実践編・応用編

医療法人の多事業経営 | キャリコン実践の要領246テクノファ

投稿日:

キャリアコンサルタントが知っていると実践に役立つ情報をお伝えします。

■医療法人の多事業経営
地域の実情に応じて必要なサービス提供を確保するための選択肢の一つとして、医療法人・社会福祉法人の多事業経営・法人間連携を推進している。
日本の医療法人や社会福祉法人は数が多く規模が小さいという特徴がある。少子高齢化や女性の社会進出などの社会構造の変化に伴って地域ごとの医療・福祉ニーズも大きく変化していくことが見込まれる中、従来どおりの事業運営を継続するだけではこうした変化への対応が困難になることも考えられる。また大学病院等の規模が大きい医療機関においても、高齢化の進行によって増加する慢性疾患を抱えた患者の治療を全て引き受けることにより、本来対応すべき高度な治療が必要な患者に対応できなくなるおそれがある。病院・診療所間の機能分担を行い、患者の状態に応じて高度な治療が必要な高度急性期から慢性期や医療療養、在宅療養へと円滑に移行していけるよう病院・診療所間の連携体制をつくることが必要である。また、老人福祉事業、児童福祉事業、障害福祉事業等を運営する社会福祉法人は1事業1法人という運営形態も多く、運営が厳しい状況にあることが指摘されてきた。多事業経営や法人間連携により経営の安定や人材確保がしやすくなるといった観点から社会福祉法人間の連携に取り組む例が出てきており、こうした取組みを支援することも必要であろう。
□事例
社会福祉法人グループ・リガーレでは、京都府を中心に複数の社会福祉法人が集まり、人材確保・育成や地域密着型サービスの整備などで成果を上げている。
〈地域で必要な介護サービスを提供したいという思いから生まれたグループ化〉
介護が必要になっても住み慣れた場所で安心して暮らし続けるためには、切れ目のない様々な地域密着型の介護サービスの提供が不可欠である。そんな思いから、特別養護老人ホーム等福祉施設を運営する法人が集まる京都市老人福祉施設協議会が、地域密着型サービスである小規模多機能型居宅介護を増やしていくことを決めた。2006(平成18)年度当初は大規模な社会福祉法人を中心に取組みが進んだが、規模の小さい法人は新規事業に着手するノウハウがなく、担当職員の配置も難しい状況であった。そこで、2010(平成22)年、地域密着型拠点の整備経験がある法人・人材が、こうした小規模法人のサポートを決め、2012(平成24)年、リガーレ本部が発足した。

〈人材育成等の両輪を担うスーパーバイザーの巡回訪問と統一研修〉
リガーレ本部は、働き続けられる職場環境づくりや着実な成長を促す人材育成、ケアの質の向上に向けた取組みを牽引している。その両輪を担うのがスーパーバイザーによる巡回訪問と統一研修である。リガーレ本部の人材・開発研究センター部門には、人材育成専任職員として特別養護老人ホームなどの施設長等を経験し、研修や人材育成に関してキャリアを有するスーパーバイザーを2名配置している。巡回訪問は、法人ごとの課題の発見と、その改善に向けて各法人が策定する行動計画の実践状況の確認を目的に行われている。週1~2回の巡回訪問では、改善に向けた助言を行うほか、役職者のマネジメントの相談やリーダー層が抱えるチーム課題の相談などにも対応している。巡回訪問による課題の発見と改善の取組みにより、これまで個人の能力で解決し共有されなかった課題が施設全体の問題として捉えられ、解決が図られるようになった。
統一研修はリガーレ本部を含めたグループ法人を対象に実施している。研修体系は職務実績に応じて7つの階層に分かれ、到達目標を定めて1年を通して地域での暮らしを支えるといった理念を基軸に講義と演習を組み合わせ、考え、発言する機会を設けることで主体性を身に付ける組織づくりにつながっている。また、1法人当たりの新規採用者は年2~3名だが、統一研修により20名程が仲間となり横のつながりもできる。他にも3つの資格取得研修を提供しており着実なキャリアアップを支援している。年間60回以上、参加者延べ1,000人程となるこの統一研修は、スーパーバイザーと各法人の介護責任者が毎月集まる会議の場で企画されている。

