熟練レベルのキャリアコンサルタントを目指すにはネットワークが重要
熟練レベルのキャリアコンサルタントでは、より効果的なキャリア開発形成支援のために、人的なネットワークを持ち、活用するだけでなく、クライエントを取り巻く環境への働きかけも必要になります。
■キャリアコンサルタントは人的ネットワークと環境への働きかけが重要
①人的ネットワーク
熟練レベルのキャリアコンサルタントの特長は、キャリア開発・形成支援のためのリソースを組織化し、関係者と効果的に連携して活動している点です。すなわち、人的なネットワークを持ち、自分の専門領域以外のテーマに関してはそれを効果的に活用しているということです。1人ですべてを解決できるわけではないので、必要に応じて他者と連絡を取り合い、協力等を求めることが不可欠となります。これが的確な「リファー」 につながります。自分の専門領域以外のこと、あるいは自身の力量を超える問題に関しては、適切な専門家にリファーする必要があることはすでに説明したとおりです。
②環境への働きかけ
次に注目しなければならない点は「環境への働きかけ」です。キャリアコンサルタントの役割は、来談者との1対1の面談だけでは終わらないことがあります。そのキャリア開発・形成上の問題を解決するにあたっては、来談者を取り巻く環境要因が大きな意味を持つことが多く、そのためには問題の本質を把握して、場合によっては関係機関や関係部署等に働きかけ、効果的なクライエント支援を行っていくことが求められます。
その場合、あくまでも来談者のプライバシーの保護には十分留意し、 来談者の同意または了承を得なければならないことは、言うまでもありません。
次にキャリアコンサルティングを行ううえで求められるものについて説明いたします。
そもそも、なぜキャリアコンサルタントが必要とされるのでしようか? ここでは、日本の社会的背景の変化から、現在のニーズと、それにあたって、どんな知識やスキルが求められるのかを解説していきます。
■かつての日本には「キャリア」の概念がなかった
かつて、日本の社会では「キャリア」という概念が存在していませんでした。しいて言えば、官庁における差別的な「キャリア組、ノン・キャリア組」 という表現として使われていた程度です。「キャリア」という言葉が日常の場面で使われるようになってから日がまだ浅く、自分の人生は自分のもの、自分の生き方は自分が決めなければならない、という自覚を持っている人はキャリコンサルタント以外にはあまり多くなく、逆に、自分で自分らしい生き方を考えて実践しようとしても意味がない、自分の将来は自分で決めることではなく親や先生や会社が決めることである、 と思っている人の方が多いのが現状です。
いわんや、自分はなぜ働くのか、働くということが自分にとってはどういう意味があり、どういう価値があるのか、などという内省も意識もありませんでした。
それは、日本が戦後の復興期には自分のことはさし置いてひたすら家族のため、社会のため、会社のためにがんばることを求められていたからです。その結果として、日本はほとんどゼロの状態から世界でも有数の経済大国にまで成長することができました。国内外の経済も右肩上がりであったために企業は社員を丸抱えにし、いつのまにか企業の社員は自分の将来を自分の問題として考える機会を失ってしまったからだと思われます。
そもそも、自分の生き方を誰か他の人に決めてもらいたいと思っている人はいないはずですし、誰かの言いなりに生きていこうとする人もいないはずです。しかし、多くの日本人にとってはそれが成功体験としてしみついてしまい、気がつくと自分の生き方、あるいは働き方を自分で考え、自分で実行することを求めることも、求められることもなくなっていたのです。このような問題意識はキャリア教育を通じて各人のなかで醸成され、それぞれ個々人が自覚しなければならないことなのですが、社会がこのようなキャリア自覚を求めていなかったために、日本の学校教育でも、キャリア自覚を促すようなキャリア教育はなされてきませんでした。
■バブルの崩壊をきっかけにキャリア開発・形成の支援が必要に
ところが、バブルが崩壊して企業は社員の丸抱えができなくなったばかりか、人員整理をせざるを得ない状況となってしまいました。バブル崩壊以前は言わなかった「自己責任」ということを企業は言わざるをえなくなりました。それまでは会社の言うとおりにやっていれば平穏無事に暮らせていたのに、そうはいかなくなったわけです。
そのため、自分のことは自己責任と急に言われてもすぐに対応することが困難であったり、どう考えればよいのかわからずに困っていたり、という人たちをキャリコンサルタントが支援する必要が生じました。また、企業の人員整理によって非自発的に退職せざるを得ない状況に置かれた人が増加したため、そういう人たちの再就職を支援する必要性も生じてきました。
(つづく)A.K