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■地域医療の分化・連携
(都道府県医療計画におけるPDCAサイクル推進)
都道府県は、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るために、国の定める基本方針に即し、地域の実情を踏まえつつ、「医療計画」を策定している。医療計画においては、五疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)・五事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む。))及び在宅医療のそれぞれについて、医療資源・医療連携等に関する現状を把握し、課題の抽出、数値目標の設定、医療連携体制の構築のための具体的な施策等の策定を行い、その進捗状況等を評価し、見直しを行うことでPDCAサイクルを推進することとしている。
2020(令和2)年1月から発生した新型コロナウイルス感染症への対応において、感染症患者の入院体制の確保等を進めるに当たり、広く一般の医療提供体制に大きな影響が生じた。こうした状況を受けて、同年10月から、「医療計画の見直し等に関する検討会」において、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた今後の医療提供体制の構築に向けた議論が重ねられ、同年12月に同検討会で取りまとめられた報告書では、新興感染症等の感染拡大時に、対応可能な医療機関や病床の確保等、医療提供体制に関して必要な対策が機動的に講じられるよう、基本的な事項について、あらかじめ地域の行政・医療関係者の間で議論し、必要な準備を行うことが重要であるとの観点から、医療計画の記載事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加することが適当とされた。これに対応するため、改正法案を2021(令和3)年2月に第204回通常国会へ提出し、同年5月に成立した(良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(令和3年法律第49号))。改正法の施行を含め、2024(令和6)年度から2029(令和11)年度までを計画期間とする第8次医療計画の策定に向け、2021年6月18日に「第8次医療計画等に関する検討会」を立ち上げ、医療計画作成指針等の見直しに関する検討を開始した。
(地域医療連携推進法人の認定状況)
「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)等を受けて、「医療法人の事業展開等に関する検討会」(2013(平成25)年11月~2015(平成27)年2月)において、地域医療連携推進法人制度の創設について議論され、2015年2月に取りまとめが行われた。これらの議論を踏まえて、「医療法の一部を改正する法律案」を同年4月に第189回通常国会に提出し、同年9月に成立し公布された(平成27年法律74号)。地域医療連携推進法人制度は、医療機関相互間の機能の分担や業務の連携を推進することを目的とし、地域医療構想を達成するための一つの選択肢として創設されたものである。統一的な医療連携推進方針(病院等の連携推進の方針。以下「方針」という。)を決定し、医療連携推進業務等を実施する一般社団法人のうち医療法上の非営利性の確保等の基準を満たすものを都道府県知事が認定する。方針はホームページで公表することとされているほか、方針に記載された内容の実施状況について、法人内に設置する、地域の関係者で構成される地域医療連携推進評議会において評価することとなっており、地域の関係者の意見が法人の運営に反映される仕組みとなっている。2017(平成29)年4月から制度が施行され、2022(令和4)年4月1日現在、全国で31法人が認定を受けている。地方公共団体等の公的主体が中心となっているものや、大学病院や医療法人等の民間主体が中心となっているものなど地域により様々であるが、医療従事者の共同研修の実施や医薬品等の共同購入の調整等といった業務が多くの法人で実施されているなど、それぞれの地域事情に応じた連携の推進が図られている。
(救急医療)
救急医療は、国民が安心して暮らしていく上で欠かすことのできないものである。このため、1977(昭和52)年度から、初期救急、入院を要する救急(二次救急)、救命救急(三次救急)の救急医療体制を体系的に整備してきた。しかし、救急利用の増加に救急医療体制が十分に対応できず、救急患者が円滑に受け入れられない事案が発生している。このような状況を改善するため、①重篤な救急患者を24時間体制で受け入れる救命救急センターに対する支援、②地域に設置されているメディカルコントロール協議会に医師を配置するとともに、長時間搬送先が決まらない救急患者を一時的であっても受け入れる二次救急医療機関の確保に対する支援、③急性期を脱した救急患者の円滑な転床・転院を促進するためのコーディネーターの配置に対する支援等を行っている。また、消防と医療の連携を強化し、救急患者の搬送・受入れがより円滑に行われるよう、各都道府県において、救急患者の搬送及び医療機関による当該救急患者の受入れを迅速かつ適切に実施するための基準を策定し、これに基づいて救急患者の搬送・受入れが行われているところである。さらに、ドクターヘリを用いた救急医療提供体制を全国的に整備するため、補助事業を行っており、2022(令和4)年3月末現在、45都道府県で55機のドクターヘリが運用されている。
