基礎編・理論編

統合的ライフ・プランニング | キャリコン養成講座231 テクノファ

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横山哲夫先生が翻訳したキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。

■統合的ライフ・プランニングの全体的概念
統合的なアプローチにとっては、伝統的な職業指導のやり方は明らかに不十分である。なぜならそれは、人は変化せず、社会も変化しない、職業選択は職業指導の結果である、人生を通して1つの職業を全うする、意思決定は論理的で合理的であるべきだ、といういくつかの前提に立脚しているからである。従って、その焦点はプロセスではなく選択に置かれる。これに対してILPは、職業だけでなく人生の他の部分にも注目する。統合的ライフ・プランニングにおいて、統合的という言葉は、人間の発達のさまざまな領域 社会的(social)、知的(intellectual)、身体的(physical)、スピリチュアル(spiritual)、情緒的(emotional)、キャリア/職業的(career/vocational)すなわちSIPSEC-を重要視しているということを表している。それらは、人間のウエルネスの6つの領域と呼ばれる。図4.1は、ウエルネスの車輪を図式化したものである。

統合的という言葉はまた、こころ、からだ、スピリット、ジェンダー、時間(すなわち、われわれの過去、現在、未来)の統合を意味している。それは、われわれは世間から隔絶して職業や家族を選択するのではないということを表している。統合するということは、各片を、個人にとって意味ある方法でまとめるということである。第1章で述べたように、人生とは4つの基本的役割―愛(love)、学習(learning)、労働(labor)、余暇(leisure)、すなわち4つのL-を内包する包含的な言葉である。

図4.1. ウエルネスの車輪
全体性を選択する
・社会的・スピリチュアル
・知的・職業的
・身体的・情緒的
出典:ミネソタ・スクールカウンセラー学会:再録許諾済

パターンということばは、すべてが望んだ結果を生み出すとは限らない、相互に関連する役割、決定、選択の非線形な連続を示唆する。私はパターンという言葉を、プランニングの代わりになるものとして使っているが、プランニングは、パターンということばと比べると、もっと直線的で、合理的なプロセスを想起させる。しかし多くの人が、さまざまな理由で、何らかの確信を持って、パートナーや人生上のキャリアの選択を、論理的に計画することができなくなっている。これは、以前にくらべ、現在ますます真実になっているように思える。H.B.Gelatt(1989)は、キャリアの決断には、彼が積極的(肯定的)不確実性と名付けたもの、理性と直感、そして選択と同様にプロセスが重要であると述べている。ライフ・プランを創り出すことと、人生を計画するということは違う。そこには計画があり、それと同時に人が計画することのできないランダムな要因がある。そしてそれらは、人々の人生のなかで、予期した通りの結果とそうでない結果を生み出しながら代わる代わる現れる。それにもかかわらず、計画することは重要である。なぜなら、人はそのことによって、自分自身の人生をコントロールしているという感覚を得ることができ、それこそが人々をメンタルヘルスの健康へと導くエンパワーメントの感覚なのである。同時に人生には転換(期)がある。それは自発的であることもあれば、不本意なこともあり、人々の人生と生活、情緒的・経済的・社会的満足感、仕事・家族・余暇のパターンに影響する。ILPは、人々が、自分たちの人生、社会におけるより大きな変化、そして、自らを変化させ、それらを集めた才能とエネルギーを、地域的、国家的、そして世界的なコミュニティの問題の解決に向けて役立てろ方法、これらについてのパターンを理解することができるように支援することを目的としている(グローバルなニーズについては、第3章を参照)。

全体的発達(Holistic development)とは、人間の半分ではなく、全人的に在ることへのわれわれのニーズを示している。また全体的発達とは、個人としてのわれわれ自身の内部における、そしてわれわれの発達のすべての側面における、統合を意味している。それはまた、われわれが引き受ける役割、あるいはあえて選択はしない役割における全体性、われわれを狭く限定する社会化されたジェンダー役割から離れ、男性として、女性として全面的に発達するなかでの全体性、そして、時間に関してより望ましい視点を持つ能力における全体性、すなわち、過去の記憶、現在の経験、未来の希望と夢、これらの間のつながりを見る能力における全体性を意味している。
(つづく)平林

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