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医療におけるロボット・AI・ICT
■ロボットの活用
テクノロジー(ロボ・AI・ICTなど)は人材育成のツールとなるとともに、業務の効率化及び安全性の向上に資する。2022(令和4)年度において、都道府県を通じて、オンライン診療を含め、遠隔医療(遠隔病理診断・遠隔画像による診断及び助言・在宅患者に対する遠隔診療)の実施に必要なコンピューター機器・通信機器等の整備に対し引き続き支援を行うこととしている。また、ICT等を活用し、集中治療を専門とする経験豊富な医師が、他の医療施設の患者を遠隔で集中的にモニタリングし、若手医師等に対し適切な助言等を行う体制を整備することとしている。さらにICT等を活用し、周産期母子医療センターの周産期専門の医師等が、他の分娩取扱施設の妊産婦・胎児を遠隔で集中的にモニタリングし、産科医師不足地域に派遣された若手医師等に対し適切な助言等を行う体制を整備することとしている。ここで、今後の活用の拡がりに期待できる障害福祉分野におけるロボット活用例を紹介する。
□事例
茨城県水戸市にある北水会記念病院(院長:平澤直之)の児童精神科外来ではコミュニケーションロボットが活躍している。児童や家族の診察時の心理的な負担軽減につなげるともに、職員の業務の効率化や専門人材の不足の解消につなげようとする試みも進められている。
〈児童とその家族をリラックスした状態で診療につなげ、人に出来ないことをロボットで代替したい〉
児童精神科外来でのコミュニケーションロボットの導入は、外来を担当する熊崎博一医師(国立精神・神経医療研究センター)のリーダーシップによって行われた。児童精神科医療では、児童とその家族とのコミュニケーションを通して児童の心理状態を正しく評価して治療につなげることが重要とされる。そのため、医師はかねてから、「少しでも診察前の児童や家族の不安を軽減しその家族をリラックスした状態で、待ち時間から診療につなげたい」と考えていた。また「医療分野におけるロボットとの共生」を研究テーマに掲げ、「人の代わりをするだけでなく、人(職員)に出来ないことをロボットで行えないか」という考えもあったという。
〈ロボットとのコミュニケーションは児童の心の安定や社会性の涵養に効果〉
2020(令和2)年3月から簡単な会話や喃語(なんご)を話すことができ、表情豊かな完全自立型のぬいぐるみ型ロボットLOVOT2体を待合室に迎え入れた。ロボットの存在は、児童とその家族の不安を軽減し、前向きなコミュニケーションを促すなど良い影響を与えている。児童の家族からは、「診察のある土曜日は子どもが中々起きてくれなくて大変だった。子どもがこれまでは病院に行くのを嫌がって車に乗せることすら大変だった。ロボットに会えるということで、受診が楽しみなイベントに変化し、起床も早くなり、車に乗ってくれるようになった。付き添う家族にとっても受診は楽しみな時間となった。」との声が聴かれる。診察前の待合室では、児童同士がロボットを取り合うのではなく、譲り合いをしながら、自分の兄弟姉妹に接するように遊ぶ様子や、LOVOTに本を読んであげたり、世話をしたりする様子が見られるようになった。児童はロボットを通してコミュニケーションを練習するとともに、家族も含めて診察前の時間をリラックスして過ごすことができている。
先日、診察室で熊﨑医師が「とてもいい状態なので、診察は本日で終了」と伝えると、子どもは「これからもロボットに会いたいし病院に来たい」と泣き崩れるケースもあった。一定の効果が出ている一方で、活用上の課題は、ランニングコストも含めた費用面が大きいという。導入初期は扱いが繊細で難しいため壊れてしまい、一度の入院(修理のこと)で2~3週間かかることもしばしば。また、1回の充電での電池の持続時間(約45分)が短いといった課題もあったが、現在では児童もそれらに慣れてうまくロボットと付き合っているという。
〈ロボットの特徴を活かして児童が「自分らしく相手に伝える」〉
人(職員)にできないことにロボットを効果的に活用するためには、ロボットの特徴や得意なことを理解する必要がある。例えば、ロボットは「パフォーマンスの質を維持しつつ、長時間同じ業務をこなすこと」ができる。これはヒトにはできないことである。そのため、ロボットは診療に訪れる児童やその家族を何組でも期限に左右されることなく、和やかに迎え入れることができる。また、双方向のコミュニケーションが可能なロボットを使えば、医師の声を患者がどこにいても、また時には声色を変えて届けることが可能だ。
