横山哲夫先生が翻訳したキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。
★世界の多様性
現在多くの社会で、難民と移民の新たな大量流入が大きな問題となっている。移民の民族性は、それぞれ異なっている。たとえば、ノルウェーでは、パキスタン人とバングラデシュ人が多く流入し、その大部分が最初は輸送業や飲食業などの部門で働く。ドイツではトルコ人が多く流入しているが、必ずしも快く受け入れられているわけではない。合衆国では、移民の民族性は国の地域によって異なる。南西部では、メキシコ人労働者やその他のラテンアメリカ人がより良い生活を探して流入し、フロリダ半島ではキューバ人やその他のカリブ人が難民や移民となっている。カリフォルニアでは、ラテン系とアジア系アメリカ人が主流で、中西部では、ラオス、カンボジア、そしてベトナム人の難民が多数を占めている。
Carolyn WilliamsとJohn Berry(1991)は、われわれが難民と移民について理解するのを支援した心理学者たちである。2人は、移民が新しい文化のなかで生活を確立しようとするときに体験する「文化的適応」によるストレスについて述べている。2人は、難民は地位や家族や祖国の喪失感覚を持っているようだと指摘する。文化的に適応することを求められながらも受け入れられていないとき、それらの人たちは、メンタルヘルスの問題につながる大きなストレスを感じるようである。
WilliamsとBerryは、新しい文化への反応は、そのグループが移住した理由(自発的なものか、それとも仕方なしのものか)、優勢な文化がマイノリティの文化をどう見ているか、難民自身が自分たちの文化についてどのような態度をとっているか、そして優勢なグループに対してどのような関係を築きたいと思っているか、などいくつかの事柄によって決まると指摘している。これらの問題が、ローカルな、そして、グローバルなコミュニティにおいて、それらの人々にどのような影響を与えているのか、カウンセリングとキャリアの専門家が理解しなければならないのは明らかであろう。このように、移民や難民が心地よい環境を見出し、生活賃金のために働けるように支援することは、確かに、われわれのなすべき仕事の一部である。
□スピリチュアリティと人生の目的を探索する
世界中の人々が、その人生のなかで、意味と目的の新しい感覚を探し求めているという多くの兆候がある。さらに、必ずしも公的な宗教を通じてスピリチェアリティを探し求めているわけではないが、多くが宗教を通じて自らのスビリチェアリティを表現している。人は、自分の外側に存在している何か、人生の目的と意味の感覚を与える自分よりも大きな何かを探している。長い間無視され、あるいは最小限に抑えられてきた仕事とスピリチェアリティというテーマが、ようやく認められるつつある。 Richard Leiderの著書The Power Purpose(1985)は、なぜ人は朝に目覚め、その日一日なすべきことをするのかを熟考するのに役立つ多くのアイディアと活動を提供している。つい最近、LeiderとShapiro(1995)が、中年以降の人生の目的と意味について詳しく述べた。彼らは、われわれが良い人生を送るのを妨げる「死ぬほど怖い4つの恐怖(Four deadly Fears)」を識別している。
それらは、(1)意味のない人生を送る恐怖、(2)ひとりになる恐怖、(3)迷子になる恐怖、(4)死の恐怖、である。次に彼らは、1番目は仕事によって、2番目は愛によって、3番目はコミュニティとのつながりを作ることによって、4番目は目的を持って生きるためのモチベーションによって緩和されると述べている。彼らはまた、目的のある豊かな人生のための公式を提示した。それは、自分自身の才能から始め、それに情熱と環境を加え、それらにビジョンを掛け合わせると、自らが望む未来を組み立てるための自分なりの方法が得られるというものである。
多くの読者は、人生の意味と目的に関する初期の書物の1つ、すなわちVictor Franklがアウシュヴィッツにおける彼の経験をつづったもの、についてなじみがあるはずだ。Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager(邦訳『夜と霧』霜山徳爾訳、みすず書房、1985年)彼は、妻そして2人の関係を「想像すること」に携わる能力と、学生に向けて行った講義を思い浮かべる能力が、どれほど彼に収容所の恐怖を生き延びる助けになったかについて語った。それはまた、人の体験のなかに意味を見出すロゴセラピーと呼ばれる心理療法の新しい学派の基礎として役立った。
スピリチュアリティと仕事との関係は、カウンセリングとキャリア・ディベロプメントの分野では、比較的最近の関心事である。全米カウンセリング学会(ACA)の専門部会として数年間続いていた「カウンセリングにおける宗教的な価値のための学会(「The Association for Religious Values in Counseling:ARVIC)」は、最近、「カウンセリングにおけるスピリチュアルな、倫理的な、宗教的な価値についての学会(「The Association for Spiritual,Ethical,and Religious Values in Counseling:ASEVIC)」と名称を変更した。同様に全米キャリア・ディベロプメント学会(National Career Development Association:NCDA)は、数年前にスピリチェアリティについての特別部会(Special Interest Group)を発足させた。そして、カウンセラーがスピリチュアリティと目的についての問題にいかに取り組むかを学ぼうとするにつれて、部会のメンバー数が増えてきた。1980年代半ばに、ミネソタ州の2人のキャリア・ディベロプメントの指導者Janet HagbergとBetty Olsonが、スピリチェアリティが彼女ら自身のキャリアの旅にどのように影響したかを述べる専門的なプログラムを提示し、より大きな関心を呼び起こした。このような主題は、今のところまだカウンセリングとキャリア・ディベロプメントの文献の主流にはなっていないが(多くの多文化カウンセラーや宗教、あるいは心理学とあわせた両方の環境で働くカウンセラーを除き)、それは多くの人々にとって極めて重要である。この問題は、より大きなものの探求とスピリチュアルな道すじが常に人生の中心的部分であった女性および民族的マイノリティにとって特に重要であると思われる。心理学やカウンセリングのような分野では、何よりも測定が優先されるのに対し、スピリチュアリティが軽視されてきたのは、たぶんそれが測定できないからであろう。しかし、統合的ライフ・プランニングにおいては、発達のこの側面に大きな注意が払われる。人々をスピリチェアリティに関していかに支援していくかについてのロードマップはほとんど存在しないが、いくつかのモデルと戦略は既にある。
(つづく)平林