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医療担い手不足の克服
■処遇の改善
「新しい資本主義」の実現のため、社会保障サービスを支える人材の更なる処遇改善を実施する。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、医療を始めとする社会保障の現場に大きな負担をもたらした。そうした中で、医療、介護、保育、幼児教育などの現場の方々の奮闘が国民生活を守る上で大きな役割を果たし、その人材の確保や処遇の在り方が改めて重要な課題として認識された。「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(2021(令和3)年11月19日閣議決定)において、「看護、介護、保育、幼児教育など、新型コロナウイルス感染症への対応と少子高齢化への対応が重なる最前線において働く方々の収入の引上げを含め、全ての職員を対象に公的価格の在り方を抜本的に見直す」とされ、民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組みを行うことを前提として、2022(令和4)年2月から収入を3%程度(月額9,000円)引き上げるための措置が実施された。また、看護については、まずは、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療施設に勤務する看護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組みを行うことを前提として、段階的に収入を3%(月額平均1万2,000円)程度引き上げていくこととし、2022(令和4)年2月から収入を1%程度(月額4,000円)引き上げるための措置が実施された。
2022年10月以降については、上記の看護職員、介護・障害福祉職員及び保育士等に対する取組が継続的なものとなるよう、診療報酬、臨時の介護報酬・障害福祉サービス等報酬の改定及び公定価格の見直しにより、収入を3%程度引き上げるための仕組みを創設することとしている。これらの仕組みにおいて、看護については、看護補助者、理学療法士・作業療法士等のコメディカルの処遇改善に、介護・障害福祉職員及び保育士等については、他の職員の処遇改善に、それぞれこの処遇改善の収入を充てることができるよう柔軟な運用を認めることとされている。現在、世界各国において持続可能性や「人」を重視し、新たな成長と分配の好循環につなげる新たな資本主義モデルの模索が始まっている。人への分配はコストではなく、未来への投資である。新たな資本主義を実現するためには、今後も、看護、介護、保育などの分野において、その仕事に見合った適切な処遇が行われるよう、収入の引上げが持続的に行われる環境を整備する必要があろう。
■組織マネジメント改革
医療・福祉現場のサービス提供の効率化と労働環境の改善のためには現場での組織マネジメント改革が必要不可欠になっている。
医療・福祉現場でのサービス提供を効率化するとともに、労働環境の改善を図るためには組織マネジメント改革が欠かせない。管理職・経営者層のマネジメント能力の向上が鍵となる。労働環境の改善を図るための組織マネジメントに関して、医療施設では、医療勤務環境改善支援センターによる医師労働時間短縮計画作成支援などを通じ、勤務環境改善マネジメントシステムの導入などが進められているが、こうした取組みに加え、2022(令和4)年度においても引き続き、医師の働き方改革の推進に向け、病院長の意識改革や勤務環境・処遇などの労務管理に関するマネジメント能力の向上を図るため、地域医療におけるリーダーの育成や病院長向けの研修を行うこととしている。また、医師の働き方改革推進のためには、医療施設管理者のみならず当事者である勤務医一人一人が働き方改革の意義と必要性について理解し、組織全体として主体的に取り組む機運を醸成していく必要がある。具体的には、新たに、医療施設内で多忙な勤務医等への積極的な情報発信を可能とする医師の働き方改革の解説コンテンツを開発し、ウェブサイトへ掲載して広く頒布する等の効果的な周知啓発を行うこととしている。
2024(令和6)年度から医療施設には時間外労働が月100時間以上となる医師に対して健康確保のために面接指導を実施することが義務付けられることとなる。長時間働く医師が勤務する医療施設において、面接指導に必要な知見を習得した医師を早急に確保する必要があるため、2022年度では、面接指導に係る研修の資材(e ラーニング等)の開発及び研修を行うこととしている。都道府県では、地域医療において特別な役割があり、かつ過酷な勤務環境となっていると都道府県知事が認める医療施設を対象とし、医師の労働時間短縮に向けた総合的な取組みに対して助成を行う事業を地域医療介護総合確保基金の対象事業としている。
看護職員の多様な働き方に対応したシフト編成や業務の効率化、タスク・シフト/シェア等を効果的に進めていくため、現場の看護管理者が果たす役割が重要である。看護管理者のマネジメント能力向上を図る一方で、看護職員の負担軽減についても取り組むことが求められる。地域医療介護総合確保基金では、看護管理者向けに看護補助者の活用も含めた看護サービス管理能力向上のための研修を実施するための経費や医療勤務環境改善支援センターの運営経費に対する支援を行っている。介護現場の業務の効率化によるケアの質の確保等に関する取組みの普及を促進するため、2022年度はセミナーの開催を通じた好事例の展開を図るとともに、生産性向上に取り組む事業所の見える化等に関する調査・研究を引き続き行うこととしている。また、介護分野の文書の作成等に関する負担軽減を図るため、既存システムである介護サービス情報公表システムの改修により、利便性の高い全国共通の電子申請・届出システムの利用を開始することとしている。
