health Regulations:IHR)の改正があげられます。この改正により、加盟国は「原因を問わず、国際的な公衆衛生上の脅威となりうる、あらゆる事象」を評価後24時間以内にWHOに通報をし、その後も引き続き詳細な公衆衛生上の情報をWHOに通報することとなり、日本は、2009(平成21)年の新型インフルエンザ(A/H1N1)の国内発生や、 2011(平成23)年3月の東日本大震災の発生に当たっても、IHRに基づき通報を行いました。2020(令和2)年1月にWHOがPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)に該当すると宣言した新型コロナウイルス感染症についても、日本はIHRに基づいた通報を行っています。また、各国のIHRの履行状況を評価し健康危機管理体制を強化するための取組みとしてIHR合同外部評価(JEE)が2016(平成28)年からWHOで開始され、我が国は2018(平成30)年2月末に本評価を受けるとともに、毎年IHRのモニタリング調査を行っています。2020年5月及び11月に開催された第73回WHO総会では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを含む健康危機対応やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)達成に向けたプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)、持続可能な予算等について、議論されました。
【参考】令和2年度世界保健機関拠出金 1,897,413千円
(2)G7及びG20
2019(令和元)年5月にフランスで開催されたG7パリ保健大臣会合では、健康の不平等を改善するためのPHCの推進、Global Fund増資会合への対応等が記された宣言文が採択されました。同年6月に日本が議長国となって大阪で開催したG20財務大臣・保健大臣合同セッションでは、途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジファイナンス強化の重要性に関するG20共通理解文書に対するコミットメントが確認されました。また、同年10月に開催したG20岡山保健大臣会合では、①UHCの達成、②高齢化への対応及び ③健康危機・薬剤耐性(Antimicrobial Resistance:AMR)に関する宣言文が採択されました。
2020(令和2)年4月にサウジアラビアが議長国としてヴァーチャル会議で開催され たG20保健大臣会合では、①新型コロナウイルス感染症における国内の取組みや国際協 力、②デジタル技術の活用、③患者安全、④保健システムにおける価値の向上(Value Based Health Care)、⑤AMRについて議論し、同年11月に大臣宣言文をとりまとめました。また、同年2月からアメリカが議長国として電話会議で開催されたG7保健大臣会合では、各国の新型コロナウイルス感染症への対応等について多くの意見交換を行いました。
(3)経済協力開発機構(OECD)
経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)は、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、経済成長、貿易自由化、途上国支援に貢献することを目的とした37か国からなる国際機関であり、国際経済の「スタンダード・セッター」、「世界最大のシンクタンク」とも呼ばれています。
OECDの保健医療分野に関する事業の主な活動として、保健医療分野の政策分析・研究、それらに関する議論を行う「医療委員会」の開催及びOECD加盟国等の保健関連統計データ(「ヘルスデータ」)の収集・編纂を行っており、こうした客観的な政策分析や国際比較データは、厚生労働省関連の政策を検討する際の一助になっています。
厚生労働省では、医療委員会に参加し、OECDの作業に対して方向性を示すことや日本の事例をOECD加盟国に紹介することで、積極的な貢献を行っています。2017(平成29)年1月にフランスで開催された第3回OECD保健大臣会合では、医療分野での効率化のための日本の取組みを紹介したほか、高額な医療に関して、患者にとっての価値を最大化し、医療保険制度の持続可能性とイノベーションを均衡させるため、率先して取り組む決意を表明しました。
(4)東南アジア諸国連合(ASEAN)
東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian Nations:ASEAN)と日本、 韓国、中国の3か国との連携強化の流れの中で、厚生労働分野では、保健、労働及び社会福祉の分野ごとにASEAN+3の担当大臣会合・高級事務レベル会合が行われており、積極的に参加しています。保健分野においては、2019(令和元)年8月にASEAN+3保健大臣会合がカンボジアで開催され、「ASEANの全ての人々の健康増進」をテーマとして議論を行い、ASEAN+3の保健開発に係る協力について、アジア太平洋・新興感染症対 処戦略(Asia Pacific Strategy for Emerging Diseases:APSEDⅢ)を通じたIHRの 履行能力強化やUHC、非感染症疾患(Non-communicable disease:NCDs)対策の重要性、今後の更なる密接な協力の必要性等が盛り込まれた共同声明が採択された。また、2013(平成25)年から日・ASEANの枠組みで高齢化対策に関する政策対話や二国間協力を推進している。ASEAN諸国における高齢化施策の現状を整理し、アクティブ・ エイジング(Active Aging)の達成に向けて必要な人的資源、施策等を検討するために、2014(平成26)年からASEAN日本アクティブ・エイジング地域会合を開催し、2017(平成29)年6月にフィリピンで開催した第3回ASEAN日本アクティブ・エイジング地域会合では、①Healthy and Active Ageingに係る地域戦略、②現在及び今後の取組み、 ③Healthy and Active Ageingの実現に必要なアクション、④Healthy and Active Ageingに係る政策とアクションの実施に向けた目標・指標のテーマについて議論を行った。同年7月には、UHCと高齢化をテーマに日ASEAN保健大臣会合を初めて開催をし、 2030(令和12)年までに各国がUHCを達成するための施策をまとめた「日ASEAN UHCイニシアティブ」を発表しました。
