キャリアコンサルタントが知っておくべき情報をお伝えします。
■医療安全の確保
①医療安全支援センターにおける医療安全の確保
2003(平成15)年より、患者・家族等の苦情・相談などへの迅速な対応や、医療機関への情報提供を行う体制を構築するため、都道府県、保健所設置市等における医療安全支援センター(以下「センター」という。)の設置を推進しており、現在全ての都道府県で417か所(2022(令和4)年1月31日現在)設置されている。センターの業務の質の向上のため、職員を対象とする研修や、相談事例を収集、分析するなどの取組みを支援している。
②医療機関における安全確保の体制整備
一方、医療事故を未然に防ぎ、安全に医療が提供される体制を確保するため、病院などに対して、医療に関する安全管理のための指針の整備や職員研修の実施などを義務づけている。また、院内感染対策のための体制の確保や医薬品・医療機器の安全管理、安全使用のため体制の確保についても実施すべきものとし、個々の病院などにおける医療の安全を確保するための取組みを推進している。
③医療事故情報収集等事業
医療事故の原因を分析し、再発を防止するため、2004(平成16)年10月から医療事故情報収集等事業を実施している。医療機関からの報告を基に、定量的、定性的な分析を行い、その結果を3か月ごとに報告書として公表している。また、同事業では、個別の医療行為のリスク低減を目的とした医療安全情報を作成し、事業参加医療機関等に対し、情報提供を行っている。2010(平成22)年からは、医療事故の予防や再発防止に役立つ情報を増やすため、Web上に報告事例のデータベースを構築し、運用を開始している。登録分析機関は、公益財団法人日本医療機能評価機構である。
④特定機能病院のガバナンス改革
大学附属病院等において医療安全に関する重大事案が相次いで発生したことから、2015(平成27)年4月に厚生労働省に「大学附属病院等の医療安全確保に関するタスクフォース」を設置し、医療安全確保のための改善策を中心に、同年11月に「特定機能病院に対する集中検査の結果及び当該結果を踏まえた対応について」として報告を取りまとめた。これを踏まえ、2016(平成28)年6月10日に医療法施行規則を改正し、特定機能病院の承認要件に医療安全管理責任者の配置、専従の医師・薬剤師・看護師の医療安全管理部門への配置、医療安全に関する監査委員会による外部監査等の項目を加えた。さらに、特定機能病院のガバナンス改革に関して、2016年2月に「大学附属病院等のガバナンスに関する検討会」を開催し、当該検討会等での議論を踏まえ、特定機能病院の医療安全管理体制の確保及びガバナンス体制の強化を図るため、以下の内容を含む「医療法等の一部を改正する法律案」を第193回通常国会に提出し、2017(平成29)年6月に成立し、2018(平成30)年6月に施行された(平成29年法律第57号)。
・特定機能病院は、高度かつ先端的な医療を提供する使命を有しており、患者がそうした医療を安全に受けられるよう、より一層高度な医療安全管理体制の確保が必要であることを法的に位置付け
・特定機能病院の管理者は、病院の管理運営の重要事項を合議体の決議に基づき行うことを義務付け
・特定機能病院の開設者は、管理者が病院の管理運営業務を適切に遂行できるよう、管理者権限の明確化、管理者の選任方法の透明化、監査委員会の設置などの措置を講ずることを義務付けまた、附帯決議において、「広域を対象とした第三者による病院の機能評価を承認要件とすること」とされ、2021年3月の省令改正により、第三者による評価を受け、当該評価及び改善のため講ずべき措置の内容を公表し、並びに当該評価を踏まえ必要な措置を講ずるよう努めることが承認要件として追加された。
(医療事故調査制度の施行)
医療の安全の向上のため、医療事故が発生した際に、その原因を究明し、再発防止に役立てていくことを目的とした医療事故調査制度は、2014(平成26)年に公布された第6次改正医療法に基づいて2015年10月に開始した。この制度は、医療事故の再発防止に繋げ、医療の安全を確保することを目的とし、
・医療事故(医療機関に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該医療機関の管理者が死亡又は死産を予期しなかったもの)が発生した医療機関(病院、診療所又は助産所)が、医療事故調査・支援センターへの報告、医療事故調査の実施、医療事故調査結果の遺族への説明及び医療事故調査・支援センターへの報告を行うこと
・その上で、医療機関や遺族からの依頼に応じて、医療機関からも患者側からも中立的な立場である医療事故調査・支援センターにおいて調査を行うこと
・さらに、こうした調査結果を、医療事故調査・支援センターが整理・分析し、再発防止に係る普及啓発を行うこと
とされている。
その後、法附則に基づいて制度見直しのための検討が行われ、2016年6月24日付けで、医療法施行規則の一部改正や、関連通知の発出を行った。具体的には、
・病院等の管理者は、医療事故の報告を適切に行うため、当該病院における死亡及び死産の確実な把握のための体制を確保すること
・支援団体は、支援を行うに当たり必要な対策を推進するため、共同で協議会を組織することができること、また、協議会において、支援団体が行う支援等の状況の情報の共有及び必要な意見の交換を行い、その結果に基づき、支援団体が行う支援の円滑な実施のための研修の実施や病院等の管理者に対する支援団体の紹介を行うこと
・遺族等からの相談に対する対応の改善を図るため、また、当該相談は医療機関が行う院内調査等の重要な資料となることから、医療事故調査・支援センターは、遺族等から相談があった場合、医療安全支援センターを紹介するほか、遺族等からの求めに応じて、相談の内容等を医療機関に伝達すること
・院内調査の改善・充実を図るため、支援団体や医療機関に対する研修の充実、優良事例の共有を行うこと
・院内調査報告書の分析等に基づく再発防止策の検討に資するため、医療機関の同意を得て、必要に応じて、医療事故調査・支援センターから院内調査報告書の内容に関する確認・照会等を行うことなどを示している。
