キャリアコンサルタントが知っておくべき情報をお伝えします。
■長時間労働の改善
(労働時間法制の見直し)
長時間労働の是正については、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)を踏まえ、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」を2018(平成30)年4月6日に第196回国会に提出し、同法案は同国会において成立し、2018年7月6日に公布された。この法律により労働基準法が改正され、時間外労働の上限規制が罰則付きで法律に規定された。具体的には、事業場で使用者と労働者代表が労働基準法第36条第1項に基づく労使協定を結ぶ場合に、法定労働時間を超えて労働者に行わせることが可能な時間外労働の限度を、原則として月45時間かつ年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできないこととした。
また、臨時的な特別の事情(通常予見することのできない業務量の大幅な増加など)があって労使が合意して労使協定を結ぶ場合(特別条項)でも上回ることができない時間外労働時間の限度を年720時間とした上で、時間外労働が月45時間を超えることができる回数について年半分を上回らないよう、年6か月を上限とした。
さらに、特別条項の有無にかかわらず、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満を満たさなければならず、かつ、「2か月平均」、「3か月平均」、「4か月平均」、「5か月平均」、「6か月平均」の全てで80時間以内を満たさなければならないこととした。加えて、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、労働基準法に根拠規定を設け、新たに、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第323号)を定めた。時間外労働の上限規制については、適用猶予・除外となる一部の事業・業務を除いて、大企業には2019(平成31)年4月1日から、中小企業には2020(令和2)年4月1日からそれぞれ適用された。
このほか、法律には、①中小企業における月60時間超の時間外労働に対する50%以上の割増賃金率の適用猶予の廃止、②年5日の年次有給休暇の確実な取得、③フレックスタイム制の清算期間の上限の1か月から3か月への延長、④高度プロフェッショナル制度の創設等の内容も盛り込まれ、順次施行されている。加えて、働き方改革関連法により「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が改正され、勤務間インターバル制度の導入や、取引に当たって短納期発注等を行わないよう配慮することが、事業主の努力義務となった(2019年4月1日施行)。また、関連する指針も、一連の働き方改革に関連する法令改正等を踏まえて改正された。
(過重労働解消に向けた取組みの促進)
厚生労働省では、厚生労働大臣を本部長とする「長時間労働削減推進本部」を設置し、省を挙げて長時間労働対策に取り組むこととし、長時間労働削減の徹底に向けた重点監督の実施等の取組みを進めている。また、2016(平成28)年12月26日に、違法な長時間労働の是正に向けた取組みの強化やメンタルヘルス対策及びパワーハラスメント防止対策のための取組みの強化などを内容とする「『過労死等ゼロ』緊急対策」を決定し、2017(平成29)年1月から順次実施している。過労死等の防止のための対策については、「過労死等防止対策推進法」(平成26年法律第100号)及び「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(平成27年7月策定、令和3年7月変更)に基づき、労働行政機関等において、毎年11月の過労死等防止啓発月間における過労死等防止対策推進シンポジウムの開催等の啓発活動を行うとともに、調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の活動に対する支援等の対策に取り組んでいる。
長時間労働の是正については、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等長時間労働があると考えられる事業場に対して監督指導を行っている。特に、毎年11月には、「過重労働解消キャンペーン」を実施し、長時間労働の抑制、過重労働による健康障害の防止及び労働時間管理の適正化等を重点とする監督指導や全国斉一の無料電話相談などの取組みを行っている。また、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進、勤務間インターバル制度の導入促進などの、労働時間等の設定の改善に向けた労使の自主的な取組みを促進している。具体的には、
・各企業に対し、所定外労働時間の削減、年次有給休暇の取得率の目標設定や取得状況の確認等の具体的な取組みを求める「労働時間等見直しガイドライン」の周知・啓発
・生産性を高めながら労働時間の縮減等に取り組む中小企業等に対する「働き方改革推進支援助成金」の支給
・都道府県労働局に配置する「働き方・休み方改善コンサルタント」等による個々の企業に対する支援の実施
・企業における取組事例を広く普及させるため、「働き方・休み方改善ポータルサイト」を活用した情報発信の実施
