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■マタハラ対策
事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針です。
〇世間一般に認知されているマタハラという言葉は、妊娠出産等に関するハラスメントと育児休業等に関するハラスメントを含んでいます。そのうち妊娠、出産等のハラスメントを規定する男女雇用機会均等法には従前より女性労働者に対し妊娠、出産、休業等を理由とした不利益な取扱いをしてはならない旨の規定はありましたが、同法の改訂により新たに事業主には、女性労働者の就業環境が害されることのないよう、体制の整備その他雇用管理上必要な措置を講じることを義務付け、措置等に関して指針を定めることを規定しています。規定により策定された指針の内容を次に説明します。
〇 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの内容
(1) 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントには、以下のものがある。
イ 雇用する女性労働者の労働基準法の規定による休業その他の妊娠又は出産に関する制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるもの(制度等の利用への嫌がらせ型)
ロ 雇用する女性労働者が妊娠、出産、その他の妊娠又は出産に関する言動により就業環境が害されるもの(状態への嫌がらせ型)
(2) 「職場」とは、雇用する女性労働者が業務を遂行する場所を指し、就業している場所以外の場所であっても業務を遂行する場所については職場に含まれる。
(3) 「労働者」とは、正規雇用労働者の他、パートタイム労働者、契約社員等の非正規雇用労働者を含む。派遣労働者について、派遣元事業主、派遣先の役務の提供を受ける者についても、派遣労働者を雇用する事業主とみなされる。
(4) 「制度等の利用への嫌がらせ型」とは、具体的には、イ①から⑥までに掲げる制度又は措置の利用に関する言動により就業環境が害されるものである。例として、ロがある。
イ 制度等
① 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置
② 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
③ 産前休業
④ 軽易な業務への転換
⑤ 変形労働時間制がとられる場合における法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
⑥ 育児時間
ロ 典型的な例
① 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
② 制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
(イ) 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を上司に相談したところ請求等をしないよう言うこと。
(ロ) 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ請求等を取り下げるよう言うこと。
(ハ) 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたい旨を同僚に伝えたところ請求等をしないよう言うこと。
(ニ) 女性労働者が制度等の利用の請求等をしたところ、同僚が請求等を取り下げるよう言うこと。
③ 制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの
(5) 「状態への嫌がらせ型」とは、具体的には、イ①から⑤までに掲げる妊娠又は出産に関する事由に関する言動により就業環境が害されるものである。例として、ロがある。
イ 妊娠又は出産に関する事由
① 妊娠したこと
② 出産したこと
③ 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと
④ 産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと
⑤ 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと、できなかったこと又は労働能率が低下したこと。
ロ 典型的な例
① 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
② 妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの
3 事業主等の責務
(1) 事業主の責務
妊娠、出産等に関するハラスメントを行ってはならないことその他ハラスメントに起因する問題に対する労働者の関心と理解を深めるとともに、言動に注意を払うよう研修の実施その他の必要な配慮をする。職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに起因する問題としては、意欲の低下などによる職場環境の悪化や職場全体の生産性の低下、労働者の健康状態の悪化、休職や退職などにつながり得ること、これらに伴う経営的な損失等が考えられる。
(2) 労働者の責務
労働者は、妊娠、出産等に関するハラスメント問題に対する関心と理解を深め、言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる次の措置に協力する。
(1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
イ 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの内容及び妊娠、出産等に関する否定的な言動がハラスメントの発生の原因や背景となり得ること、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを行ってはならない旨の方針並びに制度等の利用ができる旨を明確化し、周知・啓発すること。
(事業主の方針等を明確化し、労働者に周知・啓発している例)
① 就業規則や服務規律等を定めた文書において、事業主の方針及び制度等の利用ができる旨について規定し、規定と併せて、ハラスメントの内容及びハラスメントの背景等を労働者に周知・啓発する。
② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等に事業主の方針並びに制度等の利用ができる旨について記載し、配布等する。
③ ハラスメントに関して事業主の方針並びに制度等の利用ができる旨を周知・啓発するための研修、講習等を実施する。
ロ 妊娠、出産等に関するハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則や服務規律等を定めた文書に規定し、周知・啓発する。
(対処方針を定め、労働者に周知・啓発している例)
① 就業規則や服務規律等を定めた文書において、妊娠、出産等に関するハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、周知・啓発する。
② 妊娠、出産等に関するハラスメントに係る言動を行った者は、現行の就業規則や服務規律等を定めた文書において定められている懲戒規定の適用の対象となる旨を明確化し、周知・啓発する。
(2) 相談に応じ、対応するために必要な体制の整備
事業主は、労働者からの相談に対し、必要な体制の整備として次の措置を講じなければならない。
イ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する。
(相談窓口をあらかじめ定めている例)
① 担当者をあらかじめ定める。
② 対応するための制度を設ける。
③ 外部の機関に対応を委託する。
ロ イの相談窓口の担当者が、適切に対応できるようにする。妊娠、出産等に関するハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合等でも、適切な対応を行う。
(相談窓口の担当者が適切に対応できるようにしている例)
① 窓口の担当者が相談を受けた場合、内容に応じて窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとする。
② 相談を受けた場合、作成したマニュアルに基づき対応する。
③ 窓口の担当者に対し研修を行う。
(3) 妊娠、出産等に関するハラスメントに係る事後の適切な対応