〈労働条件等を統一し、共同採用・人事交流を実施〉
リガーレは、グループ共同での人材確保にも力を入れている。各法人が委託費を出し合って確保している人材確保専任職員を中心に、入職2~3年目のリクルーターが各施設をまわるバスツアーなどのイベントを企画・開催している。若手職員が外に向かって組織の魅力を発信することで、組織の活性化にもなっている。2020(令和2)年以降の新型コロナウイルス感染症拡大の下では、オンラインの推進によって遠隔地の法人の研修参加やスーパーバイザーの巡回訪問が強化された。また、リクルート活動では、グループ共同でWebセミナーを開催し、学生との質疑応答や対談を実施した。今後、介護を必要とする人の地域での生活を支える包括的な支援の場とともに、それを支える高い理念と介護技術を持つ人材がますます不可欠となる。リガーレのような、法人間の連携・協働化の取組みが各地で進むことが期待される。
地域で包括的な支援を提供するため、一人の医療・福祉人材が複数の専門資格を取得しやすいよう、共通基礎課程の検討や資格所持者の履修期間の短縮等を推進していく。
過疎化が進む地域では、高齢、障害、児童等に関する医療・福祉サービスごとに専門資格を有する人材を確保することが困難となることが見込まれる。他方、これら複数のサービスの利用が必要となる複合的課題を抱える地域住民への包括的な支援が課題となっている。「ニッポン一億総活躍プラン」(2016(平成28)年6月2日閣議決定)では、支援の対象者ごとに縦割りとなっている医療・福祉サービスの相互利用等を進めるとともに、一人の人材が複数の専門資格を取得しやすいようにすることとされた。大学に進学し、医療・福祉に関する資格を取得しようとする方に対しては、医療・福祉の複数資格に共通の基礎課程を創設し、資格ごとの専門課程との2階建ての養成課程を可能とすることが検討されている。
複数資格に横断的な1年程度の共通となる基礎課程を設けることにより、多職種連携や地域・社会活動など地域共生社会を担う人材の育成を図るとともに、医療・福祉人材に新たなキャリア像を提供することができると期待されている。また、既に資格を取得されている方に対しては、他の資格を取得する際に履修期間の短縮や、単位認定の拡大が行われている。例えば、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士及び幼稚園教諭が保育士資格を取得しようとする場合には、一部の試験科目が免除されるほか、指定保育士養成施設で試験科目に対応した教科目を履修することによってそれに対応する試験科目が免除されることとなっている。現役世代の人口が急減していく中にあっては、医療・福祉人材が多様な分野で活躍しやすくなる取組みを進めていく必要がある。

■医療・福祉サービスを支える人材
将来にわたって人材を確保し、社会保障制度を持続可能なものとすることは、全世代の国民の生活の安定や将来への安心感につながる。一人一人が「人生100年時代」を見据えて、健康寿命の延伸によりQOLの向上や生涯現役の就労と社会参加を実現するとともに、医療・介護サービスが必要となる方の増加を抑制していく必要がある。また、現役世代が急減していく中にあっては、女性、高齢者等を始めとした一層の労働参加を促進し、総就業者数の減少を最小限にとどめることが必要であろう。しかし、医療・福祉分野の有効求人倍率は全産業平均を大きく上回って推移し、今後も少子高齢化の中にあって必要な人材を将来にわたって確保し続けることは容易ではない。医療・福祉サービスそのものもデータヘルス改革により効率的・効果的な提供を目指すとともに、医療・福祉の仕事が他の多くの仕事の中から選ばれるものとなるように、労働環境や処遇の改善に取り組まなければならない。

□医療・介護ニーズの多様化や利用者の増加等によって増えている現場業務は、医療・福祉の資格を有する専門人材が引き続き行うべきか、又は他の専門人材や有資格者以外の人材では行えないのかの観点から業務仕分けを行った上で、一定の研修等を受けた他の専門人材や有資格者以外の多様な人材に業務担当を移したり共有したりする「タスク・シフト/シェア」を行うことやロボット・センサー・ICTを活用することが、医療・福祉現場の業務の効率化や労働環境の改善にもつながる。また、医療・福祉人材が自ら行うべき利用者のケア等の業務に集中することによってやりがいを感じながら働くことができる環境整備を行うとともに、その専門性を高めながら将来に見通しをもって長く働き続けることができるようキャリアパスを整備することも重要である。

