基礎編・理論編

キャリアコンサルティングとキャリアカウンセリング 8 I テクノファ

投稿日:2020年10月5日 更新日:

1.キャリアコンサルタントの能力要件
2016年4月に施行された職業能力開発促進法は、キャリア支援の社会的重要性の高まりを反映して整備された内容となっています。具体的には、労働者は自ら職業生活設計を行い、自発的に職業能力開発に努める立場であること、事業主は労働者のこのような能力開発をキャリアコンサルティングの機会を確保その他の援助を行うこと、そして、キャリアコンサルタントの業務内容や登録制度、これら3点が規定されたことです。

一方で、厚生労働省は検討会を設置して法制化されたキャリアコンサルタントの業務遂行に当たっての能力要件等について調査研究を進めており、2018年3月にキャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会が「キャリアコンサルタントの能力要件の見直し等に関する報告書」で下記の拡充・強化事項を提言しています。

・クライアントや相談場面が多様化してきていることを踏まえた、基本的スキルの一層の充実を図るための知識及び技能
・セルフ・キャリアドックをはじめとした企業におけるキャリア支援に関する知識及び技能
・個人の生涯にわたる主体的な学び直しと、これによるキャリアアップや再就職等の支援に関する知識及び技能
・社会環境変化や労働政策上の課題(例:職業生涯の長期化、仕事と治療の両立支援、子育て・介護と仕事の両立支援等)の解 決に対する役割発揮の観点から必要な知識・技能

2.セルフ・キャリアドック
1.に記したキャリアコンサルタントの能力要件の拡充・強化事項には、従来どおりのクライアント個人への対応に加えて、組織など環境への働きかけの要素のウェイトがより大きくなったと思われます。とりわけ、セルフ・キャリアドッグを担当するキャリアコンサルタントは組織など環境への働きかけの知識・技能を備えることが不可欠です。
なお、セルフ・キャリアドッグは、厚生労働省人材開発統括官付参事官付キャリア形成支援室2017年「セルフ・キャリアドック導入支援事業『セルフ・キャリアドック』導入の方針と展開」では次のように定義されています。

「セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などと組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の『仕組み』のことです。」
この冊子は、「人材育成のビジョン・方針の明確化」「セルフ・キャリアドック実施計画の策定」「企業内インフラの整備」「セルフ・キャリアドックの実施」「フォローアップ」さらに、「セルフ・キャリアドック導入支援事業モデル企業における具体的事例」が詳細に説明されており、セルフ・キャリアドックを担当するキャリアコンサルタントは、まずは一読の必要があるでしょう。参考図書としては、高橋浩 増井一2019年「セルフ・キャリアドッグ入門 キャリアコンサルティングで個と組織を元気にする方法」金子書房 が読みやすいと思われます。

しかしながら、これらの文献はセルフ・キャリアドック実施のための仕組作りの方法や手続きについて説明していますが、それらの方法や手続きを遂行するのに必要となる個人と組織の関わりの知識・技術については具体的に触れていません。これはカウンセリング理論や技法に委ねられているという立て付けからの取り扱いと思われますが、これまでキャリアコンサルティングで用いられてきたカウンセリングでは、必要性の増している組織を対象とする理論や技法の導入や活用があまりなされてこなかったように思われます。

3.BFTのキャリアコンサルティングへの応用
以上のような背景から、キャリアコンサルタントは組織を対象とできるBFTを積極的に学び、キャリアコンサルティングに活用することが望ましいと考えます。
前回は、キャリアコンサルティング面談で比較的導入しやすそうなBFTの治療的会話における質問を例示して、MRIコミュニケーション理論に基づくBFT統合モデルを紹介しました。

今回は、引き続きBFTの技法についてこれまでと同様に若島孔文 長谷川啓三2018「新版よくわかる!短期療法ガイドブック」金剛出版※1から主だった箇所を引用して紹介します。
なお、これから記すBFTの技法の主題についてはBFT紹介の初回の理論的背景で記しましたが、念のために下記に再掲します。
(1)『個人から家族にその分析単位をかえることで、人間を探求する学問におけるパラダイム変換を行った。』※1 キャリアコンサルタントは、しばしば個人と部門・会社などの組織との関係性によって問題が生じることが少なくありません。これらの問題は直線的な因果関係から生じていることは極めて稀で、複数の事柄が相互に作用しあう円環的因果関係から問題が生じ維持されていることがほとんどのケースに見られます。このような問題の解決は、単純に原因を探り対処するには無理があります。どちらかというと、問題を俯瞰して対処することが必要になります。『個人から家族』における『家族』を組織に置き換えると、BFTの理論を学びその技法を用いることができるようになることはキャリアコンサルティングを行ううえでも重要であると考えられます。