事業主は、妊娠、出産等に関するハラスメントに係る相談の申出があった場合に次の措置を講じなければならない。
イ 事実関係を確認する。
(事案に係る事実関係を確認している例)
① 窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認する。事実の確認が十分にできない場合には第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずる。
② 確認が困難な場合などには、調停の申請その他第三者機関に紛争処理を委ねる。
ロ イにより、妊娠、出産等に関するハラスメントが確認できた場合には被害者に対する配慮のための措置を行う。
(措置を適正に行っている例)
① 被害者の職場環境の改善又は制度等の利用に向けての環境整備、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずる。
② 調停その他第三者機関の紛争解決案に従った措置を被害者に対して講ずる。
ハ ハラスメントが確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行う。
(措置を適正に行っている例)
① 就業規則や服務規律等を定めた文書における妊娠、出産等に関するハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずる。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪等の措置を講ずる。
② 調停その他第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずる。
ニ 改めて職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずる。
(再発防止に向けた措置を講じている例)
① 事業主の方針、制度等の利用ができる旨及び職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等に改めて掲載し、配布等する。
② 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施する。
(4) 事業主の職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置 (派遣労働者にあっては、派遣元事業主に限る)。
措置を講ずるに当たっては、
(i) 妊娠した労働者が体調不良のため労務の提供ができないことや労働能率が低下すること等により、周囲の労働者の業務負担が増大することも言動の要因の一つであるから、労働者の業務負担等にも配慮する
(ii) 妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、円滑なコミュニケーションを図りながら体調等に応じて業務を遂行していくという意識を持つことのいずれも重要であることに留意すること。
(業務体制の整備など、必要な措置を講じている例)
① 周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう業務分担の見直しを行うこと。
② 業務の効率化等を行うこと。
(5) (1)から(4)までの措置と併せて講ずべき措置
イ ハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は相談者・行為者等のプライバシーに属するものであるから、プライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともにその旨を労働者に対して周知する。
(相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じている例)
① プライバシーの保護のために必要な事項をマニュアルに定め、相談を受けた際には、マニュアルに基づき対応する。
② プライバシー保護のために、担当者に必要な研修を行う。
③ 相談窓口においてはプライバシーを保護するために必要な措置を講じていることを社内報、パンフレット、社内ホームページ等に掲載し、配布等する。
ロ 妊娠・出産等に関するハラスメントの相談等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する。
(不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者にその周知・啓発することについて措置を講じている例)
① 就業規則や服務規律等を定めた文書において、妊娠・出産等に関するハラスメントの相談等を理由として労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を規定し労働者に周知・啓発をする。
② 社内報、パンフレット、社内ホームページ等に、妊娠・出産等に関するハラスメントの相談等を理由として、労働者が解雇等の不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者に配布等すること。
5 事業主が職場における妊娠、出産等に関するハラスメントを防止するため4の措置に加え、次の取組を行うことが望ましい。
(1) 職場における妊娠、出産等に関するハラスメントは、その他のハラスメントと複合的に生じることも想定されることから、その他のハラスメント等の相談窓口と一体的に、職場における妊娠、出産等に関するハラスメントの相談窓口を設置し、一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが望ましい。
(一元的に相談に応じることのできる体制の例)
① 相談窓口において職場における妊娠、出産等に関するハラスメントのみならず、セクシュアルハラスメント等も明示する。
② 妊娠、出産等に関するハラスメントの相談窓口がセクシュアルハラスメント等の相談窓口を兼ねる。
(2) 事業主は、妊娠等した労働者の側においても制度等の利用ができるという認識を持つことや、業務を遂行していくという意識を持つこと等を、妊娠等した労働者に周知・啓発することが望ましい。
(妊娠等した労働者への周知・啓発の例)
① 社内報、パンフレット、社内ホームページ等に、妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるということや、周囲とコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて業務を遂行していくという意識について記載し、妊娠等した労働者に配布等すること。
② 妊娠等した労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら自身の体調等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つこと等について、人事部門等から妊娠等した労働者に周知・啓発すること。
(3) 事業主は、4の措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要である。労働安全衛生法衛生委員会の活用なども考えられる。
6 事業主が自らの雇用する労働者以外の者に対する言動に関し行うことが望ましい取組
事業主は、雇用する労働者が、他の労働者のみならず、労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主自らも、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。
事業主は、方針の明確化等を行う際に、事業主が雇用する労働者以外の者に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい。また、これらの者からハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、適切な対応を行うように努めることが望ましい。
〇この指針は妊娠、出産等に関するハラスメントに関連する言動等やハラスメント予防のための措置等について具体例などもあげて詳細に示しており、職場での妊娠、出産等に関するハラスメント防止の取り組みを行う上で大変参考になると思われます。
<引用先> 事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
(平成二十八年八月二日) (厚生労働省告示第三百十二号) (令2厚労告6・改称)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010200&dataType=0&pageNo=1
(つづく)A,K