基礎編・理論編

アイデンティティ | キャリコン養成講座232 テクノファ

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横山哲夫先生が翻訳したキャリアコンサルタントが知っていると良いと思われる「キャリア開発と統合的ライフ・プラニング」を紹介します。本記事はサニー・S・ハンセンの著作「Integrative Life Planning」を横山先生と他の先生方が翻訳されたものです。

◆アイデンティティの諸次元
図4.2は、アイデンティティ(identity)、発達(development)、役割(roles)、そして文脈(contexts)の諸次元を図式化したものである。
アイデンティティの諸次元とは、すべての人が持っている多元的なアイデンティティ、すなわち人種、民族、ジェンダー、社会階級、年齢、能力、性的指向、宗教などである。これまでアイデンティティの諸次元にはほとんど注意が向けられてこなかったが、多文化主義的運動や女性の運動が、人々の目をそれに向けさせた。いまカウンセラーに強く求められているのは、人生のさまざまな時点でこれらの要因がいかに重要になってくるか、そしてそれがライフ・プランニングにどのように影響するかについてクライエントが熟考するのを支援することである。

すべての人が多元的なアイデンティティを持っており、それが人生のさまざまな時点でさまざまな優先順位を持って現れるということは、あまり深く認識されていない。ある種の抑圧を経験したことのある人なら、その経験が、人生における1つのアイデンティティの次元を他の次元よりも重要なものにさせるということを感じたことがあるだろう。たとえば、ゲイであることは、ゲイの人それぞれにとって異なった意味を持っているだろう。政治家である白人男性がゲイで、ゲイであることを隠しているが、自分自身に満足しているなら、彼の性的指向は彼のアイデンティティにとって最も重要な要因ではないかもしれない。しかしゲイであることを公表している別の男性が、嫌がらせを受け、かなりの苦痛を感じた経験がある場合、彼は自分のアイデンティティを強化するために、ゲイ・リソース・センターに支援を求めるかもしれない。また別の実例を挙げると、私の講義を受けていたある白人女性が民族性を問われたとき、彼女は、私はアメリカ人で、アイルランド人の祖先については一度も考えたことがないと答えた。これとは対照的に、あるアメリカ先住民の学生は、「インディアンであることが私のアイデンティティだ」と答えた。ここでの要点は、直線的な思考に価値を置く社会においては、多元的なアイデンティティを持っていることが強みであり、尊重されるべきことであると認めるよりは、むしろ人々は、ある単一の特性という観点から思考する傾向がある、ということである。自分のアイデンティティのさまざまな次元をどう見ているかが、われわれの全体的なの広発達の広がりに影響を与えている。

図4.2.アイデンティティ、発達、役割、文脈の統合
1.アイデンティティ次元
・人種
・民族性
・年齢
・ジェンダー
・能力
・階級
・性的指向
・宗教
・その他
2.発達領域
・社会的
・知的
・身体的
・スピリチュアル
・情緒的
・キャリア(職業的)
3.役割
・愛(家族)
・労働(仕事)
・学習
・余暇
4,文脈
・社会
・組織
・家族
・個人

考察すべき内容
・人生役割に関連した価値観の変化
・人間発達のアイデンティティの次元、発達領域、役割、文脈
・愛、労働、学習、余暇の優先順位
・社会的、組織的、家族的、個人的目標と価値観
・異なったライフ・ステージにおける発達課題と優先順位
・個人、カップル、家族、コミュニティのなかで、アイデンティティの次元、発達領域、役割はいかに統合されるか

□発達領域
発達領域(developmental domains)は、取り組むのが難しい分野である。われわれの学校や大学では、知的発達が最も重要視され、ある種の学校では、身体的発達がほぼそれと同等に重要視される。ここ数年、健康指向が強まり、ますます多くの女性と男性が、ジョギング、ウォーキング、クロスカントリースキー、ゴルフ、テニス、エアロビクス、水泳、ボーリングなどのスポーツを通して、健康な身体を維持することの大切さを意識するようになった。

社会的および情緒的発達は、家庭とより広い社会で起きるものであると見なされている。学校は、情緒的スキルよりも認知的スキルを重視し、多くの場合情緒的発達に関しては、最低限のことしかしない。特に、1980年代から1990年代にかけての「基本に戻ろう」教育改革運動で、この傾向は一層強まった。このようなより保守的になった政治的風潮のなかでは、暴力、セクシャル・ハラスメント、人種差別、性差別、その他の個人的発達に対する障害などを含むある種の問題に対して、学校が取り組むのをやめさせようとする試みさえ生まれてきた。

さらに、個人の発達における、キャリアおよびスピリチュアルな側面も、依然として無視され続けている。体系立てられたキャリア・ディベロプメント・プログラムを、学校に導入する試みは今のところあまり成功しておらず、ほとんどの学校や大学で、そのためのプログラムは断片的であり、主に職務についての説明、就職情報、就職斡旋などに重点が置かれている。一方公立の学校は、スピリチュアル(spiritual)という言葉を恐れている。その理由の1つは、それが宗教と混同されているからであろう。しかし成人の間では、魂と仕事の意味に対していままで以上に大きな関心が向けられ、ますます多くの成人が、人生の意味と目的を見出すための支援を求めている。
(つづく)平林

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