実践編・応用編

先の大戦が残した影響|キャリコン実践の要領9テクノファ

投稿日:2023年5月20日 更新日:

キャリアコンサルタントが知っておくべき情報をお伝えします。

■第二次世界大戦戦没者について
厚生労働省では、戦後、一般邦人の海外からの引揚げを支援するとともに、軍人の復員、未帰還者の調査、戦傷病者や戦没者遺族等の援護を行ってきた。現在はこうした援護のほか、先の大戦による戦没者の追悼、各戦域での戦没者遺骨収集事業や戦没者遺族による慰霊巡拝を実施しており、また、先の大戦による混乱の中で中国や樺太で残留を余儀なくされた中国残留邦人等への支援などを行っている。
国は毎年、先の大戦での戦没者を追悼するため、全国戦没者追悼式と千鳥ヶ淵戦没者墓苑拝礼式を開催している。国が主催する全国戦没者追悼式は、先の大戦で多くの尊い犠牲があったことに思いを馳せ、戦没者を追悼するとともにその尊い犠牲を永く後世に伝え、恒久平和への誓いを新たにしようとするものである。毎年8月15日に、天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、日本武道館で実施している。なお、先の大戦の記憶を風化させることなく次世代へ継承していくという観点から、青少年(18歳未満)の遺族にも献花していただくなど、式典に参加していただいている。厚生労働省主催の千鳥ヶ淵戦没者墓苑拝礼式は、毎年春に、皇族の御臨席を仰ぎ、国の施設である千鳥ヶ淵戦没者墓苑に納められている遺骨に対して拝礼を行っている。また、拝礼式においては、遺骨収集事業により収容した戦没者の遺骨のうち、遺族に返還することのできない遺骨の納骨を行っている。

(昭和館・しょうけい館)
戦中・戦後の国民生活上の労苦を伝える「昭和館」及び戦傷病者とその家族の労苦を伝える「しょうけい館」では、兵士、戦後強制抑留者及び海外からの引揚げの労苦を伝える「平和祈念展示資料館」(総務省委託)と連携し、小・中学生などを対象とした「夏休み3館めぐりスタンプラリー」を実施している。また、2021(令和3)年度は、「昭和館」、「しょうけい館」及び「平和祈念展示資料館」が、島根県において地方展を同時開催した。さらに、「昭和館」及び「しょうけい館」においては、戦中・戦後の労苦体験を後世へ着実に継承するため、2016(平成28)年度から2021年度までの間、戦後世代の語り部の育成事業を実施し、2019(令和元)年度からは、戦後世代の語り部の活動事業を実施している。

(戦没者の遺骨収集事業、慰霊巡拝等の推進)
先の大戦では、約310万人の方が亡くなり、そのうち、海外(沖縄及び硫黄島を含む。)における戦没者は約240万人に及んだが、これまでに収容された遺骨は約128万柱であり、現時点においても約112万柱が未収容となっている。厚生労働省では、1952(昭和27)年度以降、相手国政府の理解が得られた地域などから順次遺骨収集を行い、これまでに約34万柱を収容している。しかしながら、遺族や戦友が高齢化し、当時の状況を知る方々が少なくなり、遺骨に関する情報が減少してきている。こうした中、2016(平成28)年3月に「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」(平成28年法律第12号。以下「遺骨収集推進法」という。)が成立し、遺骨収集が国の責務と位置づけられたほか、2024(令和6)年度までの期間を遺骨収集の推進に関する施策の集中実施期間とすることや、関係行政機関の間で連携協力を図ること、厚生労働大臣が指定する法人が、戦没者の遺骨に関する情報収集や遺骨収集を行うこと等が定められた。また、集中実施期間における施策を総合的かつ計画的に行うため、同法に基づき、「戦没者の遺骨収集の推進に関する基本的な計画」(平成28年5月31日閣議決定。以下「基本計画」という。)を策定した。2016年11月からは、同法に基づき指定された一般社団法人日本戦没者遺骨収集推進協会とともに、官民一体となって戦没者の遺骨収集を実施している。
2019(令和元)年12月には、2020(令和2)年度から集中実施期間の後半5年間を迎えるにあたり、政府一体となって遺骨収集事業の取組みをより一層推進するため、「戦没者の遺骨収集事業の推進に関する関係省庁連絡会議」を開催し、「戦没者遺骨収集推進戦略」(以下「推進戦略」という。)を決定した。また、日本人ではない遺骨が収容された可能性が指摘されながら、適切な対応が行われてこなかった事例を受け、2020年5月に厚生労働省において「戦没者遺骨収集事業及び事業実施体制の抜本的な見直しについて」を取りまとめ、遺骨収集事業のガバナンスの強化等を図るとともに、収容・鑑定のあり方を見直し、科学的な所見への適切な対応を行うこととした。2021(令和3)年度は、推進戦略に基づき定めた「令和3年度における戦没者の遺骨収集事業実施計画」の下で、国内外の新型コロナウイルスの感染拡大の状況に配慮しつつ、可能な範囲で事業を実施した。

