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■医療関連産業の活性化
(革新的な医薬品・医療機器等の創出)
医療関連産業の活性化に向け、以下の取組みを行うこととしている。(1)医薬品産業の競争力強化医薬品産業を取り巻く環境の変化等を踏まえ、厚生労働省では2021(令和3)年9月13日に「医薬品ビジョン2021」を策定した。当ビジョンにおいては、「革新的創薬」、「後発医薬品」、「医薬品流通」を3本の柱として、「経済安全保障」の視点を加えた産業政策を展開していくこととしている。令和3年度税制改正では、研究開発投資に積極的な企業が法人税等を控除できる「研究開発税制」について、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前と比べ売上が2%以上減少しているが、試験研究費を増加させた企業への控除上限の5%上乗せ、試験研究費割合の高い企業への上乗せ措置等の適用期限の2年延長、オープンイノベーション型の運用の改善等の見直し等を実施することとしており、医薬品産業においても、本税制の積極的な活用が期待される。また、少子高齢社会の中で限りある医療資源を有効活用するとともに、国民の健康づくりを促進する観点から、セルフメディケーション(自主服薬)を推進することが重要であり、令和3年度税制改正では、「セルフメディケーション税制」については、制度の5年間の延長、対象医薬品の拡充及び手続の簡素化が認められ、2022(令和4)年から新制度が施行された。引き続き、制度の利便性向上や国民への普及啓発に取り組んでいく。
(創薬支援ネットワークの構築)
我が国の優れた基礎研究の成果等を確実に医薬品の実用化につなげるため、(国研)医薬基盤・健康・栄養研究所においては、オールジャパンでの創薬支援体制として、AMEDを中心に、(国研)理化学研究所や(国研)産業技術総合研究所といった創薬関連研究機関等とともに創薬支援ネットワークを構築している。同ネットワークにおいては、有望なシーズの選定、治験につなげるための戦略の策定・助言、応用研究や非臨床研究を中心とした技術的助言等を行うことを通じて、実用化の支援を行っている。
(臨床研究・治験環境の整備)
革新的な医薬品・医療機器の創出のためには、臨床研究・治験の推進が不可欠である。厚生労働省では、日本発の革新的医薬品・医療機器の開発などに必要となる質の高い臨床研究を推進するため、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担う病院を2015(平成27)年4月から、臨床研究中核病院(2022(令和4)年4月1日現在、14病院)として医療法上に位置付けている。臨床研究中核病院は、質の高い臨床研究・治験を自ら実施するだけでなく、他施設における臨床研究・治験の計画立案や実施について支援するAcademic Research Organization(ARO)機能を有することから、ARO機能を活用し多くのエビデンスを構築することで、我が国における様々な革新的医療技術の創出を推進している。
厚生労働省としては、2019(令和元)年に取りまとめられた「臨床研究・治験の推進に関する今後の方向性について」を踏まえ、更なる臨床研究・治験の推進のため、小児疾病・難病等の研究開発が進みにくい領域の取組み等を進める。また、引き続き、臨床研究中核病院を中心に、研究者が国際共同臨床研究・治験を円滑に実施するための体制構築や、臨床研究従事者等の養成を行うなど、国内における臨床研究環境の更なる向上を目指していく。なお、これらの事業については、国民の健康寿命の延伸の観点から、医療分野の研究開発を政府として総合的に推進するため、2015年4月に設立された国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)において、文部科学省で整備している橋渡し研究支援拠点と一体的に整備を進め、革新的な医薬品・医療機器の創出を加速することとしている。さらに、疾患登録システムを活用して治験対象となる患者を把握すること等で、効率的な治験が実施できる環境を整備することにより、企業等による国内臨床開発を加速し、新薬等の早期開発により国民の健康寿命を延伸するため、国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)や学会等が構築する疾患登録システムなどの利活用を促進する「クリニカル・イノベーション・ネットワーク」の取組みを推進している。
(臨床研究に対する信頼性確保)
2013(平成25)年以降、臨床研究においてデータの操作や利益相反行為という複数の不正事案が発覚したことを契機に、厚生労働省では、研究の信頼性確保のため、2015(平成27)年4月、従来の研究倫理指針にモニタリング・監査等に関する規定を新設した「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号)を施行した(第6章第2節4を参照)。また、未承認・適応外の医薬品等の評価を行う臨床研究を実施する場合の必要な手続、臨床研究に関する資金等の提供に関する情報の公表の義務等を定めた「臨床研究法」(平成29年法律第16号)を2018(平成30)年4月から施行した。
臨床研究法に規定する臨床研究については、実施計画等を厚生労働省が整備するデータベース(jRCT)に記録し、公表することが定められている。また、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第63号)の施行に伴い、2020(令和2)年9月から治験の実施状況等についても公表が義務付けられたことを受け、治験の実施状況等についてもjRCTにおいて公表している。さらに、jRCT及び民間のデータベースに登録された臨床研究等のデータは「臨床研究情報ポータルサイト」(Web上に公開)において統合検索が可能であり、国民・患者は、現在どのような臨床研究等が進行しているか、自身が検索した臨床研究等に参加できるかどうか等を確認することができる。第2期「健康・医療戦略」(2020年3月27日閣議決定)及び臨床研究法の附則に基づき施行後5年に係る見直しの検討を2021(令和3)年1月から開始し、同年12月に「臨床研究法施行5年後の見直しに係る検討の中間取りまとめ」を公表した。引き続き見直しの検討を進めていく。
