実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領 I テクノファ

投稿日:2020年10月7日 更新日:

キャリアコンサルタントはキャリアコンサルティングの質を高めるために、あるいはより効果的なキャリアコンサルティングを行うためには、キャリアカウンセリングの実践についての基本を理解しておく必要があります。

1.精神分析アプローチ
S.フロイトの精神分析学と精神分析療法をカウンセリングに応用した理論です。キャリアコンサルタントは精神分析の基本的な考え方を知っておくと良いでしょう。
①人間を基本的に動かしているのは意識的な自我ではなく、無意識な力である。
②①の力は、多くの場合、性的なエネルギーによって彩られている。
③人間の行動の仕方は、そのような無意識のエネルギーと意識的な自我のそれとの力関係としてとらえることができる。
④③の力関係のパターンは、基本的には幼児期の親子関係によって形成される。
精神分析的アプローチは、このような精神分析理論に基づいたカウンセリングで、一般的には、
①クライエントによる苦痛・困難の訴え
②カウンセラーの共感と逆転移
③カウンセラーによる認知的アピール
④カウンセラーの抑制
⑤クライエントによる理解の深まり
⑥クライエントの抵抗
⑦カウンセラーによる対決
⑧クライエントにおける転移
⑨カウンセラーによる解釈
⑩クライエントの過去の想起
⑪クライエントによる現在のなかの過去の認識(洞察)
というプロセスを踏むとされています。

キャリアコンサルタントは精神分析的アプローチの立場に立ったカウンセリングでは、来談者が持っている否定的なセルフイメージや自己効力感、あるいは選択の可能性についての自分の気持ちなどに埋め込まれた他者の期待などをクライエント自身が認識することを促したり、職場の上司や同僚との良好な関係を妨げる原因と考えられる、過去の人間関係における未解決の葛藤を来談者が把握したりすることができるように援助します。
精神分析的アプローチは、健常者の発達的側面に対する配慮に欠けるという批判がありますが、心の内面に問題を抱える人の問題発見や心理治療には大きく貢献しています。
また、精神力動的な人間観に立って、来談者のキャリア発達を幼児期以降の発達プロセスとしてとらえようとします。したがって、キャリアの選択・決定において、何らかの意味で来談者のパーソナリティの変容が重要な意味を持つような場合には効果が期待できます。

2.来談者中心アプ口-チ
C.ロジャースに代表される、来談者中心療法を基にしたカウンセリングです。「人間は成長力を内に秘めていて、自分の問題については自身が一番よく知っている」 として、キャリコンサルタントが主導権をとることは危険であるとさえ考えます。その人の内的リアリティ(体験) のなかにおける現実性を大切にすることによってしか、治療は成り立たないという考え方です。精神分析や特性因子理論での人間理解は、データに基づく、どちらかというと外側からの理解でしたが、もっと内側から理解しなければ人間というのは理解できないのではないかと主張しています。
そして、パーソナリティの基本要素を自己概念と体験であるとし、その構造を3つの領域に分けています。第1の領域は、自己概念と体験が一致している「自己一致」の状態です。第2の領域は、自己概念のうちの体験と一致しない「歪曲された部分」です。第3は、体験のうちの自己概念と一致しない「拒否された部分」です。第2の領域と第3の領域はいずれも自己概念と経験が一致していない不適応状態にあり、来談者の自己概念と経験が一致する方向へ援助するのが、カウンセリングの役割であるとしています。

この視点から、ロジャースはカウンセリングにおいてキャリコンサルタントに求められる3つの基本的態度として、
①クライエントに対する無条件の肯定的関心を持つこと(受容的態度)。
②クライエントの内的世界を共感的に理解し、それを相手に伝えること(共感的理解)。
③クライエントとの関係において、心理的に安定しており、ありのままの自分を受容していること(自己一致または誠実な態度)。
をあげています。これらは、あらゆるカウンセリングの基本とされています。
したがって、来談者中心アプローチ(クライエント・センタード・アプローチ)の立場でのキャリアカウンセリングでは、来談者を価値ある1人の人間としてとらえ、来談者が自分の課題や障壁を自分で明確にして、自分自身の状況を変化させることができる能力を持つ存在であることを強調します。
さらに、来談者自身が主人公として自分の人生をマネジメントできることを確信できるように支援したり、取るべき行動の目標を設定し、カウンセリングのなかでその行動を練習したり試したりできるように勇気づけたりすることになります。その際、来談者が自分の内的キャリアを明確にすることにより、自身のキャリア上の問題や障害を自分で明確にし、その状況を変化させる能力を持っている存在として見ることを強調します。

3.認知的アプローチ
A.エリスが提唱した論理療法やA.ベックの認知療法に代表される立場です。認知的アプローチは、問題行動や心理的混乱に影響をおよぼしている内的な認知過程、特に思考過程に注目する理論です。
エリスは、結果として引き起こされる感情(Consequence) は、何らかのできごと(Activating Event)によって直接引き起こされるものではなく、そのできごとをどのように受けとめるかという信念や思い込み(Belief System)によって生じるものであると言っています。そして、その信念や思い込みは、合理的なもの(RB : Rational Belief) と非合理的なもの(IB : Irrational Belief)とがあり、不快な感情は非合理的な信念や思い込み(IB)によってもたらされているとしています。
したがって、非合理的な信念や思い込み(IB)を論駁(Dispute) して合理的な信念や思い込み(RB)に変えることによって、不快な感情を低減させるという効果(Effect) を得ることができる、というのが論理療法の基本的な考え方です。Activating Event、 Belief System、Consequence、Dispute、Effectの頭文字をとってABCDE理論とも呼ばれています。
論理療法の基本的な考え方は、「人間は、ある考えや価値観を自分のなかに取り入れ、一度その考えや信念が固定化されると、たとえそれが非合理的あるいは非論理的であったとしても、それにしたがって行動し、自己を縛ってしまい、自己破滅的な哲学にまで発展することがある」 というものです。来談者の問題行動は、非合理的な人生観や固定観念から起きていることが多く、情緒的不安定はその作用によって引き起こされていると考えます。
(つづく)A.K

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