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■ 諸外国の自殺死亡率の動向
令和3年の日本の自殺者数は21,007人となったが、世界の自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)ランキングは;
・1位はロシアの31人
・2位は韓国の26.7人
・3位はラトビアの21.2人
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・7位は日本の18.5人
全体でも上位であるが、G7の中ではトップである。先進国(G7)の自殺率について世界保機関によれば、日本が1位。フランス、米国、ドイツ、カナダ、英国、イタリアと続く。また、若い世代(15~35歳)での死因第1位が自殺となっているのはG7では我が国だけとなっている。
先進国における新型コロナウイルス感染症の感染拡大下での自殺死亡率の動向をみると、令和2年は令和元年と比較して、日本及びドイツでは上昇し、韓国、イギリス、アメリカ及びカナダでは低下した。なお、感染拡大前5年平均の自殺死亡率と比較すると、日本、韓国、ドイツ、アメリカ及びカナダでは低下し、イギリスでは上昇した。
男性の自殺死亡率をみると、令和2年は令和元年と比較して、ドイツ以外の国で低下した。なお、感染拡大前5年平均の自殺死亡率と比較すると、日本、韓国、ドイツ及びカナダでは低下し、イギリスでは上昇した。
女性の自殺死亡率をみると、令和2年は令和元年と比較して、日本、韓国及びドイツでは上昇し、イギリス、アメリカ及びカナダでは低下した。なお、感染拡大前5年平均の自殺死亡率と比較すると、日本、韓国及びイギリスでは上昇し、ドイツ、アメリカ及びカナダでは低下した。令和元年から令和2年の自殺死亡率の上昇は、日本が最も大きく、感染拡大前5年平均の自殺死亡率と比較すると、日本は韓国に次いで2番目に大きな上昇となっている。
○ 我が国の自殺の動向
新型コロナウイルス感染症の感染拡大下において特徴的な動向を捉えるために、平成27年から令和元年までの感染拡大前5年の平均自殺者数との比較を行った分析を通して次の点が明らかになった。
1 令和2年と令和3年の自殺者数の感染拡大前5年平均自殺者数からの増減は、男女差が明確に浮かび上がった。我が国の令和2年と令和3年の全自殺者数は、感染拡大前5年平均自殺者数と比較して、それぞれ514人、784人減少している。しかし、男性・女性別にみると、感染拡大前5年平均自殺者数と比較して、男性自殺者数は令和2年に884.2人、令和3年に1159.2人減少している一方、女性自殺者数は令和2年に370.2人、令和3年に375.2人増加した。これらのことから、この減少を牽引したのは、男性自殺者数の減少であることがわかった。
2 男女で共通の傾向も浮かび上がった。それは「~19歳」、「20~29歳」における自殺者数の増加である。ただし、この「~19歳」、「20~29歳」における女性自殺者数の増加は、男性よりも著しく大きい。20代女性では、「新型コロナウイルスが流行する前と比較して、孤独を感じることが多くなった」と回答した割合が65%となるという報告もあるところ、これらの年齢階級が含まれる学生・生徒等の自殺の実態について、次節にて分析を行う。
3 自殺者の増減に影響した背景として、同居人の有無が考えられる。「同居人あり」の男性では有職無職にかかわらず、令和2年、令和3年ともに「30~39歳」以上のほとんどの年齢階級で減少がみられた。「同居人あり」の女性では、無職である場合、令和2年、令和3年ともに「30~39歳」以上の多くの年齢階級で減少がみられたが、有職である場合、令和2年、令和3年ともに「20~29歳」から「50~59歳」までの年齢階級を中心に増加した。
4 内閣府の調査では、「夫婦ともにフルタイム就業であっても、仕事のある日の家事時間は、妻は夫の2.0倍程度であり、仕事のない日でも1.8倍程度」という報告がなされているところ、新型コロナウイルス感染拡大前と比較した家事にかける時間は、配偶者のいる女性でさらに増加しているという調査もみられる。有職の女性の自殺が増えた背景には、仕事と家庭の両立に係る生活環境の変化等が影響している可能性が考えられる。なお、「同居人なし」の場合、有職男性全般、無職男性の高齢者層などで増加傾向にある。同居人がいないということは、何か異変に気付くことのできる身近な存在がいないともいえ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大下において行動面での制約がある中で、一人悩みを抱えてしまった可能性も考えられる。同居人がいない人の孤独・孤立の解消に向けて、居場所の確保やアウトリーチなどの対策を進めていくことが期待される。
5 「有職の女性」においては、同居人の有無にかかわらず、「50~59歳」以下の年齢階級において感染拡大前5年平均自殺者数から増加していた。職種としては、「事務員」、「その他のサービス職」の増加が目立った。「無職の女性」においては、「同居人あり」の場合には「~19歳」、「20~29歳」において、感染拡大前5年平均自殺者数から増加していた。一方、「同居人なし」の場合には、多くの年齢階級において、令和2年、令和3年のいずれかでは増加がみられた。そこで、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって大きく変化した労働市場が、無職の女性自殺者数に対して何らかの影響があったかを調べた。その結果、有効求人倍率の低下が無職の女性自殺死亡率の上昇と統計的に関係していることが分かった。労働市場の自殺死亡率への影響が示唆されるところ、生活困窮対策や社会的セーフティネットの拡充などの強化が求められる。
6 新型コロナウイルス感染症の感染拡大下での先進国における自殺死亡率の動向をみると、日本では、令和元年と比較した令和2年の自殺死亡率は男女計では上昇、男性で低下、女性で上昇していた。ドイツでは、令和元年と比較した令和2年の自殺死亡率は、男女計及び男女ともに上昇している。韓国では、令和元年と比較した令和2年の自殺死亡率は、男性で低下、女性で上昇し、男女計では低下している。男女計の上昇に対して、女性での上昇の寄与が考えられる点において、日本はここで比較した各国の中で特徴的な動向であった。
(つづく)A.K