(硫黄島及び沖縄における遺骨収集事業の実施)
硫黄島では、戦没者約2万1,900人のうち未だ約1万1,400柱の遺骨が未収容であることから、政府一体となって遺骨収集に取り組んでおり、2013(平成25)年12月に「硫黄島に係る遺骨収集帰還推進に関する関係省庁会議」で決定された「硫黄島の滑走路地区等の遺骨収集帰還に関する基本的方針」に基づき、2021年度は、滑走路地区東側半面において面的なボーリングによる地下壕探査等を実施した。また、滑走路以外の地域においても遺骨や壕等の存在が推測される地点の調査を継続して実施し、24柱の遺骨を収容した。また、沖縄においても、沖縄県や民間団体等と協力して遺骨収集を実施しており、2021年度は49柱の遺骨を収容した。

(旧ソ連・モンゴル地域における遺骨収集事業の実施)
約57万5,000人が強制抑留され、劣悪な環境のもと、長期にわたり過酷な強制労働に従事させられ、約5万5,000人(うちモンゴル約2,000人)が死亡した旧ソ連・モンゴル地域については、「戦後強制抑留者に係る問題に関する特別措置法」(平成22年法律第45号)に基づく「強制抑留の実態調査等に関する基本的な方針」(平成23年8月5日閣議決定)を踏まえ、関係省庁と連携し、民間団体等の協力も得つつ、遺骨収集を進めており、2022(令和4)年3月末までに20,251柱の遺骨を収容した。2015(平成27)年4月には、ロシア連邦政府等から提供された抑留者に関する資料の全てについて、資料の概要と主な記載事項などを公表した。さらに、同月以降、提供資料のうち、死亡者に関する資料については、2022年3月末までに40,729名(うちモンゴル1,457名)の死亡者を特定し、カナ氏名、死亡年月日などを公表し、日本側資料と照合の結果、身元を特定した者の漢字氏名を厚生労働省ホームページに掲載している。なお、今後、調査・収容を実施する予定の埋葬地は旧ソ連地域の57か所となっている。

(南方等戦闘地域における遺骨収集事業の実施)
近年、残存する遺骨の情報が減少しているため、2006(平成18)年度から、情報が少ないビスマーク・ソロモン諸島、パプアニューギニアなどの海外南方地域を中心に、現地の事情に精通した民間団体に協力を求め、幅広く情報を収集しているほか、2009(平成21)年度から、米国や豪州などの公文書館などに保管されている当時の戦闘記録等資料の調査を行うなど、遺骨収集に必要な情報を収集している。また、遺骨収集推進法及び基本計画に基づき、海外資料調査を実施し、2017(平成29)年度までに概了しており、埋葬地点を推定できる有効情報は計1,825件となっている。

(戦没者遺骨鑑定センターにおける取組み)
遺骨の科学的な鑑定体制を強化するため、厚生労働省に戦没者遺骨鑑定センターを2020年7月に立ち上げ、外部専門家も登用し、遺骨鑑定に関する研究等に取り組んでいる。2021年度の取組みとしては、法医学、人類学等の専門的知識を有する者で構成する「戦没者遺骨鑑定センター運営会議」において、戦没者遺骨鑑定の状況や新たな鑑定技術の活用等について議論を行った。また、日本人の遺骨であるか否かを判断するための「所属集団判定会議」及び遺族に返還するために身元を特定する「身元特定DNA鑑定会議」を定期的に開催し、その結果を公表するとともに、「戦没者の遺骨収集に関する有識者会議」への報告等を行っている。

(戦没者遺骨の身元特定のためのDNA鑑定の実施)
収容した戦没者の遺骨については、遺留品等から身元が判明した場合には遺族に返還している。2003(平成15)年度からは、遺留品や埋葬記録等から遺族を推定できる場合などであって遺族が希望する場合に、身元特定めのDNA鑑定を実施している。また、遺留品や埋葬地記録等の情報がある場合は限られていることから、2017年度より、沖縄県の一部地域において、広報を通じて戦没者の遺族と思われる方からの身元特定のためのDNA鑑定の申請を募り、遺留品や埋葬記録等の手掛かり情報がない場合であっても、身元特定のためのDNA鑑定を試行的に実施してきた。2020年度からは、硫黄島及びキリバス共和国ギルバート諸島タラワ環礁の手掛かり情報がない戦没者の遺骨についても、公募により身元特定のためのDNA鑑定を実施し、2020年8月及び9月にキリバス共和国の戦没者遺骨計2柱について、同年12月に硫黄島の戦没者遺骨計2柱について、それぞれ身元が判明した。以上の取組みにより、身元特定のためのDNA鑑定を開始した2003年度から2021年度までの間に、1,210件の身元が判明した。遺留品等の手掛かり情報がない戦没者遺骨の身元特定のためのDNA鑑定については、2021年10月から、対象地域を厚生労働省が遺骨の検体を保管している全地域に拡大して公募により実施することとし、新聞広告や一般財団法人日本遺族会の機関誌など様々な広報媒体を通じて遺族に周知している。