(小児医療)
小児医療は、少子化が進行する中で、子どもたちの生命を守り、また保護者の育児面における安心の確保を図る観点から、その体制の整備が重要である。このため、休日・夜間における小児の症状等に関する保護者等の不安解消等のため、小児の保護者等に対し小児科医等が、全国同一の短縮番号#8000により、電話で助言等を行う「子ども医療電話相談事業(#8000事業)」を全47都道府県で実施しており、引き続き地域医療介護総合確保基金を活用して支援を行うこととしている。また、同事業の相談対応者として従事する医師、看護師等に対して、相談者への対応技術向上を目的とした研修の実施による事業の質の維持・向上や、相談内容等の情報を収集し、けがや病気などの発生や対処の必要性について分析し、結果を広報することで、保護者等への病気、けが等の対処についての啓発を行っている。また、小児初期救急センター、小児救急医療拠点病院、小児救命救急センター等の小児の救急医療を担う医療機関等の体制整備に対する支援等を行っている。
(周産期医療)
周産期医療については、国民が安心して子どもを産み育てることができる環境の実現に向け、各都道府県において、地域の実情に応じた周産期医療体制を計画的に整備している。リスクの高い妊産婦や新生児等に高度な医療が適切に提供されるよう、周産期医療の中核となる総合周産期母子医療センター及び地域周産期母子医療センターを整備し、地域の分娩施設との連携を確保すること等により、周産期医療体制の充実・強化を進めている。これに対し、厚生労働省においては、①周産期母子医療センターの母体・胎児集中治療室(MFICU)、新生児集中治療室(NICU)に対する支援、②NICU等の長期入院児の在宅移行へのトレーニング等を行う地域療育支援施設を設置する医療機関に対する支援、③在宅に移行した小児をいつでも一時的に受け入れる医療機関に対する支援を行っているほか、④2016(平成28)年度から、災害時に都道府県が小児・周産期医療に係る保健医療活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう支援する「災害時小児周産期リエゾン」の養成を目的とした研修を実施している。また、2018年度には、災害時小児周産期リエゾンの運用、活動内容等の基本的な事項について定めた「災害時小児周産期リエゾン活動要領」を作成し、周知した。さらに、2016(平成28)年度から、分娩取扱施設が少ない地域において、新規に分娩取扱施設を開設する場合等への施設整備費用支援事業、2017(平成29)年度から、設備整備費用支援事業及び、地域の医療機関に産科医を派遣する病院等への支援事業を実施している。加えて、2020(令和2)年度からは、妊婦が安心安全に受診できる医療提供体制を整備するため、産科及び産婦人科以外の診療科の医師に対する研修の実施や医師が妊婦の診療について必要な情報を得られる相談窓口の設置に対する財政支援を行っている。
(災害医療)
地震等の災害時における医療対策として、阪神・淡路大震災の教訓をいかし、災害発生時の医療拠点となる災害拠点病院の整備(2021(令和3)年4月1日現在759か所)、災害派遣医療チーム(DMAT)の養成等を進めてきた(2022年4月1日現在1,754チームが研修修了)。また、東日本大震災や平成28年熊本地震の経験を踏まえ、災害発生時に必要となる都道府県の総合調整機能やコーディネート機能の確保等の整備に取り組んできた。さらに、災害拠点病院においては、DMATの保有をはじめ、施設の耐震化や自家発電機、衛星(携帯)電話の保有、3日分の食料、水、医薬品等及び3日分程度の自家発電機用燃料の備蓄等の整備に加え、被災後、早期に診療機能を回復できるよう業務継続計画(BCP)の策定及び当該計画に基づく研修・訓練を実施すること等の取組みについても災害拠点病院指定要件として含めるよう、改正を行ってきた。加えて、「日本DMAT活動要領」に基づき、2014(平成26)年度より、統括DMATをサポートする要員を確保する観点から、DMAT事務局、DMAT都道府県調整本部等での本部業務や、病院支援、情報収集等を担うサポートを専門とするロジスティック担当者からなる専属チームの養成を行っている。
近年、全国各地で台風や豪雨等による災害が発生し、洪水等による浸水被害を受けた医療機関においては一部診療を制限せざるを得ない事態となり、地域の医療提供体制への影響が生じたことを踏まえ、浸水想定区域等に所在する政策医療実施機関等における浸水対策の強化・充実を進めている。また、新型コロナウイルス感染症の発生から拡大時において、DMAT資格を有する者が、災害医療の経験をいかしつつ、感染症の専門家とともに、ダイヤモンドプリンセス号での対応、都道府県庁における入院調整の支援や、クラスターが発生した介護施設等での感染制御や業務継続の支援等を実施した。こうした経験を踏まえ、「日本DMAT活動要領」を改正し、新興感染症等に係るDMATの活動について明記した。