保育に関しては、労務管理の専門家による巡回支援や魅力ある職場づくりの啓発セミナーを実施するとともに、保育士確保や定着、労働条件等の改善に関して、保育士の相談窓口を設置している。2022年度には、児童養護施設等職員の相談支援体制の構築を支援することとしている。マネジメントに関する実践的な知識・技能を有するリーダー層を育成する取組みも始まっている。「就職・転職のための大学リカレント教育推進事業」(文部科学省)では、全国の大学が都道府県労働局・ハローワークや企業等との共働で、即効性の高いリカレント教育プログラムの開発から修了者の就職の支援まで提供する事業を促進している。プログラムは、医療・介護等社会的関心の高い分野において行われており、2021(令和3)年度現在、22の都道府県で63プログラムが実施されている。
■タスク・シフト/シェアの取組みやロボット・AI・ICTの活用
タスク・シフト/シェアにより医療・福祉現場におけるサービス提供の効率性を高め、労働環境の改善をしている。医療・福祉現場の「タスク・シフト/シェア」は、①専門性の高い業務の一部を他の資格を有する人材も担うこととする方法や、②有資格者がその専門的業務に集中して取り組めるよう、補助的業務を一定の研修等を受けた資格を有さない人材に移行する方法で進められている。前者では多様な職種の連携によるチーム医療が挙げられる。2012(平成24)年4月に、あらゆる医療現場においてチーム医療のキーパーソンとなる看護師の負担軽減を図るとともに患者・家族のサービス向上を推進する観点から、一定の研修を終了した介護職員が医師の指示の下に、介護老人福祉施設等において、たんの吸引等の医療的ケアを行うことを可能とした。また、2015(平成27)年10月に、更なる在宅医療等の推進を図っていくため、特定行為に係る看護師の研修制度が創設された。2018(平成30)年度の診療報酬改定では、看護職員の負担を軽減し、看護補助者との業務分担・共同を推進することによってより質の高い療養環境の提供を目指す観点から、看護補助者の配置に関する評価の充実が図られている。
2021(令和3)年5月には、診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法及び救急救命士法等の改正を含む、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(令和3年法律第49号)が成立し、2021年10月より、医師又は歯科医師から、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士及び救急救命士に対するタスク・シフト/シェアが実施されることとなった。また2021年9月には、医師の労働時間の短縮のため、多くの医療専門職種それぞれが自らの能力を活かし、より能動的に対応していけるよう、現行制度下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアについて、医療施設で医師が行う業務のうち、医師以外の医療関係職種が実施可能な業務の具体例や推進に向けた留意点がまとめられた。具体的には、看護師、助産師、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、義肢装具士及び救急救命士について実施可能な業務例が整理されており、この例を参考として、タスク・シフト/シェアを受ける側の医療関係職種の余力の確保にも留意しつつ、各医療施設の実情に応じて、タスク・シフト/シェアの取組みが進められることが期待される。
2022(令和4)年度においては、特定行為に係る看護師の研修制度の円滑な実施及び研修修了者の養成を促進するため、研修を実施する指定研修機関の設置準備や運営に必要な経費を支援するとともに、研修を指導する指導者育成のための支援等を行うこととしている。また、特定行為研修修了者に係る医療の質に関するデータの収集や分析、データの活用方策の検討等を行うための経費を拡充することとしている。また、病院薬剤師を活用した医師からのタスク・シフト/シェア等にかかる取組みを収集し、その好事例について研修等を通じて全国に普及・啓発活動を行うとともに、病院薬剤師業務を効率的で生産性の高い業務構造に変革するため、国内外の業務実態を把握するための調査等を実施し、現状課題の抽出、論点整理等を行うこととしている。2022(令和4)年度においては、特定行為に係る看護師の研修制度の円滑な実施及び研修修了者の養成を促進するため、研修を実施する指定研修機関の設置準備や運営に必要な経費を支援するとともに、研修を指導する指導者育成のための支援等を行うこととしている。また、特定行為研修修了者に係る医療の質に関するデータの収集や分析、データの活用方策の検討等を行うための経費を拡充することとしている。また、病院薬剤師を活用した医師からのタスク・シフト/シェア等にかかる取組みを収集し、その好事例について研修等を通じて全国に普及・啓発活動を行うとともに、病院薬剤師業務を効率的で生産性の高い業務構造に変革するため、国内外の業務実態を把握するための調査等を実施し、現状課題の抽出、論点整理等を行うこととしている。
こうした、医療施設におけるタスク・シフト/シェア等の勤務環境改善や労働時間短縮にかかる先進的な取組みについては、2022年度において、取組みを収集し、その好事例を全国に共有するとともに、普及の促進を図るため、好事例を実施している医療施設による講演等を行うこととしている。
(つづく)K.I