・10月の年次有給休暇取得促進期間に加え、連続休暇を取得しやすい夏季、年末年始及びゴールデンウィークに集中的な周知・啓発の実施
・企業の自主的な導入促進を図るための、業種別の勤務間インターバル制度導入マニュアルの作成・周知
・地域の休暇取得促進の機運を醸成するため、地域のイベント等に合わせた計画的な年次有給休暇の取得に向けた周知・啓発の実施
などの取組みを行っている。
(トラック、バス、タクシーの自動車運転者の長時間労働の抑制)
トラック、バス、タクシーの自動車運転者は、他業種の労働者に比べて長時間労働の実態にあることから、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号。以下「改善基準告示」という。)により拘束時間(始業から終業までの時間)、休息期間(勤務と勤務の間の自由な時間)及び運転時間等の基準を設け、労働条件の改善を図るとともに、労働基準関係法令の遵守徹底を図るため、重点的な監督指導を実施している。また、運輸事業の新規参入者に対して、国土交通省と連携して労働基準関係法令等を教示するための講習等を行っているほか、労働時間管理適正化指導員が、使用者等に対して、適正な労働時間管理等に関する指導・助言を行っている。
自動車の運転の業務については、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」において、2024(令和6)年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されることとなっており、臨時的な特別の事情がある場合の時間外労働時間の限度は年960時間とされ、加えて、将来的には時間外労働の上限規制の一般則の適用を目指す旨の規定が設けられている。
時間外労働の上限規制の適用に向けて、厚生労働省は関係省庁と連携して自動車運転者の長時間労働を是正するための環境整備のための取組みを進めている。
・2017(平成29)年6月に設置した「自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」において、ITの活用等による生産性の向上、多様な人材の確保・育成等の長時間労働を是正するための環境を整備するための関連制度の見直しや支援措置について検討を行い、2018(平成30)年5月に「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」を策定・公表した。また、政府行動計画に基づき、国土交通省が主体となって、「ホワイト物流」推進運動(①トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化と②女性や60代以上の運転者等も働きやすい、より「ホワイト」な労働環境の実現に取り組む運動)への賛同・参加等を荷主、トラック運送事業者、国民に向けて呼びかけ、推進している。
・荷主、トラック運送事業者、学識経験者等からなる「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」を2015(平成27)年度に中央及び各都道府県に設置し、2年間の実証実験の結果を踏まえ2018(平成30)年11月に「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を策定し、「トラック運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」等により周知を行っている。また、荷待ち時間が特に長い輸送分野ごとに、好事例を取りまとめたガイドラインについて、「ホワイト物流」推進運動等を活用して広く周知を行っている。
一方、改善基準告示については、上限規制の適用を踏まえ、過労死等防止の観点から労働政策審議会において見直しの検討を進め、2022(令和4)年3月には、ハイヤー・タクシー事業及びバス事業について、拘束時間や休息期間の改善等を図る見直し案がとりまとめられた。
(医療従事者の勤務環境の改善に向けた取組みの推進)
国民が将来にわたり質の高い医療サービスを受けるためには、長時間労働や当直、夜間・交代制勤務など厳しい勤務環境にある医療従事者が健康で安心して働ける環境の整備が喫緊の課題である。このような中で、2014(平成26)年10月の改正医療法の施行により、各医療機関はPDCAサイクルを活用して計画的に医療従事者の勤務環境の改善に取り組む仕組み(医療勤務環境改善マネジメントシステム)を導入すること、各都道府県は医療従事者の勤務環境の改善を促進するための拠点としての機能(医療勤務環境改善支援センター)を確保すること等とされ、2017(平成29)年3月までに全ての都道府県において医療勤務環境改善支援センターが設置された。
また、同法の規定に基づき、「医療勤務環境改善マネジメントシステムに関する指針」(平成26年厚生労働省告示第376号)を定めるとともに、この指針に規定する手引書を「医療分野の『雇用の質』向上のための勤務環境改善マネジメントシステム導入の手引き(改訂版)」(2015(平成27)年3月厚生労働省「医療分野の『雇用の質』向上マネジメントシステムに基づく医療機関の取組みに対する支援の充実を図るための調査・研究委員会」)とし、医療機関が医療従事者の勤務環境の改善のための具体的な措置を講じるに当たっての参考とすることとした。これらの指針及び手引書を活用して、医療勤務環境改善マネジメントシステムの各医療機関への普及促進を図っているところである。