児童とその家族が医師や職員と初対面の場合には、児童が不安を感じることが多い。児童本人から診察のための聞き取り等(検査や予診)を行うのに、大人が行う場合は比較的委縮しやすく対人緊張を抱きやすい一方で、かわいらしい顔をしたロボットなら対人緊張なく自分らしく話が可能だ。熊崎医師は、ロボットの活用により児童やその家族の状況を丁寧に把握しつつ、人が得意な、または人以外では替えがきかないようなトラブル対応等の業務に、限られた体制の中で職員の能力を集中して発揮できる効果を見込んでいる。
さらには、ロボットの双方向性を活かして、「医師が遠隔操作システムを用いて、離島等の児童精神科医の確保が難しい場所で診療を行うこと」や、「医師が複数台を同時に操作し、交互にではなく、それぞれ別室にいる児童とその家族に同時に検査や診療を行うこと」などが期待できるという。実際に児童精神科の専門外来がない九州地方の病院で、担当医同席のもと、ロボットを介した同時診療を試みるとしている。ロボットを活用する業務を広げ、人材の確保や人手不足の解消を図りたい。北水会記念病院の児童精神科外来でのロボットの活用は始まったばかりであるものの、その存在は児童やその家族に良い影響をもたらしている。ぬいぐるみによる癒しの効果と同時に児童とその家族の表情が明るくなることで、職場の雰囲気も良くなっているという。
熊崎医師は、ロボットのコミュニケーション能力についてはメーカーのアルゴリズムのバーションアップを積極的に取り入れつつ、当面の目標として、ロボットの強みを積極的に生かし、職員が「ロボットを活用する業務を広げていく」ことを掲げている。また、試行錯誤の途上ではあるものの、ロボットの遠隔操作機能を利用して、妊娠・育児により一時的に職場を離れた女性医師に診療等に参加してもらうことなどにより、スタッフの教育や人手不足の解消を図っていくこととしている。
介護ロボットは、自分よりも身体の大きな利用者のケアを行うことなどにより常に身体的負担がかかっている介護職員の腰痛等の軽減に有効である。医療分野のロボットは手術時間の短縮等による医師等の負担軽減に大きな期待が寄せられている。AIやICTは膨大な事務作業を正確に、かつ、効率的に行うだけでなく、画像データ等の蓄積による診断や見守りの補助業務や、一人一人に作成や見直しが必要な介護サービスのケアプランの作成業務への活用が研究されている。
□事例
岡山県岡山市では、2019(令和元)年7月から、地域医療介護総合確保基金を活用した事業により、市内の介護事業所に無償で介護ロボットを貸与している。介護事業所が生産性を高めてサービスを提供できるようにするための工夫を紹介する。
〈介護現場の声を背景に実施〉
この「介護ロボット普及推進事業」を開始した背景には、岡山市が介護事業者へ実施した介護ロボットに関する聞き取りがある。そこでは、「高額である」や「購入後の効果がイメージできない」との声が多く、まず購入に至るまでに壁があることを把握した。また購入し導入したとしても、介護職員が扱いづらさを感じて使用されなくなる事例を確認した。
〈介護ロボットの貸与と利用効果の検証の2本柱〉
介護ロボット普及推進事業は、「介護ロボットの貸与」と「利用効果の検証」の2本柱で実施している。
1.介護ロボットの貸与 岡山市は介護職員の負担軽減と利用者の自立支援に効果が特に高いという観点から介護ロボットを選定している。これまでに、移乗、移動(2019年度のみ)、リハビリ、コミュニケーション、見守りに資する7機器を貸与してきた。次に、開発企業から介護事業所へ3か月間(第1期:7~9月または第2期:11月~1月)、ロボットを貸与している。介護事業所は介護職員及び利用者に実際にロボットを利用してもらい、現場の意見等を開発企業へ報告する。開発企業は介護事業所の意見や、調査機関のフィードバックをもとに、新たなロボットの開発及び改善に反映する。
□利用効果の検証
介護ロボットを利用した介護事業所は、岡山市から委託を受けた利用効果検証に係る調査機関へ利用に関する調査票を提出する。調査機関は調査票の分析結果を市に報告する。
〈介護ロボットのレンタルは利用促進に効果あり〉2021(令和3)年度の調査票の分析結果からは、介護ロボットの導入前と比べて、介護職員の心理的負担変化につき平均0.42点(軽減したと感じる)、職場の活気の変化につき平均0.53点(向上したと感じる)の効果があった。また、介護職員からは、利用者の状況が的確に把握できるようになり、適時適切なケアを提供できるようになったとの回答もあり、ケアの質の向上にも寄与することが確認できた。利用者からは、コミュニケーション、生活の質の向上及び社会参加の機会の拡大に寄与していることを確認した。同事業の対象としたロボットについて、利用前は介護事業所における認知度が分野別に6.7~21.3%と高くない傾向であったが、導入後は、介護ロボット全般の今後の利用について「利用したい」で11.4%、「どちらかといえば利用したい」で36.7%と、この事業を利用した介護事業所の約5割が利用に前向きとなった。
