基礎編・理論編

キャリアコンサルタント養成講座 17 I テクノファ

投稿日:2020年10月14日 更新日:

キャリアコンサルタントは分野に固有の用語を使う場合には、用語を一律に定義することは難しいため、その用語の根拠を知っておくことが必要になります。

1.キャリア研究の“先進国”はアメリ力
キャリアの研究及び実践はアメリカで発展しました。最初の頃は職業紹介についてキャリアガイダンスではなく、ヴォケー ショナル・ガイダンスという用語が使われています。1937年のNVGA (National Vocational Guidance Association)によるヴォケーショナル・ガイダンスの定義は「個人が1つの職業を選び、それに向かう準備をし、その生活に入り、かつその生活において進歩するように、個人を援助する過程である」となっています。

この定義にキャリアという概念を導入したのが、D. E.スーパーだとされています。スーパーは著書『職業指導の再定義(1951)』のなかで、「職業指導とは、個人が自分自身と職業の世界における自分の役割について、統合され、かつ妥当な映像を発展させ、また受容すること、この概念を現実に照らして吟味すること、および自分自身にとっても満足であり、社会にとっても利益であるように、自己概念を現実に転じることを援助する過程である」 と述べています。
アメリカにおけるキャリアカウンセリングとキャリアガイダンスという用語は、学校の教育現場では対にして使われていたこともあり、区別は必ずしも明確ではなく、E.L.ハーによれば、1970年頃までは同一のプロセスとしてみなされたり、あるいは競合する活動として扱われたりしていたようです。

2.ガイダンスと力ウンセリング
アメリカにおいてヴォケーショナル・ガイダンスがキャリアガイダンスという用語に変わったのは、教育の分野でキャリア教育が導入され、キャリア発達理論がスクール・カウンセラーの現場に影響を与えたことがきっかけだとされています。1950年代後半になって専門家としてのカウンセラー教育が始まるまでは、パーソンズの職業相談モデルが主流であり、そこにおいてはガイダンスが主体でカウンセリングは補助的なものとして扱われていましたが、カウンセリング心理学が独立した分野として確立されたことなどの影響を受けてカウンセリングの重要性が叫ばれ、カウンセリングを補助的なものではなく、重要な介入行動として扱われるようになります。

1970年代以降、キャリア教育、青少年の失業問題、あるいは中年期の危機、高齢者の再就職、退職者へのカウンセリングの高まりなどを背景に生涯キャリア発達の研究が発展し、キャリアカウンセリングとキャリアガイダンスの違いを明確にする動きが出てきます。近年では、キャリアガイダンスを「個々人のキャリア発達(Career Development)とキャリアマネジメント(Career Management) にとって重要な知識やスキルを明らかにし、かつ個々人がそれらを獲得するのを統合するプログラム」(Herr & Cramer) とし、キャリアカウンセリングはそのプログラムの中核をなすとするのが一般的となっています。しかし、キャリアカウンセリングはキャリアガイダンスというプログラムとは別に独立して存在しえるものであることは言うまでもありません。

NVGAはNCDA(National Career Development Association)へと名称を変更し、1982年に「職業およびキャリアカウンセリングとは、職業、キャリア、生涯にわたるキャリア、キャリアの意思決定、キャリア計画その他のキャリア開発・形成に関する諸問題やコンフリクトについて、資格を持つ専門家が個人または集団に対して働きかけ、援助する諸活動である」と定義しています。これには、それまでの「個人と職業とのマッチング」から 「選択し、成長する個人」への転換およびカウンセラーの要件が表されています。

以上のように、キャリアガイダンスあるいはキャリアカウンセリングは一律に定義することはできませんが、それはその用語を使うキャリアコンサルタント及び人々の分野、目的あるいは時代によってそこに含まれる意味が異なっているからです。したがって、自分がそれらの用語を用いる際にはその根拠をはっきりとさせることが大切になります。

3.日本でキャリア支援制度が機能する3つの領域
先に述べているように、アメリカにおける研究や実践の影響を多く受けて日本におけるキャリアコンサルタントによるキャリア支援が発展してきたわけですが、日本ではキャリアカウンセリングについての明確な定義は、いまだなされていません。しかしながら、現在の日本においてキャリア支援が制度として機能している領域が3つあります。

その1つは、学校における進路指導・進路相談です。学校教育法はそのなかで進路指導を教育目標の1つとして明記されており、中学および高校における進路指導の具体的内容は学習指導要領や進路指導で定められています。その進路指導のなかで中核となるのが進路相談です。キャリアコンサルティングが進路指導の6分野におけるガイダンスを参考にしている根拠もここにあります。また、2000年の教育改革国民会議による答申では、職業観や勤労観を育む教育を推進するため学校に進路指導の専門家を配置することなどを提案しています。

2つめは、職業安定行政における職業指導および職業相談です。雇用対策法では、求職者に対する職業指導について「職業紹介機関は、求職者に対して、雇用情報、職業に関する調査研究の成果等を提供し、かつこれに基づき職種、就職地その他の求職の内容、必要な技能等について指導することにより、求職者がその適性、能力、経験、技能の程度等にふさわしい職業を選択することを促進し、もって職業選択の自由が積極的に生かされるように努めなければならない」としています。
現在、キャリアコンサルタントは公共需給調整機関(ハローワー ク、ジョブカフェ、ヤングジョブスポットなど)だけでなく、民間需給調整機関(人材紹介会社、人材派遣会社、アウトプレースメント会社など)あるいは公的および民間のガイダンス機関などで広く活動しています。

3つめは、職業能力開発におけるキャリアコンサルティングです。 職業能力開発に関する基本である職業能力開発促進法では、「労働者の自発的な職業能力の開発及び向上の促進は、職業生活設計に即して、必要な職業訓練及び職業に関する教育訓練を受ける機会が確保され、ならびに必要な実務の経験がなされ、並びにこれにより習得された職業に必要な技能及びこれに関する知識の適正な評価によって図られなければならない」としています。

そのうえで、事業主は①業務に必要な職業能力等に関する情報の提供、相談、その他の援助、②実務経験を通じた能力開発のための労働者の配置等についての配慮、③有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇の付与、教育訓練等を受ける時間の確保、④事業内職業能力開発計画の労働者への周知および職業能力開発推進者有効利用に関する事業主の努力義務、というような措置を講じ、努力することとしています。 このなかの①がキャリアコンサルティングになります。キャリアコンサルタントは、職業能力や職業経験の点検や職業能力評価とのすり合わせ等を通じて、労働者のキャリア開発・形成と職業能力開発の方針を明確化し、個人のキャリア開発・形成を支援するということになります。
(つづく)平林良人

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