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医療のタスク・シフト/シェア取組み
■事例
神奈川県横須賀市の中央部に位置する横須賀市立うわまち病院では、早くから働き方改革に努め、その結果、時間外勤務時間の減少、リクルートへの好影響等が確認できている。しかし、働き方改革を実現するには仕事や働き方を合理的かつ効率的なものにする必要がある。特に、夜間・休日も診療する医師の働き方改革への取組みとして医師の他職種へのタスク・シフト/シェアの推進に努力してきた。
〈特定行為に係る看護師の配置【看護師へのタスク・シフト/シェア】〉
うわまち病院には2021(令和3)年現在、7名(5名は21区分38行為研修修了・2名は区分別研修修了)が特定行為に係る看護師として勤務し、集中治療部や総合診療センター、手術麻酔分野を主に担当している。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中では、医療チーム編成を見直し、特定行為に係る看護師がCOVID-19専用病棟に配置され、重症、中等症、疑似症のCOVID-19感染症患者の治療にあたる医師のサポート、病棟管理に奮闘した。特定行為に係る看護師の一人は、手順書により医師の目線を理解することで、臨床の場で活かせることが多いと話し、さらなる職員のスキルアップが図られたことは大きな副産物である。
〈診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士への業務移行【コメディカルへのタスク・シフト/シェア】〉
2021年10月に臨床検査技師等に関する法律施行令の一部を改正する政令等が施行され、厚生労働大臣が指定する研修を受けたコメディカルは、医師の具体的な指示のもと業務範囲が見直された。うわまち病院でも積極的な研修参加を進めている。診療放射線技師が造影CTやRI検査のために静脈路を確保する行為、臨床検査技師が超音波検査のために静脈路を確保する行為、臨床工学技士が生命維持管理装置を用いて行う鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラを保持する行為など、多くの業務を医師から移行する予定であり、業務範囲が見直された業務を積極的に担っていく。
〈医師事務作業補助者の活躍【事務へのタスク・シフト/シェア】〉
うわまち病院では、2021年現在、13名の医師事務作業補佐者が活躍している。医師の指示のもと、診断書の作成補助や電子カルテの代行入力などを行っている。
〈チーム医療の推進【複数職種へのタスク・シェア】〉
うわまち病院ではチーム医療推進委員会があり、各職種が専門性を発揮したチーム医療を推進している。例えば、小児医療センターでは医師、看護師、コメディカルスタッフ、病棟保育士、子ども療養支援士等が入院中の小児や家族に寄り添ったチーム医療を行っている。ICU(集中治療室)でも朝の始まりは多職種カンファレンスであり、その内容は質・量ともに豊富である。また、総合診療センターでは、救急・総合内科・集中治療・総合診療科を包含し、急性期から慢性期までの診療を連続的に行っている。医師、特定行為研修修了者の看護師、コメディカルで診療チームを作り、毎日のカンファレンスや勉強会を開催し、質の高いチーム医療を提供できるよう心掛けている。このように、多くの病棟やチームで常にカンファレンスが行われ、豊富なコミュニケーションによってタスク・シフト/シェアはさらに推進される。
〈複数主治医制の導入【医師同士のタスク・シェア】〉
うわまち病院の小児科と総合内科では複数主治医制を導入している。複数主治医制の導入で、勤務の交代時には申し送りを行った上で業務を終了する姿が見られる。これによりシフト制を導入する科も増え、シフト制と当直制をミックスし、医師のみならず全職員は当直明けに帰宅できるようにもなった。また、複数主治医制で診療内容が透明化され、標準化されるという診療上のメリットは大きい。時にスピーディーさに欠ける、裁量権が減るなどの問題が無いわけではないが、複数主治医制により、拘束時間が明確になり、医師の意識改革が進み、更なる働き方改革につながる。
〈タスク・シフト/シェア推進について〉
複数主治医制や多職種チーム医療を進めてきた中で、医師の働き方の選択肢が増え、2013(平成25)年に導入した短時間正職員制度を利用する職員も増えてきている。この制度は子育て中の女性医師と看護師が対象であったが、育児、介護を行う全職員を対象にした制度に発展している。また、男性医師も育児休業を取得している。うわまち病院では、今後の医師の働き方改革として特定行為に係る看護師やコメディカルの活躍を進め、タスク・シフト/シェアを推進することとしている。また専門科によってはシフト勤務や変形労働時間、保険診療の活用を図りつつテレワーク等も導入する予定だ。
□介護分野や保育分野
有資格者がその専門的業務に集中して取り組めるよう、補助的業務を一定の研修等を受けた資格を有さない人材に移行する取組みが進められている。介護分野では、都道府県福祉人材センターに2022年度から「介護助手等普及推進員」を配置し、市町村社会福祉協議会や自立相談支援機関等を巡回し、介護助手希望者の掘り起こしを行っている。あわせて、介護事業所に対し、介護助手導入のための業務改善にかかる助言や求人開拓等を行うことにより、介護の周辺業務を担う人材の確保を促進することとしている。さらに介護現場において、テクノロジーの活用に加えて、介護助手等の活用によるサービス提供の効率化の取組みを推進するため、介護施設における効果実証を実施するとともに実証から得られたデータの分析を行い、次期介護報酬改定の検討に資するエビデンスの収集等を行うこととしている。
□保育分野
保育所等において、保育士の業務の補助を行う保育補助者の雇上げに必要な費用の一部を補助しており、2021年度は保育補助者の勤務時間(週30時間以下)に関する要件を撤廃するとともに、保育士確保が困難な地域における補助基準額の引き上げを行った。また、保育所等において、清掃や遊具の消毒等の保育の周辺業務を行う保育支援者を配置する場合の費用を補助(園外活動の見守り等にも取り組む場合は補助基準額を引き上げ)しており、2022年度は保育体制強化事業について、各保育施設において計画的に保育士等の勤務環境の改善等に関する取組みが図られるよう、補助要件を見直すこととしている。このほか、児童相談所では親権停止等についての家庭裁判所への申立等法的な専門性の高い業務がある。こういった業務について弁護士配置に係る費用の補助に加え、2022年度は新たに弁護士業務の補助職員の配置に要する費用の補助を創設することとしている。
(つづく)K.I