2022(令和4)年3月末現在までに、医療事故報告件数2,305件、院内調査結果報告件数2,019件、医療事故調査・支援センターへの調査依頼件数182件となっており、医療事故調査・支援センターの調査は101件終了している。また、「中心静脈穿刺合併症」、「急性肺血栓塞栓症」、「注射剤によるアナフィラキシー」等16のテーマについて、医療事故再発防止策の提言をとりまとめ、公表をした。
(産科医療補償制度)
安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として、2009(平成21)年1月から、産科医療補償制度が開始されている。産科医療補償制度は、お産に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、事故原因の分析を行い、将来の同種事故の防止に資する情報を提供することにより、紛争の防止・早期解決及び産科医療の質の向上を図ることを目的としている。なお、この制度の補償の対象は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児であり、その申請期限は、満5歳の誕生日までとなっている。また、補償対象基準について医学的な見地から見直しを求める意見があり、有識者からなる検討会等で議論のうえ、2022年1月以降に出生した児については、低酸素状況を要件としている個別審査を廃止し、一般審査に統合して、「在胎週数が28週以上であること」が基準とする見直しが行われた。
(閣僚級世界患者安全サミット)
僚級世界患者安全サミットは英国とドイツのイニシアチブにより医療安全の世界的な推進を目的に2016年に創設された。その後、2018年4月に東京で開催された第3回サミットでは、避けられる全ての有害事象やリスクを低減することを目指し、患者安全の向上のためのグローバルな行動を呼びかける『東京宣言』が発表され、2019(平成31)年3月にサウジアラビアで開催された。第4回サミットでは、世界的に重要な患者安全の課題に取り組むための、国際標準、ガイドライン、行動を推奨することを主旨とする『ジェッダ宣言』が発表された。また、『東京宣言』でも言及されていた「患者安全に関するグローバルアクション」が2019年5月のWHO総会において採択され、9月17日を世界患者安全の日とすることが定められた。
(医療に関する適切な情報提供の推進)
医療に関する十分な情報をもとに、患者・国民が適切な医療を選択できるよう支援するため、①都道府県が医療機関に関する情報を集約し、わかりやすく住民に情報提供する制度(医療機能情報提供制度*11)を2007(平成19)年4月より開始するとともに、②医療広告として広告できる事項について大幅な緩和を行った。2013(平成25)年度においては、医療広告ガイドラインにおいて、バナー広告等にリンクした医療機関のウェブサイトに関する取扱いを明確化するなど必要な改正を加えた。また、2016(平成28)年3月より「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」を開催し、同年9月に取りまとめがなされた。この取りまとめを踏まえ、医療機関のウェブサイト等についても、虚偽・誇大等の不適切な表示を禁止し、中止・是正命令及び罰則を課すことができるよう措置する内容を含めた医療法等の一部を改正する法律(平成29年法律第57号)が第193回通常国会において成立した。2018(平成30)年5月に関係する省令・告示を公布し、新たな医療広告ガイドラインの発出を行い、同年6月に施行された。
医療の質の向上に向けた取組み根拠に基づく医療(EBM)の浸透や、患者・国民による医療の質への関心の高まりなどの現状を踏まえ、厚生労働省では、2010(平成22)年度から「医療の質の評価・公表等推進事業」を開始した。本事業では、患者満足度や、診療内容、診療後の患者の健康状態に関する指標等を用いて医療の質を評価・公表し、公表等に当たっての問題点を分析する取組みを助成している。2019(令和元)年度からは、医療の質の評価・公表に積極的に取り組む病院団体等の協力を得ながら、「医療の質向上のための協議会」を立ち上げ、医療機関、病院団体等を支援する取組みを進めている。
(人生の最終段階における医療・ケア)
人生の最終段階における医療・ケアについては、全ての方が自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるようにするため、医師等の医療従事者から患者・家族に適切な情報の提供と説明がなされた上で、本人による意思決定を基本として行われることが重要である。厚生労働省としては、2017(平成29)年度より「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」を開催し、2018(平成30)年3月に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」にACP*12の概念を盛り込むとともに、地域包括ケアシステムの構築に向けた内容に改訂した(「人生の最終段階における医療」から「人生の最終段階における医療・ケア」へ名称も変更)。また、当該検討会報告書に基づき、ACPの愛称を一般公募し「人生会議」に選定、11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」と設定し、人生の最終段階における医療・ケアについて考える日とする等の普及・啓発の取組みを実施している。
また、2014(平成26)年度から、ガイドラインに沿って本人の意思決定を支援する医療・ケアチームの育成研修を実施し、2017年度からは、健康な時から人生の最期に備えられるよう国民向けの普及・啓発の強化を図っている。加えて、本人の意思に反した救急搬送や医療処置が行われないよう、救急医療や在宅医療関係者間における患者情報の共有や連携ルールの策定を支援する取組みを進めている。
(つづく)K.I
(出典)
厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書