実践編・応用編

女性医療職の働く環境整備 | キャリコン実践の要領252テクノファ

投稿日:2023年3月28日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っていると実践に役立つ情報をお伝えします。

■女性医療職の働く環境整備
2020(令和2)年末現在で、女性医師の医師全体に占める割合は22.8%となり過去最高を記録した。特に産婦人科・小児科では20代の女性医師の割合が半数を上回っている現状にある。看護職員の平均年齢は40歳代と上昇しており、育児や看護等で休職したり、あるいは夜勤に従事したりできない者の割合が病院において約2割に上っているとの指摘がされている。育児等を行いながら就業を継続したり、復職したりできる環境を整え、多様で柔軟な働き方を実現していく必要がある。

女性医師がライフステージに応じて働くことのできる柔軟な勤務形態の促進を図るため、パートタイム勤務等の職業あっせん事業を日本医師会が行っており、2022(令和4)年度も、2007(平成19)年1月30日に開設した女性医師バンクにて、再就業を希望する女性医師の就職相談及び就業斡旋等の再就業支援を行う。また、都道府県医師会において、女性医師の再就業における講習会等を開催し、女性医師の離職防止及び再就業支援を図っている。さらに、出産・育児・介護等における女性医師、看護職員等を始めとした医療職のキャリア支援に取り組む医療施設を普及させるため、中核的な役割を担う拠点医療施設の構築に向けた支援を行うこととしている。都道府県においては、女性医療職等の離職防止及び再就業を促進するため、地域医療介護総合確保基金を活用し、病院内保育所の運営費や施設整備に対する支援を実施している。

□事例
(子育て中医師のキャリア支援~医師が勤務したい病院へ(筑波大学附属病院))
近年の医学部入学者に占める女性の割合は約3分の1であり、筑波大学附属病院(原晃病院長)の臨床研修医も女性の占める割合は35%程度である。今後もその割合は高まることが予想されており、2024(令和6)年の医師の時間外・休日労働の上限規制への対応も含め、これからの病院には医師が働き続けられる勤務環境の改善が望まれる。

〈女子医学生、研修医のキャリア観〉
筑波大学附属病院で臨床実習を行っていた女子医学生(4年生37名、5年16名)、女性臨床研修医(1年目17名、2年目28名)に2013(平成25)年2月に行ったアンケートでは、進路を選択する際、考慮した(する)ことについては、「疾患への学問的興味」(69.9%)、「やりがいがある」(69.9%)をあげる者が多かった。また、医師として仕事をすることへの不安については、「家庭と仕事の両立」、「結婚出産のタイミング」、「体力不足への不安」に関することがあげられていた。また、2018(平成30)年4月から新専門医制度が導入されたが、医療従事者専用サイトのm3.comが2017(平成29)年に医師(女性252人、男性248名)に行ったアンケート調査では、女性医師の61.5%が制度導入により専門医取得が困難になるのではないかと回答している。女性医師も将来に不安を持ちながらも、興味ややりがいがある分野で専門医を取って活躍したいと考えていることが推察され、子育て中の医師の支援はこのことを考慮して行われることが望まれる。

〈筑波大学附属病院の女性医師キャリアアップシステム〉
今までよく見られた女性医師支援は、勤務の調整がしやすい外来中心の非常勤勤務の体制や、産前産後休暇、育児休業の取得、保育所の整備といったものが多かったが、さらに一歩踏み出すのであれば、キャリア支援が大切である。筑波大学附属病院では、2007(平成19)年度文部科学省「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」に「女性医師看護師キャリアアップ支援システム」(以下「支援システム」という。)が採択され、女性医師・看護師の離職防止、復職支援を積極的に行ってきた。

この支援システムでは、子育て中で多忙であっても、少しずつマイペースでキャリアアップしていけることがモチベーションの向上につながると考え、キャリア支援を積極的に行っており、特に専門医の取得は最大の研修目標である。支援システムの特徴は、キャリアコーディネーター(医師)が、支援を希望する女性医師個人に合わせた研修をコーディネートすることにある。一口に女性医師といっても、専門分野、それまでのキャリアは人それぞれであり、画一的な支援プログラムでは対応が困難である。本プログラムの参加者には初めに研修の目的を立ててもらい、その上で所属する診療科とも相談して、経験に応じた診療・研修プログラムをオーダーメイドで作成している。勤務時間は、個々の事情に合わせて半日~32時間/週で設定が可能であり、育児とキャリアアップの両立を図ることができる。この支援システムが始まってからこれまで76人の女性医師がこの仕組みを活用してきた。

〈男女ともに働きやすい環境の整備のための取組み〉
筑波大学附属病院では、以下の取組みを行っている。「パートタイム常勤制度」:常勤職員でありながら、勤務時間を週20~30時間とする新たな雇用制度を導入した。他施設での子育て支援の多くが就学前の子供のいる医師に限られる中、この制度では小学校3年生までの子供を持つ医師が対象となっていて、いわゆる‘小学1年生の壁’にも対応している。「保育所や搾乳室等の整備」:保育時間は7時~22時、365日開園している保育所が事業所内に整備されている。また、母乳育児支援として院内に搾乳室や、妊娠時の体調不良の際に利用できる女性専用の休憩室も整備されている。「育児支援システムの導入」:一般の保育所等では対応ができない急病時の病児・病後児保育(以下「病児保育」という。)や緊急手術などの際、時間外保育に対する支援を行い、医師が職務とキャリアの継続ができる環境を整えている。病児保育は、女性医師だけではなく、男性医師や他の医療職員も利用が可能である。
(つづく)K.I

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