〈今後とも介護ロボットの普及を推進〉岡山市では、介護ロボットの活用に関する岡山市では、介護ロボットの活用に関する研修会を実施し、市内の介護事業所を対象として、介護ロボットの活用事例や利用効果を積極的に横展開している。また、岡山型持続可能な社会経済モデル構築総合特区(AAAシティおかやま)の取組みの一部として全国に発信している。同事業をきっかけとして介護ロボットの導入・活用に踏み出し、普及を推進してきた岡山市では、今後とも事業を継続し、介護現場におけるロボットの試行を進め、職員との協働を推進していくこととしている。同事業をきっかけとして介護ロボットの導入・活用に踏み出し、普及を推進してきた岡山市では、今後とも事業を継続し、介護現場におけるロボットの試行を進め、職員との協働を推進していくこととしている。
保育分野では、ICTを活用して子どもの登園管理や保護者への連絡、記録を行うことにより、業務効率化と業務改善が進められており、保育の周辺業務や補助業務に係るICT等を活用した業務システムの導入費用等を支援している。内閣府「こどもに関する政策パッケージ(経済対策関係)」(2021年11月19日)では、こうした保育所、児童相談所、放課後児童クラブ等におけるICT化を推進することとしている。
■AI(人工知能)の活用
□事例
(AI(人工知能)ケアプランが実現するもの)
国は、2016(平成28)年からAIケアプランの調査を開始し、2022(令和4)年度においても自立支援・重度化防止等に資するAIも活用した科学的なケアプランの実用化に向けた取組について検討することとしている。
〈介護サービス提供の要の存在であるケアマネジャー〉
ケアプランとは、介護を必要とする人の要介護度や体調、要望等を基に利用する介護サービスやその利用回数等を定める計画書のことである。自立支援を目的に利用者一人ひとりにきめ細かくケアプランを作成するため、作成には時間がかかる。作成後も健康状態等によって必要に応じて見直しが必要となる。介護支援専門員(ケアマネジャー)は、ケアプランの作成業務や、ケアプランに従って介護サービスが提供されるよう市町村・介護サービス事業者・施設等との連絡調整を行う要の存在である。また、介護サービス利用者の増加や地域包括ケアシステム構築による医療・介護の連携体制整備に伴い、ケアマネジャーの果たす役割は一層重要となっており、ケアマネジャー一人ひとりに対して効果的・効率的な業務が求められる。
〈AIはケアマネジャーの“頼りになる相棒”となるか〉
AI導入の目的はケアマネジャーの代替で保健・医療・福祉分野での実務経験が5年以上である者等で、実務研修を受講し、試験合格後に研修課程を修了し、介護支援専門員証の交付を受けた者はなく、あくまでケアプランの作成支援である。現在市場において販売されているAIケアプランの作成支援のソフトは、新規利用者の要介護情報等を入力することで条件にあったケアプランの一部が自動的に提案される。一方で、ケアプランは利用者の意向や課題等、個々の状況等を十分に踏まえて作成されるものであり、また、最終的にはケアマネジャーが利用者に適したケアプランの内容とするために各種調整を行い、ケアプランの内容を利用者に説明する必要があることから、AIケアプランについては引き続き調査研究が必要である。
(生産性向上とケアマネジメントの質の向上を目指すAIケアプラン)
AIの利点は人間には処理不可能なほどの膨大な過去データを分析し、物事の傾向の把握や将来予測が可能となる点である。膨大な利用者データの活用は科学的根拠に基づいた効果的・効率的な介護のあり方を示す可能性を持っている。
こうした状況を踏まえ、AIケアプランの精度向上などを通じて社会実装につながるよう、国においても、引き続き、調査研究事業を進めていく。
介護現場のニーズをテクノロジーの開発内容に反映させることに併せ、効果的な介護技術を構築するなど支援を行ってきた。2022年度は、①介護施設等(ニーズ側)・開発企業等(シーズ側)の一元的な相談窓口、②開発実証のアドバイス等を行うリビングラボ、③介護現場における大規模実証フィールドからなる介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォームの機能の拡充や、エビデンスデータの蓄積を図りつつ、介護ロボット等の開発・普及の加速化を促進することとしている。また、業務負担の軽減等に向けた取組みを促進し、介護サービス事業所及び障害福祉サービス事業所等におけるICT・介護ロボット等の導入を支援している。
(つづく)K.I