(2)『①ほとんどの問題は人間関係の中で生まれ維持されるとすること、②セラピストの仕事はクライエントが何か新しいことをするように促すこと、③ほんの小さな変化が必要なだけであり、したがって治療目標は最小限に必要とされるものでいいとすること、④セラピストに必要なことは事態がどうなれば問題が解けたことになるかを知ること、』※1

4.BFTの技法
(1) ノンバーバル‐マネジメント側面への介入※1
バーバル‐マネジメント側面とは長谷川らがコミュニケーションを、トピック的側面-マネジメント側面の軸とバーバル(言語)-ノンバーバル(非言語)の軸の2軸で分類した象限の一つです。なお、マネジメント側面とは対話者相互で、そこでのコミュニケーション自体の流れを規定するコミュニケーション行動と位置付けられています。
この2軸によるコミュニケーション行動の分類において、視線の方向付け・反応を求める頭の動き、反応を示すうなずき、相互作用的ジェスチャーがノンバーバル‐マネジメント側面に分類されますが、長谷川らは、家族成員間で行われるコミュニケーションのノンバーバル‐マネジメント側面に介入することの重要性を強調しています。

(2) バーバル‐マネジメント側面への介入※1
BFTでは、会社組織では役割分化や専門化によって部・課・係などが生じ、部は会社組織、課は部、そして、係は課のそれぞれサブシステムとして位置づけることができ、会社組織・部・課・係ではそれぞれの単位でコミュニケーション循環が行われていること。そして、コミュニケーションの流れによってサブシステムが明確になり、境界線を構成することを指摘します。
また、神尾昭雄(情報の縄張り理論1990言語、言語の機能分析 大修館書店)は「日本語には直接形(~です ~ですよ ~ですね)と間接形(~ようです ~でしょう ~みたいです) の文末形式があり、これらの文末形式の使い訳には話し手の情報の確信程度が影響する。そして、情報が聞き手の縄張りの内側にある場合は、文末終助詞「ね」を、外にある場合は「よ」を使用する」と指摘しています。境界線を挟んで対峙する対話者相互での文末終助詞「ね」と「よ」を交換したコミュニケーションでは、対話者相互の感情や行動に影響を与えることになります。

(3) コミュニケーション・ルートの利用※1
コミュニケーションにはルートがあり、同じことを言っても「それが誰の意見か」によって受けての感情や行動に与える影響は変わってきます。また、話したい人そうでない人といった「誰と話すか」というコミュニケーションの窓口があります。キャリコンサルタントはこれらを有効に利用しながらコミュニケーションを変化させます。具体的方法としては次のような方法があります。

  • 間接贈答法 ある人を媒介してプレゼントを伝達する際に相手に自分の気持ちを推量の形で伝えてもらう。
  • 間接伝達法 ある人を媒介して相手に自分の気持ちを推量のかたちで伝えてもらう。
  • 席替え 成員の席が決まっている場合、暗黙のルールがあり、コミュニケーション・ルートを規定していることがあります。席替えはコミュニケーション・ルートを変更する一つの方法となります。

(4) 問題-相互作用モデルの応用※1
BFTでは、「家族の問題を解決する」から「家族と共に問題を解決する」という共同と協調を重視した視点に移行してきています。あるいは、「システムが問題をつくる」から「問題がシステムをつくる」、「解決が問題システムをつくる」、「偽解決が連鎖を構成する」という視点が提示されています。
問題-相互作用モデルでは、夫婦面接や家族面接のような合同面接場面で、問題を作り上げる家族コミュニケーションにではなく、問題解決を妨げる家族コミュニケーションに着目します。そして、合同面接場面で協調的でスムーズな会話を行う際の技術としては次の2点が代表的です。

    • 問題についてよりも解決に焦点を当てた未来志向のアプローチを取る。

これは、解決志向アプローチ(SFA)と呼ばれています。

  • 問題について直面する場合、対人システムの維持を保証し、カウンセラー(原文ではセラピストと表記)が代替機能を果たす必要がある。

以上、3回にわたりBFTの導入部分について紹介してきましたが、BFTの考え方、理論、そして技法は、家族ばかりでなく、個人と部門・会社などの組織との関係性やコミュニケーションよって生じる問題の解決アプローチとしてキャリアコンサルタントが習得すべきものと考えます。
(続く)
次回からは、キャリアコンサルタントへのスーパービジョンを取り上げます。
キャリアコンサルタント 1級技能士 上脇 貴

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