実践編・応用編

キャリアコンサルタント実践の要領3 I テクノファ

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私たちキャリアコンサルタント(日本人全員)は、今夢のような世界にいると言っていいでしょう。戦後75年未曾有の栄華と豊かさの中にいると言っていいと思います。エコノミック・アニマルと言われたり、お金を貯めることだけを人生や社会の唯一の目的にしている、と笑われたりしても、戦後多くの人は歯を食いしばって生活をしてきました。戦前の貧しさや戦争中の飢えを知る者にとっては、窮乏は恐怖です。そして、そんな経験を持つ祖父母や親に育てられたのが、団塊の世代でしたから、モノとカネにしがみつき、すべてを金銭で評価する精神が染みついたと言っていいと思います。

しかし、バルブが弾けて時代は変わりました。
貧乏から解放された代わりに、仕事や人間関係に行き詰まり、心に病を持つ人が増えています。キャリアコンサルタントの元にも、自分がうつ病であることを自覚しないままキャリアコンサルティングの面談に訪れる人が多くなっています。厚生労働省のサイトによると、うつ病など感情障害(躁うつ病を含む)患者は、2002年は71.1万人、2017年は127.6万人と16年で倍近くまで増加しています。この数値の伸びに比例するようにうつ病の症状のある人との面談の機会が増えてきたことを知っておく必要があります。

戦後75年の間に、勤勉な国民性によって、よくぞここまで豊かになったことよ、と政治家も財界も自画自讃します。たしかに敗戦の廃墟から、生きることに向かって国民がたちあがったとき、国民の胸の中には「忠君愛国」 の精神主義や「天皇の絶対的権威」に引っ張りまわされるのは、もうコリゴリ、という思いがあったに違いありません。命にとっては、哲学よりも、モノとカネが大事であることは、敗戦国民の、体験から生じた必然的合意でした。なぜなら精神主義による判断は、しばしば独善的な過ちに向かって暴走するが、モノとカネをいくら作り出したか、という金銭的価値判断は、理屈ぬきに、誰の目にも合理的な客観性を持っているからです。そしてもちろん、貧しさにとって、モノとカネは、健康と幸せのための不可欠の条件でもありました。

キャリアコンサルタントとして知っておきたいことは、戦後に起こった戦力の放棄、財閥の解体、農地改革、労働組合の合法化による経済の民主化が、経済の高成長の原動力になったことです。そこでは、民主化と経済成長は、表裏の関係にあり、「経済大国」という言葉を聞かない日は無いほどでした。しかし、カネとモノをひけらかして金持ちぶりを自慢しつづけるということの中に、実はそれしか自慢するものがない社会の貧しさを、私たちは自覚せざるをえなくなっているのです。日本人は、すべてを経済に特化するために、他のすべてを捨ててきたことをもう一度はっきりと自覚することが必要であると思います。

日本の豊かさが、じつは根のない表面的な豊かさにすぎず、板子一枚下には地獄が口を開けており、砂上の楼閣のような脆さに支えられた贅沢が崩れ去る予感を、多くの団塊の世代の日本人は、心中ひそかに感じているのではないかと思います。
たとえば、もし寝たきり老人になったら、もし収入が減って住宅ローンが払えなくなったら、もし幼い子を抱えて夫と離死別したらなどと考える人は多いし、毎日のように新聞の社会目にはそのような記事が載っています。

いざとなっても、誰からも助けてもらえない不安と、人々から排除されてしまう不安とで、強迫神経症のように、はてしない飢餓感に追われる日本人が増えているように思えてなりません。企業が投資のために投資をするのは、限りない自己増殖をつづけることが目的である資本にとっては、当然の行為と言えます。しかし、人間の生活にとってのカネとモノは、本来、生活に必要なだけあればよいのです。人生にとってカネは手段であり目的ではありません。家族や愛する者との健康で楽しい生活、趣味、生きがいのある仕事、人生の充実感、無目的な友情、自然とともにある安らぎ。それらが充たされれば、限りなく財テクやマネーゲームに目を血走らせる必要はないはずです。

資本の求める目的と、生活の求める目的は違っていて当りまえですが、企業の投資熱に感染したかのように、株の売り買いや、リゾート地やワンルーム・マンションへの投資、あげくのはては教育も投資、つきあいも投資、お中元やお歳暮や冠婚葬祭も投資、と計算するのはなぜか、私たちキャリアコンサルタントは考えてみる必要があります。
豊かさが必然的にもたらすはずの落ちついた安堵の情感や人生を味わうゆとりは、どこへいってしまったのでしょうか。本能的に自然に湧き出るはずの他者への思いやりや共感などは、金持ち日本の社会から日に日に姿を消していくように思えてなりません。

私たちキャリアコンサルタントは、日本が現在のようになってしまった原因を、どの時代にもある人間の貧欲や利己心という心の問題だと考えますが、日本の社会にはあまりに大きな問題がありすぎるように思われます。マスコミをにぎわす政治家や官僚の不適切な言動は、ひとつの象徴であるにすぎません。
どんな社会にも、貧欲な人とそうでない人がいますが、ある種の社会ではより多くの人がゆとりを失い、バランスのとれた判断を失うことを考えなければなりません。たとえば戦争のときの、人びとの心理や判断は、しばしば、平常の社会では考えられないほど異常です。 最近では、アメリカ大統領が人種差別、少数者の排除、不寛容、暴力の助長などでバランスを失った時代を作り出しています。

私たちキャリアコンサルタントは、私たちを駆り立てている金銭至上主義、効率万能主義の時代精神は、いったい何から由来するのだろうかを考えてみたいと思います。
(つづく)平林良人

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