(東日本大震災による被災地の医療提供体制の再構築)
東日本大震災による被災地の医療提供体制の再構築を図るため、2011(平成23)年度第三次補正予算、2012(平成24)年度予備費及び2015(平成27)年度予算において、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)及び茨城県を対象に地域医療再生基金の積み増しを行い、被災3県が2015年度までの5年間を計画期間として策定した医療の復興計画及び茨城県が策定した地域医療再生計画に基づく取組みを支援した(被災3県及び茨城県の地域医療再生基金(2011~2015年度における予算総額)1,272億円)。さらに、原子力災害からの復興が長期化する福島県に対しては、避難指示解除区域等における医療提供体制の再構築を図るため、2017(平成29)年度予算において、復興・創生期間である2020(令和2)年度までの4年間の取組みを支援するため、236億円の積み増しを行い、2021(令和3)年度予算において54億円の積み増しを行った。また、2022(令和4)年度予算においては当該基金の計画期間を2022年度まで延長するとともに、更に29億円を追加で積み増すことで、医療関連の復興に向けた取組みを引き続き支援している(福島県の地域医療再生基金(2017~2022年度における予算総額)320億円)。
東日本大震災時に多数の心のケアチームが被災地に派遣された経験を踏まえ、集団災害発生時における精神保健医療への需要拡大に対応するため、災害派遣精神医療チーム(DPAT)の養成を進めてきた。2022年3月に一部改正された「災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領」に基づき、効率的な派遣システムの構築・運用のため、DPAT事務局の整備や、専門的な研修・訓練によるDPATの全国における養成等を行っている。加えて、東日本大震災や平成28年熊本地震において、被災した精神科病院からの患者受入れや精神症状の安定化等について、災害拠点病院のみでは対応が困難であったことを踏まえ、災害時における精神科医療を提供する上で中心的な役割を担う災害拠点精神科病院の整備を進めている。近年、被災後、早期に診療機能を回復するために業務継続計画(BCP)の考え方に基づいた災害対策マニュアルの策定の重要性が改めて指摘されており、これらを踏まえて2017年度からBCP策定の促進を目的とした研修を実施し、これまでに1,129医療機関、1,915名が受講している(2022年4月1日現在)。また、災害時に様々な救護班の派遣調整業務等を行う地域の医師等(災害医療コーディネーター)の養成については、災害時に地域単位の細やかな医療ニーズ等に対応するため、都道府県単位に加えて、地域単位で実施する研修を支援している。
(へき地・離島医療対策)
へき地や離島における医療の確保は、2017年度まで「へき地保健医療計画」に基づき対策を実施していたが、2018年度から実施する第7次医療計画と一体的に検討を行い、対策を実施することとなった。このため、へき地の医療体制については、都道府県において他事業も含めた総合的な企画・調整を行いつつ、へき地医療支援機構と地域医療支援センターの統合を視野に入れた連携や一本化を進め、へき地診療所における住民への医療の提供、へき地医療拠点病院等による巡回診療や代診医派遣等の対策を充実させることでへき地保健医療体制の構築に取り組むこととしている。
(在宅医療の推進)
多くの国民が自宅など住み慣れた環境での療養を望んでおり、高齢になっても病気になっても自分らしい生活を送ることができるように支援する在宅医療・介護の環境整備が望まれている。また、急速に少子高齢化が進む中で、高齢者の増加による医療・介護ニーズの急増に対応できる医療・介護提供体制の整備は喫緊の課題であり、病床機能の分化・連携を進めるとともに、在宅医療の充実を図ることが重要である。こうした観点から、厚生労働省としては、2013(平成25)年度から、医療計画に在宅医療に関する事項について盛り込むこととした。具体的には都道府県において在宅医療の取組状況等のデータ分析を行い、地域の実情を踏まえながら、在宅医療を提供する医療機関等の数値目標とその達成に向けた施策、医療連携体制、人材確保等について記載し取組みを進めることとしている。2018(平成30)年度からの第7次医療計画においては地域医療構想や介護保険事業(支援)計画と整合性を確保しつつ、在宅医療のより実効的な整備目標を設定し取組みを推進している。在宅医療の体制整備に対しては、2014(平成26)年度に、都道府県に地域医療介護総合確保基金を設置し、都道府県における研修や人材育成、新規参入の推進等、在宅医療の提供体制の構築に必要な事業に対し財政的な支援を実施している。また、在宅医療の担い手となる人材確保は必要不可欠であり、2015(平成27)年度から、在宅医療に関する専門知識や経験を豊富に備え、地域の人材育成事業を中心となって推進することができる講師人材の育成研修を実施し、国としても人材育成に取り組んでいる。
(つづく)K.I
(出典)
厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書