また、各都道府県においては、医療勤務環境改善支援センターの運営等の取組みが進められている。また、医業に従事する医師の業務については、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」において、時間外労働の上限規制の適用を5年間猶予し、2024(令和6)年4月1日から上限規制が適用されることとなっている。これは、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)において、医師については、医療界の参加の下で検討の場を設け、規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得ることとされたことに伴うものであり、厚生労働省において、2017(平成29)年8月以降、「医師の働き方改革に関する検討会」及び「医師の働き方改革の推進に関する検討会」において検討を行い、その結果を踏まえ、長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための次の措置等を盛り込んだ改正法案を2021(令和3)年2月に第204回通常国会へ提出し、同年5月に成立した(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(令和3年法律第49号))。
①勤務する医師が長時間労働となる医療機関における医師労働時間短縮計画の作成
②地域医療の確保や集中的な研修実施の観点から、やむを得ず高い上限時間を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度の創設
③当該医療機関における健康確保措置(面接指導、連続勤務時間制限、勤務間インターバル規制等)の実施等
医業に従事する医師については、2024年4月から時間外・休日労働の上限規制が適用され、原則として、年間960時間以下/月100時間未満とされるが、医療機関勤務環境評価センターによる労務管理体制等についての評価を受け、特定地域医療提供機関、連携型特定地域医療提供機関、技能向上集中研修機関又は特定高度技能研修機関として都道府県知事の指定を受けた医療機関において指定事由となる業務に従事する医師については、時間外・休日労働の上限は年間1,860時間/月100時間未満となる。上限規制の適用開始に向けて、医療機関における適正な労務管理と労働時間短縮に向けた取組み(タスク・シフト/シェアやICTの活用等)を推進する必要があり、引き続き、医療勤務環境改善支援センターによる支援を実施することとしている。また、タスク・シフト/シェアについては、「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」において2020(令和2)年12月に取りまとめられた「議論の整理」に基づき、現行制度で実施可能な業務を整理・明確化するとともに、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士及び救急救命士の業務範囲について「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律」等において必要な法令改正を行い、これらの内容の周知を行っている。
(治療と仕事の両立支援の推進)
病気の治療を行いながら仕事をしている労働者は、労働人口の約3人に1人を占める。また、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づく一般健康診断における有所見率は年々増加を続けている。労働力の高齢化が進む中で、事業場において、病気を抱えた労働者の治療と仕事の両立への対応が必要となる場面は更に増えることが予想される。このため、事業者が、がん、脳卒中などの反復・継続して治療が必要となる疾病を抱える労働者に対して、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、労働者が治療と仕事を両立することができるようにするための取組みなどをまとめた「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を2016年(平成28年)2月に策定(2022年(令和4年)3月に改訂)し、その普及や企業等に対する各種支援を行っている。また、「働き方改革実行計画」に基づき、主治医、会社・産業医と、患者に寄り添う両立支援コーディネーターによる治療と仕事の両立に向けたトライアングル型のサポート体制の構築などを推進することとしており、両立支援コーディネーターの育成・配置や、主治医、会社・産業医が効果的に連携するためのマニュアルなどの作成・普及に取り組んでいる。さらに、使用者団体、労働組合、都道府県医師会、都道府県衛生主管部局、地域の中核の医療機関、産業保健総合支援センター、労災病院などで構成される「地域両立支援推進チーム」を各都道府県労働局に設置し、地域の実情に応じた両立支援の促進に取り組んでいる。
(柔軟な働き方がしやすい環境整備)
(1)良質なテレワークの定着・促進
