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● 労働分野での国際社会への貢献
世界的なサプライチェーンの拡大が進み、加えて新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの国で失業者の増加や賃金の減少などの雇用不安が急速に高まっている中で、労働者の権利の保護や雇用の安定にどう取り組んでいくのかは、各国共通の課題となっています。日本国民の健康と生活の安定を守るために、厚生労働省は、WHOや国際労働機関(International Labour Organization: ILO)を始めとする国際機関の活動等へ積極的に参画し、国際社会における課題設定や合意形成に努めています。
(1)G7及びG20
2019(令和元)年6月にフランスで開催されたG7労働雇用大臣会合では、①仕事の世界の変化における個人のエンパワーメント、②社会的保護への普遍的なアクセスの確保、③仕事の世界におけるジェンダー平等の促進をテーマに議論が行われたほか、労使との対話セッションが設けられました。議論の結果、コミュニケ(G7労働雇用大臣宣言)及び政労使三者の共同宣言が採択されました。また、同年9月に日本が議長国として愛媛県松山市で開催したG20労働雇用大臣会合では、「人間中心の仕事の未来」のテーマの下で、①人口動態の変化、②ジェンダー平等、③新しい形態の働き方について議論を行い、「人間中心の仕事の未来の創出」と題する大臣宣言が採択されました。
2020(令和2)年4月にテレビ会議形式で開催されたG20臨時労働雇用大臣会合(議長国・サウジアラビア)では、新型コロナウイルス感染症が労働市場に与える影響と、その影響に対する効果的な対応をテーマに、各国内の取組みや国際協力について意見交換を行い、会合の成果として、「新型コロナウイルスに関するG20労働雇用大臣声明」を採択しました。
また、同年9月にテレビ会議形式で開催されたG20労働雇用大臣会合では、「豊かで繁栄した仕事の世界への移行」のテーマの下で、①働き方の変化を反映した社会的保護、②若年者の雇用の改善、③ジェンダー平等の達成、④労働市場政策に向けた行動インサイトの適用の探求について議論が行われて、労働雇用大臣宣言が採択されました。
(2)国際労働機関(ILO)
ILOは、労働条件の改善を通じて社会正義の実現等に寄与することを目的として、雇用・労働の分野における国際的な取組みを行う機関であり、労働組合や使用者団体も交えた政労使三者構成を特徴としています。日本は、常任理事国となっており、政労使ともに総会や理事会における審議に積極的に関与しています。ILOは、国際労働基準として、これまで190の条約及び206の勧告を採択しており、日本は、このうち49の条約を批准しています。
毎年6月に開催されるILO総会はILOの最高意思決定機関であり、加盟国の政府、労働者、使用者の各代表によって新たなILO条約及び勧告や労働問題等について討議が行われています。2019(令和元)年6月に開催された第108回総会では、「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」が採択されたほか、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する初の国際労働基準となる第190号条約及び第206号勧告が採択され、児童労働等の7つのテーマについてのフォーラム等が行われました。
2020(令和2)年は、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を受け、開催が1年間延期されたが、7月に「新型コロナウイルスと仕事の世界 ILOグローバルサミット」がテレビ会議形式で開催され、新型コロナウイルス感染症の流行が経済・社会に及ぼしている影響、ウイルスとの戦いと復興に関する各国の課題や対応について、議論が行われました。さらに、厚生労働省とILO本部との間では、2017(平成29)年5月に締結した協力覚書に基づき、「日・ILO年次戦略協議」を行っており、2020年12月に第3回をテレビ会議形式で開催をしました。同協議では、ILOと日本の協力関係の強化、ILO及び日本の労働・雇用政策、日本人職員の増強、労働分野における開発協力等について意見交換を行いました。
(3)経済協力開発機構(OECD)
OECDの労働分野に関する事業の主な活動として、雇用労働問題の政策分析・研究、 それらに関する議論を行う「雇用・労働・社会問題委員会」の開催及びOECD加盟国等 の労働経済の分析や雇用関連データの提供を行う「雇用アウトルック」の作成を行っています。また、仕事の世界の変化に対応するための各国の成人学習の準備状況を分析・評価するとともに、その改善のためのより効果的な政策立案を支援することを目的とした「成人学習プロジェクト」を実施しています。日本は、2018(平成30)年10月に参加を表明、2021(令和3)年2月に「成人学習レビュー(日本)」に関する報告書を公表しました。
2020(令和2年)年7月には「新型コロナウイルス後の経済回復に向けた雇用と包摂政策」をテーマに第2回OECD閣僚理事会ラウンドテーブルがテレビ会議形式で開催され、日本からは雇用を維持するための施策等を紹介するとともに、閣僚間で各国の取組みについて情報共有を行いました。
(4)東南アジア諸国連合(ASEAN)
ASEANと日本、韓国、中国の3か国との連携強化の流れの中で、労働分野における諸問題についての意見交換を通じて様々な課題に対して共通の認識を持つことを目的にASEAN+3の担当大臣会合及び高級事務レベル会合が行われており、積極的に参加しています。2020(令和2)年10月にはインドネシアを議長国として、第11回ASEAN+3労働大臣会合及び第18回ASEAN+3高級労働事務レベル会合がテレビ会議形式で開催されて、「『仕事の未来』の実現に向けたASEANの労働者の競争力、回復力及び敏捷性の強化」をテーマに新型コロナウイルス感染拡大下の状況を踏まえた議論が行われました。厚生労働省からは日本の労働分野におけるASEAN地域への開発協力の実施状況等の説明を行って、今後の開発協力等の実施に関して意見交換を行いました。さらに、労働大臣会合では、将来の社会的かつ経済的な危機に備えて労働者の競争力などを向上させ、「仕事の未来」を見据えて労働者の能力を高めるためにASEAN+3がより緊密に連携することなどを表明した共同声明が採択されました。
(つづく)K.I