2020(令和2)年4月に開催された新型コロナウイルスに係る協力強化に関する ASEAN+3保健大臣特別ビデオ会議では、インドネシアとともに、日本が共同議長国として進行役を担い、新型コロナウイルスへの対応に関する情報共有及びASEANにおける新型コロナウイルス対応強化のための協力・協調の推進に向けた意見交換が行われました。採択された共同宣言では、新型コロナウイルスに関する情報等の自由・オープン・透明かつタイムリーな共有を強化することや、ASEAN+3としての協力を継続し強化すること等が言及されています。
(5)日中韓三国保健大臣会合
2020(令和2)年5月にテレビ会議形式で開催された新型コロナウイルス感染症対策 に関する日中韓三国特別保健大臣会合では、新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの準備と対策に関し議論を行い、「新型コロナウイルス(COVID-19)感染症に関する日中韓三国特別保健大臣会合共同声明」が採択されました。
また、2020年12月にテレビ会議形式で開催された第13回日中韓三国保健大臣会合では、新型コロナウイルス感染症対策に関して①経験の共有、②予防やコントロールにおけるICTの役割、③診断、治療、ワクチンの協力などについて議論し、新型コロナウイルス感染症の予防及び管理に関する協力の推進、ICT活用の分野における好事例の共有等の協力の強化、新型コロナウイルス感染症の診断と治療における協力の推進、がん対策や高齢化における三国間の協力の強化を内容とする「第13回日中韓三国保健大臣会合共同声明」が採択されました。
(6)その他の国際保健分野への取組み
世界的な健康危機管理の向上及びテロリズムに係る各国の連携強化等を目的とし、G7 とメキシコ、欧州委員会(EC)の保健担当閣僚等の会合として、世界健康安全保障イニ シアティブ(Global Health Security Initiative:GHSI)が毎年開催されている。2019 (令和元)年には、フランスで閣僚級会合が開催され、コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱対策について議論が行われました。
また、世界各国での感染症対策の能力を向上させることを目的とし、米国主導で50か国以上の国、WHO等の国際機関が参加している保健や財務、動物分野の閣僚等の会合 として、世界健康安全保障アジェンダ(Global Health Security Agenda:GHSA)が定期的に開催されています。我が国は2018(平成30)年から2019年までAMRのアクショ ンパッケージの共同議長を英国と共に務めました。2020(令和2)年11月には、タイが主催する閣僚級会合がテレビ会議形式で行われて、「世界の健康安全保障のための協力的な行動」をテーマに、多分野における関係者の関与強化及び健康危機への経済的な備えの重要性について議論が行われました。
そのほか、2021(令和3)年2月にTokyo AMR One-Health Conference (AMRワンヘルス東京会議)」を開催し、2016(平成28)年4月のAMRアジア保健大臣会合にて創設された「AMRに関するアジア太平洋ワンヘルス・イニシアチブ(ASPIRE)」の4つの優先領域である、①サーベイランス・システムと検査機関ネットワーク、②臨床対応、③抗微生物薬基準水準の向上・アクセス、④研究開発を各国で協力して推し進めていくためにワーキンググループを設立しました。
さらに、厚生労働省では、2019年9月開催のUHCに関する国連ハイレベル会合の準備のための議題を2019年1月開催の第144回WHO執行理事会に提出をし、タイ保健省とともに決議案をとりまとめました。そして、2020年1月には、タイ政府と共催して、マヒドン王子記念賞会議(PMAC)2020/UHCフォーラム2020をバンコクで開催し、UHCに関する政治的モメンタムをどのように具体的な施策へつなげるかについて議論を主導しました。
さらに、日本の製薬産業の研究開発力を活かして開発途上国向けの医薬品、ワクチン及び診断機器の研究開発を官民連携で促進する公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(Global Health Innovative Technology Fund:GHIT)、世界的に重大な影響を与えうるが平時において需要が少ないエボラ出血熱等の感染症へのワクチンの研究開発を支援する感染症流行対策イノベーション連合(Coalition for Epidemic Preparedness Innovation:CEPI)及び開発途上国における予防接種体制の整備やワクチン等の普及を支援するGaviワクチンアライアンス(Gavi)において、それぞれガバナンスに深く関与するとともに資金拠出を行っています。新型コロナウイルス感染症の流行を受け、Gavi、CEPI及びWHOを中心として立ち上げられた新型コロナウイルス感染症ワクチンの共同購入枠組みであるCOVAXファシリティ(COVID 19 Vaccine Global Access Facility:COVAX)へ、我が国におけるワクチン確保のための一手段として、また国際的に公平な国際的に公平なワクチンの普及に向けた我が国の貢献として、2020年9月に参加するとともに、COVAXファシリティを通じた途上国支援への拠出を行いました。また、新型コロナウイルスワクチン開発支援のため、CEPIに追加の拠出を行いました。
(つづく)K.I