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■医療の国際展開
国民皆保険制度や優れた医薬品、医療機器、医療技術等を誇る日本の医療システムは、世界でも高く評価され、優れた制度である。多くの新興国では、経済成長の中で、医療へのニーズや持続的なシステム構築への期待が高まっているものの、公的医療保険等の制度や医療システム構築の経験・技術が乏しく、また、人材も不足している。そこで、日本が新興国等に対して、各国の実情を十分に踏まえつつ、高品質な日本の医薬品、医療機器、医療技術等の提供を推進するとともに、日本が長年培ってきた経験や知見をいかし、相手国の医療システムの構築に協力することに取り組んでいる。医療の国際展開を通じて、日本の医療分野の成長を促進しつつ、相手国の医療水準向上にも貢献し、国際社会における日本の信頼を高めることによって、日本にとっても新興国等にとっても好循環となることを目指している。なお、医療の国際展開については、政府の第2期「健康・医療戦略」(2020(令和2)年3月27日閣議決定、2021(令和3)年4月9日一部変更)においても位置づけられており、「健康・医療戦略推進本部」の下に設けられた「健康・医療産業等国際展開協議会」を通じて、アジアとの共生を視野に入れた新しい将来像など具体的な取組みに着手する。
(1)厚生労働省と新興国等の保健省との協力関係の構築
厚生労働省としては、医療の国際展開を推進するため、2013(平成25)年に体制を強化し、「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)や「健康・医療戦略」等を踏まえ、本格的に取組みを開始した。このため、2013年8月以降、厚生労働省と新興国等の保健省との間で、協力関係の構築を進めており、アジア、中東、北中南米等の20を超える国々と、医療・保健分野における協力関係を構築した。協力テーマとしては、各国のニーズに合わせて、①日本の経験や知見を活かした相手国の医療・保健分野の政策形成支援や、②医療技術、医薬品・医療機器に関連する人材育成を柱としており、例えば、ベトナムにおける内視鏡診断・治療、インドネシアにおける透析機器管理、コンゴ民主共和国におけるデジタル技術を活用した産前検診等の人材育成事業を実施している。
(2)各国との協力関係の実現に向けた取組み
医師等の人材育成や公的医療保険制度整備の支援等といった国際展開に資する協力の具体化に向け、国立研究開発法人国立国際医療研究センター(National Center for Global Health and Medicine:NCGM)を拠点として、2015(平成27)年度から、日本の医療政策等に係る有識者等の諸外国への派遣や、諸外国からの研修生の受入れやオンラインによる研修を実施している。
(3)医薬品・医療機器等の国際規制調和・国際協力の推進
「アジア健康構想に向けた基本方針」(2016(平成28)年7月29日健康・医療戦略推進本部決定、2018(平成30)年7月25日改定)に基づき、健康・医療戦略推進本部は、「アジア医薬品・医療機器規制調和グランドデザイン」(2019(令和元)年6月20日)及び同実行戦略(2020(令和2)年7月14日)を策定した。この中では、アジア諸国において経済発展や疾患構造の変化により、優れた医薬品・医療機器等に対するニーズが高まっており、アジア諸国の国際規制調和に支援・協力し、垣根のないマーケットを整備することで、医薬品・医療機器等への迅速なアクセスを可能にするよう取り組むことが必要とされている。同グランドデザインに基づき、令和2年度から国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)を通じて、日本の臨床研究拠点の能力・経験をベースとして、アジア地域の研究拠点への専門家の派遣、人材育成、データ収集及び臨床研究推進部門の整備や、設備整備等の支援を行っている。また、アジア地域における規制調和を推進するのに中核的な役割を担うのが、(独)医薬品医療機器総合機構(PMDA)に設置された「アジア医薬品・医療機器トレーニングセンター」である。アジアを中心とする海外の規制当局担当者に医薬品・医療機器の審査や安全対策等に関する研修を実施しており、薬事規制構築に向けた経験・ノウハウを提供することで、将来の規制調和に向けた基盤作りを継続して進めてきている。新型コロナウイルスの影響下にあった2020年度もオンライン形式の研修を積極的に開催し、2016年度から2020年度までに、合計47回のセミナーを開催し、52の国・地域及び1国際機関(WHO)から延べ1,183人の参加者を得た。今後も引き続き、関係省庁、関係機関と連携しつつ、薬事規制に関する我が国の知見、レギュラトリーサイエンスを、アジアをはじめとする世界に発信して国際規制調和・国際協力を積極的に進めていくことで、ユニバーサルヘルスカバレッジの達成に一層貢献していく。
(国内における国際化への対応)
我が国では、「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月明日の日本を支える観光ビジョン構想会議)において、2030(令和12)年に6,000万人の訪日外国人旅行者数を目標として観光先進国の実現を目指している。このような中、健康・医療戦略推進本部のもとに開催された「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」において、2018(平成30)年6月に「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」が取りまとめられ、現在、関係府省庁が連携して取組みを進めている。また、2019(平成31)年4月からの新たな外国人材の受入れ制度の開始に伴い、在留外国人が医療を受ける機会の増加が見込まれる中で、上記の取組みは、全ての居住圏において外国人患者が安心して受診できる体制を整備するためにも重要な取組みとなっている。
厚生労働省では、問診票等の多言語資料の作成、医療通訳者等の配置支援、外国人患者受入れ医療コーディネーターの養成、電話通訳の利用促進等を通じて、医療機関における外国人患者の受入れ環境整備の推進を行ってきた。また、地域の実情に応じた外国人患者の受入体制を整備するためには、医療機関に加えて地方自治体、観光事業者・宿泊事業者等が連携する必要がある。このため、都道府県が主体となって地域の関係者が協議を行う場を設ける際の支援、医療機関が直面する外国人患者対応に関する相談を受け付ける窓口の設置・運用の支援を行うとともに、都道府県が選出した「外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関」を取りまとめたリストを更新し、厚生労働省ホームページ上で公表した。今後は、当該医療機関を中心として、外国人患者の受入れ環境の更なる充実を目指していく。
さらに、医療分野における国際交流の進展等に寄与する観点から、従来、医療研修を目的として来日した外国医師等に対し、日本において診療を行うことを特例的に認めてきた臨床修練制度について、日本の医師等に対する医療の教授や臨床研究を行うことを目的として来日した外国医師・外国歯科医師に対しても、日本において診療を行うことが認められるよう、臨床修練制度を改正し、2014(平成26)年10月から施行されている。
(つづく)K.I
(出典)
厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書