(医薬品・医療機器などの承認審査の迅速化)
医薬品等の承認審査の迅速化に向けては、これまでも(独)医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の体制強化を図ってきたところである。2019(令和元)年度からのPMDAの第四期中期目標期間においては、安全対策も図りつつ、世界最速レベルの審査期間を堅持するとともに、業務の質の向上のため、ホライゾンスキャニング(レギュラトリーサイエンスに基づいた革新的技術に対する網羅的調査)の手法の確立やレギュラトリーサイエンスに基づき、先駆け審査指定制度、条件付き早期承認制度など審査迅速化に向けた対応を強化すること等としており、そのための更なる体制強化を行っているところである。なお、2013(平成25)年10月に開設したPMDA関西支部では、レギュラトリーサイエンス総合相談・レギュラトリーサイエンス戦略相談及び製造所の製造管理・品質管理に係る実地調査を実施しているところであるが、2016(平成28)年6月から高度なテレビ会議システムを導入し、治験デザインなどの全ての相談を実施している。また、厚生労働省では、世界に先駆けて革新的医薬品等の実用化を促進するため、2014(平成26)年6月に「先駆けパッケージ戦略」を取りまとめた。この中では、世界に先駆けて日本で開発され、早期の治験段階で著明な有効性が見込まれる革新的な医薬品等について、優先的に審査を行い、早期の承認を目指す「先駆け審査指定制度」をはじめ、基礎研究から臨床研究・治験、承認審査、保険適用、国際展開までの対策を一貫して取り組むこととされている。
2015(平成27)年度から2019年度まで「先駆け審査指定制度」の試行的運用を行い、対象品目を指定した。本制度は、2020(令和2)年9月の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第63号)の施行により法制化され、「先駆的医薬品等」として指定をされた医薬品及び医療機器等の世界に先駆けた早期承認を目指している。さらに、2017(平成29)年には、有効な治療方法が乏しい重篤な疾患に用いる医薬品・医療機器のうち、患者数が少ない等の理由で検証的な臨床試験の実施や臨床データの収集が困難なものについて、一定の有効性、安全性を確認した上で、製造販売後に有効性、安全性の再確認等に必要な調査等の実施することを承認条件として、早期の承認を行うべく「条件付き早期承認制度」を導入した。本制度は、2020年9月の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第63号)の施行により法制化された。この制度の、製造販売後の有効性・安全性の確認において、リアルワールドデータを活用することができるとされていることも踏まえ、医薬品の製造販売後の調査に医療情報データベースを利用した際の再審査及び再評の申請書に添付する資料の信頼性を確保するため、「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令」(平成29年厚生労働省令第116号)を公布した。また、2018(平成30)年4月よりPMDAにおいて医療情報データベースであるMID-NETの本格運用が開始され、全国の大学病院等570万人超(2021(令和3)年12月末現在)のリアルワールドデータを医薬品等の製造販売後調査に活用できるようになった。引き続き、2017年に京都で開催された薬事規制当局サミットでの議論等も踏まえ、国際的な意見交換を推進しつつ、薬事規制における更なるリアルワールドデータの活用について、検討を進める。
医薬品については、上記のほか、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、学会・患者団体等から提出された要望のうち、医療上の必要性が高いとされたものに対し、関係製薬企業に開発要請等を行い、開発を促進する取組みを実施している。医療機器についても、「医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会」において、学会・患者団体等から提出された要望のうち、医療上の必要性が高いとされたものに対し、関係企業への開発要請や承認審査における優先審査指定を行う等、開発を促進する取組みを実施するとともに、医療機器規制と審査の最適化のための協働計画を策定し、行政側、申請者側の双方が協働しながら、研修の充実による申請及び審査の質の向上など各種の取組みを実施することにより、承認までの期間の更なる短縮と審査期間の標準化を図ることとしている。製造技術のイノベーションの活用やグローバル化したサプライチェーンの効率的な管理を促進するため、また、医療機器については、医薬品と比較してライフサイクルが短く承認後も頻回の変更が行われることを鑑み、2020(令和2)年9月の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第63号)の施行により、変更計画確認手続制度を導入した。これは、予め変更計画の確認を受けておくことで、通常であれば承認事項一部変更承認を受ける必要がある承認事項の変更を届出により行うことが可能となる制度であり、市販後の医療機器の改良の迅速化等に資することが期待される。
2014(平成26)年11月の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の施行により、疾病の診断、治療等に用いられるプログラムの提供が法の規制対象となり、その製造販売には厚生労働大臣による承認等を要することとなった。2016(平成28)年3月には「医療機器プログラムの承認申請に関するガイダンス」を公表し、医療機器プログラムの承認申請における要点を明確化し、承認申請資料の作成のための参考として提供している。医療機器プログラムは、従来の医療機器とは異なる特性を有しており、実用化を促進していくためには、その特性を踏まえた承認制度や審査体制の整備が必要であることから、2020(令和2)年11月に「医療機器プログラム実用化促進パッケージ戦略」、通称「DASH for SaMD」を公表し、最先端の医療機器プログラム等の早期実用化促進を図ることとしている。これに基づき、2021(令和3)年には、PMDAにプログラム医療機器審査室を設置するとともに、薬事・食品衛生審議会薬事分科会医療機器・体外診断薬部会の下にプログラム医療機器調査会を設置し、審査体制の強化を図った。