□他方、日本では少子化による人口減少が続いていき、地域によっては医療・福祉サービスのニーズが減少に転じていく。また医療・福祉人材の養成施設等の定員数は2020(令和2)年の出生数約84万人のうち約25%(約21万人)に相当する。地域の実情に応じた医療・福祉サービス提供の在り方を検討する必要があるだろう。次の第2節では、担い手不足の克服に向けた更なる対応として、処遇の改善、医療・福祉現場のサービス提供の効率化と労働環境の改善、地域や診療科の偏在対策、医療法人・社会福祉法人の多事業経営・法人間連携及び地域共生社会の取組みについて具体的事例とともに提示する。
(つづく)K.I

-実践編・応用編

執筆者:

関連記事

キャリアコンサルタント実践の要領 24 | テクノファ

キャリアコンサルタントの行う相談過程には6つのステップがあります。一番目のステップは「自己理解」支援です。今回はキャリアコンサルタントの行う相談の第1ステップ、自己理解の支援について説明します。「I(アイ)メッセージ」やアセスメントなどを活用して、来談者が自己理解を深めるための支援をしていきます。 ■キャリアシートや「アイ(I)メッセージ」の手法を活用 先にキャリア開発・形成における自己理解とは何かを説明しました。本人とっての「自己理解」の意味を十分に理解したうえで、実際に来談者の職業興味や価値観などを明確にし、キャリアシートなどを活用して職業経験の棚卸し、職業能力の確認、個人を取り巻く環境の …

事例を振り返って見えること|テクノファ

テクノファは、あなた自身が輝いて働く(生きる)ためのトレーニング・講座をご提供しています。何よりも、自分の人生を自分で計画し切り開いていく、そのための自分自身が、何になりたいのか? そもそも自分は何者なのか? どうやったらなりたいものになれるのか。一つ一つを明確にすることで、地面が揺らいだときにも、急に会社の方針が変わったとしても、しっかりと地面をつかむことができ、自分の働き方をつかむことができるのです。常に成長し変化している人の成長を支援することがキャリア開発支援です。 キャリアのカウンセリング・コンサルティング・ガイダンスや、キャリア教育、人材育成など、人の成長にかかわっている方々や、部下 …

過重労働解消に向けた取組みの促進 | テクノファ

新型コロナウイルス感染症は、私たちの生活に大きな変化を呼び起こしました。キャリアコンサルタントとしてクライアントを支援する立場でこの新型コロナがどのような状況を作り出したのか、今何が起きているのか、これからどのような世界が待っているのか、知っておく必要があります。 6.労働時間法制の見直し (時間外労働の上限規制の概要) 年間総実労働時間は、減少傾向にあり、近年では1,700時間前後の水準となっていますが、いわゆる正社員等については2,000時間前後で推移しています。また、週の労働時間が60時間以上の労働者割合も、特に30歳代男性で10.2%、40歳代男性で10.4%に上っており、これらの長時 …

企業・組織におけるキャリア開発と人材育成

◆このコーナーは、活躍している「キャリアコンサルタント」からの近況や 情報などを発信いたします。今回はM.Iさんです。◆ キャリアコンサルタントとしての活動を紹介させていただきます。今回は企業・組織におけるキャリア開発、人材育成についての活動です。 私はキャリアコンサルタントとして企業の経営者や人事担当の方々とお会いしお話しを聞く機会が多いのですが、ここ二、三年の傾向として、人材不足を課題に挙げている企業が増加しつつあるようです。私が拠点としている地区は中小企業も多く、業種によっては必要とする新入社員の確保に苦慮しているとの声をお聞きすることも増えてきました。また、現在の年齢構成のバランスを見 …

キャリアコンサルタント実践の要領 49 | テクノファ

Aさんの「キャリコンサルタント養成講座」受講奮闘記をお伝えします。「キャリコンサルタント実践の要領 24」に続くキャリコンサルタント養成講座8日目からの話です。 Aさんは中小企業に勤めている小学生と4歳半の子供をもつ女性ですが、ある事をきっかけに「キャリコンサルタント」という資格を知りました。厚生労働省の国家資格であること、企業の中で人間関係の相談に乗ってあげられる力を付けられることなどを知り、どこかの「キャリコンサルタント養成講座」を受けたいとNetで多くの「キャリコンサルタント養成講座」を調べました。 その結果テクノファの「キャリコンサルタント養成講座」が自分に合うのではないかと思い、3か …