実践編・応用編

児童減少と保育体制 | キャリコン実践の要領245テクノファ

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キャリアコンサルタントが知っていると実践に役立つ情報をお伝えします。

■児童減少と保育体制
都市部を中心に引き続き待機児童が発生している一方で、人口減少の影響下にある市町村では、児童数の減少により保育所の運営が困難となり、統廃合が行われるケースも見られる状況となっている。今後は人口減少地域を始めとした多くの地域で良質な保育の提供を継続するため、地域ごとのニーズに応える形で保育所の多機能化等を進めていくことが重要である。具体的には、定員に余裕のある保育所で普段通所していない児童を一時預かり事業で預かることや、地域子育て支援拠点事業や利用者支援事業との併設を行うこと等が考えられる。ここで保育所の統廃合等を含む地域での保育提供体制の設備に取り組む事例を紹介する。
□事例
〈保育ニーズの低下を見据えた先手の保育提供体制の検討〉
愛媛県宇和島市は過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法(令和3年法律第19号)に基づき市内全域が過疎地域とされているなど、就学前児童を含めた市内の人口そのものが減少している一方で、女性就業率の高まりにより、保育所の利用率(保育ニーズ)は減少せず、横ばいの状況となっている。こうした中で、宇和島市では、人口減少が更に進行し、保育所利用率の低下が見込まれる5年後を見据えた保育提供体制を今の段階から検討し、保育所の統廃合を含む今後の保育の在り方を計画で示している。

〈地域づくり施策と連携した保育所の統廃合や各保育所の役割分担〉
公立保育所の統廃合は、利用児童数が減少していく中で、施設・保育人材を集約し、適切な児童の集団規模を確保する観点で効果的・効率的である一方、地域の保育提供サービスの低下が懸念される場合も多く、関係者への丁寧な説明が求められる。宇和島市では、保育だけでなく、公立施設の統廃合を市全体で進めており、幼保小の接続の観点から、特に小学校の統廃合との整合性を確保することに努めている。また、保育所の閉園計画時点で住民説明会を開催し、跡地利用についても地元の意見や要望を踏まえ検討を進めることで、円滑な閉園に至るよう努めている。
このように、保育所の統廃合に当たっては、保育施策だけでなく、地域全体の施策、特に教育施策との整合性に留意しつつ、地域づくり施策とも連携し、今後の見通しを早期に示していくことが効果的であると考えられる。また、特に少子化の進行が著しいエリアでは、
・拠点となる保育所を設定し、当該保育所を認定こども園化するなど多機能化を図り、必要に応じ園舎の改築を行う一方で、
・拠点園以外については、施設の小規模化を行いつつ、当該拠点園との連携を強化する。
など、利用児童数の減少を踏まえ、各園の役割を計画的に割り当てて保育提供体制を構築しようとしている。

〈多様な保育ニーズへの対応〉
一方、個人・家族を巡る様々な事象が多様化する中で、保育ニーズについても多様化しており、保育の実施主体である市町村では、こうしたニーズを限られた体制下で、どのように受け止めるかについても課題となっている。こうした中、宇和島市では、医療的なケアや特別な支援を要する児童の受入れをまずは公立保育所で担う体制を確保しつつ、私立保育所においても、加配職員を配置する場合の補助制度を創設するなど、受入れの促進を進めながら、段階的なサービスの平準化に努めている。(参考文献)「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「人口減少地域等における保育に関するニーズや事業継続に向けた取組事例に関する調査研究」」(2021年、有限責任監査法人トーマツ)

■地域で孤立する子育て世帯への支援
安心して子育てできる環境整備も重要である。2015(平成27)年にNPO法人子育てひろば全国連絡協議会が行った調査では、7割以上の母親は自身が育っていない市町村で子育てを行っている状況や多くの母親に子育ての不安や悩みを相談・共有する人がいなかった状況がうかがえる。保育所は地域の保護者等に対し、子育てに関する支援に努める役割を担っており、地域で孤立する子育て世帯が見られる中で、保育所や保育士の専門性を活かした支援が期待される。
(つづく)K.I

-実践編・応用編

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