(医薬、医療の品質、有効性及び安全性確保等に関する法律の改正)
国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するとともに、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる環境を整備するため、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第63号)が、2019(令和元)年12月4日に公布され、2020(令和2)年度以降段階的に施行された。
具体的には、
・「先駆け審査指定制度」、「条件付き早期承認制度」の法制化、開発を促進する必要性が高い小児の用法用量設定等に対する優先審査等
・AI等、継続的な性能改善に適切に対応するための新たな医療機器承認制度の導入等を内容としている。
(再生医療の実用化の推進)
再生医療は、これまで有効な治療法のなかった疾患の治療ができるようになるなど、国民の期待が高い一方、新しい医療であることから、安全性を確保しつつ迅速に提供する必要がある。このため、再生医療等製品については、2014(平成26)年11月に改正施行した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の下、再生医療の特性を踏まえた規制を行うこととしており、同法改正前までに承認されていた2製品に加え、新たに14製品が承認された。また、同法改正と併せて、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(平成25年法律第85号)が施行され、再生医療等のリスクに応じた提供基準と計画の届出等や細胞培養加工施設の基準と許可等の手続、細胞培養加工の外部委託を可能とすること等を定めている。
同法の附則において、施行後5年以内に、法の規定に検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとされており、2019(令和元)年7月から検討を開始した。同年12月の「再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討の中間整理」を踏まえ、引き続き見直しの検討を進めている。また、関係省庁と連携し、基礎研究から臨床段階まで切れ目なく一貫した研究開発助成を行い、臨床研究やiPS細胞を用いた創薬研究に対する支援など、再生医療の実用化を推進する取組みを実施している。さらに2016(平成28)年から、再生医療の実用化をさらに推進するため、日本再生医療学会を中心としたナショナルコンソーシアムを構築し、再生医療臨床研究に係る技術支援や人材育成などを行う取組みも実施している。
(医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画)
2014(平成26)年6月27日に公布・施行された「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律」に基づき、2016(平成28)年5月31日に「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する基本計画」(医療機器基本計画)を閣議決定した。これは、研究開発から薬事承認、国際展開までの各段階に応じた関係各省の施策を網羅し、医療機器政策に特化した政府として初めての計画である。2020(令和2)年までの進捗状況、新型コロナウイルス感染症や近年の医療機器を取り巻く状況の変化等を踏まえ、人材育成、ベンチャー企業等の増加、早期実用化に向けた薬事承認制度・審査体制の構築、イノベーションの適切な評価、安定供給確保、国際展開の推進などの項目について、医療機器の研究開発及び普及の促進に向けた総合的な施策を推進していくため、医療機器基本計画の改定に向けた検討を行っている。
(医療系ベンチャーの育成支援)
我が国において、アカデミア等で発見された優れたシーズの実用化を促進するために、医薬品・医療機器・再生医療等製品の研究開発・実用化を目指すベンチャーを育てる好循環(ベンチャーのエコシステム)の確立を図ることが課題となっている。このため、厚生労働大臣の私的懇談会として「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」を開催し、2016(平成28)年7月29日に、同懇談会より報告書が示された。報告書においては、厚生労働省が厳格に規制するだけではなくスピードを重視したきめ細かい支援を行うことを原則として、「エコシステムを醸成する制度づくり」、「エコシステムを構成する人材の育成と交流の場づくり」、「『オール厚労省』でのベンチャー支援体制の構築」を「3つの柱」とした取組みを行うことなどが取りまとめられている。この報告書を踏まえ、2017(平成29)年4月に「ベンチャー等支援戦略室」を厚生労働省医政局に設置し、厚生労働省におけるベンチャー育成支援の旗振り役として機能している。また、2017年から2021(令和3)年まで毎年10月には、ベンチャーと大手企業やファンド等のキーパーソンとのマッチングイベントである「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット」をパシフィコ横浜にて開催した。さらに2018年2月には、ベンチャーやアカデミア等にとって確保が困難となっている法規制対応、知財、開発戦略等の専門家による相談体制を整備し、ベンチャー企業等が総合的な支援を受けることができる「医療系ベンチャートータルサポート事業」を開始し、WEBサイトの開設及び日本橋にオフィス(Medical Innovation Support Office:MEDISO)を構えた。2018年2月の立ち上げ以降、2022(令和4)年3月31日までに851件の相談に対応しており、MEDISOの更なる活用も含め、今後も長期的視野に立った実効力のある支援策を講じていくこととする。
(つづく)K.I
(出典)
厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書