(慰霊巡拝等)
戦没者の遺族の要望に応え、主要戦域や戦没者が眠る海域での慰霊巡拝や、戦没者の遺児と主要戦域などの人々が相互理解のため交流する慰霊友好親善事業を実施している。2021(令和3)年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、海外での慰霊巡拝や慰霊友好親善事業の実施を見合わせた。国内では、硫黄島にて慰霊巡拝を1回実施した。また、戦没者の慰霊と平和への思いを込めて、1970(昭和45)年度以降、主要戦域に戦没者慰霊碑を建立(硫黄島と海外14か所)したほか、旧ソ連地域には個別に小規模慰霊碑を建立(15か所)している。

(戦傷病者、戦没者遺族等への援護)
厚生労働省では、先の大戦において、国と雇用関係又はこれに類似する特別の関係にあった軍人軍属等のうち公務傷病等により障害の状態となった者や、死亡した軍人軍属等の遺族に対して、国家補償の精神に基づき援護を行っている。具体的には、「戦傷病者戦没者遺族等援護法」(昭和27年法律第127号)や、「戦傷病者特別援護法」(昭和38年法律第168号)に基づき、本人に対しては障害年金の支給、療養の給付などを、遺族に対しては遺族年金や葬祭費の支給などを行っているほか、都道府県ごとに設置される戦傷病者相談員や戦没者遺族相談員による相談・指導を実施している。また、戦没者等の妻や父母、戦傷病者の妻などに対して、国として精神的痛苦を慰藉するために、各種特別給付金を支給しているほか、戦後何十周年といった特別な機会をとらえ、国として弔慰の意を表すため、戦没者等の遺族に対して特別弔慰金を支給している。

(中国残留邦人等への支援)
1945(昭和20)年8月9日のソ連軍による対日参戦当時、中国の東北地方(旧満州地区)や樺太に居住していた日本人の多くは、混乱の中で現地に残留を余儀なくされ、あるいは肉親と離別し孤児となって現地の養父母に育てられたりした。厚生労働省では、こうした中国残留邦人等の帰国支援や帰国後の自立支援を行っている。

(中国残留孤児の肉親調査)
厚生労働省では、1975(昭和50)年より、中国残留孤児の肉親調査を行っており、2000(平成12)年から、日中両国政府が孤児申立者、証言者から聞き取りを行い、報道機関の協力により肉親を探す情報公開調査を行っている。これまで2,818名の孤児のうち、1,284名の身元が判明した。
中国残留邦人等の永住帰国に当たっては、旅費や自立支度金を支給し、親族訪問や墓参等の一時帰国を希望する者には、往復の旅費や滞在費を支給している。永住帰国後は、中国残留邦人等や同行家族が円滑に社会生活を営むことができるよう、首都圏中国帰国者支援・交流センターにおいて、定着促進のための日本語教育、生活指導などを6か月間実施している。地域定着後は中国帰国者支援・交流センター(全国7か所)で日本語学習支援などを行っている。また、中国残留邦人等は、帰国が遅れ、老後の備えが不十分であるという特別な事情にあることに鑑み、2008(平成20)年4月から、老後生活の安定のため満額の老齢基礎年金等を支給するとともに、世帯収入が一定基準を満たさない場合には支援給付を支給するほか、2014(平成26)年10月からは、死亡した中国残留邦人等と労苦を共にしてきた永住帰国前からの配偶者に対して配偶者支援金を支給している。
さらに、中国残留邦人等やその家族が地域社会でいきいきと暮らせるよう、地方自治体が中心となって、日本語教室、自立支援通訳の派遣、地域交流などの事業や中国残留邦人等の二世に対する就労支援事業を行っている。また、中国残留邦人等の高齢化に伴い、介護需要が増加していることを踏まえ、中国残留邦人等が安心して介護サービスを受けられるよう、2017(平成29)年度から、中国帰国者支援・交流センターにおいて、中国語等による語りかけボランティアの派遣などを行っている。このほか、次世代へ中国残留邦人等の体験と労苦を継承するため、証言映像公開及び戦後世代の語り部講話活動事業を行っている。
(つづく)K.I

(出典)
厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書

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