企業等に雇用される労働者が行うテレワークについては、ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応した働き方として、適正な労務管理下における良質なテレワークの導入・実施を進めていくことができるよう、2021(令和3)年3月に改定した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」についてパンフレットを作成し、周知を図っている。また、2021年4月より「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」を新たに創設し、中小企業事業主に対するテレワーク用通信機器の導入等に係る経費の助成を行っている。2021年12月には支給対象経費にテレワーク用サービス利用料を追加するなど支給対象を拡大し、本助成金の一層の活用を図っている。2022(令和4)年度には、テレワークを導入しようとする企業に対して、労務管理や情報通信技術(ICT)に関する課題等について、ワンストップで相談対応やコンサルティングを行う「テレワーク・ワンストップ・サポート事業」を開始するとともに、テレワーク関連の支援策をまとめた総合ポータルサイトの運営や事業主を対象としたセミナー・個別相談会の開催等により、良質なテレワークの定着・促進を図ることとしている。
(2)フリーランスなど個人が安心して働ける環境の整備
個人の働き方が多様化し、フリーランスを含めた柔軟な働き方が広がっている。このため、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)や下請代金支払遅延等防止法(昭和三十一年法律第百二十号)、労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、それぞれの法令に基づく問題行為を明確化するため、2021(令和3)年3月に内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」について、周知・活用を図っている。また、2020(令和2)年11月から、フリーランスと発注者等とのトラブルについて、フリーランスの方が弁護士にワンストップで相談できる窓口(フリーランス・トラブル110番)を設置しており、メールや電話等による丁寧な相談対応を行っている。さらに、発注者から委託を受け、情報通信機器を活用して自宅等で働くいわゆる自営型テレワークについては、自営型テレワークを行う方や発注者等を対象としたセミナーの開催などにより、2018(平成30)年2月に改定した「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」の周知徹底を図っている。あわせて、自営型テレワークに関する総合支援サイト「ホームワーカーズウェブ」において、自営型テレワークを行う方や発注者等に対し、自営型テレワークについての基礎的な知識、ノウハウ及びキャリア形成に資する情報等を提供している。
(3)副業・兼業の環境整備
副業・兼業については、副業・兼業を希望する方が近年増加傾向にある一方、副業先での労働時間を把握し、自社での労働時間と通算管理することが困難であるとして、副業・兼業を認めない企業が一定程度あった。このため、副業・兼業の場合の労働時間管理及び健康管理について、2020(令和2)年9月1日に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、労働者の申告等による副業先での労働時間の把握や簡便な労働時間管理の方法を示すなど、ルールを明確化した。また、第201回通常国会において2020年3月に成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)により雇用保険法(昭和49年法律第116号)及び労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)が改正され、複数就業者のセーフティネットの整備に係る規定が施行された(雇用保険部分は2022(令和4)年1月1日、労災保険部分は2020年9月1日)。
企業も労働者も安心して副業・兼業を行うことができる環境を整備するため、ガイドラインのわかりやすいパンフレットやリーフレット、労働時間の申告の際に活用できる様式例などを作成し、丁寧に周知を行っている。
(多様な正社員等の普及促進等)
労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着の実現のため、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」制度の普及・拡大に向け、オンラインセミナーを開催するとともに、「多様な正社員」制度を導入している企業の取組事例を収集し、周知を行った。併せて、キャリアアップ助成金において、短時間正社員制度、勤務地限定正社員制度又は職務限定正社員制度を新たに導入し、対象労働者を転換した企業に対し、助成額の加算を行い、一層の制度普及の促進を図っている。なお、規制改革実施計画(2019(令和元)年6月21日閣議決定)において、2020(令和2)年度中に多様な正社員の雇用ルールの明確化について検討を開始することとされたこと等を踏まえ、2021(令和3)年3月から「多様化する労働契約のルールに関する検討会」において、多様な正社員の労働契約関係の明確化等について検討を行い、2022(令和4)年3月に報告書をとりまとめた。今後、この報告書を踏まえ、労働政策審議会において議論を進めていく。
(つづく)K.I